性転換と契約結婚：アキラとレオンの物語

第1章：35歳、突然の変化

アキトは35歳の誕生日の朝、いつもと変わらない日常に目覚めた。しかし、その「普通」は長くは続かなかった。

「うーん...」

伸びをしながらベッドから起き上がったアキトは、何かがおかしいと感じた。体が軽い。そして、胸元に何か重みがある。

「えっ？」

鏡に映った自分の姿に、アキトは目を疑った。そこには、長い黒髪とふくよかな胸を持つ美しい女性が立っていた。

「な...何だこれ？！」

パニックに陥りそうになるアキトだったが、冷静を保とうと深呼吸をした。これは夢に違いない。そう自分に言い聞かせながら、アキトは顔を洗いに行った。

しかし、冷たい水で顔を洗っても、状況は変わらなかった。鏡に映る女性の姿は、紛れもなく自分自身だった。

「これが現実なのか...」

アキトは呆然と立ち尽くした。35年間男性として生きてきた自分が、突如として女性になってしまったのだ。どう説明すればいいのか。会社には何と言えば...

そんな混乱の中、ドアベルが鳴った。

「誰だ？こんな朝早くに」

アキトは恐る恐るドアを開けた。そこには、正装した使者が立っていた。

「アキト様...いえ、アキラ様でいらっしゃいますね」

使者は、何かを知っているかのように、アキトの新しい姿を見て微笑んだ。

「これは、レオン王子からの手紙でございます」

使者は丁寧に封筒を差し出した。アキトは困惑しながらも受け取り、開封した。

```
拝啓　アキラ様

突然のご連絡、お許しください。
私は、アストリア王国第一王子のレオンと申します。
貴方様の特別な状況について、私は把握しております。
そして、それゆえに、貴方様にお願いがございます。

私は政治的な理由から、早急に結婚相手を見つけなければなりません。
そこで、貴方様との契約結婚を提案させていただきたいのです。

詳細は直接お会いしてお話しさせていただきたく存じます。
お手数ですが、本日午後2時に王宮までお越しいただけますでしょうか。

敬具
レオン
```

アキトは手紙を読み終え、呆然とした。

「契約...結婚？」

使者は静かに頷いた。

「はい、王子様は貴方様との面会を心よりお待ちしております」

アキトの頭の中は、さらに混乱を極めた。性別が変わっただけでも十分ショックなのに、今度は王子との契約結婚？これは夢か現実か、もはや区別がつかなくなっていた。

「あの...これは冗談か何かですか？」

アキトは半ば希望を込めて尋ねた。しかし、使者の表情は真剣そのものだった。

「決して冗談ではございません。王子様は貴方様の状況をよくご存知で、そのうえでこのような提案をされております」

アキトは深いため息をついた。どうやらこれが現実らしい。突然の性転換に加え、王子との契約結婚。人生がこれほど激変するとは、誕生日の朝に目覚めた時には想像もしていなかった。

「わかりました。では、午後2時に伺います」

アキトは決意を固めた。どうせ夢のような現実なら、最後まで見届けてやろう。そう思いながら、アキトは使者を見送った。

ドアを閉めた後、アキトは再び鏡の前に立った。長い黒髪、大きな瞳、柔らかな曲線を描く体。これが新しい自分なのだと、少しずつ受け入れ始めていた。

「よし、とりあえず名前は...アキラにしよう」

アキラは深呼吸をした。これから始まる新しい人生。不安と期待が入り混じる中、アキラは準備を始めた。王宮での面会に向けて、女性としての身なりを整えなければならない。

「さて、どうやって化粧すればいいんだ？」

アキラは困惑しながらも、YouTubeで化粧の動画を見つけ、必死に真似をした。何度も失敗を重ねながら、なんとか人並みの化粧を施すことができた。

服装も問題だった。クローゼットには男物の服しかない。幸い、近所に住む妹が同じくらいの体型だったので、急いで電話をかけた。

「もしもし、悠子？急なんだけど、服を借りられないかな」

「お兄ちゃん？どうしたの、声が変...」

「ああ、それが...ちょっと説明が難しいんだ。とにかく、今すぐ来てくれないか」

困惑した様子の悠子が到着すると、アキラは事情を説明した。信じられない表情を浮かべる悠子だったが、目の前の姉（元兄）を見て、次第に状況を受け入れていった。

「わかったわ。お姉ちゃん、これを着てみて」

悠子が持ってきた服を試着しながら、アキラは新しい自分と向き合っていった。鏡に映る女性の姿は、もはや他人ではなく、紛れもない自分自身だった。

午後2時、アキラは緊張しながら王宮に向かった。人生の大きな転機が、目の前に迫っていた。