微笑む死神の遊戯

第四章：狂気の螺旋

血に濡れた通路を進む三人。壁には無数の傷跡が刻まれ、それぞれが悲鳴を上げているかのように見える。足元には粘つく血の跡。その音が、彼らの狂気を助長するように響く。

「クソッ...どこまで続くんだ、この地獄は」健太が唸る。彼の手には、まだ少女の血が付着したままだ。

瑞穂は無表情で前を見つめている。「これが地獄なら、私たちはもう悪魔ね」

陽一は黙ったまま歩を進める。彼の目には、かつての人間性が失われつつある兆候が見える。

突如、通路が大きな部屋に開ける。そこには、鏡が無数に並べられていた。

死神が現れ、不敵な笑みを浮かべる。「さあ、次の試練だ。お前たちの本当の姿を見せてやろう」

鏡に映るのは、血まみれの自分たち。しかし、その姿が徐々に変化していく。

健太の鏡には、狂気に満ちた目で人を切り刻む自分の姿が映る。「こ、これは...俺じゃない！違う！」

瑞穂の鏡には、兄の死体を抱きしめながら笑う自分が映っている。「嘘...こんなの...」

陽一の鏡に映るのは、妹を殺した男を拷問する自分の姿。「くそっ...俺は...」

死神が嘲笑う。「これこそが、お前たちの本質だ。復讐に憑りつかれた哀れな魂がな」

三人は、自分たちの姿に恐怖し、同時に奇妙な高揚感を覚える。

「違う...俺はただ...真由美の仇を」健太が叫ぶ。

瑞穂は鏡に手を伸ばす。「兄さん...私、間違ってたの？」

陽一は拳で鏡を砕く。「クソッ！美咲を...美咲を返せ！」

血が迸る。割れた鏡の破片が、彼らの肉体を深く抉る。しかし、その痛みすら、彼らの狂気を加速させるだけだ。

死神が続ける。「さあ、最後の選択だ。お前たちの中で、誰か一人を生贄に捧げろ」

三人は互いを見つめ合う。かつての信頼は、もはや影も形もない。

「俺は...俺はまだ真由美の仇を」健太が震える声で言う。

瑞穂は冷たく言い放つ。「私には、まだやるべきことが」

陽一は黙ったまま、ナイフを取り出す。

死神が笑う。「時間切れだ。では、私が選んでやろう」

一瞬の閃光。そして、健太の首から血が噴き出す。

「あ...あああああ！」健太の断末魔が響く。

瑞穂は無感動に健太の倒れる様を見つめる。「これで...私たちは生き残れるのね」

陽一は、健太の血溜まりに倒れ込む。「くそっ...くそっ...」

死神が満足げに宣言する。「よくやった。お前たちは、もはや人間ではない。さあ、最後の扉を開けるがいい」

陽一と瑞穂は、互いを警戒しながら最後の扉に向かう。その向こうには、彼らの求める「真実」があるはずだ。

扉が開く。そこには...

「美咲...？」
「兄さん...？」

二人の声が重なる。しかし、そこにいたのは彼らの愛する人ではなく、血まみれの死体だった。

「はは...ははは...」陽一が狂ったように笑い始める。

瑞穂は膝をつき、嘔吐を始める。

死神の声が響く。「これが、お前たちの求めた真実だ。復讐も、愛も、全ては虚しいのさ」

部屋が歪み始める。現実が崩壊していく。

陽一と瑞穂の意識が、暗闇に飲み込まれていく。

最後に聞こえたのは、死神の嘲笑う声だった。

「さあ、目覚めるがいい。お前たちの新たな地獄へとな」