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死の約束-3

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 ――カチャ、玄関の方で音がしてハッとする。


 まだ私が寝ていると思っているのかとても静かに部屋の中を歩いているっぽいエリザ。それは隠したいの?心配かけたくないの?いろんな気持ちは湧いてくるけれど、喧嘩をしたいわけじゃない。
 私だってエリザを信用したいんだ。


「こっち」

 バレたくないんなら知らんぷりをしてあげる。そうやってお互いが信頼関係を作って信じていくしかないんだよね?そうすれば不安はなくなる?
 仲の良い姉妹でいたいんだ、ずっと。いつまでも繋がってられる家族でいたい。


 ジルの手を引いて自分の部屋に押し込みながら扉を閉めた。ドア越しでエリザの気配を探るもののよくわからないがなるべくドアに引っ付いて様子を伺う。そんな私を見つめるジルは楽しそうで……。


「問い詰めねぇの?」
「……信じる勇気、なんでしょ」

 また拗ねた口調で言い返したらクスリと笑われた。


「やっぱりマジで謝った方がいいかもな」
「え?」

 ジルの身体とドアに挟まれて気づくと腕の中にいる。私よりずっと大きくて広い肩幅、長い腕がドアにつかれて見下ろされる。


「ジ……ジル?」
「俺は基本狩る時に待ったなし。自分から見つけに行くし見つけたら即仕留める。中途半端に泳がせたり煽ったりもしない。狙った獲物は逃さない、絶対に」

 狩りの話?なのにそれを今この状況で話すのはなんなのか。


「そばで寝てる女、見つめるだけで待っててやるなんてありえないんだよ。無防備に寝てんなら何されても文句言えねーってわかるよな?でも俺、手ぇ出してないんだぜ?偉くね?」
「……え、偉いと、思う」

 手を出さなかった?つまり昨夜は本当に何もなかったと言うことなのか?整理しきれない頭なのに待ったなしらしいジルは続けていく。


「寝てる女犯すのは趣味じゃねぇってのはあるけどな。討伐の後のストレス知ってる?知ってるよな?いろんなお仕事斡旋してる受付嬢なら」

 冒険者ギルドたちは命の狭間で生きている。過度なストレスと闘いながら任務を遂行したあとの開放感と自由、そして生きているという実感を肌で感じたくなる自分の存在証明……自分の生命を残しておきたくなる男の性。


 いろんなお仕事……サービスはもちろん知っている。窓口で相談されて案内することもあるのだ――娼館を。


「……た、溜まってるの?」
「ストレートに聞くんだな」

 言ってから後悔したが後の祭りだ。


「しょ、紹介しろってこと?」
「本気で聞いてる?」
「エリザを?」
「おい、もっと頭使えよ」
「え?」

 スッとジルの手が頬に添えられてドアにつかれていた長い腕が蛇みたいに腰に纏わりついて来て、一瞬で抱き上げられて足が浮いた。


「ちょ……」
「アリシア」

 だから……名前で呼ばないで。胸が……異常に震えてくるから。


「ジ、ジル……は、なして」
「嫌ならもっと本気で抵抗しろよ」
「ジルは寝込み襲っても倒せる自信ないって……」
「ヴェリル?」

 聞かれて頷いたら鼻で笑われた。


「女でも平気で殺すって……」
「……殺されたいの?」

 金色の眼が光るからゾッとした。本気で殺されるかもしれない、そう思って身構えたらまた鼻で笑う。


「アリシアなら……腹上死だな」
「……え」
「俺も死ぬならお前に殺されてぇな」
「死ぬとかやめて!」
「声でけぇよ。起きてるのバレるぞ」

 言われて思わず手で口を覆った。


「今度は死ぬ約束でもしようか」
「え……」

 口を塞いだ手の甲に、ジルがソッと口付けてくる。手がなければきっと触れている口と口。伏せられた瞳にかかるまつ毛が長くて見惚れていたらその瞳がゆっくり開いて見上げてくる金色の眼。


「死ぬ時は俺の手で死ねよ?」

 死の約束なんか聞いたことない。しかもそれはただの殺しの宣誓じゃないか。


「その代わり……」

 ジルの唇が手のひらから離されて、紅いくちびるが薄く笑うと囁いた。


「俺の命……アリシアにやるよ」


 自分の命で精一杯。人の命を背負うほど心に余裕はないんだ。なのにどうしてジルの言葉は胸に響いてしまうのか。

 命を粗末に扱うジルなんか大っ嫌い。平気で死ぬとか言うのも嫌いなの。人に対して死ねなんて言うの論外だから。


 なのにどうして。


 ジルに心臓を捕まれて苦しい。それだけでもう死にそうなのに……どうしたって私の心臓は身体中を震わせるほど叩いて鳴いて、生きていると叫び続けている。

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