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働くことは生きること・3

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「これ、登録してくんない?」

 やってきた三人組は格別に目を引いた。この辺りではあまり見ない服装と風貌、明らかに闘ってきましたみたいなオーラがすごくて正直腰が引けた。これ、と言い差し出してきたクレジットカードサイズのカード。冒険者ランクによって色が異なるのだが。渡された二枚のカードは滅多にお目にかかれないプラチナカード。思わず絶句した。


(Aランク……だと?)


 ついにこのクラスの人間がこの国に足を踏み入れてしまった。噂には聞いていたがまだ噂のレベルだった。それくらいこの国はあまり人の出入りがなかったのだ。


「こっちが俺、これはこいつ」

 俺、とこいつ、と言われて恐る恐るカードから顔をあげてカードを差し出してきた俺さんに視線をあげてみるが、黒髪で短髪、顔の半分……鼻から下をフェイスマスクで隠しているからよく表情が見えない。ただ金色の瞳にジッと見つめられて視線が怖くて俯いた。横にいるこいつさんも受付を背にして俯いたまま愛想がない。なんなら態度が悪い。


「ジル……ベルトさん……そちらの方がヴェリルさん……あの……あちらの方は?」

 あちらを掌をかざして差してみる。あちら……商品陳列棚を覗いている人。その人は頭からフードをかぶって後ろ姿からでは風貌もなにもよくわからない。


「ああ、あいつは……とりあえずいいや」
「そう、ですか……ではまず職業やステータスを確認させてもらってから、受注していただける依頼を何点か準備させていただきます。今後私がその受付と達成を管理してその報酬の精算、受注された依頼達成の管理もさせていただきます」
「んー。あ、金になることなら回して?金が要るんだ」
「は、はぁ……」

 Aランクなら仕事の幅ももちろん広がる。その分リスクも高いのだけれど。


「ではこちらに必要事項確認してサインいただけますか?あとは血判をお願いします」

 パピルス紙を差し出すとサラサラとサインを書いていく。隣の愛想のない人も倣ってサインを記入する。何とすることもないのでとりあえず待っているだけの私。視線がサインに釘付けになるがその動作を見届けて何となく手の動きに視線がつられた。
 目の前に立つジルベルトさんの大きな骨ばった手。そこにはたくさんの傷跡があった。古そうな傷から真新しい物。その狭い範囲の中でどれだけの傷があるのだろうとぼんやり考えていたらその手がフェイスマスクにかかった。そしてそのマスクが顎下にズラされて無意識に息を止めてしまった。


 マスクの下に隠されていた整った顔、スッと通る鼻筋に右頬の下あたりにも深い切り傷がある。形のいい紅い唇が親指を噛む姿に心臓が飛び跳ねた。この感情はなんだ、男の人でなんなら野性味全開の傷多い男性に色気など皆無ではないのか。なのに放たれるとんでもない色気に胸が今まで感じたことのない動きをした。
 赤いくちびるに付着した血液がまた赤い。新たにひとつジルベルトさんの手に傷がついてしまった。それになんだか申し訳なくなるが手続き上仕方ない。サイン横に押し付けられた親指が離されるとそこにまだ赤みが残る血判が押された。


「ん」
「あり、がとうございます……」
「俺も」
「あ、は……い」
 差しだされたもうひとつのパピルス紙を受け取ろうと視線を送ってまた絶句。愛想のないヴェリルさんの素顔もまたとんでもない美形だ。ジルベルトさんとはまた違う、端正な顔つきで碧い瞳が余計クールさを際立てている。銀髪に碧眼、色も白く触ると指先が凍りそうなほど冷たそうな空気、でもその冷たさがカッコイイってなんだこれは。


(こ、これは……)


「ねぇねぇ」
「え、あ、は、はい」

 一瞬気が飛んでいた。あまり見たことのない異常なまでのイケメンを直視して思考が狂っていた。声を掛けられてまた私は仰天したのだった。

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