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エピソード・瑠衣編

3☆

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 ――めんどくさい。

 そんな言葉を吐かれてそこで何を言えようか。グッと色々飲み込んでいる瑠衣に太刀川は続ける。

「お前の親友には言っていいよ、こうなる前に向こうも察知はしてるだろうし。嘘までつけとは言わない。なんかあったとき相談もしやすいだろうし、味方がいるのは俺も安心」
「味方……?」
「とにかく、しばらくは内緒な」

 そう言われて未だに職場では内緒の関係。
 すれ違った時や瑠衣のいる総務部に太刀川が顔を出したときなど、一瞬目配せする瞬間、その時は跳ねるほど胸が高鳴って赤くなる頬を隠すのに必死になった。社内で色めく声を上げられる人が自分にだけ特別な視線を送ってくれることはかなりの優越感と信じがたいほどの高揚感がある。そして襲ってくる幸福感は瑠衣の心を舞い上がらせていく。

 付き合えただけで幸せ。
 太刀川に選ばれて傍にいれることがなによりも幸せだ、瑠衣はそう思っていた。

「それ何飲んでんの?」
「オランジェットフラペチーノ、これ太刀川さん好きだと思う。連絡くれたら買ってきたのに」
 歩き飲みしながら帰ってきたからもう量は半分も残っていない。一口最後に含んで太刀川に差し出すと手首ごと引っ張られた。

「うまそ」
 そう言って瑠衣のくちびるを飲み込むように口を重ねてきた。

「んん!」
 ほぼ喉を通した液体が唾液と共に吸い上げられるように、口の中で太刀川の舌が押し込まれて舐め取られていく。

「あー、これ好き」
「ぁんん!」
 もう口の中にフラペチーノなんかない。あっても残されたのはかすかな香りと余韻の甘さだけではないだろうか。それでもそれだけを堪能するように太刀川のくちづけが止まらない。口の中を責められて、溢れ落ちる液体が見上げることでのびる首筋に伝いだす。

「――っ、んあ、ぅんん」
 伝い落ちる雫を太刀川の舌が舐めあげていく。その行為に瑠衣の身体は素直に震える。
 太刀川にすっかり慣れた身体は何も言わなくても敏感に簡単に反応するようになった。もう瑠衣の身体は濡れだしている、それに瑠衣自身が気づいて余計身を捩った。

「ん、ぁ、や……だ」
 一応抵抗の声は出す。それに太刀川は聞く耳も持たないけれど。でも実際止められたら瑠衣だって戸惑う、ただの癖づいた言葉のやりとりなだけ。
 瑠衣は太刀川に求められたらいつもどんな時でも素直に応える。
 応えたくて自ら腕を伸ばせるようにまでなった。

「は、ぁ……わたし……汗、かいてる、よ?」
「いいよ」
 太刀川の手は止まらない。くちびるが首筋から胸に落ちてきて、瑠衣の服をはだけさせていく。濃厚なキスのせいか、触れられているときめきのせいか、胸のドキドキが激しい。自分で見下ろしていても無駄に胸が上下してそれが瑠衣はまた恥ずかしかった。
 慣れてきても照れるものは照れる。自分の体に自信があるわけでもないし、魅力も大して感じない。太刀川が求めているものをどれだけ持てているのだろう、と触れ合うたび瑠衣は思い悩んでいた。

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