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エピソード・瑠衣編
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瑠衣が不貞腐れているがそれに真緒は追い打ちをかけてきた。
「今瑠衣もそう思ったんでしょ?誰でも思うよ、太刀川さんってああいうタイプ好みそうだし!瑠衣が彼女ってやっぱ違和感ー!」
「もぉう!言わないでよぉ!」
本気で泣きそうになりながらも瑠衣自身が真緒の言葉は納得すぎて自分で嫌になっている。
黒王子――そう呼ばれる彼氏になった太刀川は誰もが振り向くイケメンである。
細い猫っ毛は艶のある黒髪で、シミのない澄んだ肌にスッと通った鼻筋。形の良いくちびるの斜め下に小さなホクロがあるのは付き合ってから気づいた。何度も交わしたキスでそのホクロを見つけたとき、瑠衣は自分が太刀川にとって特別になれたのだと実感した。
太刀川はキスが好きなのか、やたらくちびるを重ねてくる。付き合う前、瑠衣と特殊な関係でいたあの頃、太刀川は一度も触れてこなかったくちびるへのキス。あれは、瑠衣に対してだけの話ではなかったのかもしれない。
太刀川こそがキスを特別な、大切な相手にだけ取っておきたいものだったのかもしれない。それに気づいてからは太刀川からされるキスが嬉しくて、触れられるたび心から寄り添ってその熱に応えていた。
「おかえりー」
アパートの扉を開けたら我が家の様にくつろぐその人がいた。
「た、だいま……あれ?今日戻れたの?」
「おー、なんか打ち合わせ早く終わって相手のトラブルで会合は今度になった」
「そうなんだ、お疲れ様」
時間が出来ると太刀川は瑠衣に会いに来る。営業職ということもあり遠方に出張も多い。夜が遅くなりがちな太刀川と過ごせる時間は作らないとなかなか会えなかったりする。同じ職場でも顔を気軽に合わせられるわけではない、ましてや二人の関係はいまだ公にはしていない。
「俺とのこと言いたい?」
付き合うことになってすぐ、太刀川は瑠衣に聞いてきた。
「え?」
「俺と付き合ってること、社内でオープンにしたい?社内恋愛は別に規制されてるわけじゃないし、付き合ってるやつも結婚してるやつもなんなら不倫してるやつもいるし」
「え!不倫?!」
「プッ……やっぱお前はなんも知らんわな、疎そうだしな周りのおもしろいネタとかさ」
馬鹿にしたような笑いをしながらもそう言って瑠衣の頬を撫でる手は優しい。子猫を可愛がるような優しい手つき、その優しさに瑠衣はいつも身を任せてしまう。
「私は……どちらでもいい、ですけど……」
「俺はできれば言いたくないんだよ」
そう言われたら少しだけショックだった、瑠衣は心の中でチクリと胸が痛んだことに気づかないようにした。
「いろいろめんどくせぇ」
理由もまたショックだ、気づかないようにしようとしているところにそんな言葉を言われると余計痛んだ胸に矢が刺さったのだった。
「今瑠衣もそう思ったんでしょ?誰でも思うよ、太刀川さんってああいうタイプ好みそうだし!瑠衣が彼女ってやっぱ違和感ー!」
「もぉう!言わないでよぉ!」
本気で泣きそうになりながらも瑠衣自身が真緒の言葉は納得すぎて自分で嫌になっている。
黒王子――そう呼ばれる彼氏になった太刀川は誰もが振り向くイケメンである。
細い猫っ毛は艶のある黒髪で、シミのない澄んだ肌にスッと通った鼻筋。形の良いくちびるの斜め下に小さなホクロがあるのは付き合ってから気づいた。何度も交わしたキスでそのホクロを見つけたとき、瑠衣は自分が太刀川にとって特別になれたのだと実感した。
太刀川はキスが好きなのか、やたらくちびるを重ねてくる。付き合う前、瑠衣と特殊な関係でいたあの頃、太刀川は一度も触れてこなかったくちびるへのキス。あれは、瑠衣に対してだけの話ではなかったのかもしれない。
太刀川こそがキスを特別な、大切な相手にだけ取っておきたいものだったのかもしれない。それに気づいてからは太刀川からされるキスが嬉しくて、触れられるたび心から寄り添ってその熱に応えていた。
「おかえりー」
アパートの扉を開けたら我が家の様にくつろぐその人がいた。
「た、だいま……あれ?今日戻れたの?」
「おー、なんか打ち合わせ早く終わって相手のトラブルで会合は今度になった」
「そうなんだ、お疲れ様」
時間が出来ると太刀川は瑠衣に会いに来る。営業職ということもあり遠方に出張も多い。夜が遅くなりがちな太刀川と過ごせる時間は作らないとなかなか会えなかったりする。同じ職場でも顔を気軽に合わせられるわけではない、ましてや二人の関係はいまだ公にはしていない。
「俺とのこと言いたい?」
付き合うことになってすぐ、太刀川は瑠衣に聞いてきた。
「え?」
「俺と付き合ってること、社内でオープンにしたい?社内恋愛は別に規制されてるわけじゃないし、付き合ってるやつも結婚してるやつもなんなら不倫してるやつもいるし」
「え!不倫?!」
「プッ……やっぱお前はなんも知らんわな、疎そうだしな周りのおもしろいネタとかさ」
馬鹿にしたような笑いをしながらもそう言って瑠衣の頬を撫でる手は優しい。子猫を可愛がるような優しい手つき、その優しさに瑠衣はいつも身を任せてしまう。
「私は……どちらでもいい、ですけど……」
「俺はできれば言いたくないんだよ」
そう言われたら少しだけショックだった、瑠衣は心の中でチクリと胸が痛んだことに気づかないようにした。
「いろいろめんどくせぇ」
理由もまたショックだ、気づかないようにしようとしているところにそんな言葉を言われると余計痛んだ胸に矢が刺さったのだった。
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