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一章 想いの力

ドタバタ新学期 その1

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「やっぱり納得できない」
そんな暮華の一言から始まった敷島家は、朝っぱらから騒がしかった。それは、なぜかというと……


「ほー、ここが敷島君の家ね」
登校初日の放課後。悠善、暮華、遊楽、綾月の四人は敷島家に集結していた。
「で、なんであなたが居るの?」
「いいじゃないか、僕と君は今日からとはいえ既に周知の仲じゃないか」
「なんなのこいつ……」
家に着くなり、早速綾月が遊楽にダル絡みをしていた。初見で綾月の毒牙に掛からなかっただけ凄いだろう。
「それで、用事は何だ?」
悠善が席に座ると、三人も揃って席に座った。
「いい?ここから話すことは絶っっっっっっっっっっ対に口外しないでね?」
「そんなに重要なのか」
 遊楽は深呼吸すると、話し始めた。
「率直に言うけど、私のこと覚えてる?敷島君」
「は?」
「あなた、悠君のなんなの」
「敷島君は私の恩人よ」
 唐突な爆弾発言に、悠善はキョトンと、暮華はムスッと、綾月は大爆笑していた。
「あっはははははは!その話、もう少し詳しくっ、ぐっふふふふふふ……」
 綾月にドン引きしつつ、遊楽は話を続けた。
「えーっとね、私昔にこのあたりの公園で遊んでたときにやんちゃ坊主共にいじめられたことあるのよね」
「やんちゃ坊主……そうか、そういうことか」
 悠善はその言葉にピンときたようだった。
「もしかしてお前……あの時俺が助けた子か?」
「そうそう!よく思い出してくれました!」
 その言葉に遊楽は喜びの顔を見せた。その裏で、いつの間にか綾月が我が物顔で冷蔵庫を漁り、ジュースを勝手にコップに注いで飲んでいた。
「それでね、そんな恩人のあなたにお願いしたいんだけど……ここに住まわせて?」
 悠善の横でものすごい殺気を感じたので、悠善は慌てて暮華を止めた。
「あ、親御さんには許可貰ってるよ」
「暮華!落ち着け!」
 今ここで離したら、台所にある包丁で遊楽を殺しかねない勢いだった。
「なんでそんな事になったかというとね?色々あって神界から追放されちゃって……」
「「「神界???」」」
その言葉に、三人は同時に聞き返した。
「そう、それが口外しちゃいけないやつ。貝戯遊楽はある意味本名だけど違うの」
 遊楽はそう言って、懐から紙を取り出してそこに名前を書き始めた。
遊楽貝戯産霊姫ユウラカイギムスビヒメ』。これが彼女の神としての名前らしい。
「それで、身よりもないからどうにかして昔の記憶を頼りに敷島君の身辺調査をして、お父様に行き当たったってわけ」
 そこでなんで自分ではなくて先に父親の方に行き当たるのかが悠善は不思議だったが、あえて突っ込まないでおいた。
「それでもあなた……貝戯さんが悠君と一緒に住むのは納得いかない!」
「じゃあ敷島君の家に狩染さんも住んじゃえばいいんじゃないかな」
 綾月から放たれた特大級の爆弾。その言葉に空気が凍りついた。
「確か、敷島君のご両親の部屋があるから、そこに二人で住めばいいんじゃないかな?ある意味狩染さんにも貝戯さんにも抑止力になるし……それにその方が僕も面白いし」
「おい」
 そういうわけで、綾月の鶴の一声(?)で、敷島家には二人の入居者が来たのだった。


 そして、翌日の朝。早速悠善は頭を抱えていたのであった。
「やっぱり納得できない」
 暮華の不満いっぱいなその言葉にもそうなのだが……
「おはよー二人とも」
「おはよ……って何その格好!?」
 遊楽が起きてきて、暮華が返事を返したのだが、その格好に驚いた。何と言っても、下着の上に制服に着るシャツ一枚という格好だ。それを見た暮華は急いで悠善を部屋に押し込んだ。悠善は悠善で何が起こったのか分からないまま自室に押し込まれたので、混乱していた。
(はあ……恨むぞ、綾月め……)
 おそらくこの話を綾月にしたら大爆笑するだろうと思いながら、先に学校の支度をする悠善。
 そして、こちらの二人はと言うと……
「なによ、私がどういう格好でもいいでしょ?外ならまだ分かるけど一応ここに住んでるんだから」
「そうじゃないの!なんていうか、その……一応女子としての羞恥心を持ってよ!それに悠君の毒!」
 そう言って急いで部屋から遊楽の寝間着のズボンを持ってきて履かせた。
「愛、重いわねあなた」
「重い?まさか。私はただあの時悠君が私と結婚してくれるって言ったときから人生を捧げるって決めてるだけで、別にそれは普通のことだと思うよ?」
 ズボンを履かせた後、毎度のごとく既に完成している朝食をよそいながら言った。
「悠くーん?もういいよー」
 暮華の言葉を聞いて、悠善が戻ってきた。
「終わったか?」
「ううん、やっぱりまだ不安だよ」
「なんなの、学校ではあんなにお淑やかで清楚って感じを出してるのに、いざ敷島君が絡むと鬼みたいになるの」
 ぶつくさ言いながら、遊楽は椅子に座り、テレビを点けた。
「そういえば一応聞いておくけど、味の好みは?」
「特にないわよ?意外と神の世界のごはんって美味しいし」
「神の世界のごはん、かあ」
「実際この世界のごはんと大して変わらないわよ?あら、美味しそう」
 食卓に並べられた暮華の料理を見て、素直な感想を漏らした。
「と言うか、それ以前に……本当にお前、神なのか?」
 悠善は遊楽に言った。
「曲がりなりにも神よ」
 遊楽は持った箸を唐突に折る。
「お前、何やってる!?」
「これにちょっと力を込めれば……ほら」
 もう一度箸を見ると、折れていたのが嘘かの様に元通りになっていた。それを見て二人は驚く。
「ま、他にも出来るけど、それをやっちゃったらちょっとまずいことになるから」
 そのままその箸で朝食を口に運ぶ。
「ん、美味しい」
 どうやらお気に召したらしい。
「私の味が気に入らないって言うんだったらここから出ていってもらうのも考えたけど。 その代わり、流石に年頃の女の子を放置するわけにもいかないから私の部屋に居させるけど」
「俺的にはそっちのほうが嬉しいんだが」
 おそらく、と言うか確実に悠善のその声は二人に届いていなかっただろう。
 そんな喧騒をよそに、ふと悠善は思い出した。
「遊楽、お前来月の体育祭どうするんだ?」
「敷島君こそ」
「は?なんで俺が」
 敷島君こそ、の意味は悠善には分かっていた。綾月や暮華なら長い間一緒に居たから運動神経は分かるが、遊楽は昔に会ったとはいえほぼ昨日が初対面みたいなものだから、悠善の運動神経なんか知る由もないだろう。
「悠君はね、すっごいんだよ!でも、最近綾月君とか他の子とかとゲームとかしてるから、ちょっとなまってるかもだけど」
「ふーん」
 それを聞いてすぐに遊楽は興味を無くしたようだった。意気揚々と悠善自慢をし始めた暮華はその反応を見てムスッとした。
「貝戯さんさ……悠君に興味があるのかないのかどうなの?昨日から恩人恩人って言うけど、そもそも追放されたってのも、神っていうのも嘘じゃないの?」
「暮華?急に何を」
 声色が急に変わったので、今までの経験から悠善はまずいと思い止めにかかったが……既に遅く、遊楽がそれに乗ってしまった。
「だったらなによ、私はあなたの恋路を邪魔する女に見えてるの?神ってのも、追放ってのも本当だし、言っちゃ悪いけどわざわざこんなところに何もなしに来るわけないでしょ?」
「何を企んでるかはわからないけど、とにかく悠君は私のものだから。勝手に取らないで」
それ以降、三人は気まずさもあってか登校するまで一度も口を利かなかった。
 登校途中、綾月が合流してきたが、空気を読んだのか何も話さずに居てくれた。
 だが、その昼休み。
「ゆうくーん♡あーん♡」
 クラスのど真ん中で、暮華が堂々と悠善にあーんをしてきた。
「お、おい暮華?」
 クラス中の視線を感じながら、悠善はそれを受け取るかどうか迷っていた。
「綾月……助けてくれ……」
「どうしたの悠君?ほら」
「お前までそんな呼び方をするな気持ち悪い」
 綾月に助けを求めるも、暮華を真似するように受け取ることを勧めてきた。
 ならば遊楽に助けを求めようとして、ちらりと悠善が遊楽の席の方を見ると、遊楽は居なかった。
「むう……」
 大人しく受け取ることにした。
「どう?」
「まあ、そりゃお前が作ったからうまいだろうよ」
「おやおや、結婚どころか交際もしてないのに目の前でされると僕は居たくなくなっちゃうよ」
 うそつけ、と思いつつ悠善は次の具を咀嚼した。
「ところで、多分金曜日までには何かしら言われるだろうけど、体育祭。どうするんだい?」
 体育祭。悠善にとっては忌まわしい響きだった。昔ならともかく、今はゲームなり何なりをしていて運動はまともにしていないからだ。
「そうだな……今は特に考えてないし、運動ができるやつに良いのは回せばいいだろ。なにか楽な競技ないかねえ」
「楽な競技、って言ったら借り物競争じゃない?」
 どうせ綾月のことなのだから、余計なものを混ぜてくるんだろうと悠善は思った。綾月は体育祭実行委員なので、どうとでも出来るはずだ。
「借り物競争といえば~……『アレ』だよね?綾月君」
「うん、その『アレ』を無理矢理にもねじ込むよ」
『アレ』の正体は悠善にはわからなかったが、今ここで追求するのは野暮だと思いやめた。
「ねえ、狩染さん」
「ん?」
「貝戯さん、誘わなかったの?」
 その言葉に悠善は少し固まった。朝に聞かなかったとは言え、やはり気になったのだろう。しかし、自分が話すわけにもいかないし、そういう意味では暮華に聞いたのは正解だった。
「朝からなんか空気悪かったからさ、流石に昨日今日で一気にあんなに悪くなるなんてびっくりしてさ」
「ううん、特に何も……って言っても綾月君じゃ分かっちゃうよね」
 暮華は少し小さい声で朝の顛末を綾月に話した。
「て、こと」
「ふむ」
 綾月はそれを聞いて少し考える仕草をした。そして、なにやらむーんむーんと唸っている。
「ちょっと、いいかな」
「うわっ!?」
 急に悠善の肩に腕を回すようにして廊下に引きずり出した。
「僕が言ったことは承知なんだけどさ、ちょっと危険じゃない?」
「危険?」
 確かに朝っぱらから空気が悪くなる程度なら、悠善は平気だった。悠善自身も今までに何度も暮華とは喧嘩しているし、そのたびに仲直りをしてきた。だから、今回もすぐに収まるものだろうと思っているのだが……
「なんというか……ほら、狩染さんってさ、愛が重いじゃないかい?敷島君第一というか……」
「まあそうだけど、特に俺は不便してないしな」
「敷島君、君、好きな人との蜜月の場に第三の女来たらどうする?」
「言い方」
 言い方は少し不適切な気もしたが、そうなると、たしかに綾月の言い分は少し分かる気がした。続けて綾月が言葉を紡ぐ。
「そこでだ、少し僕に時間をくれないかい?そうだな……今週の土日のどちらかとか」
「なにする気だ」
「ちょっとね」
 綾月が思いつきで急になにか始めるのはもう既に慣れたが、今回はいつも以上に含みがあった。
「それじゃあ、僕は貝戯さんを探してくるから、また後でね」
 そう言って、綾月は手を振ってどこかに去っていってしまった。悠善はそれを困惑しながら見送りつつ、教室に戻った。
「あれ、綾月君は?」
「どっか行った」
「そっか」
 暮華はあまりそれに触れず、二人が話しているときに食べ終わっていたであろう弁当を片付けていた。
そして、その綾月はというと……
「やっぱりここに居たね」
「うわ、なによあなた。なんで私の行動パターンを把握してるわけ?」
 綾月の見立て通り、遊楽は中庭に居た。この学校の中庭は生徒の憩いの場で、今日も割と多くの生徒が居た。
「で、何の用?」
「いやあ、懇親会ってのをやりたくてさ。同じクラスだからもそうだし、敷島君の関係者なら、ね」
 いかにも、というかまんま詐欺師のような口調で綾月は遊楽に言い寄る。
「懇親会?なにそれ」
「よくぞ聞いてくれました、それはね……」
 綾月は計画を遊楽に話した。
「……ってのはどうかな」
「……」
 遊楽はその計画を聞いて、ぽかんとしていた。
「私、今までそういうのやったことないんだけど」
「そうすればさ、多少は狩染さんも心を開いてくれそうじゃない?一応、僕も居るからさ」
 そう補足して、綾月は詰める。
「……わかった、わかったけど」
「ん?」
「綾月君、あなたその話術で何人落としてきたわけ?」
 綾月は答える。
「教えない。知ってどうするの?」
「私はもう敷島君一筋だからいいけど、いつか刺されるわよ」
 そう言って遊楽は去っていった。おそらく教室に戻るのだろう。
「刺される、ね……いつかされそうだね」
 綾月は戻る時間がかぶらないように、少し中庭で休んでから戻ることにした。
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