28 / 39
ガリア王国王宮編
10. 魔の森に戻ろう
しおりを挟む
ハーネスも出来たので、魔の森に出発する前に買い物もしたいし、今日は街中をぷらぷらする。
ジルの背中に乗って、リードを繋いで、さあお出かけだ。
最初の目的地は冒険者ギルド。迷惑をこうむった貴族からたくさん入金されているはずのお金を確認しないとだからね。
オレたちが入ると、冒険者がざわついた。「あれってもしかして」「噂のイタチか」って声が聞こえる。
えっへん、慈悲深いオコジョのキリ様ですよ。
「へえ、あれが治癒魔法が使えるイタチか。治癒してくれるかな?」
「姫より優秀らしいけど、料金吹っ掛けられるんじゃないか?」
「やめとけ。アイツに関わって貴族の家が潰されたらしいぜ」
「まじかよ、怖えな。触らぬナントカにってやつだな」
いやいや待って、キリくん怖くないよ。慈悲深いよ。そんな祟り神みたいな扱いされたら傷付いちゃう。
なんかみんな微妙にオレから距離とってない?
ジルも辺境だと誰かしら寄ってきて干し肉くれるのに、誰もくれないと不思議がっている。オレたちこんなに可愛いのに、酷いなあ。
「確認したぞ。買い足しが必要そうなものは保存食か」
「金が入ったから、俺たちのテントを新しくしてもいいんじゃないか?」
「キース、お前らが使ってるやつ、よさそうだが、どこで買ったんだ?」
「あれはフレッドの物だ」
キュリアンたちがあーって顔してる。
お父さん過保護だから、ご主人が冒険者になる時に装備一式を揃えたんだろうなあ。もしかしたら特注かもね。
「冬にミリアルに行ったときに受け取れるように言っておく」
「いやいや、貴族の使うものとか、高すぎて払えないからな」
「大丈夫だ。俺のもマークを入れて新しくすると言っていたから、全員分頼んでおく。ジルを巻き込んでしまった詫びだ」
出たよ、お坊ちゃまの浮世離れ発言。
まだまだ使えるのに、キリくんのマーク入れるために新調するってさすがだね。ご主人が貴族を続けていて必要になったはずのお金に比べれば安いのかもしれないけど。
「おいキース、いいのか?」
「いいんじゃないか?ダメなら断られるだろ」
「いや、そういうもんか?」
「その程度、はした金なんだろう。冒険者ごときが養っていけるのかって言われたしな」
「お前……、大変なんだな。頑張れよ」
なんでかキースが同情される流れになってる。
金銭感覚の違いは如何ともしがたいよねえ。ご主人別に贅沢三昧じゃないけど、そもそも相場が分かってないからね。
オレは、ちゃんとオレが治癒で稼いだ金で、お菓子もお風呂も払ってるよ。オレが金の管理してるわけじゃないけど、稼いだ分より多くは要求してないはずだ。多分。ちょっと自信ないけど。
保存食を買いに、冒険者行きつけの店に移動してきたけど、ここは食べ物を扱っているから、ジルが入れない。オレはご主人のバッグに隠れちゃえば入れるんだけど、オレの食べる保存食はお母さんが用意してエマさんが持って来てくれたから、入らなくても問題ない。ってことで、ジルと一緒に、ご主人とリュードと外で待っている。
「おかあさん、ワンちゃんとネコちゃんがいる!」
オレたち注目の的だよ。ダブルもふもふはやっぱり目を引くよね。
カワイ子ちゃん、オレは可愛いオコジョだよー。ジルはオオカミだけど、まあワンちゃんで間違ってないよー。
愛想よくすると干し肉を貰えると知ったジルは、いろんな人に人懐っこく尻尾を振って愛想を振りまくようになったので、もはや厳ついオオカミのイメージはない。でもさすがに大型犬の大きさのジルに寄ってくる人はいないので、少し離れたところから手を振るくらいだ。
オレたちに興味を示す子どもたちに向けて尻尾を振っているうちに、保存食の買い物を終えたキュリアンたちが出てきた。
「この後どうする?」
「俺、屋台でなんか食いたいんだけど」
「たしかに。串焼きとか食べたくなるよな」
うんうんってみんな頷いてるけど、ご主人だけそうか?って顔してる。だよね、ご主人にとってはお屋敷の食事が普通だもんね。
今日のお昼は外で食べてきますって言ってあるんだけど、食堂に入るんじゃなくて、屋台で好きな物を買って食べることに決まった。肉にかぶりつくぞー、とキュリアンが宣言している。お屋敷でマナーよく食べるのは、ちょっとストレスだったみたい。
目についた屋台で注文しては、その場で行儀悪くかぶりつき、大声で感想を言い合って、冒険者ってこうだよねって感じ。
オレとジルは、切れ端の肉とか半端になったものをたくさんもらって大満足だ。
みんな可愛いもふもふを見ると貢ぎたくなるらしい。えっへん。
「やっぱりお屋敷の食事のほうが旨いな」
「比べんな。フレッドは冒険者になるまで屋台で食べたことなかったらしいぞ」
「マジかよ。買い食いとかしないのか?」
「俺はしたことがない」
「あれか、食べたいって言ったらメイドさんが買ってきてくれるのか」
「いや、料理人が作ってくれる」
ちゃんとした食材じゃないとお坊ちゃまの口には入れられないのか。さすが大貴族。屋台の味をシェフが作るってなんかすごいな。
「おい、キース、お前ほんとに養っていけんのかよ」
「無理に決まってんだろ。そんな生活できるかよ。フレッドは冒険者だ」
「だな。まあ二人とも頑張れよ」
肩をバシバシ叩いてくるキュリアンにキースが苦笑している。
ご主人、金銭感覚はおかしいけど、庶民の生活でも多分文句はないんだよね。食事も冒険者用の不味い保存食でも特に不満もないみたいだし、宿の狭さも気にならないみたいだし。ただあんまり清潔じゃないのだけは嫌そうだ。まあそれはご主人よりもオレが許せないけどね。
あれ、もしかしてご主人の実家からの援助がなくなって困るのって、オレだけじゃない?美味しいご飯も、清潔な宿も、石鹸もお風呂もなくなっちゃったら、キリくん生きていけない。
冬にミリアルに帰ったら、いつもありがとうと、これからもよろしくを、しっかりアピールしておかなくちゃ。
「ルフェラ様、ありがとうございました」
「こちらこそ。旦那様をよろしくね。冬にはミリアルに帰る前に、一度こちらに寄ってね」
魔の森に向けて出発だ。旦那様こと伯爵は、ジルと一緒に馬車に乗ってご満悦である。
今回ロビンバルは護衛の任務を受けていないので、伯爵の同行者として馬車に乗っている。ジルも2人分のスペースをとって同行者にカウントされている。伯爵はジルと一緒に乗りたい。冒険者は気を遣うので、伯爵と一緒に乗りたくない。
その結果、伯爵とジルと、ご主人とオレが1つの馬車に乗っている。まあそうなるよな。
ジルは伯爵の足元でくつろいでいるよ。王都に近いこの辺りではジルが馬車の横を走ると混乱を招きそうなので、こうして馬車に乗っているんだ。
ジルは伯爵を美味しい肉をくれる人として認識しているので、リュードに伯爵と一緒に馬車に乗るんだよと言われて、肉がもらえると喜んで乗り込んでいた。すぐ後ろの馬車に乗っているリュードの声がジルの耳には聞こえているから、別々の馬車でも安心っていうのもあるんだろう。
「フレデリク、冒険者生活で困っていることはないか?」
「ありません。皆に助けてもらっています」
「前回ルフェラから話を聞いて、この国で活動する冒険者を紹介しようと思っていたんだが、一足遅くすでに辺境に移動した後だった。だがよい仲間を見つけたようでよかった」
「お気遣いありがとうございます」
「いや、こちらこそキリくんのおかげで、家の重要度が上がった。おかげで子どもたちにたくさんの縁談が来ている」
縁談も伯爵が王都から逃げ出す理由の1つっぽい。王都にいると押しかけられちゃうから、離れてじっくり考えるんだろう。
ご主人が婚約についていい思い出がないのは伯爵も分かっていて、せっかく選べる立場になったのだから、子どもたちのためにいい相手を選ぶと伯爵が約束している。
ご主人の場合、次男だし、パーティーで積極的に話しかけたりしないけど、そのうち好きな人が出来るかもしれないし、相手はのんびり探せばいいよねって、お父さんたちが過保護を発動した結果、運悪く公爵家につけ入られちゃったっぽいんだよね。あのでっぷり、今思い出しても噛みついておけばよかったと後悔する。
「……いろいろありましたが、こうしてキリにも会えましたし、仲間も出来ました」
「キリくんを見つけた時も一緒だったそうだな」
あ、ご主人がキースのことを言われて赤くなってる。
「ハルキス殿から聞いた。まだ小さいが私にも息子がいるから、侯爵の無念も心配も、すんなり応援できない気持ちも分かる」
「分かっています。父が別れろと言うなら、従います」
「彼が道を外さない限り、そんなことは仰らないだろう。フレデリク、言葉を惜しんではいけないよ。キリくんによって君の周りは大きく影響を受けた。何を考えているのか、ちゃんと話し合うようにしなさい」
ご主人にとっては馴染みのある元居た世界だけど、キースたちにとっては馴染みのない貴族の世界だもんね。ミリアルで多少は関わったけど、謁見も貴族の屋敷への滞在も初めてのことだ。ただでさえご主人に自分が釣り合わないんじゃないかって気にしてたから、ちゃんと話しておかないと、すれ違っちゃうもんね。
でもご主人、そんなこと考えてたんだ。お父さんはなんだかんだとご主人の幸せを優先させる気がするけど、確かにキースが外道になったら引き離すだろうなあ。
その日の夜、宿の部屋でご主人が改まって切り出した話を、キースは一蹴した。
「フレデリク、俺はお前から離れるつもりはない」
「私もない。けれど、もし父上がそう判断されたら、私は従う。すまない」
「分かってる。それでもお前の心は俺の物だろう」
「ああ」
「だったらいい。悩むな。侯爵様はお前が苦しむような判断はされないさ」
キースがご主人を安心させるように、そっと抱きしめた。
生まれも育ちも違うけど、これから一緒に生きていくことは出来るだろうって。
大丈夫。そんな未来は来ないよ。
ご主人を泣かせるヤツはこのキリ様が許さないからね。あ、夜は別ね。
でもキースがもし心変わりしたりしたら、お父さんと一緒に徹底的に追い詰めてやるから、覚悟しとけよ。
王宮では事件もあったけど、ご主人とキースの仲が深まると言う意味では有意義な王都訪問だったな。
冬にはお父さんとの対決第2弾も待ってるし、それまでに辺境でさらに仲を深めておかないとね。
キースの好きなことしていい券が1枚まだ使われてないままだから、いつ何をするのかも楽しみだよ。うひひ。
ジルの背中に乗って、リードを繋いで、さあお出かけだ。
最初の目的地は冒険者ギルド。迷惑をこうむった貴族からたくさん入金されているはずのお金を確認しないとだからね。
オレたちが入ると、冒険者がざわついた。「あれってもしかして」「噂のイタチか」って声が聞こえる。
えっへん、慈悲深いオコジョのキリ様ですよ。
「へえ、あれが治癒魔法が使えるイタチか。治癒してくれるかな?」
「姫より優秀らしいけど、料金吹っ掛けられるんじゃないか?」
「やめとけ。アイツに関わって貴族の家が潰されたらしいぜ」
「まじかよ、怖えな。触らぬナントカにってやつだな」
いやいや待って、キリくん怖くないよ。慈悲深いよ。そんな祟り神みたいな扱いされたら傷付いちゃう。
なんかみんな微妙にオレから距離とってない?
ジルも辺境だと誰かしら寄ってきて干し肉くれるのに、誰もくれないと不思議がっている。オレたちこんなに可愛いのに、酷いなあ。
「確認したぞ。買い足しが必要そうなものは保存食か」
「金が入ったから、俺たちのテントを新しくしてもいいんじゃないか?」
「キース、お前らが使ってるやつ、よさそうだが、どこで買ったんだ?」
「あれはフレッドの物だ」
キュリアンたちがあーって顔してる。
お父さん過保護だから、ご主人が冒険者になる時に装備一式を揃えたんだろうなあ。もしかしたら特注かもね。
「冬にミリアルに行ったときに受け取れるように言っておく」
「いやいや、貴族の使うものとか、高すぎて払えないからな」
「大丈夫だ。俺のもマークを入れて新しくすると言っていたから、全員分頼んでおく。ジルを巻き込んでしまった詫びだ」
出たよ、お坊ちゃまの浮世離れ発言。
まだまだ使えるのに、キリくんのマーク入れるために新調するってさすがだね。ご主人が貴族を続けていて必要になったはずのお金に比べれば安いのかもしれないけど。
「おいキース、いいのか?」
「いいんじゃないか?ダメなら断られるだろ」
「いや、そういうもんか?」
「その程度、はした金なんだろう。冒険者ごときが養っていけるのかって言われたしな」
「お前……、大変なんだな。頑張れよ」
なんでかキースが同情される流れになってる。
金銭感覚の違いは如何ともしがたいよねえ。ご主人別に贅沢三昧じゃないけど、そもそも相場が分かってないからね。
オレは、ちゃんとオレが治癒で稼いだ金で、お菓子もお風呂も払ってるよ。オレが金の管理してるわけじゃないけど、稼いだ分より多くは要求してないはずだ。多分。ちょっと自信ないけど。
保存食を買いに、冒険者行きつけの店に移動してきたけど、ここは食べ物を扱っているから、ジルが入れない。オレはご主人のバッグに隠れちゃえば入れるんだけど、オレの食べる保存食はお母さんが用意してエマさんが持って来てくれたから、入らなくても問題ない。ってことで、ジルと一緒に、ご主人とリュードと外で待っている。
「おかあさん、ワンちゃんとネコちゃんがいる!」
オレたち注目の的だよ。ダブルもふもふはやっぱり目を引くよね。
カワイ子ちゃん、オレは可愛いオコジョだよー。ジルはオオカミだけど、まあワンちゃんで間違ってないよー。
愛想よくすると干し肉を貰えると知ったジルは、いろんな人に人懐っこく尻尾を振って愛想を振りまくようになったので、もはや厳ついオオカミのイメージはない。でもさすがに大型犬の大きさのジルに寄ってくる人はいないので、少し離れたところから手を振るくらいだ。
オレたちに興味を示す子どもたちに向けて尻尾を振っているうちに、保存食の買い物を終えたキュリアンたちが出てきた。
「この後どうする?」
「俺、屋台でなんか食いたいんだけど」
「たしかに。串焼きとか食べたくなるよな」
うんうんってみんな頷いてるけど、ご主人だけそうか?って顔してる。だよね、ご主人にとってはお屋敷の食事が普通だもんね。
今日のお昼は外で食べてきますって言ってあるんだけど、食堂に入るんじゃなくて、屋台で好きな物を買って食べることに決まった。肉にかぶりつくぞー、とキュリアンが宣言している。お屋敷でマナーよく食べるのは、ちょっとストレスだったみたい。
目についた屋台で注文しては、その場で行儀悪くかぶりつき、大声で感想を言い合って、冒険者ってこうだよねって感じ。
オレとジルは、切れ端の肉とか半端になったものをたくさんもらって大満足だ。
みんな可愛いもふもふを見ると貢ぎたくなるらしい。えっへん。
「やっぱりお屋敷の食事のほうが旨いな」
「比べんな。フレッドは冒険者になるまで屋台で食べたことなかったらしいぞ」
「マジかよ。買い食いとかしないのか?」
「俺はしたことがない」
「あれか、食べたいって言ったらメイドさんが買ってきてくれるのか」
「いや、料理人が作ってくれる」
ちゃんとした食材じゃないとお坊ちゃまの口には入れられないのか。さすが大貴族。屋台の味をシェフが作るってなんかすごいな。
「おい、キース、お前ほんとに養っていけんのかよ」
「無理に決まってんだろ。そんな生活できるかよ。フレッドは冒険者だ」
「だな。まあ二人とも頑張れよ」
肩をバシバシ叩いてくるキュリアンにキースが苦笑している。
ご主人、金銭感覚はおかしいけど、庶民の生活でも多分文句はないんだよね。食事も冒険者用の不味い保存食でも特に不満もないみたいだし、宿の狭さも気にならないみたいだし。ただあんまり清潔じゃないのだけは嫌そうだ。まあそれはご主人よりもオレが許せないけどね。
あれ、もしかしてご主人の実家からの援助がなくなって困るのって、オレだけじゃない?美味しいご飯も、清潔な宿も、石鹸もお風呂もなくなっちゃったら、キリくん生きていけない。
冬にミリアルに帰ったら、いつもありがとうと、これからもよろしくを、しっかりアピールしておかなくちゃ。
「ルフェラ様、ありがとうございました」
「こちらこそ。旦那様をよろしくね。冬にはミリアルに帰る前に、一度こちらに寄ってね」
魔の森に向けて出発だ。旦那様こと伯爵は、ジルと一緒に馬車に乗ってご満悦である。
今回ロビンバルは護衛の任務を受けていないので、伯爵の同行者として馬車に乗っている。ジルも2人分のスペースをとって同行者にカウントされている。伯爵はジルと一緒に乗りたい。冒険者は気を遣うので、伯爵と一緒に乗りたくない。
その結果、伯爵とジルと、ご主人とオレが1つの馬車に乗っている。まあそうなるよな。
ジルは伯爵の足元でくつろいでいるよ。王都に近いこの辺りではジルが馬車の横を走ると混乱を招きそうなので、こうして馬車に乗っているんだ。
ジルは伯爵を美味しい肉をくれる人として認識しているので、リュードに伯爵と一緒に馬車に乗るんだよと言われて、肉がもらえると喜んで乗り込んでいた。すぐ後ろの馬車に乗っているリュードの声がジルの耳には聞こえているから、別々の馬車でも安心っていうのもあるんだろう。
「フレデリク、冒険者生活で困っていることはないか?」
「ありません。皆に助けてもらっています」
「前回ルフェラから話を聞いて、この国で活動する冒険者を紹介しようと思っていたんだが、一足遅くすでに辺境に移動した後だった。だがよい仲間を見つけたようでよかった」
「お気遣いありがとうございます」
「いや、こちらこそキリくんのおかげで、家の重要度が上がった。おかげで子どもたちにたくさんの縁談が来ている」
縁談も伯爵が王都から逃げ出す理由の1つっぽい。王都にいると押しかけられちゃうから、離れてじっくり考えるんだろう。
ご主人が婚約についていい思い出がないのは伯爵も分かっていて、せっかく選べる立場になったのだから、子どもたちのためにいい相手を選ぶと伯爵が約束している。
ご主人の場合、次男だし、パーティーで積極的に話しかけたりしないけど、そのうち好きな人が出来るかもしれないし、相手はのんびり探せばいいよねって、お父さんたちが過保護を発動した結果、運悪く公爵家につけ入られちゃったっぽいんだよね。あのでっぷり、今思い出しても噛みついておけばよかったと後悔する。
「……いろいろありましたが、こうしてキリにも会えましたし、仲間も出来ました」
「キリくんを見つけた時も一緒だったそうだな」
あ、ご主人がキースのことを言われて赤くなってる。
「ハルキス殿から聞いた。まだ小さいが私にも息子がいるから、侯爵の無念も心配も、すんなり応援できない気持ちも分かる」
「分かっています。父が別れろと言うなら、従います」
「彼が道を外さない限り、そんなことは仰らないだろう。フレデリク、言葉を惜しんではいけないよ。キリくんによって君の周りは大きく影響を受けた。何を考えているのか、ちゃんと話し合うようにしなさい」
ご主人にとっては馴染みのある元居た世界だけど、キースたちにとっては馴染みのない貴族の世界だもんね。ミリアルで多少は関わったけど、謁見も貴族の屋敷への滞在も初めてのことだ。ただでさえご主人に自分が釣り合わないんじゃないかって気にしてたから、ちゃんと話しておかないと、すれ違っちゃうもんね。
でもご主人、そんなこと考えてたんだ。お父さんはなんだかんだとご主人の幸せを優先させる気がするけど、確かにキースが外道になったら引き離すだろうなあ。
その日の夜、宿の部屋でご主人が改まって切り出した話を、キースは一蹴した。
「フレデリク、俺はお前から離れるつもりはない」
「私もない。けれど、もし父上がそう判断されたら、私は従う。すまない」
「分かってる。それでもお前の心は俺の物だろう」
「ああ」
「だったらいい。悩むな。侯爵様はお前が苦しむような判断はされないさ」
キースがご主人を安心させるように、そっと抱きしめた。
生まれも育ちも違うけど、これから一緒に生きていくことは出来るだろうって。
大丈夫。そんな未来は来ないよ。
ご主人を泣かせるヤツはこのキリ様が許さないからね。あ、夜は別ね。
でもキースがもし心変わりしたりしたら、お父さんと一緒に徹底的に追い詰めてやるから、覚悟しとけよ。
王宮では事件もあったけど、ご主人とキースの仲が深まると言う意味では有意義な王都訪問だったな。
冬にはお父さんとの対決第2弾も待ってるし、それまでに辺境でさらに仲を深めておかないとね。
キースの好きなことしていい券が1枚まだ使われてないままだから、いつ何をするのかも楽しみだよ。うひひ。
35
お気に入りに追加
978
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
神獣の僕、ついに人化できることがバレました。
猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです!
片思いの皇子に人化できるとバレました!
突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。
好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています!
本編二話完結。以降番外編。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる