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ガリア王国王宮編

10. 魔の森に戻ろう

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 ハーネスも出来たので、魔の森に出発する前に買い物もしたいし、今日は街中をぷらぷらする。
 ジルの背中に乗って、リードを繋いで、さあお出かけだ。
 最初の目的地は冒険者ギルド。迷惑をこうむった貴族からたくさん入金されているはずのお金を確認しないとだからね。

 オレたちが入ると、冒険者がざわついた。「あれってもしかして」「噂のイタチか」って声が聞こえる。
 えっへん、慈悲深いオコジョのキリ様ですよ。

「へえ、あれが治癒魔法が使えるイタチか。治癒してくれるかな?」
「姫より優秀らしいけど、料金吹っ掛けられるんじゃないか?」
「やめとけ。アイツに関わって貴族の家が潰されたらしいぜ」
「まじかよ、怖えな。触らぬナントカにってやつだな」

 いやいや待って、キリくん怖くないよ。慈悲深いよ。そんな祟り神みたいな扱いされたら傷付いちゃう。
 なんかみんな微妙にオレから距離とってない?
 ジルも辺境だと誰かしら寄ってきて干し肉くれるのに、誰もくれないと不思議がっている。オレたちこんなに可愛いのに、酷いなあ。

「確認したぞ。買い足しが必要そうなものは保存食か」
「金が入ったから、俺たちのテントを新しくしてもいいんじゃないか?」
「キース、お前らが使ってるやつ、よさそうだが、どこで買ったんだ?」
「あれはフレッドの物だ」

 キュリアンたちがあーって顔してる。
 お父さん過保護だから、ご主人が冒険者になる時に装備一式を揃えたんだろうなあ。もしかしたら特注かもね。

「冬にミリアルに行ったときに受け取れるように言っておく」
「いやいや、貴族の使うものとか、高すぎて払えないからな」
「大丈夫だ。俺のもマークを入れて新しくすると言っていたから、全員分頼んでおく。ジルを巻き込んでしまった詫びだ」

 出たよ、お坊ちゃまの浮世離れ発言。
 まだまだ使えるのに、キリくんのマーク入れるために新調するってさすがだね。ご主人が貴族を続けていて必要になったはずのお金に比べれば安いのかもしれないけど。

「おいキース、いいのか?」
「いいんじゃないか?ダメなら断られるだろ」
「いや、そういうもんか?」
「その程度、はした金なんだろう。冒険者ごときが養っていけるのかって言われたしな」
「お前……、大変なんだな。頑張れよ」

 なんでかキースが同情される流れになってる。
 金銭感覚の違いは如何ともしがたいよねえ。ご主人別に贅沢三昧じゃないけど、そもそも相場が分かってないからね。
 オレは、ちゃんとオレが治癒で稼いだ金で、お菓子もお風呂も払ってるよ。オレが金の管理してるわけじゃないけど、稼いだ分より多くは要求してないはずだ。多分。ちょっと自信ないけど。

 保存食を買いに、冒険者行きつけの店に移動してきたけど、ここは食べ物を扱っているから、ジルが入れない。オレはご主人のバッグに隠れちゃえば入れるんだけど、オレの食べる保存食はお母さんが用意してエマさんが持って来てくれたから、入らなくても問題ない。ってことで、ジルと一緒に、ご主人とリュードと外で待っている。

「おかあさん、ワンちゃんとネコちゃんがいる!」

 オレたち注目の的だよ。ダブルもふもふはやっぱり目を引くよね。
 カワイ子ちゃん、オレは可愛いオコジョだよー。ジルはオオカミだけど、まあワンちゃんで間違ってないよー。
 愛想よくすると干し肉を貰えると知ったジルは、いろんな人に人懐っこく尻尾を振って愛想を振りまくようになったので、もはや厳ついオオカミのイメージはない。でもさすがに大型犬の大きさのジルに寄ってくる人はいないので、少し離れたところから手を振るくらいだ。

 オレたちに興味を示す子どもたちに向けて尻尾を振っているうちに、保存食の買い物を終えたキュリアンたちが出てきた。

「この後どうする?」
「俺、屋台でなんか食いたいんだけど」
「たしかに。串焼きとか食べたくなるよな」

 うんうんってみんな頷いてるけど、ご主人だけそうか?って顔してる。だよね、ご主人にとってはお屋敷の食事が普通だもんね。
 今日のお昼は外で食べてきますって言ってあるんだけど、食堂に入るんじゃなくて、屋台で好きな物を買って食べることに決まった。肉にかぶりつくぞー、とキュリアンが宣言している。お屋敷でマナーよく食べるのは、ちょっとストレスだったみたい。
 目についた屋台で注文しては、その場で行儀悪くかぶりつき、大声で感想を言い合って、冒険者ってこうだよねって感じ。
 オレとジルは、切れ端の肉とか半端になったものをたくさんもらって大満足だ。
 みんな可愛いもふもふを見ると貢ぎたくなるらしい。えっへん。

「やっぱりお屋敷の食事のほうが旨いな」
「比べんな。フレッドは冒険者になるまで屋台で食べたことなかったらしいぞ」
「マジかよ。買い食いとかしないのか?」
「俺はしたことがない」
「あれか、食べたいって言ったらメイドさんが買ってきてくれるのか」
「いや、料理人が作ってくれる」

 ちゃんとした食材じゃないとお坊ちゃまの口には入れられないのか。さすが大貴族。屋台の味をシェフが作るってなんかすごいな。

「おい、キース、お前ほんとに養っていけんのかよ」
「無理に決まってんだろ。そんな生活できるかよ。フレッドは冒険者だ」
「だな。まあ二人とも頑張れよ」

 肩をバシバシ叩いてくるキュリアンにキースが苦笑している。
 ご主人、金銭感覚はおかしいけど、庶民の生活でも多分文句はないんだよね。食事も冒険者用の不味い保存食でも特に不満もないみたいだし、宿の狭さも気にならないみたいだし。ただあんまり清潔じゃないのだけは嫌そうだ。まあそれはご主人よりもオレが許せないけどね。

 あれ、もしかしてご主人の実家からの援助がなくなって困るのって、オレだけじゃない?美味しいご飯も、清潔な宿も、石鹸もお風呂もなくなっちゃったら、キリくん生きていけない。
 冬にミリアルに帰ったら、いつもありがとうと、これからもよろしくを、しっかりアピールしておかなくちゃ。


「ルフェラ様、ありがとうございました」
「こちらこそ。旦那様をよろしくね。冬にはミリアルに帰る前に、一度こちらに寄ってね」

 魔の森に向けて出発だ。旦那様こと伯爵は、ジルと一緒に馬車に乗ってご満悦である。

 今回ロビンバルは護衛の任務を受けていないので、伯爵の同行者として馬車に乗っている。ジルも2人分のスペースをとって同行者にカウントされている。伯爵はジルと一緒に乗りたい。冒険者は気を遣うので、伯爵と一緒に乗りたくない。
 その結果、伯爵とジルと、ご主人とオレが1つの馬車に乗っている。まあそうなるよな。

 ジルは伯爵の足元でくつろいでいるよ。王都に近いこの辺りではジルが馬車の横を走ると混乱を招きそうなので、こうして馬車に乗っているんだ。
 ジルは伯爵を美味しい肉をくれる人として認識しているので、リュードに伯爵と一緒に馬車に乗るんだよと言われて、肉がもらえると喜んで乗り込んでいた。すぐ後ろの馬車に乗っているリュードの声がジルの耳には聞こえているから、別々の馬車でも安心っていうのもあるんだろう。

「フレデリク、冒険者生活で困っていることはないか?」
「ありません。皆に助けてもらっています」
「前回ルフェラから話を聞いて、この国で活動する冒険者を紹介しようと思っていたんだが、一足遅くすでに辺境に移動した後だった。だがよい仲間を見つけたようでよかった」
「お気遣いありがとうございます」
「いや、こちらこそキリくんのおかげで、家の重要度が上がった。おかげで子どもたちにたくさんの縁談が来ている」

 縁談も伯爵が王都から逃げ出す理由の1つっぽい。王都にいると押しかけられちゃうから、離れてじっくり考えるんだろう。
 ご主人が婚約についていい思い出がないのは伯爵も分かっていて、せっかく選べる立場になったのだから、子どもたちのためにいい相手を選ぶと伯爵が約束している。
 ご主人の場合、次男だし、パーティーで積極的に話しかけたりしないけど、そのうち好きな人が出来るかもしれないし、相手はのんびり探せばいいよねって、お父さんたちが過保護を発動した結果、運悪く公爵家につけ入られちゃったっぽいんだよね。あのでっぷり、今思い出しても噛みついておけばよかったと後悔する。

「……いろいろありましたが、こうしてキリにも会えましたし、仲間も出来ました」
「キリくんを見つけた時も一緒だったそうだな」

 あ、ご主人がキースのことを言われて赤くなってる。

「ハルキス殿から聞いた。まだ小さいが私にも息子がいるから、侯爵の無念も心配も、すんなり応援できない気持ちも分かる」
「分かっています。父が別れろと言うなら、従います」
「彼が道を外さない限り、そんなことは仰らないだろう。フレデリク、言葉を惜しんではいけないよ。キリくんによって君の周りは大きく影響を受けた。何を考えているのか、ちゃんと話し合うようにしなさい」

 ご主人にとっては馴染みのある元居た世界だけど、キースたちにとっては馴染みのない貴族の世界だもんね。ミリアルで多少は関わったけど、謁見も貴族の屋敷への滞在も初めてのことだ。ただでさえご主人に自分が釣り合わないんじゃないかって気にしてたから、ちゃんと話しておかないと、すれ違っちゃうもんね。

 でもご主人、そんなこと考えてたんだ。お父さんはなんだかんだとご主人の幸せを優先させる気がするけど、確かにキースが外道になったら引き離すだろうなあ。


 その日の夜、宿の部屋でご主人が改まって切り出した話を、キースは一蹴した。

「フレデリク、俺はお前から離れるつもりはない」
「私もない。けれど、もし父上がそう判断されたら、私は従う。すまない」
「分かってる。それでもお前の心は俺の物だろう」
「ああ」
「だったらいい。悩むな。侯爵様はお前が苦しむような判断はされないさ」

 キースがご主人を安心させるように、そっと抱きしめた。
 生まれも育ちも違うけど、これから一緒に生きていくことは出来るだろうって。

 大丈夫。そんな未来は来ないよ。
 ご主人を泣かせるヤツはこのキリ様が許さないからね。あ、夜は別ね。
 でもキースがもし心変わりしたりしたら、お父さんと一緒に徹底的に追い詰めてやるから、覚悟しとけよ。


 王宮では事件もあったけど、ご主人とキースの仲が深まると言う意味では有意義な王都訪問だったな。
 冬にはお父さんとの対決第2弾も待ってるし、それまでに辺境でさらに仲を深めておかないとね。
 キースの好きなことしていい券が1枚まだ使われてないままだから、いつ何をするのかも楽しみだよ。うひひ。
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