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世界を越えてもその手は 7章 この世界でやりたいこと
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◆コサリマヤの教会(3. ドガイへ向けて出発)
「カリラスさん、アレックスさんに会う前に、今回の旅で知り得たことを漏らさないという契約を交わしてください」
「? 構いませんが、あいつ、なんかヤバいことに巻き込まれてるんですか?」
「いえ、貴方が巻き込まれます。やめておきますか?」
「あいつが俺を巻き込んでいいと思っているなら、巻き込まれますよ」
「分かりました。では契約を」
「さて、ヤバいことの内容ですが、アレックスさんが連れていた白い子犬を覚えていますか?」
「はい。従魔は白いウルフって聞いていましたけど、あれは子どもですか?ペットって言ってましたし」
「いえ、神獣です」
「へえ、神獣なんですね。……え?神獣?!あの子犬がですか?!」
「ブラン様は神獣マーナガルムです。あの子犬はお姿は変えているだけです」
「は?!ペットって、はあ?!」
「あの時ブラン様が怒ってアレックスさんを噛んでいたでしょう」
「いや、あれって、え?、それって、噛むくらいで許されるものなんですか」
「許されないでしょうねえ。アレックスさんだからあの程度で許されたんでしょう。私もまだ聞いたことがありませんが、ブラン様は人の言葉もお話になるらしいですよ」
「おれもう帰りたい……」
◆コサリマヤの領主の館(3. ドガイへ向けて出発)
「団長、氷花の印象はどうですか」
「剣士は普通の冒険者、テイマーは礼儀正しい青年という印象です。テイマーは隙だらけですが、剣士と従魔は全く隙がありませんでした。教会の中へは我々は入れませんでした」
「そうですか。予想以上に教会のガードが堅いですね」
「出発まで教会から外出の予定はないそうです。中の様子は分かりません」
「個人的な付き合いは一切許さないということですね」
◆コサリマヤの教会(4. 出張屋台が来た)
「教会裏の車止めに、屋台が来る。氷花の二人が買い物をするので、我々は車止めの周りを警護する」
「行ったら騒動になるのは分かるが、屋台を呼ぶってすごいな」
「ここのチーズ買うのが今回の訪問の目的の1つらしいぞ」
「片っ端から収納してる」
「時間停止だと次に出した時も出来立てなのか」
「あの従魔、めちゃくちゃ食べてないか?」
「ギルドであの従魔に絶対手を出すなってお達しが出てるらしい」
「あふれたダンジョンから帰って来たって本当なのか?」
「さあな。ただの食い意地の張ったウルフにしか見えないけどな」
「こっち見た?!」
「まさかこの距離で聞こえてるのか……」
◆コサリマヤの孤児院と教会(4. 出張屋台が来た)
「シスター、いいにおいがするけど今日はおまつりですか?」
「「「いきたい!」」」
「いいえ、今日は何もないはずです。みなさん、ちゃんと書き取りの練習をしてください」
「シスター、ぼく、おなかがすいてむり」
「わたしも!」
「では、ちょっと見てきますので、皆さん、書き取りの練習を続けるように」(これは勉強になりませんね)
「すみません、今日は教会で何かあるのですか?食べ物の匂いがして、子どもたちが勉強にならなくて」
「何もないはずですが、見てきましょう。貴方は教室に戻ってください」
「はい。よろしくお願いします」
「子どもたちが教室にいません!おそらく教会に向かったんだと思います」
「追いかけましょう」
「あれ?子どもたちが見てる」
「ああ、となりの孤児院の子どもたちですね。今は勉強の時間のはずですが」
「しきょうさまー、おまつり?」
「いいにおい。たべたい!」
「しろいイヌ、かっこいい!」
「お祭りではありませんが、シスターはどうしました?」
「おまつりかどうかきいてくるって、いなくなった」
「みなさん、シスターの言いつけを守りませんでしたね」
「司教様、申し訳ございません!目を離したすきに子どもたちが匂いにつられてしまって」
「あの、お勉強の邪魔してごめんなさい。よかったら、あ、でもご飯の前だからダメかな?」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。みな、好きな物を1つだけ選びなさい。あの白い大きなオオカミには近づいては行けませんよ。守れますか?」
「「「「はーい!」」」」
「返事だけはいいんですが、多分突撃しますので、ブラン様申し訳ございませんが、一度教会の中へお入りください」
『(構わん)』
「構わないそうですよ。ブラン、子どもには優しいから」
「おにいさん、このイヌ、おにいさんの?」
「オオカミだけど、僕の従魔だよ」
「なでてもいい?」
「いいけどそっとね」
「わあ、さらさらだあ」
(((ブラン様、私たちも是非撫でたいんですが!子どもが羨ましい!!)))
「わんわん、きゃあっ、わん」
「こら、叩いてはいけません!申し訳ございません!」(ブラン様になんてことを!!)
『(道理も分からぬ子どもだ。気にするな)』
「ちっちゃい子だから気にしなくていいって言ってますので。わんわんも叩かれたら痛いから、優しくしてね」
「あいっ!」
(((わんわん。ユウさん、まさかのブラン様をイヌ扱い……)))
「私も撫でたい!」「僕も!」「ワンコかわいい!」
「みんな、優しくね。お耳は引っ張らないでね。尻尾は、まあいっか」
「いやダメだろう。こら、お前ら、尻尾を引っ張るな。お前たちも髪の毛引っ張られたら痛いだろう」
(((あああ、あの子どもの中に入りたい!)))
◆タゴヤへ移動中の馬車(4. 出張屋台が来た)
「神獣は、ブラン様のほかにもいらっしゃるのでしょうか」
「!」
『許さんぞ』
「まだ何も言ってないよ」
『ネコ科は許さん』
「もふもふなら何でもいいよ」
「ユウ、司教様の質問を遮るな」
「ごめんなさい。それで他にもいるの?」
『……いる』
「どんな動物(もごもご)」(アルに口を塞がれる)
「司教様、話を続けてください」
◆ドガイ王宮(5. アルが叶えた夢)
「ブラン様が、ブラン様が……私の足元にっ!!」
「大司教様、お気を確かにっ」
「この衣装は教会の至宝として飾っておきましょう!!」
「そうですね、そうしましょう」
(ブラン、抜け毛あげたら?)
(断る。ユウは自分の髪の毛が飾られてもいいのか?)
(嫌だね。それゴミだからって思っちゃう)
◆ドガイ王宮(5. アルが叶えた夢)
「氷花のおふたりの中央教会までの護衛、完了いたしました」
「騎士団長、アイテムボックス持ちはどうだった」
「はい。礼儀正しく、貴族の子息のような雰囲気です。冒険者としては見習いレベルだと思います」
「教会はなぜあそこまで氷花を守る」
「分かりません。教会の中へは立ち入れず、馬車の会話も聞こえませんでした。タサマラの司教様、タガミハの司祭様とは特別に仲が良いようです。成人したての時に教会の世話になったというのは事実でしょう」
「個人的にアイテムボックス持ちと接触できるか?」
「無理です。本人に警戒心はありませんが、剣士と従魔の警戒が強く近寄れません」
「剣士と従魔を引き離せないのか」
「それも無理です。従魔はそばを全く離れません」
「従魔は強いのか」
「分かりません。分からないということがおそらく強い証拠かと思います。大きさは自在に変えられるようです。コサリマヤに現れた時は2人が騎乗していましたが、中央教会に着いた時はなぜか子犬になっていました」
「そうか。カルデバラ内で接触できるか?」
「やめた方がいいと思います。ダンジョン内では殺されてもダンジョンに吸収されますので証拠が残りません」
「分かった。ご苦労だった」
「よお、第二の、どうだった」
「第一の、あれは手を出してはいけない」
「そうなのか?」
「上級ダンジョンのあふれから生還しているのに、従魔が普通のシルバーウルフにしか見えない」
「本当に普通のシルバーウルフってことは?」
「最初に会ったときは2人騎乗できる大きさで、中央教会に着いた時は子犬だった」
「なんだそれ」
「大きさが変えられる従魔など聞いたことがない。変異種というが本当にシルバーウルフなのか怪しいぞ」
「第三がカルデバラで接触する気だろう」
「やめたほうがいいと進言したが、聞いてはもらえないだろうな」
◆ドガイ王宮(7. 薬神の贈り物)
「氷花が無事にダンジョンを攻略して戻りました」
「そうか!それでエリクサーは?」
「教会から陛下に献上すると言われて、渡してもらえませんでした」
「なんだと!」
「ダンジョン内で第三騎士団に襲われたそうで、それを聞いた司祭が、ドロップ品が届けられるか不安があると。Sランクのマグノリアも、国の依頼を受けたら殺されそうになったと他の冒険者に聞こえるように言っていました」
「……第三騎士団のものたちはどうした」
「ダンジョンから出て来ていません。彼らは足元を凍らせて足止めしてボス部屋に逃げ込んだと言っていました」
「そうか。分かった。ご苦労だった」
「第二の、どうだった」
「待ち伏せか?部屋へ」
「俺の執務室でいいか」
「ああ」
「で、何があった」
「第三に襲われて足元を凍らせて足止めしてボス部屋に逃げ込んだと。信用ならないからドロップ品は教会から陛下に献上すると司祭に牽制された」
「あいつらは阿呆か。なんで名乗ってんだよ。やるなら匿名でやれよ。面汚しが。アイテムボックス持ちは怒っていたか?」
「おそらく気にしていない。そういえばそんなことあったな、という顔をしていた」
「そんなんで大丈夫なのか?」
「隙だらけで表情もコロコロ変わるが、剣士と従魔のガードが堅いから大丈夫なんだろう。まさか教会が喧嘩を売るとは思っていなかったが」
「正確には何て言ったんだ」
「ダンジョン内で襲われたとあっては、ドロップ品が確かに届けられるか不安だと。Sランクのマグノリアも、国の依頼を受けて騎士団に殺されそうになるとは、と冒険者に聞こえるように言ったから、騎士団への批判は免れないだろう」
「これ、近衛に伝えていいか?」
「ああ、あの団長が正しく伝えると思えないしな」
「教会とモクリークから猛抗議が来るだろうな。戦って勝てる相手か見てから仕掛ければいいものを」
◆ドガイの宿(7. 薬神の贈り物)
「アレックスの実力も、あの従魔の実力も、全く見れないまま終わったな」
「あのダンジョン、たしかにアイテムボックスないと厳しいな。逆に言えば、アイテムボックスさえあれば湿原以外は楽勝すぎるだろ」
「あれはたしかに狙われるな。アレックスもただカリラスに会いに帰って来ようと思っても、これだけ大騒動になるのは大変だな」
「でもなんで教会はあんなにアレックスを守ってるんだ?」
「謎だよな。でもあの感じ、下手に探ると俺たち消されそうじゃないか?」
「だろうな。あんなにはっきりと国に喧嘩売るなんて、俺たちなんかさくっと消されて終わりだろう」
「しっかしテイマーはなんであれで戦おうと思うのかね」
「めっちゃ腰引けてたよな。従魔が守ってくれるんだから、本人戦闘しなくていいだろうに」
「ナメクジムリ―って叫んでたけど、足遅いし、攻撃飛んでこないし、あれが無理ならどんなモンスターも無理だろう」
「むしろアレックスはよくあれに戦わせようと思ったよな」
「ボスを倒したっていう実績を作ってやりたかったんだろう」
「たしかに上級ダンジョンのフロアボスを倒したな。あれを倒したと言っていいならな」
「本人も自分が戦闘に向いてないって自覚してるみたいだし、無理はしないだろう」
「アレックスが溺愛してるしな。まあでも、スキルなくても、守ってやりたくなる感じだよな」
「舟に乗るのも危なっかしかったしなあ。あの浅瀬でも落ちたら溺れるんじゃないかって思わせるって、ある意味才能だろう」
◆ドガイの中央教会(7. 薬神の贈り物)
「広くて、水を流してもいいところを借りたいんですが」
「何をなさるんですか?」
「モクリークに船を借りてきたんですけど、薬箱ダンジョンの海は船を腐食させちゃうらしいので、返す前に洗いたくて」
「ではこちらへどうぞ。ここなら植物もないですから」
「ブラン、船にたくさん水かけて」
『これでいいか?』
「うん。ありがとう。風で乾かして」
『やったぞ』
「ありがとう。洗えました。ありがとうございます」
(ブラン様を掃除道具のように扱うとはユウさんさすがです……)
◆ドガイ王宮(7. 薬神の贈り物)
「氷花とマグノリアが攻略しましたカルデバラのドロップ品をお持ちしました。陛下、どうぞご確認ください」
「大司教、わざわざそなたが来るとはな」
「彼らは我々のお客様ですので」
「なぜそこまで彼らをもてなす?」
「神の御心に従っているまでです」
「そうか、マグノリアだったか、カルデバラはどうだった。また攻略できそうか」
「はい。我々だけで攻略は無理です」
「最下層の海はどうやって渡った?」
「氷花がモクリークから船を借りて来ていました」
「その船は持ち帰ったのか」
「はい。モクリークに返すそうです」
「そうか。ご苦労だった」
「陛下、氷花のおふたりが、ダンジョン内で騎士団に襲われたことはご存じですか?」
「聞いている。行き違いがあったようだ」
「行き違いですか。行き違いで、ここにいる彼も殺されそうになったとおっしゃるのですか」
「大司教様、お言葉が過ぎますぞ」
「第三騎士団は、ユウさんを手に入れるためには残りは殺していいと言ったそうですが、それはエリクサーを手に入れて私腹を肥やそうとした彼の独断ですよね?」
「私たちは氷花との協力関係を結ぶために護衛も出しているのです」
「そうですか。アレックスさんに孤児院出身なんだから協力しろと言ったそうですが、孤児院を管轄する我々としては聞き逃せない発言です。孤児院出身者は騎士団に命令されなければならないのでしょうか」
「そのようなことはない」
「それを聞いて安心しました。ユウさんから、便宜を図っていただきありがとうございました、と伝言を受けています。このようなことがなければまた来ていただけたかもしれないのに残念です。では失礼いたします」
「宰相、殺されそうになったという話は初めて聞いたぞ」
「私もです」
「恐れながら陛下」
「なんだ、近衛団長」
「地上で彼らを護衛した第二騎士団団長からお話を聞かれるべきかと」
「何か知っているのか」
「私は情報を少し耳に入れただけです」
「第二騎士団団長を呼べ。対応をあやまれば、教会を怒らせただけでなく、モクリークから輸出が止められるぞ」
「カリラスさん、アレックスさんに会う前に、今回の旅で知り得たことを漏らさないという契約を交わしてください」
「? 構いませんが、あいつ、なんかヤバいことに巻き込まれてるんですか?」
「いえ、貴方が巻き込まれます。やめておきますか?」
「あいつが俺を巻き込んでいいと思っているなら、巻き込まれますよ」
「分かりました。では契約を」
「さて、ヤバいことの内容ですが、アレックスさんが連れていた白い子犬を覚えていますか?」
「はい。従魔は白いウルフって聞いていましたけど、あれは子どもですか?ペットって言ってましたし」
「いえ、神獣です」
「へえ、神獣なんですね。……え?神獣?!あの子犬がですか?!」
「ブラン様は神獣マーナガルムです。あの子犬はお姿は変えているだけです」
「は?!ペットって、はあ?!」
「あの時ブラン様が怒ってアレックスさんを噛んでいたでしょう」
「いや、あれって、え?、それって、噛むくらいで許されるものなんですか」
「許されないでしょうねえ。アレックスさんだからあの程度で許されたんでしょう。私もまだ聞いたことがありませんが、ブラン様は人の言葉もお話になるらしいですよ」
「おれもう帰りたい……」
◆コサリマヤの領主の館(3. ドガイへ向けて出発)
「団長、氷花の印象はどうですか」
「剣士は普通の冒険者、テイマーは礼儀正しい青年という印象です。テイマーは隙だらけですが、剣士と従魔は全く隙がありませんでした。教会の中へは我々は入れませんでした」
「そうですか。予想以上に教会のガードが堅いですね」
「出発まで教会から外出の予定はないそうです。中の様子は分かりません」
「個人的な付き合いは一切許さないということですね」
◆コサリマヤの教会(4. 出張屋台が来た)
「教会裏の車止めに、屋台が来る。氷花の二人が買い物をするので、我々は車止めの周りを警護する」
「行ったら騒動になるのは分かるが、屋台を呼ぶってすごいな」
「ここのチーズ買うのが今回の訪問の目的の1つらしいぞ」
「片っ端から収納してる」
「時間停止だと次に出した時も出来立てなのか」
「あの従魔、めちゃくちゃ食べてないか?」
「ギルドであの従魔に絶対手を出すなってお達しが出てるらしい」
「あふれたダンジョンから帰って来たって本当なのか?」
「さあな。ただの食い意地の張ったウルフにしか見えないけどな」
「こっち見た?!」
「まさかこの距離で聞こえてるのか……」
◆コサリマヤの孤児院と教会(4. 出張屋台が来た)
「シスター、いいにおいがするけど今日はおまつりですか?」
「「「いきたい!」」」
「いいえ、今日は何もないはずです。みなさん、ちゃんと書き取りの練習をしてください」
「シスター、ぼく、おなかがすいてむり」
「わたしも!」
「では、ちょっと見てきますので、皆さん、書き取りの練習を続けるように」(これは勉強になりませんね)
「すみません、今日は教会で何かあるのですか?食べ物の匂いがして、子どもたちが勉強にならなくて」
「何もないはずですが、見てきましょう。貴方は教室に戻ってください」
「はい。よろしくお願いします」
「子どもたちが教室にいません!おそらく教会に向かったんだと思います」
「追いかけましょう」
「あれ?子どもたちが見てる」
「ああ、となりの孤児院の子どもたちですね。今は勉強の時間のはずですが」
「しきょうさまー、おまつり?」
「いいにおい。たべたい!」
「しろいイヌ、かっこいい!」
「お祭りではありませんが、シスターはどうしました?」
「おまつりかどうかきいてくるって、いなくなった」
「みなさん、シスターの言いつけを守りませんでしたね」
「司教様、申し訳ございません!目を離したすきに子どもたちが匂いにつられてしまって」
「あの、お勉強の邪魔してごめんなさい。よかったら、あ、でもご飯の前だからダメかな?」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。みな、好きな物を1つだけ選びなさい。あの白い大きなオオカミには近づいては行けませんよ。守れますか?」
「「「「はーい!」」」」
「返事だけはいいんですが、多分突撃しますので、ブラン様申し訳ございませんが、一度教会の中へお入りください」
『(構わん)』
「構わないそうですよ。ブラン、子どもには優しいから」
「おにいさん、このイヌ、おにいさんの?」
「オオカミだけど、僕の従魔だよ」
「なでてもいい?」
「いいけどそっとね」
「わあ、さらさらだあ」
(((ブラン様、私たちも是非撫でたいんですが!子どもが羨ましい!!)))
「わんわん、きゃあっ、わん」
「こら、叩いてはいけません!申し訳ございません!」(ブラン様になんてことを!!)
『(道理も分からぬ子どもだ。気にするな)』
「ちっちゃい子だから気にしなくていいって言ってますので。わんわんも叩かれたら痛いから、優しくしてね」
「あいっ!」
(((わんわん。ユウさん、まさかのブラン様をイヌ扱い……)))
「私も撫でたい!」「僕も!」「ワンコかわいい!」
「みんな、優しくね。お耳は引っ張らないでね。尻尾は、まあいっか」
「いやダメだろう。こら、お前ら、尻尾を引っ張るな。お前たちも髪の毛引っ張られたら痛いだろう」
(((あああ、あの子どもの中に入りたい!)))
◆タゴヤへ移動中の馬車(4. 出張屋台が来た)
「神獣は、ブラン様のほかにもいらっしゃるのでしょうか」
「!」
『許さんぞ』
「まだ何も言ってないよ」
『ネコ科は許さん』
「もふもふなら何でもいいよ」
「ユウ、司教様の質問を遮るな」
「ごめんなさい。それで他にもいるの?」
『……いる』
「どんな動物(もごもご)」(アルに口を塞がれる)
「司教様、話を続けてください」
◆ドガイ王宮(5. アルが叶えた夢)
「ブラン様が、ブラン様が……私の足元にっ!!」
「大司教様、お気を確かにっ」
「この衣装は教会の至宝として飾っておきましょう!!」
「そうですね、そうしましょう」
(ブラン、抜け毛あげたら?)
(断る。ユウは自分の髪の毛が飾られてもいいのか?)
(嫌だね。それゴミだからって思っちゃう)
◆ドガイ王宮(5. アルが叶えた夢)
「氷花のおふたりの中央教会までの護衛、完了いたしました」
「騎士団長、アイテムボックス持ちはどうだった」
「はい。礼儀正しく、貴族の子息のような雰囲気です。冒険者としては見習いレベルだと思います」
「教会はなぜあそこまで氷花を守る」
「分かりません。教会の中へは立ち入れず、馬車の会話も聞こえませんでした。タサマラの司教様、タガミハの司祭様とは特別に仲が良いようです。成人したての時に教会の世話になったというのは事実でしょう」
「個人的にアイテムボックス持ちと接触できるか?」
「無理です。本人に警戒心はありませんが、剣士と従魔の警戒が強く近寄れません」
「剣士と従魔を引き離せないのか」
「それも無理です。従魔はそばを全く離れません」
「従魔は強いのか」
「分かりません。分からないということがおそらく強い証拠かと思います。大きさは自在に変えられるようです。コサリマヤに現れた時は2人が騎乗していましたが、中央教会に着いた時はなぜか子犬になっていました」
「そうか。カルデバラ内で接触できるか?」
「やめた方がいいと思います。ダンジョン内では殺されてもダンジョンに吸収されますので証拠が残りません」
「分かった。ご苦労だった」
「よお、第二の、どうだった」
「第一の、あれは手を出してはいけない」
「そうなのか?」
「上級ダンジョンのあふれから生還しているのに、従魔が普通のシルバーウルフにしか見えない」
「本当に普通のシルバーウルフってことは?」
「最初に会ったときは2人騎乗できる大きさで、中央教会に着いた時は子犬だった」
「なんだそれ」
「大きさが変えられる従魔など聞いたことがない。変異種というが本当にシルバーウルフなのか怪しいぞ」
「第三がカルデバラで接触する気だろう」
「やめたほうがいいと進言したが、聞いてはもらえないだろうな」
◆ドガイ王宮(7. 薬神の贈り物)
「氷花が無事にダンジョンを攻略して戻りました」
「そうか!それでエリクサーは?」
「教会から陛下に献上すると言われて、渡してもらえませんでした」
「なんだと!」
「ダンジョン内で第三騎士団に襲われたそうで、それを聞いた司祭が、ドロップ品が届けられるか不安があると。Sランクのマグノリアも、国の依頼を受けたら殺されそうになったと他の冒険者に聞こえるように言っていました」
「……第三騎士団のものたちはどうした」
「ダンジョンから出て来ていません。彼らは足元を凍らせて足止めしてボス部屋に逃げ込んだと言っていました」
「そうか。分かった。ご苦労だった」
「第二の、どうだった」
「待ち伏せか?部屋へ」
「俺の執務室でいいか」
「ああ」
「で、何があった」
「第三に襲われて足元を凍らせて足止めしてボス部屋に逃げ込んだと。信用ならないからドロップ品は教会から陛下に献上すると司祭に牽制された」
「あいつらは阿呆か。なんで名乗ってんだよ。やるなら匿名でやれよ。面汚しが。アイテムボックス持ちは怒っていたか?」
「おそらく気にしていない。そういえばそんなことあったな、という顔をしていた」
「そんなんで大丈夫なのか?」
「隙だらけで表情もコロコロ変わるが、剣士と従魔のガードが堅いから大丈夫なんだろう。まさか教会が喧嘩を売るとは思っていなかったが」
「正確には何て言ったんだ」
「ダンジョン内で襲われたとあっては、ドロップ品が確かに届けられるか不安だと。Sランクのマグノリアも、国の依頼を受けて騎士団に殺されそうになるとは、と冒険者に聞こえるように言ったから、騎士団への批判は免れないだろう」
「これ、近衛に伝えていいか?」
「ああ、あの団長が正しく伝えると思えないしな」
「教会とモクリークから猛抗議が来るだろうな。戦って勝てる相手か見てから仕掛ければいいものを」
◆ドガイの宿(7. 薬神の贈り物)
「アレックスの実力も、あの従魔の実力も、全く見れないまま終わったな」
「あのダンジョン、たしかにアイテムボックスないと厳しいな。逆に言えば、アイテムボックスさえあれば湿原以外は楽勝すぎるだろ」
「あれはたしかに狙われるな。アレックスもただカリラスに会いに帰って来ようと思っても、これだけ大騒動になるのは大変だな」
「でもなんで教会はあんなにアレックスを守ってるんだ?」
「謎だよな。でもあの感じ、下手に探ると俺たち消されそうじゃないか?」
「だろうな。あんなにはっきりと国に喧嘩売るなんて、俺たちなんかさくっと消されて終わりだろう」
「しっかしテイマーはなんであれで戦おうと思うのかね」
「めっちゃ腰引けてたよな。従魔が守ってくれるんだから、本人戦闘しなくていいだろうに」
「ナメクジムリ―って叫んでたけど、足遅いし、攻撃飛んでこないし、あれが無理ならどんなモンスターも無理だろう」
「むしろアレックスはよくあれに戦わせようと思ったよな」
「ボスを倒したっていう実績を作ってやりたかったんだろう」
「たしかに上級ダンジョンのフロアボスを倒したな。あれを倒したと言っていいならな」
「本人も自分が戦闘に向いてないって自覚してるみたいだし、無理はしないだろう」
「アレックスが溺愛してるしな。まあでも、スキルなくても、守ってやりたくなる感じだよな」
「舟に乗るのも危なっかしかったしなあ。あの浅瀬でも落ちたら溺れるんじゃないかって思わせるって、ある意味才能だろう」
◆ドガイの中央教会(7. 薬神の贈り物)
「広くて、水を流してもいいところを借りたいんですが」
「何をなさるんですか?」
「モクリークに船を借りてきたんですけど、薬箱ダンジョンの海は船を腐食させちゃうらしいので、返す前に洗いたくて」
「ではこちらへどうぞ。ここなら植物もないですから」
「ブラン、船にたくさん水かけて」
『これでいいか?』
「うん。ありがとう。風で乾かして」
『やったぞ』
「ありがとう。洗えました。ありがとうございます」
(ブラン様を掃除道具のように扱うとはユウさんさすがです……)
◆ドガイ王宮(7. 薬神の贈り物)
「氷花とマグノリアが攻略しましたカルデバラのドロップ品をお持ちしました。陛下、どうぞご確認ください」
「大司教、わざわざそなたが来るとはな」
「彼らは我々のお客様ですので」
「なぜそこまで彼らをもてなす?」
「神の御心に従っているまでです」
「そうか、マグノリアだったか、カルデバラはどうだった。また攻略できそうか」
「はい。我々だけで攻略は無理です」
「最下層の海はどうやって渡った?」
「氷花がモクリークから船を借りて来ていました」
「その船は持ち帰ったのか」
「はい。モクリークに返すそうです」
「そうか。ご苦労だった」
「陛下、氷花のおふたりが、ダンジョン内で騎士団に襲われたことはご存じですか?」
「聞いている。行き違いがあったようだ」
「行き違いですか。行き違いで、ここにいる彼も殺されそうになったとおっしゃるのですか」
「大司教様、お言葉が過ぎますぞ」
「第三騎士団は、ユウさんを手に入れるためには残りは殺していいと言ったそうですが、それはエリクサーを手に入れて私腹を肥やそうとした彼の独断ですよね?」
「私たちは氷花との協力関係を結ぶために護衛も出しているのです」
「そうですか。アレックスさんに孤児院出身なんだから協力しろと言ったそうですが、孤児院を管轄する我々としては聞き逃せない発言です。孤児院出身者は騎士団に命令されなければならないのでしょうか」
「そのようなことはない」
「それを聞いて安心しました。ユウさんから、便宜を図っていただきありがとうございました、と伝言を受けています。このようなことがなければまた来ていただけたかもしれないのに残念です。では失礼いたします」
「宰相、殺されそうになったという話は初めて聞いたぞ」
「私もです」
「恐れながら陛下」
「なんだ、近衛団長」
「地上で彼らを護衛した第二騎士団団長からお話を聞かれるべきかと」
「何か知っているのか」
「私は情報を少し耳に入れただけです」
「第二騎士団団長を呼べ。対応をあやまれば、教会を怒らせただけでなく、モクリークから輸出が止められるぞ」
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階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
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