緑の檻の向こう側

犬派だんぜん

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5. パーティー登録

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 ようやく、査問会議が開かれる。
 会議では、久しぶりにミダの孤児院の院長とシスターを見た。タサマラの門番の衛兵が来ていて、俺を保護したときの状況を証言していた。
 俺も、査問官が聞き取り内容のまとめを読み上げ「証言に間違いはありませんか?」と確認されたので、「間違いありません」と答える。
 何か言いたいことがあれば自由に発言してよいと言われたので、審問官に伝えた。

 タサマラの街へ行く途中、食べるものがなく畑の野菜を盗んだ。そのとき初めて飢えを知った。食べる物に困らず育ったことには、感謝している。

 ミダの孤児院の今後については、教会の判断に任せる。何か言えるほど、俺が状況を理解できていると思えない。今こうして生きていられるのは、タサマラの人たちが助けてくれたからだ。タサマラの人たちが困るようなことは望まない。


 ミダの孤児院の院長とシスターは処罰されるそうだ。
 ミダの孤児院は別の院長とシスターを派遣し運営されていく。子どもたちの処遇は改善されていくだろう。孤児院出身で農場に住み込みで雇われている大人も、他の人と同じ賃金にするように教会が要請するので、変わっていくだろう。

 こうして思わぬ形でタゴヤの街にくることになった、ミダの孤児院に関する話は終わった。
 明日は、高ランクの冒険者パーティーを紹介してもらえる。
 振り返ってみれば、タゴヤに連れてきてもらい、宿にも食事にも困らず、本も読めたし、パーティーも紹介してもらえる。俺には得しかなかったな。
 サリューが呆れているが、司教様と助祭様は笑っている。

 翌早朝、タサマラを長く空けてしまったため急いで出発する司教様を見送る。

「焦らずに頑張りなさい。困ったときはケネス助祭でも私でもいいので、助けを求めるのですよ」

 司教様の優しい言葉に、立派な冒険者になろうと誓った。


 今俺は、SランクパーティーとBランクパーティーから、面談のようなものを受けるために来ている。
 教会の会議室には、たくさんの冒険者がいたが、隅に小さくなったカリラスを見つけ驚いた。

「アレックス、よかった。冒険者ギルドに行ったら教会に呼び出されてるって言われて、焦ったんだよ。これ何?」
「パーティーの勧誘?私にもちょっと……。カリラスはいつタゴヤに?」
「おととい。あ、スキル鑑定したけど『罠』だった。ちょっと微妙だよな。アレックスは?」
「……」
「スキルなかったのか。まあ半分以上持ってないしな。気を落とすな!」

 答えていいのかわからず迷っていたら、励まされてしまった。
 話が切れたところで、サリューがカリラスに、ケネス助祭様よりパーティーの話があるので来てもらったことを説明し、2つのパーティーを紹介してくれた。
 助祭様の知り合いのパーティーというのがSランクパーティー「マグノリア」で、彼らが「新人2人を預けるのに信用できる、剣と魔法のスキルを持ったパーティー」として紹介したのがBランクパーティー「カレンデュラ」だ。
 カリラスが「助祭?Sランク?なんで??」と混乱しているところに、助祭様が入室し、話し合いが始まった。

 助祭様が俺たち2人を見習いとして預けるパーティーを探しているので来てもらったと告げたところで、Sランクパーティーのリーダーから質問があった。

「今までも新人の預け先の紹介という話はありましたが、このように助祭様立会いのもとというのは初めてです。もし面倒ごとでしたら巻き込まれるのは困ります」

 助祭様相手にはっきり物を言うんだなと驚く。そういうのも冒険者には必要なことなんだろうか。
 助祭様から俺の状況を話してもよいか確認があったので、頷いた。

「面倒事ではありませんが、ここからの話は内密にお願いします。カリラスくんもね」

 そして、助祭様が俺がここに来るまでの経緯を話した。教会の管理する孤児院が査問の対象となり、証言者として教会に協力したこと、そのために、タサマラでの冒険者登録直後にタゴヤまで来たので未だFランクであること、スキル鑑定の結果。

「アレックスくんは『剣』と『火魔法』のスキルを持っています。世情に疎い彼には、殺到する勧誘から自分にあったパーティーを選ぶことはできないと判断し、我々が介入しています。カリラスくんはアレックスくんの友人で、2人でパーティーを組む約束をしています。アレックスくんの見習い期間が終わってから組むか、2人で同じパーティーの見習いとなるかは、2人に任せますが、アレックスくんは必ず見習いとしてパーティーに入ってもらいます」
「世情に疎いというところをもう少し聞きたいのですが。あと我々が介入とおっしゃいましたが、ケネス様以外にも?」
「鋭いですね。タサマラのグザビエ司教です。私は彼のことをグザビエ司教から頼まれています。彼は成人するまで孤児院で朝から晩まで働かされていましたが、人間性に問題はありません。むしろあの環境でよくまっすぐ育ったと思います。これ以上は本人に聞いてください」
「分かりました」

「カリラスくん、勝手に決めてしまって申し訳ないのですが、カリラスくんひとりではアレックスくんの事情とスキルを背負いきれないと判断しました。とても面倒見が良いと聞いています。タゴヤで困ったことがあれば相談に乗りますので覚えておいてくださいね」
「は、はいっ」

 助祭様は次の予定があると出ていき、2パーティ対新人2人の面談になった。
 まず、世情に疎いというこの説明を求められたので、ずっと農場で働いていたと答えたが、足りなかったようで、カリラスが補足してくれた。

「アレックスは、金を見たことも触ったこともなかったし、文字の読み書きも孤児院で習っていませんでした。孤児院と農場の往復だけで、街に出たこともなかったようです。俺のいた孤児院に来てからは、教会の炊き出しを手伝う代わりに文字を教えてもらって、部屋ではずっと練習していました」
「読み書きはどれくらいできる?」
「自分の名前は書けます。依頼板の依頼はだいたい読めました。教会で本を読ませてもらっていましたが、絵の多いものなら時間はかかりますがなんとか読めます」
「依頼書が読めるなら問題ないよ」

 それから、できること、できないこと、今まで受けた依頼を確認されるが、俺は工事現場の依頼しかやっていないので、主にカリラスへの質問になった。
 どんなスタイルで戦いたいか、どんな冒険者になりたいかなど、いろいろ質問され、答えた。

 各パーティーの紹介も聞く。
 Bランクパーティー「カレンデュラ」は5人、剣士、槍士、斥候、魔法使い、治癒術師。剣士は「剣」持ち、魔法使いは「風魔法」持ちで、タゴヤの中級ダンジョンをメインの活動としている。2人とも引き受けても良い。
 Sランクパーティー「マグノリア」は6人、剣士2人、盾士、弓士、魔法使い2人。剣士は2人とも「剣」持ち、魔法使いは1人が「火魔法」持ちで、タガミハの中級ダンジョン下層をメインの活動としている。2人とも引き受けても良いが、見習い2人は安全が確保できないので、ダンジョンに連れて行くのは片方ずつになる。
 Sランクパーティーが、スキル「罠」を持っているAランクパーティーを知っているので、そこを紹介することもできるそうだ。

 2人で相談してということだったが、「Sランクパーティーなんて無理、Bランクでも畏れ多い」というカリラスと一緒に、Bランクパーティー「カレンデュラ」に入れてもらうことにした。カリラスと一緒なら心強い。


 話し合いから3日後の朝、お世話になった教会を出て、冒険者ギルドに向かっている。
 ギルドの2階でパーティーメンバーと待ち合わせて、パーティー登録をするのだ。その時にスキルも非表示にしてもらおう。
 カレンデュラはタゴヤにパーティーで家を借りているので、これからはそこに住んで、冒険者として活動していく。

 1月ほど前にサリューに連れられてこの道を歩いた時には想像もできなかったが、Bランクパーティーの見習いになることができた。
 これから冒険者としての活動が本格的に始まる。

 広い世界を見てみたい、これがきっと、その第一歩だ。
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