緑の檻の向こう側

犬派だんぜん

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3. 馬車での移動

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 タゴヤの街までは馬車でも10日ほどかかる。
 ミダとタサマラは周りを山で囲われた穀倉地帯で、周りの山も含め、何故か魔物がいない。タゴヤに行くためには山を越える必要があるが、この山越えといっても、穀物を運び出すために道は整備されているし坂も緩やなのだが、タサマラから山までも距離があり、山を越えて次の街に着くまで、徒歩の場合は12日ほどかかる。
 タサマラの冒険者がEランクになるまで街を出られないのはこのためだ。金に余裕のあるものは、山を越えて最初の街「コサリマヤ」で冒険者登録をする。コサリマヤ近くは少し魔物が出るので、冒険者ランクも上げやすい。

 司祭様と俺を乗せた馬車は、コサリマヤの街に入った。ここまで野営をしてきたので、この街で1泊し、タゴヤまでの護衛の冒険者を雇って次の街へ向かう。冒険者への依頼はコサリマヤの教会が出しているので、すでに決まっている。
 コサリマヤの教会は、タサマラの教会よりも大きく、人も多かった。今日と明日は教会の宿泊施設に泊まり、夕食も教会が用意してくれる。道中はパンと干し肉だったので、久しぶりの温かいものは嬉しい。

 ゆっくり寝て翌朝、朝食と部屋の掃除を済ませ、出発の準備にコサリマヤの教会が用意してくれたシラカまでの水や食料を積む。そこに、今日から護衛のパーティーがやってきた。
 Cランクのパーティーでメンバーは3人、斥候と剣士、魔法使いだった。1人が御者の隣に座り、2人は俺たちと一緒に乗るらしい。司教様が俺をFランクの冒険者で、よければ道中、冒険者の話を聞かせてやってほしいと紹介してくれた。

 この街で山に強い馬から、平地に強い馬に換えた馬車に乗り込み、コサリマヤの街を出発する。
 今の時期は、ミダとタサマラの収穫期後で、収穫した物を運ぶ商隊が多いため、騎士が巡回しており、街道は比較的安全だ。よほどのことがない限り魔物に遭遇することもないうえ、もし遭遇しても、周りに商人などがいれば教会の馬車は優先して助けてもらえる。信仰心もあるが、治癒魔法の使える聖職者が乗っている可能性があるからだ。
 司教様は魔力量はあまり多くないが上級治癒魔法が使える。山越えに時間がかかるため、タサマラの教会は小さいにもかかわらず、上級治癒魔法が使える司教が代々配属されている。

 護衛のパーティーは、普段は「タガミハ」の街の中級ダンジョンに潜っているが、この時期は護衛の依頼でタゴヤとコサリマヤを往復しているそうだ。
 揃えたほうがいいもの、武器の種類、受けないほうがいい依頼など、これから冒険者として活動していくのに必要な情報をいろいろ教えてくれる。
 生まれてから一度も魔物を見たことがないというと驚かれ、タゴヤ近辺でよく見る魔物とその狩り方も教えてくれた。冒険者ギルドには魔物の特長や倒し方などをまとめた本があるので、見るように勧められた。
 タゴヤでのFランクの依頼は、街中の依頼のほかは薬草採取などになるので、こちらも冒険者ギルドに薬草をまとめた本があるそうだ。
 冒険者について俺が知りたいことを質問し、それに護衛パーティーが答える、という感じで会話が弾むうちに、次の街シラカについた。

 シラカの街に入り、教会に着いたところで、護衛の冒険者とはいったん別れる。護衛の冒険者は自分で宿をとり、翌朝また教会で集合する。
 教会に入ると、司教様に上級治癒魔法による治療の要請がきていた。
 瀕死の怪我や身体の欠損、一部の強力な呪いなどは、エリクサーか上級治癒魔法でしか治せない。この街には上級治癒魔法の使える人がおらず、俺たちが到着するまで中級治癒魔法で延命していたそうだ。上級治癒魔法を受けるには高価な寄付が必要となるため、だいたいは貴族か高ランク冒険者の依頼だ。
 司教様は、上級治癒魔法を使うと明日は動けないので1日自由にして良いと言って、慌ただしく教会の奥へ行ってしまい、残された御者と俺は、宿泊施設に案内された。

 急に1日空いてしまった。
 シラカの教会に、もし明日炊き出しなどがあれば手伝うと言ったが、手伝えることがなかったので、冒険者ギルドに来てみた。
 どんな依頼があるのか見ていると、「アレックス!」と声を掛けられ、振り返るとカリラスがいた。なぜここにいるのか聞かれ、事情を説明すると、一緒にいた3人に「悪い、今日は抜ける」と言って俺を連れてギルドの食堂に入った。

「カリラス、お久しぶりです。あの3人はパーティーメンバー?急に抜けて大丈夫でした?」
「パーティーじゃなくて、Eランクのソロ同士でなんとなく一緒に依頼を受けてるだけだ。相変わらずその話し方なんだな。久しぶりだな、アレックス」

 カリラスは、コサリマヤで少し魔物を狩る依頼を受けた後、収穫期後の街道が安全なうちに依頼が多いシラカに来て、あの3人と依頼を受けていた。4人とも金が溜まったらタゴヤに移動して、スキル鑑定を受けたいと思っているので、お互い協力しているだけだそうだ。
 お互いの近況を報告しあうだけで、昼になったので、屋台で昼を食べようと連れ出される。そこからは、街を見て回り、楽しく遊んでいるうちに、教会に戻る時間だ。
 タゴヤで会ったら、パーティーを組もうと約束して別れた。

 夕食には司教様に会うことができた。上級治癒魔法を使って動けないという状況がよく分からなかったので、明日は出発できると言われてホッとした。
 タサマラの孤児院にいたカリラスに会って元気そうだったと報告すると、司教様も嬉しそうだった。

 翌日はタゴヤに向かって出発した。そこからは野営はせず、タガミハ、キノリヤで1泊し、翌日の昼過ぎには王都タゴヤに着いた。

 街の直前になって、周りに人や馬車が増えた時点で護衛は不要となり、タゴヤが初めての俺を、街がよく見えるようにと御者台に座らせてくれた。
 初めて見るずっと続く街の壁や、真ん中にそびえたつ城に、衝撃を受ける。
 ああ、俺はこういうのが見たくて、旅がしたかったんだな、と思った。


 タゴヤは大きな街で、建物が密集して建てられていて、人もたくさんいる。街に入る門には、多くの人や馬車が並んでいる。
 教会の馬車は並ばずに門を通れる。最初は治癒など緊急の場合に最優先で通るための処置だったらしいが、急ぎではなく普通に並んでいても周りの商人などが順番を譲ってくれるので、常時並ばないで通ることになった。貴族は貴族専用の門があるので別だ。

 教会は、王城の近くにあり、とても大きく荘厳な建物だった。熱心な信者ではない俺でも敬虔な気持ちになる。
 教会付属の孤児院で育ったにもかかわらず、俺は教義をほとんど知らない。何よりも農場での作業が優先されていたことが、どれだけ歪なことか、今なら分かる。だからこそ、こうして調査官に話を聞かれるのだ。
 教会に入り、護衛の依頼は終了となった。司教様がCランクパーティと俺の依頼書にサインをし、解散する。
 俺は司教様に連れられて教会の裏から建物内に入った。出迎えてくれた助祭様が、今後俺の面倒をみてくれると紹介され、助祭様に宿泊施設に案内される。

「ケネスです。グザビエ司教様はお忙しい方ですし、いずれタサマラに帰られますので、ここでは私がアレックスくんの面倒を見ます。何かあれば、私の名前を出してください。教会内で迷子になった時とかもね」

 茶目っ気のある助祭様のようだ。でもこの教会は広すぎて、確かに迷子になりそうだ。
 宿泊施設も、聖職者用と信者用の2つあり、聖職者用の見習い神官が泊まる4人部屋に通された。聖職者しかは入れないエリアなので盗難はないはずだが、それでも油断はしないように貴重品は持ち歩きなさいと注意を受ける。調査が終わるまでは宿泊施設に泊まり、その後は王都の端のほうにある孤児院に移ることになる。
 ここでの注意点、食事の仕方などを聞いていると、同じ年くらいの少年が部屋に入ってきた。

「助祭様、お待たせしました。着替えてきました!」
「アレックスくん、見習い神官のサリューです。日常の細々したことは、彼が面倒をみます。まずは、冒険者ギルドに依頼完了報告に行かないといけませんので、サリューに案内させます。夕食までに戻ればいいので、街中も簡単に案内してもらってきてください。常にサリューを案内に付けることはできませんので。時間があればスキル鑑定もしてきていいですよ」

 サリューは王都出身でさすがに詳しく、王都の地区ごとの大まかな説明をしたあと、まずどこに行きたいか聞いてくれた。王都のギルドの大きさが分からないが、夕方になると混むと思うので、まず最初に冒険者ギルドに行って、その後いろいろ案内してもらうことにした。
 王都には東西南北にそれぞれの4つ門があり、ギルドは東門の近くにある。ほぼ中央にある教会からは歩いて1時間ほどかかる。乗り合い馬車もあるが、最初なので歩いていく。見える建物や、入ってはいけない場所などの説明を聞いているうちに、ギルドについた。ギルドは馬車寄せまである大きな建物だった。中に入ると中途半端な時間にもかかわらず、それなりに人がいた。

 入ってすぐの総合受付に聞き、依頼完了報告のカウンターに、興味津々のサリューも一緒に並ぶ。
 順番がきて、ギルドカードとサイン入りの依頼書を見せると、「Fランクで護衛ですか?」と職員が怪訝な顔をしている。事情があって王都の教会に来ることになり、ギルドカードが失効しないように依頼という形にしてもらえただけだと説明するが、疑いが消えず、結局サリューが「今はこんな格好ですが、神官見習いで彼を案内しています」と自分のカードを見せたところで処理してもらえた。

 スキル鑑定の受付がある2階に上がると、こちらはあまり人がいなかった。
 今は人がいないのでスキル鑑定はすぐ終わるということなので、やってもらおう。料金を払うと、俺だけ別室に案内された。
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