上 下
4 / 26

第三話 人生ハードモードだったりします?

しおりを挟む
 第三話 人生ハードモードだったりします?
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 やはり、この世界はファンタジーな異世界らしい。そう思えば納得できることも多々ある。いくら貧乏とはいえ、さすがに一切の電化製品がないのはおかしいとは思っていたのだ。

「いや、ならなんで気が付かなかったんだよ」そう思うかもしれないが、電化製品もなかったけど異世界っぽいファンタジーなものもなかったからだ。ほら、こういう場合って家にある魔法の道具とか、あるいは親が自然に使う魔法を見て「ああ、ここは異世界なんだ」って悟るのが普通じゃん。

 そういう、いわゆる異世界フラグってやつが一切なかった。だから気が付かなかったのだ。

 転生といえば鉄板は異世界転生、初めは疑ったんだが魔法の影もない世界でそれをやり続けるのは……中二病の黒歴史に苦しめられた過去を思い出すようで非常につらかったのだ。誰に見られているわけでもないが、着実に俺の心にダメージがかさんでいく。

 ファンタジーな世界に転生したのだと先入観を持ってこの世界を見て見れば、おそらくそうなのであろうと思える部分は他にも多々あった。俺の失敗は、ほぼ動けもしないのに周りに情報だけで現代っぽいなどと勝手な偏見を固めてしまったことであろう。

 しかし……ファンタジーな世界の家だとしてもやはり貧乏であることに違いはないのだろう。魔法の品がないことももちろんだが、家も結構ボロボロだし。この世界の基準なんてものはわからないが、少なくとも貴族なんてよさげな身分でないのは確かである。

 平民の、それもかなり下位層の家庭に生まれたんじゃないかな。家から出たことなんてないので周りの様子などよくわからないが、窓から見える景色と日ごろの静かさを見るにスラムなどではないとは思う。まぁ、確実に街中でもないと思うが。

 父親に会わないのも古い価値観の持ち主なのか、それともいわゆる単身赴任にでも行っているのかとも考えたのだが、この感じ俺はまだ会っていないのではなくそんな存在いないのかもしれない。

 でも、ママン別に働いている様子ないんだよなぁ。いや、俺がずっと起きているわけでもないし、寝てる間に働きに行ってたりするのかもしれないけど。それにしたって、あまり働いている様子はない。

 平民の女が短時間で稼げるものといえば……夜の仕事ぐらいの物だろうか? こういう世界、当然のように男尊女卑であろうし、まっとうに稼ぐ選択肢は少ないだろう。

 それに子育てしながら稼げるほど優秀なら、俺が生まれる前はそれなりに余裕があったはずでこんな家にはならないだろうというのも容易に想像できてしまう。

 おそらく、俺の父親はママンの交際相手などではなく、仕事で相手をしたお客さんとの子なのだろう。

 ……しかし、そうなるとなぜわざわざ生んだのかが気になる。別に愛の結晶というわけでもない子供、わざわざ自分の生活をひっ迫させてまで育てる理由なんてなさそうなものだが?

 いや、相手が欲しがるというケースもあるのか? 自分の子供っていうのは案外使える駒になるともいうし、平民を買っていてそいつがはらんだら子供もかいとるということもあるのかもしれない。

 売女の子供が誰の子かなんて確証がモテるようなものでもない気がするが、元の世界ではDNA鑑定なんてものがあったし、この世界もそれに相当する魔法みたいのがあるのかもしれない。

 いや、もしくはそれを想定して生んだだけという可能性もあるのか? 相手から頼まれていないけど売るために。もしくは自分はその客の愛人だったと主張して金でもとれたりするのだろうか?

 夜の仕事なんて長年続けられるものではない。価値は落ちる一方だし、肉体労働は当然ガタが来るのも早い。

 これは、第二の人生相当ハードモードかもしれない。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 新事実が発覚した。

 どうやら俺、女だったらしい。

 この世界がファンタジーなことに気が付かなかったり、自分が女なことに気が付かなかったり……俺は案外凝り固まった思考回路をしているのかもしれない。赤ん坊のころなんて、男女の差は相棒の有無ぐらいしか無い。しかも赤ん坊のころの相棒の存在感なんてほぼあってないようなものだろう。

 と、一応言い訳させてもらう。

 気づいた時、当然のようにそこにあると思っていた相棒がいつの間にか消えていて心底驚いた。結局前世ではつかってやることができなかった相棒、第二の人生では休む暇もないなんて妄想もしたのだが、出番はなさそうどころか存在事消滅してしまっていた。

「あうー、あうー」

 気づいて何とか息子の存在を確認しようとうねうねしていると、

「どうしたの? おなかすいたんでちゅか~」

「あう!」

 ママンに抱きかかえられて、おっぱいを口の中に突っ込まれた。お腹がすいて暴れていると解釈されたらしい。

 柔らかいおっぱいの先から、ちゅぱちゅぱと甘い母乳を飲む。毎日何度もやっているので慣れた手つきである。

 おっぱいを手で軽く押す。赤ん坊の力でも簡単に沈み込む。柔らかくて、なんとも心地いい質感だ。

 ぷにぷに、ぷにぷに

 何だろう、この気持ち。

 ぷにぷに、ぷにぷに

 これは……

「あっ、ああ ……もう、いたずらしちゃめっ! よ」

 怒られてしまった。

 どうやら肉体から相棒は失われても、心の中からは失われていなかったようである。さすが、俺の相棒だ。

 しかし、そうなると非常に困ったことになる。女として使われることになるのはちょっと……

 俺の父親がだれで、母親が何のために生んだかなんて、結局ただの想像でしかない。そうである以上、俺がその誰か知らない父のために取引先相手の年老いたおっさんの元に嫁がされるなんて言うのもただの被害妄想だ。

 でも結局、貧乏な平民の女が生きていく道なんて限られているだろう。俺がいやだと言っているこの未来は、平民の女の未来としては比較的いい方というかむしろあこがれの類にはなるのだろう。

 そしてそういう価値観である以上、ママンも良かれと思ってそう動いてるだけという可能性もあるわけで……

 でも、善意でも何でも知らないおっさんのもとに嫁がされるとか嫌なんだけど。いや、もちろんイケメンでも嫌だけど。

 神様、どうしてこんな運命に? TS転生の上にこの生まれは、ほぼ人生固定されてませんか?

 確かに前世ではネカマプレイなんてしてましたけど、でもそれは別に女になりたかったわけじゃなくて、いや確かに全く興味なかったかと言われればそういうわけではないんですけど……少なくとも性的対象は女なんすよ。

 ネカマとして男どもにちやほやされるのは好きでも、女として男どもに抱かれてみたいかと言われたらそれは別のはなしなんすわ。

 どうしよう。俺、未来に不安しかないんだが?

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

糞ゲーと言われた乙女ゲームの悪役令嬢(末席)に生まれ変わったようですが、私は断罪されずに済みました。

メカ喜楽直人
ファンタジー
物心ついた時にはヴァリは前世の記憶を持っていることに気が付いていた。国の名前や自身の家名がちょっとダジャレっぽいなとは思っていたものの特に記憶にあるでなし、中央貴族とは縁もなく、のんきに田舎暮らしを満喫していた。 だが、領地を襲った大嵐により背負った借金のカタとして、准男爵家の嫡男と婚約することになる。 ──その時、ようやく気が付いたのだ。自分が神絵師の無駄遣いとして有名なキング・オブ・糞ゲー(乙女ゲーム部門)の世界に生まれ変わっていたことを。 しかも私、ヒロインがもの凄い物好きだったら悪役令嬢になっちゃうんですけど?!

転生王子の奮闘記

銀雪
ファンタジー
高校2年生の絹川空は、他の人から指示されるばかりで人生を終えてしまう。 ひょんなことから異世界転生が出来る権利を手にした空は、「指示する側になりたい!」という依頼をして転生する。 その結果、グラッザド王国の次期国王、リレン=グラッザドとして生まれ変わった空は、立派な国王となるべく、今日も奮闘するのであった・・・。 ※処女作となりますので、温かく見守って下さると嬉しいです。

悪役令嬢日記

瀬織董李
ファンタジー
何番煎じかわからない悪役令嬢モノ。 夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢がとった行動は……。 なろうからの転載。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。

蒼風
恋愛
□あらすじ□  百合カップルを眺めるだけのモブになりたい。  そう願った佐々木小太郎改め笹木華は、無事に転生し、女学院に通う女子高校生となった。  ところが、モブとして眺めるどころか、いつの間にかハーレムの中心地みたいになっていってしまうのだった。  おかしい、こんなはずじゃなかったのに。 □作品について□ ・基本的に0時更新です。 ・カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、noteにも掲載しております。 ・こちら(URL:https://amzn.to/3Jq4J7N)のURLからAmazonに飛んで買い物をしていただけると、微量ながら蒼風に還元されます。やることは普通に買い物をするのと変わらないので、気が向いたら利用していただけると更新頻度が上がったりするかもしれません。 ・細かなことはnote記事(URL:https://note.com/soufu3414/n/nbca26a816378?magazine_key=m327aa185ccfc)をご覧ください。 (最終更新日:2022/04/09)

処理中です...