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第21話「ハグは私のものです!」

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 夏海はゲームセンターに入るなり、すぐにクレーンゲームの前まで駆け足で向かって行った。
 なるほどね。お目当てはクレーンゲームだったか。

 色々な種類のクレーンゲームがある中、夏海が選んだのはぬいぐるみが入ったクレーンゲームのようだ。考えてみたら、夏海は昔からぬいぐるみが好きだったような気がする。
 夏海は財布から百円玉を取り出し、その百円玉をクレーンゲームの機械に入れ、真剣な眼差しでプレイし始め、クレーンゲームのアームは一瞬、ぬいぐるみを掴んだが、結局ぬいぐるみは途中で落ちてしまった。

 夏海は残念そうな表情を浮かべた。

 仕方がないな。これは、俺が手伝った方が良いのかもしれないな。
 意外かもしれないけど、実はクレーンゲームが得意な方なんだよね。

「夏海、手伝おうか?」

「え? いいの?」

「もちろんだよ」

「ありがと!」

 俺は自分の財布から百円玉を取り出した。夏海は「お金は私が出すから!」と言っていたが、百円くらいならいいよと伝え、俺はクレーンゲームの機械に百円玉を入れた。

「夏海、どのぬいぐるみが欲しいの?」

「えっとね、あのクマのぬいぐるみがいい!」

「了解。一発で取ってみせるよ」

「一発で?! 流石に一発は無理でしょ」

 俺はクレーンゲームのアームを操作し始める。
 普通に取ろうとしても途中で落ちてしまうだろうから、違う取り方をする必要がある。
 そこで、俺はぬいぐるみの首の辺りに付いているタグにアームをひっかける。すると、アームは見事、ぬいぐるみを持ち上げ、景品取り出し口に落ちた。

 それを見ていた夏海が目を輝かせながら背後から抱きついてきた。

「翔、すっごいね~! 本当に一発で取っちゃったよ!」

「だから言っただろ?」

「翔が嘘つくとは思ってなかったけど、少し疑っちゃってた。ごめんね?」

「いいよ。はい、お望みのクマのぬいぐるみ」

「本当にいいの? 翔のお金で取ったのに……」

「いいよ。もし、申し訳ないと思ってるなら、俺からのプレゼントだと思って受け取って」

「そういうことなら、ありがと!」

 夏海が嬉しそうにニッと、花が咲いたような満面の笑みを見せた。
 喜んでくれたようで、良かった。

 そんなことを考えていると、別方向から視線を感じる。

「翔くん……、夏海さん……」

 アリナが泣きそうな顔でこちらを見ている。
 俺は心配になり、アリナの方へ向かう。その間も、夏海は俺の背中に抱きついたままだ。いつまでこうしているつもりだろう?

「アリナ、どうした? 大丈夫?」

「大丈夫じゃ……ないです」

 アリナが目をうるうるさせている。どうしたのだろう。
 夏海もその様子を見て心配しているようだった。

 そんな俺たちを見ていたカズがため息をついて、呆れ顔で俺と夏海のことを見ている。

「翔、夏海。二人とも本当に気づかないの?」

「「何に?」」

「はあ。夏海は今、翔に後ろからだけど抱きついているんだよ?」

「うん、そうだけど?」

「まだ気づかない? その状況をみている桜花さんの心情もわからない?」

「「あ!」」

 そういうことか!
 この状況は俺と夏海にとっては、幼馴染ということで当たり前の状況だったが、アリナにとっては、とても悲しい状況のはずだ! 俺と夏海はカズの言葉でやっと気が付き、夏海は俺から手を放し、二人でアリナに謝る。

「アリナ、ごめん!」

「アリナちゃん、ごめんね!」

 すると、アリナは俺に正面から抱きついてきた。

「二人が幼馴染同士だから、そういうスキンシップが普通なのもわかります。でも、翔くんの傍は、渡しません!」

 アリナはそう言い切った。
 うぅ、可愛すぎる。俺はあまりの可愛さにアリナの頭を撫でた。

「ん~、もっと撫でてください」

「わかったよ。本当にごめん」

「わかってくれれば、いいんですよ」

 アリナは俺に抱きつきながら夏海の方に視線を向ける。

「翔くんと夏海さんが幼馴染同士だからある程度のスキンシップは許しますけど、ハグは私のものですっ!」

「うん、わかった。ごめんね、アリナちゃん」

「翔くんにも言いましたが、わかってくれればいいんです! 夏海さんとは、これからも友達……というか、親友でいたいですし……」

「アリナちゃん! 本当に??? 私が親友でいいの???」

「はいっ! もちろんです!」

「やったー! 私とアリナちゃんは親友だねっ!」

「はい! でも、翔くんにハグするのはダメです!」

「わかったよ。というか、今の状況を見ていたら、できないよ。アリナちゃんは本当に翔のことが好きなんだね」

「はい! 世界で一番大好きです!」

 こうして何とか、揉め事は起きずに済んだ。
 俺もこれからはそういう事にも気を付けないといけないな。

 そして、アリナと夏海が親友になったのも、俺としても嬉しい。やはり、俺が思っていた通り二人の友達としての相性はかなり良いようだ。

 カズが言ってくれなかったら、俺と夏海は気づかないままだったかもしれない。俺たちはカズに助けられたな。ありがとう、カズ。

 俺は心の中でカズへの感謝を呟き、その後、四人で一緒にゲームセンターを楽しんだ。
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