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3章
かっこいいお兄ちゃん
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次の日。
昨日は色々とあったけど、また今日からは普通の授業。
もちろん、陽飛のとなり。
「おはよう陽飛」
「おお。おはよう」
「妹さんへのプレゼントは、進んでる?」
「え?」
「あ、わたしね、陽飛が写真撮ってるのって、妹さんのためなのかなって思って」
「……まあそうだな。よくわかったな」
「だって、昨日あんなに仲良さそうにしてるんだもん」
「そうか、時々喧嘩するんだけどな」
「そーいうのが一番、仲良いんだって」
わたしは笑った。
「梨月は、おれの妹へのプレゼントがなにかも、わかってるの?」
「当てられると思う。カレンダーでしょ。日めくりカレンダー」
「当たり」
陽飛が笑った。
「当てちゃった」
なんとなくにやりと笑う。
「妹の誕生日スタートの予定なんだ。そこから一年。毎日写真と、コメントを書こうかなって」
「コメントも書くの? すごい」
写真を撮りまくってて、400枚も紙を買ってたから、もしかしたら、日めくりカレンダーを作ろうとしてるんじゃないかって思った。
だけどコメントも書くなんて。
心を込めようと思っていても、365日ぶんっていうのは、結構大変だと思う。
でも、陽飛は、
「もうコメントは全部書いた。まだそれとは別に定期的にお手紙も書く予定なんだ」
って言う。
すごいよ陽飛。
「陽飛、もうかっこいいお兄ちゃんだね」
「ほんと? おれかっこいいお兄ちゃんになってる?」
「なってるよ」
そう。やっぱり。
陽飛は、かっこいいお兄ちゃんを目指していたんだ。
わたしは、もっと陽飛をほめるために続けた。
「最近陽飛、学校でも色々頑張ってるし、バレーボールも上手いし、そういうところも、かっこいいお兄ちゃんだよ」
「…………そうか、ありがとう」
少し下を向いた陽飛。
そう。わたしは勘違いしていた。
となりの男の子がかっこよくなったのは、わたしのことが好きだからじゃない。
入院して、病気の治療を頑張っている妹さんの、かっこいいお兄ちゃんになるためだ。
だから陽飛は、かっこよくなかった時も、ほんとはかっこよかった。
迷路だって妹のために作ったし、ゲームだって妹と楽しくやれるように、うまくなろうとしていたんだ。
杏菜ちゃんにもお姉ちゃんにも言われたし、わたしのことが好きだからかもって、ちょっと本気で思っちゃった。
でも、違う。
となりの陽飛を見た。
わたしは思った。
わたしもちょっと、陽飛を見習おう。
その日、学級活動の時間に先生が言った。
「今度の合唱発表会で、伴奏をしてくれる人を決めたいと思います」
その言葉にちょっと反応するわたし。
わたしは、バイオリンをやっていた時に、ピアノも一緒に習っていた。
結局今は全部あきらめちゃってるけど、ひとつくらいまた頑張ろうと思っていた時に、先生がピアノの伴奏を募集したんだもん。
「立候補する人、いますか?」
先生が尋ねると、ささっと手が上がる。
三人くらい。
私も……あげなきゃっ。
手を挙げた。
もうその後は知らない。
だけど……いつの間にか黒板にはわたしの名前が書かれていた。
立候補、しちゃったよ……。
ちなみに立候補した人たちの中からどうやって決めるのかといえば、音楽の先生の前で伴奏し、その出来での判断だ。オーディションってこと。
だから……立候補したからには練習しないといけない。
ピアノをひくのは久々だから、大変かもしれない。
でも、陽飛だってかっこよくなろうとしてるんだから、わたしも少しはかっこよくなっていかないと。
クラスのみんなから、いきなり伴奏に立候補して、少し驚かれてるかな。
でもわたしは、ちゃんと上手なピアノを披露して、伴奏者に選ばれてみせる。
そう威勢のいいことを、口には出さずとも思うことで、気合いを入れた。
「なるほど~。それで、急にピアノ弾き始めたんだ」
電子ピアノに向かうわたしの後ろで納得しているお姉ちゃん。
「そういうこと」
わたしは鍵盤から指を離して、ちょっとグーパーを繰り返した。
指がちょっと固い。
なぜピアノに挑戦してしまったんだろう。
一度やめたことをまたやるって、実力は初めてやるよりは高いはずなのに、なんか難しい。
わたしはため息をついた。
でも、またひき始める。だって、わたしも少しは、頑張んなきゃ。わたし最近、全然頑張れてなかったから。
「がんばってね、梨月」
お姉ちゃんはそう言って静かにテーブルに座った。
お姉ちゃんは自分の部屋じゃなくてリビングで勉強することも多い。割とどこでも集中できるタイプみたい。
まだ間違いまくりなわたしのピアノが流れてるっていうのに、早速すらすらとシャーペンで何かを書いている。
その姿は、間違いなく、かっこいいお姉ちゃんだ。
ハッキリ言えば、わたしはお姉ちゃんがうらやましい。
だってほんとに何でもできるんだもん。
だけど……わたしはわたしで頑張らないと、何も始まらないから。
わたしはまた曲の初めから、丁寧にひいた。
その日は指がつかれるまで、何時間も練習した。
昨日は色々とあったけど、また今日からは普通の授業。
もちろん、陽飛のとなり。
「おはよう陽飛」
「おお。おはよう」
「妹さんへのプレゼントは、進んでる?」
「え?」
「あ、わたしね、陽飛が写真撮ってるのって、妹さんのためなのかなって思って」
「……まあそうだな。よくわかったな」
「だって、昨日あんなに仲良さそうにしてるんだもん」
「そうか、時々喧嘩するんだけどな」
「そーいうのが一番、仲良いんだって」
わたしは笑った。
「梨月は、おれの妹へのプレゼントがなにかも、わかってるの?」
「当てられると思う。カレンダーでしょ。日めくりカレンダー」
「当たり」
陽飛が笑った。
「当てちゃった」
なんとなくにやりと笑う。
「妹の誕生日スタートの予定なんだ。そこから一年。毎日写真と、コメントを書こうかなって」
「コメントも書くの? すごい」
写真を撮りまくってて、400枚も紙を買ってたから、もしかしたら、日めくりカレンダーを作ろうとしてるんじゃないかって思った。
だけどコメントも書くなんて。
心を込めようと思っていても、365日ぶんっていうのは、結構大変だと思う。
でも、陽飛は、
「もうコメントは全部書いた。まだそれとは別に定期的にお手紙も書く予定なんだ」
って言う。
すごいよ陽飛。
「陽飛、もうかっこいいお兄ちゃんだね」
「ほんと? おれかっこいいお兄ちゃんになってる?」
「なってるよ」
そう。やっぱり。
陽飛は、かっこいいお兄ちゃんを目指していたんだ。
わたしは、もっと陽飛をほめるために続けた。
「最近陽飛、学校でも色々頑張ってるし、バレーボールも上手いし、そういうところも、かっこいいお兄ちゃんだよ」
「…………そうか、ありがとう」
少し下を向いた陽飛。
そう。わたしは勘違いしていた。
となりの男の子がかっこよくなったのは、わたしのことが好きだからじゃない。
入院して、病気の治療を頑張っている妹さんの、かっこいいお兄ちゃんになるためだ。
だから陽飛は、かっこよくなかった時も、ほんとはかっこよかった。
迷路だって妹のために作ったし、ゲームだって妹と楽しくやれるように、うまくなろうとしていたんだ。
杏菜ちゃんにもお姉ちゃんにも言われたし、わたしのことが好きだからかもって、ちょっと本気で思っちゃった。
でも、違う。
となりの陽飛を見た。
わたしは思った。
わたしもちょっと、陽飛を見習おう。
その日、学級活動の時間に先生が言った。
「今度の合唱発表会で、伴奏をしてくれる人を決めたいと思います」
その言葉にちょっと反応するわたし。
わたしは、バイオリンをやっていた時に、ピアノも一緒に習っていた。
結局今は全部あきらめちゃってるけど、ひとつくらいまた頑張ろうと思っていた時に、先生がピアノの伴奏を募集したんだもん。
「立候補する人、いますか?」
先生が尋ねると、ささっと手が上がる。
三人くらい。
私も……あげなきゃっ。
手を挙げた。
もうその後は知らない。
だけど……いつの間にか黒板にはわたしの名前が書かれていた。
立候補、しちゃったよ……。
ちなみに立候補した人たちの中からどうやって決めるのかといえば、音楽の先生の前で伴奏し、その出来での判断だ。オーディションってこと。
だから……立候補したからには練習しないといけない。
ピアノをひくのは久々だから、大変かもしれない。
でも、陽飛だってかっこよくなろうとしてるんだから、わたしも少しはかっこよくなっていかないと。
クラスのみんなから、いきなり伴奏に立候補して、少し驚かれてるかな。
でもわたしは、ちゃんと上手なピアノを披露して、伴奏者に選ばれてみせる。
そう威勢のいいことを、口には出さずとも思うことで、気合いを入れた。
「なるほど~。それで、急にピアノ弾き始めたんだ」
電子ピアノに向かうわたしの後ろで納得しているお姉ちゃん。
「そういうこと」
わたしは鍵盤から指を離して、ちょっとグーパーを繰り返した。
指がちょっと固い。
なぜピアノに挑戦してしまったんだろう。
一度やめたことをまたやるって、実力は初めてやるよりは高いはずなのに、なんか難しい。
わたしはため息をついた。
でも、またひき始める。だって、わたしも少しは、頑張んなきゃ。わたし最近、全然頑張れてなかったから。
「がんばってね、梨月」
お姉ちゃんはそう言って静かにテーブルに座った。
お姉ちゃんは自分の部屋じゃなくてリビングで勉強することも多い。割とどこでも集中できるタイプみたい。
まだ間違いまくりなわたしのピアノが流れてるっていうのに、早速すらすらとシャーペンで何かを書いている。
その姿は、間違いなく、かっこいいお姉ちゃんだ。
ハッキリ言えば、わたしはお姉ちゃんがうらやましい。
だってほんとに何でもできるんだもん。
だけど……わたしはわたしで頑張らないと、何も始まらないから。
わたしはまた曲の初めから、丁寧にひいた。
その日は指がつかれるまで、何時間も練習した。
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