14 / 40
World1 突き飛ばされて異世界転生したら勇者になってくれと言われたんだが
14話
しおりを挟む
「タカヒコさん、空を見上げてみてください」
森を抜けたと思うと、俺はサトルにこう勧められた。言われた通り空を見上げてみると、俺は目の前の光景に息をのんだ。
「空島だ…」
「はい。あれが私たちの村、クラウド村がある浮島『イドゥ・ウィ・シエル』です。私たちは略して『シエル島』などと呼んでますよ」
そうサトルが教えてくれたシエル島は本当に美しい島であった。下から見える岩肌からはところどころ滝が流れているが、高すぎるからだろうか、水はこの下の大地にたどり着く前にミストとなって、空へと還ってしまう。
上の方に行くと美しいほどの緑と、空の青との対比がまぶしい。
俺はその島の下に長い行列ができているのを見つけた。
「あそこが気球乗り場です、が…、昨日の今日なので流石に動いてませんね」
「それにしても、あの列はなんだ?ずいぶん長いみたいだけど…」
「あれはきっと気球に乗るのを待つ列だと思いますよ。クラウド村でとれるソラマメは朝早いうちに来ないとその日出荷分がすぐ売り切れちゃうんですよ。だから、朝早くから商人たちが買い付けに」
空島でソラマメって…。どんな味なのか少し興味あるな。
「でも、気球は動かないのになんであんなに人が並んでるんだろう?」
「ちょっと列の前に行ってみないか?どのくらい並んでるかも知りたいし」
「そうですね、それでは行ってみましょうか」
実際、列はかなり長かった。ざっと数えて気球を待っているのは100人と言ったところだろうか。俺の知らない種族の人もいて、見ているだけでワクワクが抑えられなかったのはまた別の話だが、俺たちは列の先頭に着いた。
「サトル!サトルか」
「タカ…。無事だったんだな」
「当たり前よ!と言いたいところだが、俺はラッキーだったよ。昨日は気球の番で下にいたから奴に見つからなかったんだ、命拾いしたよ」
「上の様子は…」
「いや、俺は怖くて見に行けてないよ。気球もこの調子じゃ動かせそうにないしな、それでそちらは?」
「タカヒコさん、勇者様だよ」
タカと言ったか、目の前にいる青年の目が大きく見開かれ、驚いている様子が表情を見るだけで伝わってくる。列に並んでいる商人たちもざわざわし始めた。やっぱり、この世界での勇者という立ち位置は、崇められるものなんだな。
「ゆ、勇者様!それは失礼いたしました。私は、タカ・スカイ、この村の気球交通担当です」
「俺はサイトウ・タカヒコ。タカヒコって呼んでくれ。一応勇者だけど、まだ駆け出しだ」
「…!なんと寛大なお言葉…。でも、私に勇者様の事を名前で御呼びしていただくなんて、恐れ多い事で…」
この流れ、結局やるのね…。その後、俺は頑固として俺の名前を呼ぶのを躊躇するタカをどうにか説得して、タカヒコさんと呼ばせることに成功した。
「それでタカ、気球はいつ頃動きそうだ?」
「昨日奴が村を襲った時に、気球も壊していったらしく、ご覧の有様です」
そう言いながら、タカは気球を指さした。気球はタカの言うように、ズタズタに破壊されていて、修理には時間がかかりそうだ
「困りましたね…。これでは勇者様が上に上ることができません」
「そうだな…」
流石に俺も空は飛べません…。
その時だった、一人の商人が手に持っていた書類を風にさらわれてしまい、大きな声を上げた。
「あっ!あれがないと、買い付けができない…」
「まさかお前交易許可証を飛ばしたんじゃないだろうな」
「…」
「まじかよ…」
「大変だ、勇者様、私、紙を追いかけてきますので、待っていてください」
「あぁ、大丈夫だぞ」
「大地よ、大空よ、風よ、我が心と一体となりて、我に力を与えよ。飛行魔法!」
サトルがそう魔法を詠唱すると、サトルの体は浮かび上がり、あっという間に空へと羽ばたいていった。まるで鳥のように、自由に空を飛び回る様子は、どこかのファンタジー映画を見ているかのようだった。
サトルは、紙を瞬く間に捕まえ、こちらへと戻ってきた。
「はい、交易許可証です。次は風に飛ばされないようにしてくださいね」
「はい、ありがとうございました!」
「すごいな、サトル」
「いえいえ、当然のことですよ。困ったときはお互い様、この村の掟です」
「なぁ、さっきの魔法は?」
「さっきの魔法ですか?あれは『飛行魔法』です。あれを詠唱することで、私たちスカイ族は空を飛ぶことができるんです」
ブルブルブルブル…。なんだかポケットがもぞもぞするんですが…。
俺は、半分期待と、半分自分、いやあのチートスキルに呆れながら、ピンポンをポケットから取り出した。
「どうしましたタカヒコさん?ピンポンなんて取り出して」
「いや、ちょっとな…」
俺は例のごとく、ピンポンに軽く触れ、ステータスを表示させた。
―――――
≪名≫ タカヒコ・サイトウ
≪職業≫ 勇者
≪職業レベル≫ 1
≪スキル≫ エフォータ
魔法無詠唱展開
魔法習得
≪スキルレベル≫ 1
≪取得魔法≫ 索敵魔法
火鉄砲
草鉄砲
飛行魔法
―――――
「…勇者様、なぜ、飛行魔法を習得されておられるんですか…」
「いや、俺にもさっぱり」
さっぱり、分からないわけないですよ、エフォーターのせいですよ、全てのスカイ族の皆さんごめんなさい!
でも、たぶんこれで、空を飛ぶイメージをすれば…。
俺が、鳥になるイメージをすると、体が浮きあがった。
「魔法無詠唱!」
「無詠唱で発動するなんて聞いたことないぞ!」
「やっぱり、勇者様なんだな。すごいお方だ」
下で、列に並んでいた商人たちがざわざわしているのがわかる。無詠唱なんですよ、ごめん。
「勇者様、これで、上まで気球なしで行けるのでは?」
「あっ、確かに」
森を抜けたと思うと、俺はサトルにこう勧められた。言われた通り空を見上げてみると、俺は目の前の光景に息をのんだ。
「空島だ…」
「はい。あれが私たちの村、クラウド村がある浮島『イドゥ・ウィ・シエル』です。私たちは略して『シエル島』などと呼んでますよ」
そうサトルが教えてくれたシエル島は本当に美しい島であった。下から見える岩肌からはところどころ滝が流れているが、高すぎるからだろうか、水はこの下の大地にたどり着く前にミストとなって、空へと還ってしまう。
上の方に行くと美しいほどの緑と、空の青との対比がまぶしい。
俺はその島の下に長い行列ができているのを見つけた。
「あそこが気球乗り場です、が…、昨日の今日なので流石に動いてませんね」
「それにしても、あの列はなんだ?ずいぶん長いみたいだけど…」
「あれはきっと気球に乗るのを待つ列だと思いますよ。クラウド村でとれるソラマメは朝早いうちに来ないとその日出荷分がすぐ売り切れちゃうんですよ。だから、朝早くから商人たちが買い付けに」
空島でソラマメって…。どんな味なのか少し興味あるな。
「でも、気球は動かないのになんであんなに人が並んでるんだろう?」
「ちょっと列の前に行ってみないか?どのくらい並んでるかも知りたいし」
「そうですね、それでは行ってみましょうか」
実際、列はかなり長かった。ざっと数えて気球を待っているのは100人と言ったところだろうか。俺の知らない種族の人もいて、見ているだけでワクワクが抑えられなかったのはまた別の話だが、俺たちは列の先頭に着いた。
「サトル!サトルか」
「タカ…。無事だったんだな」
「当たり前よ!と言いたいところだが、俺はラッキーだったよ。昨日は気球の番で下にいたから奴に見つからなかったんだ、命拾いしたよ」
「上の様子は…」
「いや、俺は怖くて見に行けてないよ。気球もこの調子じゃ動かせそうにないしな、それでそちらは?」
「タカヒコさん、勇者様だよ」
タカと言ったか、目の前にいる青年の目が大きく見開かれ、驚いている様子が表情を見るだけで伝わってくる。列に並んでいる商人たちもざわざわし始めた。やっぱり、この世界での勇者という立ち位置は、崇められるものなんだな。
「ゆ、勇者様!それは失礼いたしました。私は、タカ・スカイ、この村の気球交通担当です」
「俺はサイトウ・タカヒコ。タカヒコって呼んでくれ。一応勇者だけど、まだ駆け出しだ」
「…!なんと寛大なお言葉…。でも、私に勇者様の事を名前で御呼びしていただくなんて、恐れ多い事で…」
この流れ、結局やるのね…。その後、俺は頑固として俺の名前を呼ぶのを躊躇するタカをどうにか説得して、タカヒコさんと呼ばせることに成功した。
「それでタカ、気球はいつ頃動きそうだ?」
「昨日奴が村を襲った時に、気球も壊していったらしく、ご覧の有様です」
そう言いながら、タカは気球を指さした。気球はタカの言うように、ズタズタに破壊されていて、修理には時間がかかりそうだ
「困りましたね…。これでは勇者様が上に上ることができません」
「そうだな…」
流石に俺も空は飛べません…。
その時だった、一人の商人が手に持っていた書類を風にさらわれてしまい、大きな声を上げた。
「あっ!あれがないと、買い付けができない…」
「まさかお前交易許可証を飛ばしたんじゃないだろうな」
「…」
「まじかよ…」
「大変だ、勇者様、私、紙を追いかけてきますので、待っていてください」
「あぁ、大丈夫だぞ」
「大地よ、大空よ、風よ、我が心と一体となりて、我に力を与えよ。飛行魔法!」
サトルがそう魔法を詠唱すると、サトルの体は浮かび上がり、あっという間に空へと羽ばたいていった。まるで鳥のように、自由に空を飛び回る様子は、どこかのファンタジー映画を見ているかのようだった。
サトルは、紙を瞬く間に捕まえ、こちらへと戻ってきた。
「はい、交易許可証です。次は風に飛ばされないようにしてくださいね」
「はい、ありがとうございました!」
「すごいな、サトル」
「いえいえ、当然のことですよ。困ったときはお互い様、この村の掟です」
「なぁ、さっきの魔法は?」
「さっきの魔法ですか?あれは『飛行魔法』です。あれを詠唱することで、私たちスカイ族は空を飛ぶことができるんです」
ブルブルブルブル…。なんだかポケットがもぞもぞするんですが…。
俺は、半分期待と、半分自分、いやあのチートスキルに呆れながら、ピンポンをポケットから取り出した。
「どうしましたタカヒコさん?ピンポンなんて取り出して」
「いや、ちょっとな…」
俺は例のごとく、ピンポンに軽く触れ、ステータスを表示させた。
―――――
≪名≫ タカヒコ・サイトウ
≪職業≫ 勇者
≪職業レベル≫ 1
≪スキル≫ エフォータ
魔法無詠唱展開
魔法習得
≪スキルレベル≫ 1
≪取得魔法≫ 索敵魔法
火鉄砲
草鉄砲
飛行魔法
―――――
「…勇者様、なぜ、飛行魔法を習得されておられるんですか…」
「いや、俺にもさっぱり」
さっぱり、分からないわけないですよ、エフォーターのせいですよ、全てのスカイ族の皆さんごめんなさい!
でも、たぶんこれで、空を飛ぶイメージをすれば…。
俺が、鳥になるイメージをすると、体が浮きあがった。
「魔法無詠唱!」
「無詠唱で発動するなんて聞いたことないぞ!」
「やっぱり、勇者様なんだな。すごいお方だ」
下で、列に並んでいた商人たちがざわざわしているのがわかる。無詠唱なんですよ、ごめん。
「勇者様、これで、上まで気球なしで行けるのでは?」
「あっ、確かに」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる