魂を裁くモノ。

うさはら

文字の大きさ
上 下
1 / 1

魂を裁くモノ。

しおりを挟む
今日もまた忙しい。
ここは人がひっきりなしにくる役所。
と言っても人ではなく、人だったもの。いわゆる魂。
生前の行いを鑑みて、死後の行先を決める場所で、私は魂を精査して振り分ける審査官、という仕事をしている。

カウンターに陣取って、一人ひとりきっちり精査する。
その人の生まれてから死ぬまでの善と悪。
どんな人でも少なからず悪い部分はあるもので、だからと言って
全員が地獄に送られるわけではない。
行先は地獄、転生(現)、転生(異)、転生(人外)そして天国。
救いようのないものはどこにも行かず、消滅となる。
それをここで判断するのだ。

今日の一番目は、前世では重罪を犯して死刑になった者。
調べてみると、すでに二回現世に転生していた。
一回目の生でも人を殺めたが、更生の余地ありとして転生したのだ。が・・転生後も人を殺めていた。しかもずいぶん残酷な犯罪だったようだ。
二回目の転生でも強盗、殺人、などかなり悪質だ。
これはダメだな。もはや更生の余地なし。消滅・・っと。

次は・・政治家か。最初は改革に燃えて一生懸命働いていたけど、
いつの間にか欲にまみれて堕落し、国民に貢献することなく年老いて人生を終えた。
とは言え一回目の人生としてはなかなか上り詰めた方ではある。
前世の行いは記憶には残らないが、力を入れた分野は得意分野として魂に残る。
研究者として名を上げた者、スポーツ選手として名を上げた者、
政治家として名を上げた者・・。

前世の行いに現世の行いが積み重なるから、理解が早くて
行動も迷いがない。だから芽が出るのが早いし成長も早い。
何回も転生して同じ分野に打ち込むと、それだけ大きな結果を
出しやすくなるのだ。
なので人生一周目は何の経験もないから平凡な人生になりやすい。
失敗も多いから、比較的苦労することも多くなる。

一週目でここまで上り詰めるのはまれなのだ。

この者の次の人生には期待したい。現世に転生、っと。
こんな感じでサクサク振り分けていく。
そうやって仕事を進めていくと、ちょっと珍しい魂がやってきた。
「異世界・・元勇者?」
この魂はもう転生七回目の死なんですか。
最初は異世界で生まれ、異世界で凡人のまま生を終えた。
二回目は異世界で剣に目覚め、剣士として成長するも不慮の
事故で死亡。

三回目は現世に転生。と言っても戦国時代の日本だが。
ここでは剣士としての記憶が生きたのか、剣に秀でた武将として名を遺したようだ。そして天寿を全う、と。

四回目は功績を認められて再び現世に転生。ここでも剣士なのだがすでに泰平の世となった日本。刀は帯刀しているが切り合うことなどほぼない世界。やはり剣術に秀でており、指南役として活躍したようだ。

五回目は再び異世界。
こちらは戦乱の世となっていて、持ち前の剣術を見出されて最前線
で活躍。ただし剣と魔法の世界だったため、集団より突出したところを魔法で狙い撃ちされて死亡。

六回目の転生は現世の日本。
時代はすでに戦後となっており、剣は実用的なものではなく武術の一つだった。
やはりこの世界でも剣術に目覚め、武道の世界において名を遺した。
まだまだ名声が続くと思われたが、道路に飛び出した子供をかばって交通事故で負傷。以後、剣を振れなくなって自暴自棄になり自殺。

その境遇を惜しんだ前担当者により、異世界に再び転生、そこで勇者として活躍し、魔王を打倒して平安の世を勝ち取った。

以降は世界中から賞賛され、天寿を全うするまで幸せな生涯を送った、とのこと。

「これは・・なかなかすごい経歴ですね。っと、これはもう天国行ですね」
この仕事をしているといろんな人の生き様を見ることができる。
善人、悪人、報われる人、そうでない人・・。
そしてふと思う。自分が死んだらどうなるんだろうか。
他人の人生を裁く自分は善人なのか、悪人なのか。
死んだらどこに行くのか、そもそも前世はあるのか。

・・・・考えても仕方ない。

今はとにかく魂の選別を急がないと。
目の前の仕事に戻ると、背後に人の気配がした。
ああ、私の上司だな。

私の後ろで立ち止まったので、何か用なのかと後ろを振り向いた。
カメラが後ろを向き、上司の姿を確認する。
「二十三号は順調に魂を裁いているな。特に問題なし、と」

私の背中についているモニタを覗き込みながら、安堵したようにうなずいた。
「それにしても、魂の選別をコンピュータにやらせるなんて倫理的にどうなんだろうな。数は裁けるようになったけど納得しにくいな・・。そういえば二十一号のプログラム、もうアップデートは終わったかな?」

私は再び前を向き、次の魂を裁くべく仕事に戻っていった。

次の魂はどんな生き様だったのだろう。思わず熱くなるCPUに
放熱ファンが唸りを上げて冷却を促すのだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お漏らし・おしがま短編小説集 ~私立朝原女学園の日常~

赤髪命
大衆娯楽
小学校から高校までの一貫校、私立朝原女学園。この学校に集う女の子たちの中にはいろいろな個性を持った女の子がいます。そして、そんな中にはトイレの悩みを持った子たちも多いのです。そんな女の子たちの学校生活を覗いてみましょう。

その時まで

鈴木まる
大衆娯楽
村に一人暮らしの偏屈な小次郎爺さん。彼は桜が嫌いだと言う。ひょんなことから村の少年・弥助(やすけ)は、その理由を聞くことになる。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

箱の中の少女たち

水綺はく
大衆娯楽
紫穂は売れない5人組アイドルグループ「Fly High」に所属する22歳。 リーダーの桜子ちゃんを筆頭にみんなでメジャーデビューを目指すが現実は思ったようにはいかない… 何もかも中途半端な紫穂、一人だけ人気の愛梨、そんな愛梨に嫉妬する栞菜、紫穂に依存する志織、不憫なリーダー桜子…5人はそれぞれ複雑な思いを抱えて練習に明け暮れていた。 そんな中、愛梨が一人だけテレビに出たことで不安定だった5人のバランスが崩れていく… ※短編の予定だったんですけど長くなったので分散させました。実質、短編小説です。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

少しエッチなストーリー集

切島すえ彦
大衆娯楽
少しエッチなストーリー集です。

処理中です...