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五 褐色の肌、黒い髪、まっすぐな眉、尖った顎

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 先ほど園芸部の話をしたが、この日の翌日は、ちょうど花の入れ替えだった。あたしは園芸部の子の教えるままに、毎日水を入れ替えて水切りをし、花瓶にコインを入れて水の状態を良くするよう努めたりしたので、花は結構生き生きとしている。この日は白い小手毬の花に代わって、黄色いキンポウゲを持ってきてくれたのだが、持ってきた人が違った。いつもは同じクラスのちびのリューダがやってくる。花を抱えてるんだか、花に彼女が抱えられてるんだかわからないくらい小さい女の子だ。でもこの朝は。この朝はあたしと同じくらいの歳の、たおやかな少女が来たのだ。まだクセニアがベッドで丸まっている時分に、バスケットにキンポウゲ以外の野の花もたくさん入れてやってきた。リューダは風邪でも引いているのだろうか。
 女の子は窓辺で先週来の小手毬の状態を確認すると、大切そうにそれをもう一つのバスケットに置いた。それから今朝摘んだキンポウゲを花瓶に生けていく。花瓶の中のキンポウゲは日差しを浴びて、つんと伸びている。あたしは女の子の丁寧な手つきや、首筋の白い産毛がキンポウゲと同じように日差しを浴びて光る輪郭を描いている姿に見ほれた。
 その子の外見は、あたしが昔知っていた男の人、なんと海賊の首領、にとても似ていた。あたしは今よりもっと若いころ、あたしの魔女の血筋を見抜いた海賊に誘拐されたことがある。
 誘拐、これはもう、姫君の宿命のようなものかもしれない。こう言うと物語のようにロマンティックに感じられるが、実際のところ、海賊というのは不潔で、物語とはずいぶん違った。がさつですぐに殴るし、お風呂に入れないから臭いもする。あたしも最初は閉口したが、そのうち気にしなくなった。長いこと船にいるんだから、仕方ないじゃないか、と。海賊には怖い人もいたが、優しい人もいた。首領はなんとなく怖い方の分類だったが、若く、たくましく、しなやかで、人を引き付ける魅力のようなものがあった。
 女の子の褐色の肌、黒い髪、まっすぐな眉、尖った顎はすべてその首領と共通していた。首領も陸では結構恋の浮名を流したようだから、落としだねの一人かもしれない。先ほど窓辺まで歩いていったときのふわりとした残り香さえ、あの懐かしい甘い椰子の香りがした。あたしはめまいを感じた。
 あたしの視線を感じたのか、彼女はこちらに顔を向けた。あたしはきれいな花ね、と言って会話の糸口を見つけたかったが、うまく言葉が紡げない。ただ無遠慮な足取りで彼女のそばまで行くと、やはり椰子の香りがするので、慌ててキンポウゲに鼻を寄せ、おもいっきり花の香りを吸い込んだ。
 女の子はくすっと笑った。そうして、
「食べちゃだめよ。キンポウゲには毒があるから」
 と言って、さらりと髪をたなびかせて部屋を出て行った。
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