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第四章 皇都グラウデリアへ
#14 悪寒の先に
しおりを挟む風呂上がり…俺なりに死力を尽くして皆の猛攻を耐え切り、風呂に入って疲れを癒やすはずが何故か逆に疲れ果ててしまったというあべこべな入浴を初体験した後、夕食までご馳走になってしまった。
俺がこんなに疲弊してるのに、何故か皆は充足感と歓喜に満ちた顔で晩餐を楽しんでるし。
リオだけはやっぱり表情変わってなかったけど、充足感だけは纏った雰囲気で何となく分かったよ…。
ちなみに魔力まで使ったからステータス変わってるんじゃ?と思ってアコに聞いたら、
[《能力値》
魔力:気持ち減ったんじゃないかな?かな?]
とか返ってきた。
いい加減ツッコむのもどうかと思ったんだけど、条件反射でツッコんでしまったら、[仕様です]って返されたよ…。
けど、俺はイレギュラーらしいからもうどうしようもないんだよな、きっと。
そう思ってそれ以上ツッコむのは諦めた。
九つ鐘が鳴って一時間後くらいに俺達はお暇した…元の世界の時間で夜8時くらいのはずだから結構な時間お邪魔してた事になる。
ゲシュト様とかは全然気にしてないみたいだったけど。
明日の件をよろしくお願いされて、俺達全員公爵家を後にした。
弘史達とは泊まってる宿が違うから途中で別れて、俺達は全員でメルさんの宿へ。
何で全員かというと、今朝マールが四人部屋から六人部屋に移るようミルに言って手配したそうだ…いつの間にそんな事してたんだか。
だから今日はラナとリズも宿に泊まれるってわけだ。
またメンバー会議でも開くんだろうか…いや、別に楽しそうだなぁとか、俺も入れて欲しいとか、ちょっと寂しいなぁなんて思ってないよ?ミドリムシサイズくらいしか。
そんなこと考えながら皆のちょっと後ろに付いて歩いていたら…ふと視界の端に人影が入り込んできて、何気無くその人影を視界に入れようと顔を向けたら……四人程で歩いてる固まりを見付けた。
何となく気になって暗いながらもよく目を凝らして見てみると、男一人と女性三人のグループらしい。
その女性の内の一人が、ファルに良く似てる…っていうか、ファル本人じゃないか?あれ。
それに男の方は…スーツ姿の男だったから、今朝情報開示局ですれ違った漂流者っぽい気がする。
何だろ?こんな時間まで仕事してるんだろうか…いや、でも他の人も居るしそれはないか。
とか思ってる内にそのグループは建物と建物の間の脇道に入っていって見えなくなった。
「ナオ、どないしたん?」
前を歩いてたシータが後ろに振り返って、あらぬ方向を見てた俺にどうしたのかと尋ねてきた。
「ん?あぁ、いや、ちょっと知ってる人っぽいのを見掛けて」
「知ってる人?」
「うん、ファルに似た人」
「ふーん…どこ?」
「いや、もう見えなくなった」
「この時間なら仕事帰りに一杯やってたんかな?」
「そうかもな…」
暗かったし、はっきりファル本人と断定出来たわけじゃないからな…まぁ、相手が漂流者ってところはちょっと気になるけど、大丈夫だよな…?
「どーしたのよー二人とも。置いてっちゃうよー」
シータと話してて歩く速度が落ちてたらしく、前を行く皆と少し距離が空いてたっぽい。
リズが気付いて俺達を呼んでくれたから少し早歩きで皆に追い付いて、そのまままた宿への道を進んで行った。
メルさんの宿に着いて、皆はマールが取り直した部屋へ移動したんだけど、俺も六人部屋が気になったから少しだけお邪魔することに。
流石に六人部屋だけあって、かなりの広さだった…ベッドは三つ、三人掛けのソファー二対とテーブル、それにドレッサーと収納棚まで付いてて…長期滞在用なんだろうな、きっと。
姫達の荷物も元の部屋から運ばれてたみたいで、部屋の片隅に固めて置いてあった…そこまで頼んでたのかマールは。
サラッと部屋の中を見せてもらって俺はすぐ自分の部屋へ戻り、着の身着のままベッドの上にゴロンと横たわったんだけど、何かこう、ザワザワというか、落ち着かなくて妙に心臓がドキドキする感じがさっきから…ファルっぽい人を見掛けてからずっとしてる…。
これ、昔同じ様な感じになった記憶があるんだけど…いつだったか。
………あ、思い出した。
というか、思い出したくなかった……。
高校時代から付き合ってた彼女と、親友と一緒に卒業後田舎から同じ都市に出て来て、皆それぞれ違う大学、専門学校に通ってた頃…殆ど高校の延長で三人つるんでよく遊んでたんだけど、半年くらい経ったある日、学校帰りに親友の家に行こうとチャリで向かったら留守で、俺の彼女の所にでもいってるんだろうかと思って、あの頃は当然スマホなんて無くて、携帯もまだ普及してなかったから近くの公衆電話を使って電話したら、親友は来てないって言われて…。
じゃあ今日はいいやって真っ直ぐアパートに帰ろうとしたんだけど、何となく帰り道ついでに彼女のマンションに寄ったら、彼女の自転車の隣に親友の自転車が置いてあったのを見ちゃって…。
嫌な予感がして彼女の家の近くにある公衆電話から、もう一度彼女に電話して親友のことを聞いたらやっぱり居ないし来てないって言われた。
それならこの自転車の意味は…って、それを確かめたくて、行くことも伝えず彼女のマンションの部屋へ行って持ってた合鍵でドアを開けて中に入ったら……。
そうだ、あの時電話で彼女に嘘付かれたことを知った時の焦りと不安と不信と怒りと…いろんなものがごちゃまぜになった感じと似てる…。
何で今その感じがするのかは全く分からないけど、でもこの感じが良くないってことだけは何となく分かる。
ダメだ、一度こうなったら確かめないと絶対落ち着かない、確かめた後のことはその時考えればいい…あの時と同じ感じはするけど状況は全く違うんだから、立ち直るようなことをしなくちゃいけない、なんてことにはならないはず…。
居ても立っても居られなくなった俺はベッドから飛び起き、さっきファルらしき人を見掛けた場所まで転移した。
―・―・―・―・―・―・―・―
転移してきた俺はまずファルの居場所を確かめようとアコに訊ねた。
アコ、ファルの居場所は分かるか?
[対象者:ファルシェナの位置をマップ上点滅表示]
マップを確認してみると、さっき消えていった脇道の更に先、建物の隙間を縫うように右へ左へを何回か折り返し曲がった所にある建物の中に居るらしい。
マーカーは点滅してるファルのやつも含め4つ、2つはファルから少しだけ離れた位置に、残りは…点滅してるファルのマーカーとほぼ重なっていて…。
激しい焦燥感と悪寒が一気に駆け上り、考えるより先に脚が動き出していた。
表示されてる場所に辿り着くと、そこは如何にもな安宿で、セキュリティなんて微塵も感じさせない建物に見える。
とは言ってもまともに正面から入って誰かに見つかるとそれだけで手間だし、とにかく急ぎたかったからここは闇黒魔法を頼る事にした。
(〔影躯隠〕)
[闇黒魔法・影躯隠(笑):自身の姿を、気配を含め全て闇影に隠す]
姿と気配を完全に隠し、正面ドアから堂々と中に入り目的の部屋へ一直線に向かう。
受付カウンターには誰も居らず、部屋に向かうまでの階段や廊下でも誰にもすれ違ったりしなかったから、姿を消す必要は無かったかもしれない。
部屋の入口まで来て影躯隠を解除した後、ドアを開けようとしたら、当然の如く鍵が掛かっていた。
鍵開けなんてスキルは勿論持ってないから力技でドアを開け、部屋の中に飛び込んだら──
──部屋の隅に下着姿で立ったまま震えている女性が二人、そして…ベッドの上に仰向けに横たわっている裸の男の上に何も身に着けず跨り、今まさに腰を下ろそうとしているファルの姿があった。
「っ!?誰だっ!お「〔影操縛〕っ!!」」
男が部屋に入って来た俺に向かって誰何してきたのを遮り、問答無用で闇黒魔法を使う。
[闇黒魔法・影操縛(笑):自身の影を自在に操り、対象をその影で絡め縛る]
俺の影が一直線にファルへ向かって伸びていき、ファルの身体に黒い蛇の如く絡み付く。
その影をファルに絡め付けたまま、男の上から引き剥がすように俺の元まで引き戻す。
引き戻したファルを抱き止めて顔を見ると…涙の跡が頬に残っていて、ファルも悲痛を浮かべたまま俺を見上げ、俺だと分かったんだろう、か細い声で名前を呼んできた。
「ナ…ナオト、様……」
アコっ!原因と状態表示!!
[現在の状態および原因を表示]
【ステータス】
《識別》
名前:ファルシェナ
状態:隷属(強制)
《識別》
名前:ウェナヴェナルーチェ
状態:隷属(強制)
《識別》
名前:滝 優里香
状態:隷属(強制)
《識別》
名前:吉澤 和昭
《技能》
固有:隷属使役(↓)
っ!?フッざけんなっ!
お前は同じ人間を無理矢理使役すんのかよっ!自分の欲望の為だけにっ!
しかも同じ漂流者までいるじゃねーかっ!!
んなことに使ってるから効果ダウンしてんじゃねーのかっ!あぁっ!!
お前みたいな奴が持ってていいスキルじゃねぇぇ!!
「おっ、お前達っ!そいつを「煩ぇっ!〔封闇陣〕っ!!」なっ、何だっ!?」
ベッドの上で上半身だけ起こしてきた男─吉澤に掌を向け闇黒魔法を放つ。
俺の掌から黒い闇が吉澤に向かっていき、それが吉澤の身体の中へ吸い込まれるように消えていった。
[闇黒魔法・封闇陣(笑):対象と定めた、如何なるものをも闇に封じる。封じられたものは如何なる方法でも闇を払う事は出来ず、封印を施した者以外には解除不可能]
[対象のスキル封印・状態解除を確認]
【ステータス】
《識別》
名前:吉澤 和昭
《技能》
固有:〔封〕隷属使役(✕)
《識別》
名前:ファルシェナ
状態:疲労(肉体・精神)
《識別》
名前:ウェナヴェナルーチェ
状態:疲労(精神)
《識別》
名前:滝 優里香
状態:疲労(精神)
「お前のそのスキル、もう使えねぇからなっ!こんな使い方したんだ、自業自得だと思えっ!」
「なっ!?そ、そんな…バカな……」
ぶつくさ言ってベッドの上で呆然としてる吉澤を無視して、俺はファルを抱いたまま残りの二人に近付き、有無を言わさずファルと同じ様に纏めて腕の中に収めてこの場から転移した。
―・―・―・―・―・―・―・―
「でねっ、その時ナオトがさー…」
シュンッ!
転移先は皆の部屋にした…あんな事があってまた同じように男といるより、絶対同性といた方がいいと思ったから。
「うおあっ!?なっ、何だよいきなり……って、ファルっ!?どうしたっ!!」
「ウ、ウェナまでっ!?」
「えっ!?ユリカさんも…っ!?」
いきなり現れてきた俺達に皆はそれぞれ驚いていたけど、まずは彼女達をどうにかしないと、と思って空いてるベッドのシーツを剥ぎ取りウェナと優里香さんの二人に纏めてそれを掛けてあげて、ファルにはダルクダージュだけパージして、ブラウシェーダのロングコートを脱いで、それを掛けてやった。
三人をそのまま空いてたベッドに座らせて、俺は……
「三人共、済まないっ」
…とにかくまず頭を下げた。
「…ナ、ナオト…様……?」
「…ど、どうして、お兄さんが、謝る、の…?」
「…俺も、アイツと同じ…漂流者だから……」
「…ですが、貴方は私達を救けてくださいました…。私は、この世界に来ても、また同じ様に幸せを奪われるのかと……うぅぅ………」
そう言って優里香さんが嗚咽を漏らし始めた。
それにつられるようにファルやウェナも涙を零し始めた…。
泣き始めた三人に、ファルにはシータが、ウェナにはマールが、そして優里香さんにはラナが、それぞれ傍に寄っていく。
何かあったのは一目瞭然、聞きたいことは山ほどあるだろうけど、それより泣いている彼女達を放っておけず傍に寄り添ってくれる彼女達のその優しさに、俺も救われたような気がした…。
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