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(16)取り敢えず親密度を★2にしたい男⑦ 映画館行きのプレのプレ
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「ケイトさん!」
隠し部屋からフロアに戻ったケイトにジョルジオが駆け寄った。つい10分前くらいとは思えない下がり切ったテンションで俯いたままのケイトが心配でならない。
「大丈夫ですか!?変な事されませんでしたか!?」
ケイトが首を横に振る。
「何かあったら俺が締めますから」
「……なにも」
「?」
「何もないと言えば何もない様な……」
俯いたまま額に手を当てる。
「……ちょっと情報過多な様な…ううん、何でもない」
目を閉じて溜め息を吐く。
正面に向き直ったところでジョルジオの視線の先にある物に思い当たる。
「これ?これくれるって、店員さんが」
「怪しいですね」
「ははっ、ジョルジオ君、あの店員さんに厳しいんだね。何かあったの?」
「いえ、別に。強いて言えばあの店員は人の探し物を丁寧かつ親身になって探してくれる良い店員さんですが、それは自分の好きな分野だけで、客の興味が自分の好物と一致すると否や職務を忘れてしまうんだそうで、困った経験があった人に注意しろとアドバイスを受けてましたから。それで」
「興味の対象が勇者なんだね」
「みたいです。で?それは」
「ああ、なんかね、先代勇者公認の小説だって」
「危険物ですね、ケイトさん、捨てましょう」
「ジョルジオ君。読んだ事があるんだね?」
「いいえ?あの店員のお勧めは絶対ヤバい奴ですよ!」
「決めつけは良くないよ。君の警戒感的に、むしろ読んでみたい」
「止めましょう止めましょう」
ちょっと見るくらいなら、とケイトが紙袋から本を取り出した。
表紙はイラストではなく無地の紙に金色の箔押しでタイトルが印刷してあるだけのシンプルなもの。けれど落ち着いた上品さが感じられる装丁である。
「イラストじゃないよジョルジオ君」
「……そうですね」
「で帯が…」
文面を読んでケイトは閉口した。
"勇者公認真実のラブストーリー!困難を乗り越えた先にあった激愛"
なんか有りがちな文章。
公認て。
真実て。
正直、購買意欲を刺激されないのだけど。
頭を抱えるケイトの後ろに例の店員が立つ。
「笑え…いえ、感動作ですので差し上げました~」
「余計な事を」
何故かジョルジオが怒る。
「要らなければ、どうぞ返しにいらして下さい~。お待ちしております~」
「返しに来るけど君には会わないぞ」
「候補者様が先代様みたいに気が短くなくて大変よろしゅうございました~」
「………何かあったんですか?伝説ですか?」
「先代様は内緒ですが本棚と店舗の壁をふっ飛ばして騎士団にしょっ引かれました~。あれ~また口が滑ってしまいましたけど、お客様の問い合わせに応じただけですからね~」
絶対、先代に恨みがある。
ケイトは確信した。
「ケイトさん、そろそろ行きませんか?」
「あ、そうだね、御免ね俺のせいで」
「。…謝らなくてもいいです、全然」
「またのお越しをお待ちしております~」
笑顔の店員をジョルジオが軽く睨みケイトの肩を抱いて、そそくさと勇者本コーナを後にした。
「本当に何もされませんでしたか?」
「………ジョルジオ君、何か怒っている?」
「いいえ!でもケイトさん、ほっとくと変な勧誘とかに引っ掛かりそうで…」
「あ、会員になりませんかとは言われたけど」
「!まさかサインを」
詰め寄るジョルジオに笑いながらケイトが手を振る。
「ない」
「良かった」
「でも面白い人だったから、また会ってみてもいいかも」
「止めて下さい」
「何でそんなに嫌うんだい」
ははは…とケイトが朗らかに笑った。
******
ケイトさんには教えてないから仕方無いんですけど、あいつは魔族の一員です。なので"会員申込書"なる何の会員なのだかそもそも怪し過ぎる会の、得体の知れない紙にサインなぞさせられたら何が身に降り掛かるか分かったもんじゃないものにサインしなくて本っ当に安心しました。良識あって良かった。程度は知れませんが十中八九、契約書でしょう。奴等は同じ魔族でもホイホイ罠に掛けるらしいです。気付かない阿呆が大昔いたと勇者様が言ってました。何でしょう、経験あるんでしょうかね?
奴等は遥か昔、このダンジョンが生まれてしばらくしてから住み着いた奴の末裔です。何故だか勇者に興味を示して店員の振りをして勇者本を布教する意味不明の存在です。奴等は止まらないので出版側を止める方を先代は選びました。それでなくても当時は勇者フェスティバルというかカーニバルというか人々の熱狂に便乗して勇者本が出版されてしまい、個人的な検閲が間に合わなくて帰れなくて先代の怒りは針がメーターを振り切りました。振り切って、ぶっ壊れました。修復不可でした。それで大陸裁判所の出番でした。
その後、伴侶さんとのデートにこぎ着けた先代は、訪れたこの書店のこのコーナで伴侶さんが店員の話に首を突っ込み…いえ、ある意味拉致られてしまい、ここでもブチ切れて本棚と店舗の壁をふっ飛ばしてしまいました。妻の為に、と騎士達に言い張りましたが言ったからといって罪は免れません。当の伴侶さんに『赤の他人です店舗破壊と器物損壊の犯人です。関係有りません』と言われた先代は事情聴取の為に連行されて行ったそうです。『夫を売るのか!?』と叫んだとか、叫ばなかったとか。
大昔の話です。
ジョルジオ青年・談
隠し部屋からフロアに戻ったケイトにジョルジオが駆け寄った。つい10分前くらいとは思えない下がり切ったテンションで俯いたままのケイトが心配でならない。
「大丈夫ですか!?変な事されませんでしたか!?」
ケイトが首を横に振る。
「何かあったら俺が締めますから」
「……なにも」
「?」
「何もないと言えば何もない様な……」
俯いたまま額に手を当てる。
「……ちょっと情報過多な様な…ううん、何でもない」
目を閉じて溜め息を吐く。
正面に向き直ったところでジョルジオの視線の先にある物に思い当たる。
「これ?これくれるって、店員さんが」
「怪しいですね」
「ははっ、ジョルジオ君、あの店員さんに厳しいんだね。何かあったの?」
「いえ、別に。強いて言えばあの店員は人の探し物を丁寧かつ親身になって探してくれる良い店員さんですが、それは自分の好きな分野だけで、客の興味が自分の好物と一致すると否や職務を忘れてしまうんだそうで、困った経験があった人に注意しろとアドバイスを受けてましたから。それで」
「興味の対象が勇者なんだね」
「みたいです。で?それは」
「ああ、なんかね、先代勇者公認の小説だって」
「危険物ですね、ケイトさん、捨てましょう」
「ジョルジオ君。読んだ事があるんだね?」
「いいえ?あの店員のお勧めは絶対ヤバい奴ですよ!」
「決めつけは良くないよ。君の警戒感的に、むしろ読んでみたい」
「止めましょう止めましょう」
ちょっと見るくらいなら、とケイトが紙袋から本を取り出した。
表紙はイラストではなく無地の紙に金色の箔押しでタイトルが印刷してあるだけのシンプルなもの。けれど落ち着いた上品さが感じられる装丁である。
「イラストじゃないよジョルジオ君」
「……そうですね」
「で帯が…」
文面を読んでケイトは閉口した。
"勇者公認真実のラブストーリー!困難を乗り越えた先にあった激愛"
なんか有りがちな文章。
公認て。
真実て。
正直、購買意欲を刺激されないのだけど。
頭を抱えるケイトの後ろに例の店員が立つ。
「笑え…いえ、感動作ですので差し上げました~」
「余計な事を」
何故かジョルジオが怒る。
「要らなければ、どうぞ返しにいらして下さい~。お待ちしております~」
「返しに来るけど君には会わないぞ」
「候補者様が先代様みたいに気が短くなくて大変よろしゅうございました~」
「………何かあったんですか?伝説ですか?」
「先代様は内緒ですが本棚と店舗の壁をふっ飛ばして騎士団にしょっ引かれました~。あれ~また口が滑ってしまいましたけど、お客様の問い合わせに応じただけですからね~」
絶対、先代に恨みがある。
ケイトは確信した。
「ケイトさん、そろそろ行きませんか?」
「あ、そうだね、御免ね俺のせいで」
「。…謝らなくてもいいです、全然」
「またのお越しをお待ちしております~」
笑顔の店員をジョルジオが軽く睨みケイトの肩を抱いて、そそくさと勇者本コーナを後にした。
「本当に何もされませんでしたか?」
「………ジョルジオ君、何か怒っている?」
「いいえ!でもケイトさん、ほっとくと変な勧誘とかに引っ掛かりそうで…」
「あ、会員になりませんかとは言われたけど」
「!まさかサインを」
詰め寄るジョルジオに笑いながらケイトが手を振る。
「ない」
「良かった」
「でも面白い人だったから、また会ってみてもいいかも」
「止めて下さい」
「何でそんなに嫌うんだい」
ははは…とケイトが朗らかに笑った。
******
ケイトさんには教えてないから仕方無いんですけど、あいつは魔族の一員です。なので"会員申込書"なる何の会員なのだかそもそも怪し過ぎる会の、得体の知れない紙にサインなぞさせられたら何が身に降り掛かるか分かったもんじゃないものにサインしなくて本っ当に安心しました。良識あって良かった。程度は知れませんが十中八九、契約書でしょう。奴等は同じ魔族でもホイホイ罠に掛けるらしいです。気付かない阿呆が大昔いたと勇者様が言ってました。何でしょう、経験あるんでしょうかね?
奴等は遥か昔、このダンジョンが生まれてしばらくしてから住み着いた奴の末裔です。何故だか勇者に興味を示して店員の振りをして勇者本を布教する意味不明の存在です。奴等は止まらないので出版側を止める方を先代は選びました。それでなくても当時は勇者フェスティバルというかカーニバルというか人々の熱狂に便乗して勇者本が出版されてしまい、個人的な検閲が間に合わなくて帰れなくて先代の怒りは針がメーターを振り切りました。振り切って、ぶっ壊れました。修復不可でした。それで大陸裁判所の出番でした。
その後、伴侶さんとのデートにこぎ着けた先代は、訪れたこの書店のこのコーナで伴侶さんが店員の話に首を突っ込み…いえ、ある意味拉致られてしまい、ここでもブチ切れて本棚と店舗の壁をふっ飛ばしてしまいました。妻の為に、と騎士達に言い張りましたが言ったからといって罪は免れません。当の伴侶さんに『赤の他人です店舗破壊と器物損壊の犯人です。関係有りません』と言われた先代は事情聴取の為に連行されて行ったそうです。『夫を売るのか!?』と叫んだとか、叫ばなかったとか。
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ジョルジオ青年・談
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