坂路の恋戦

竹田勇人

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~夏の陣~

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それから半年後、何事も無く春休みが終わり、明日から夏休みと言うところまで来た夏の暑い日のことだ。
白井「おはよう!学。ついに明日から夏休みだよ!お祭り行って、花火見て、海水浴にも行きたいね。そのあとは、学と甘い夜を…」
学「だ・ま・れ」
白石「でも、確かに楽しみですね。海とか、みんなで行きませんか?小学部のみんなも誘って」
敷根「それいいね。俺らがいれば泊まりでも良いんじゃないの?」
縞大路「良いですわね。私も家にばかりいると執事やお父様が五月蝿くて仕方がありません。」
敷根「大変なんだなぁ。お嬢様も。」
フラン「私も日本の海水浴場は行ったことがありまセーン。行ってみたいのねー。」
白井「じゃあさ、みんなで行こうよ。学は愛南ちゃん達を誘ってみてよ。」
学「了解!聞いておくよ。」
先生「今日は午前授業だ。短いからしっかり集中しろよ。」
    授業は午前中でしかも夏休みの宿題や注意ばかりで授業らしい授業は特に無かった。さっさと終わらせて帰りに小学部の教室に寄った。
河村「あ!学お兄ちゃん!久しぶり!」
千早「本当だ!こんにちは」
名取「どうしたの?珍しいね、愛南ちゃん!お兄ちゃんきたよ。」
学「今日はね、中学部のみんなで海水浴に行くからみんなも誘いに来たんだよ。」
千早「海行くの!?港じゃ無くて、砂浜のある海に行くの?」
学「そうだよ!」
河村「やったー!行く!」
学「じゃあみんな、お父さんかお母さんに話しておいてね。」
河村、千早、名取「はーい!」
学「じゃあ、愛南。帰ろう」
愛南「うん、じゃあね」
名取「バイバーイ」
    俺は愛南と一緒に教室を出た。相変わらずあまり話さないが、あの半年前のこと以降少しは話すようになった。
愛南「ねぇ、お兄ちゃん。私、去年の水着着れないんだけど。」
学「あぁ、忘れてた。俺も着れないかもな。明日みんなで買いに行くか。」
家に帰ってクラスメイトに電話をして行った。縞大路とフランと敷根はあるみたいだったから後は白井と白石だけだ。
白石「もしもし、どうしたんですか?」
学「あのさぁ、海水浴の事なんだけど、明日愛南と水着買いに行くんだけどもし良かったら行かない?白井も来るかもしれない。」
白石「水着ですか?すっかり忘れてました。そういえば、もう着れないと思います。良いですね。何時集合ですか?」
学「街に出るから10時に駅集合。」
白石「分かりました。じゃあ、また明日。」
学「うん、また明日ね。」
    そう言って電話を切った。次は白井だが、嫌な予感しかしない。
白井「もっしもーし!琴葉でーす!」
学「もしもし、俺俺」
白井「あれ!?もしかしてオレオレ詐欺!?ついにうちにも来たか」
学「分かってるだろ。明日水着買いに行くけど、行くか?」
白井「水着?そんなに私の水着姿がみたいの?もーう、ケダモノだなぁ。」
学「あのなぁ~、白石と愛南も一緒だよ。」
白井「未央ちゃんと愛南ちゃんも、ってことは、私も入れて水着の4Pで挿れまくるつもり?」
学「いい加減にしないと電話切るよ。」
白井「あぁ!ごめんごめん。冗談だから!行くよ。」
学「お前は冗談をもう少し自重しろよなぁ。明日は10時に駅集合だから。遅れるなよ。」
白井「まっかせといて!」
学「じゃあな、おやすみ」
白井「おやすみ!これから私は学を思いながら…」
    またしょうもないことを言いそうだったから最後まで聞かずに電話を切った。
学「愛南!明日は白井と白石が来るって。」
愛南「本当!?楽しみ」
    そういえば、愛南と出かけるのは久しぶりだ。でも、買い物の内容が、水着を買いに行くのに男一人ってのはどうにも落ち着かない。次の日、予定通り駅に行った。白石は来ていたが白井はまだだった。
白石「おはようございます。学さん、愛南さん」
学「おはよう。白井はまだ来てないのか。遅刻しないといいけど」
    それから五分後、白井の姿が見えた。何時も通り、Tシャツにミニスカートだ。
白井「ごめん!待った?」
学「そうでもない。珍しいな、時間通りに来るなんて。」
白井「今日はね~、すっごく楽しみだったんだよ!学が試着中に強引にあんな事やこんな事を…」
愛南「お兄ちゃん。ダメ!」
学「お前なぁ、誤解されるような事言うなよ。愛南も気にしなくていいから」
   そう言って白石と前を歩いて電車に乗った。
愛南「お兄ちゃん…」
白井「愛南ちゃん、未央ちゃんに学の隣を盗られて妬いてるの?」
愛南「な、何が、別に、ど、どうして」
白井「愛南ちゃんわかりやすいなぁ~、大丈夫。私も同じ気持ちだから。」
愛南「本当ですか?」
白井「うん、私も学の事大好き。だから、お互い頑張ろうね。」
愛南「…はい!」
学「おーい、何してんだ?行くぞ」
    俺はホームで話している白井と愛南を呼んだ。何の話をしていたのか、そう思っていると白石さんが呼びに行ってくれた。
    学さんはホームで話している二人の会話が分かっていないみたいだったけど、私にははっきり聞こえた。うっかり、そっちに行ってしまった。学さんはただ呼びに行っただけだと思ってくれたみたいだから呼んだ後に二人の耳元で小さく行った。
白石「早く行きますよ。それと、学さんは渡しませんからね。」
    二人は呆気に取られたような顔をしていた。今はそれで充分。今は…
    電車では席が3つしか空いてなくて、俺は立っていようと思ったが、愛南がいつも通りがいいと言ったから俺も座って愛南を膝に乗せた。愛南楽しそうにしていたが、俺は同級生もいた手前、少し恥ずかしかった。
    さっきの白井さんや、白石さんまで気があった事は驚いけど、それだけモテるお兄ちゃんを独り占めできるのはこの上なく嬉しかった、膝の上に乗って見せたのも、あの二人に宣戦布告をしようとしたのもある。おかげで二人は少し妬いたみたいだ。白井さんには悪いけど白石さんが嫉妬していたのは仕返しができた気分でちょっとだけ嬉しかった。
    始めはシーンとしていたがだんだんみんな話すようになってきた。このままだと俺もやりずらかったけど、みんなが話してくれれば俺も適当に買い物が出来そうだ。電車を降りて街のショッピングモールに入った。気がつくと愛南が手を俺と絡めていていつもよりちょっと距離が近い気がしたけど、きっと大きい街に来て不安なだけだろうとさして気には止めなかった。
    電車を降りてショッピングモールに行く途中の信号からお兄ちゃんと手を繋いで、いつもより身体を近づけた。さっきからお兄ちゃんの鼓動が速くなってるのが分かったからきっとお兄ちゃんも気付いてると思う。
    未央ちゃんはいっつも話してるし、愛南ちゃんも膝に座ったり、今も手を繋いで身体を学の方に寄せている。二人とも自然と近づいてるのに、私だけ何もできてなかった。私はこの中なら一番胸があるから愛南ちゃんみたいに身体をくっつければ胸を当てたりも出来るけど、いつもそんな事しない私がそんな事したら怪しまれるし不自然。何か出来ないかと悩んでいた。気がつくとショッピングモールの水着屋に着いてて、いい考えが思いついた。
    今日は愛南は近いし、白井は何か考え事をしていたみたいで少しいつもと違った。夏休みに入ったからか、それとも街に出て浮かれてるのか、それぐらいしか思いつかなかった。自分の水着を選んでなんとなく見て回ってると、試着室から白井の声がした。よく考えたら白井の着替え中に呼ばれた通り行くのは迂闊だった。
白井「学!ちょっと来て。どうかな?」
学「ん?どうした?」
試着室に近づくとカーテンの隙間から手が伸びて引きづり込まれた。中に入るとオレンジ色のビキニを着た白井が胸を寄せて立っていた。
学「痛って、何!?っつかなんでそんな態勢?」
白井「学は本当に落ち着いてるね。こんなに胸寄せてるのに勃たないって、もしかして不感症?」
学「五月蝿えなぁ。誰かさんのおかげでいい加減なれたよ。それより、可愛いじゃん、その水着。よく似合ってるよ。」
白井「え!?本当!?じゃあこれにしよっと」
学「じゃあ、外で待ってるよ。」
    学が外に出て行った後、急激に顔が赤くなっていくのが分かった。学が、私の事を見て可愛いって言ってくれた。半分冗談のつもりで着た水着だけど、そう言われたら海で着てみたくなった。そのまま決めてしまった。自分しか言われていないであろう事を言われてすっかり上機嫌になった。
    やっとみんな買い終わって出てきた。白井の水着しか見ていないが、思ったよりも可愛くて少し赤くなってしまった。とにかく、みんなでお昼を食べてから帰る事になってご飯屋に入った。オーダーを済ませたあと、親に連絡するために、1回店を出た。
    お兄ちゃんが店を出たあと、私達は近況報告をした。
白石「やっぱり二人も学さんの事を好きだったんですね。」
白井「私もよく話してるとは思ってたけど、未央ちゃんが好きだったのはビックリだったよ。」
愛南「私は、いいんですかね?妹なのに…」
白井「いいんだよ。だって好きなんだから。でもいいなぁ。愛南ちゃんは妹だからずっと一緒にいれるし、さっきみたいに甘えてもいいもんねぇ」
白石「私も…もっと学さんに甘えられたら」
白井「そっかぁ、未央ちゃんいっつも学といるけど、しっかりしてるから甘えたりしないもんね。じゃあさ、いっその事みんなで一緒に告白したら?」
白石「でも、そしたら学さんを悩ませる事になるんじゃ」
愛南「お兄ちゃん優しいからきっと誰か一人には決められないと思う。」
白井「だから、みんなで告白してみんなでフラれるの。そしたら誰も独り占めしないでみんなの学になるでしょ。」
白石「そうすれば、愛南さんは家では独り占めできて、琴葉さんは今まで通りスキンシップできて、私も好きなまま話ができて、みんな何も失わないでいられますね。」
白井「じゃあ決まりだね。抜け駆けは無しだよ。」
    俺が帰ってくると、みんなで話が盛り上がっていた。
学「何かあったの?楽しそうだね。」
白井「ん?な、なんでもないよ。」
    何だかいつもと違う気がしたけど、きっと踏み込まないほうがいいかと思いそっとしておいた。ご飯を食べた後は行き通り帰ってきたが、どこかみんな充実した様な顔だった。きっといい買い物が出来たのだろう。
    三日後、みんなで駅に集まって買い物に行った街の先の海岸線の町に電車に揺られ二時間半かかって着いた。朝が早かったせいか到着する頃には小学部の名取以外と白井が寝てしまっていた。白井と愛南はすぐに起きたが千早と河村が中々起きず、遂に河村は降車駅についても起きなかったからおぶって旅館まで連れて行った。
    やっと来た。私達の運命の日。白井さんや白石さんとの約束。なのに早速お兄ちゃんの背中を佐奈ちゃんに盗られてちょっと落ち込み気味。でもきっと他の小学部のみんなは学校の水着だろうから少しリードかな。
    10分くらい歩いて旅館に着いた。
学「10人で予約の平原です。」
女将「よく来て頂きました。お部屋は二階の一番奥です。ご飯は7時にお持ちします。では、ごゆっくり。」
    部屋に入ると、みんなのテンションが急上昇して寝ていた河村も目が覚めた様だ。
河村「あ!ごめんなさい、寝てしまって」
学「仕方ねぇな、朝も早かったし。ここなら海も近いから、早く着替えな。俺は外でてる。おい、敷根も出るぞ。」
そう言い残して部屋を出た。するとそこに女将さんが
女将「本日は何処からいらして?」
学「坂路町から、電車で。」
女将「それはそれは、お疲れ様です。彼女たちは家族か何かで?」
学「いいえ、学校の生徒です。俺の学校は小中合同で全校生徒10人ですから。」
女将「じゃあ、あなたは最年長ですか?」
学「まぁ、一応。ここはいい町ですね。坂路も港町ですけど、過疎で大変ですよ。」
女将「それはここも同じです。今は観光客で混んでいても、お盆を過ぎれば寂しくなってしまいますから。」
白石「もう、大丈夫ですよ。」
学「じゃあ、頑張ってください。」
女将「そっちも、色々と」
    俺は女将さんに軽く会釈をして部屋に帰った。
白井「何々?女将さんのこと誘ってたの?気が抜けないなぁ。」
学「んなわけないだろ。ほら、海行くんだろ?準備しろ。俺はその間に着替えるから。」
俺と敷根はみんなが浮き輪を膨らましに行ってる間に水着に着替えた。ちょうど着替え終わった時にみんなと合流して海に向かった。
白井「海だ!」
白石「久し振りですね。砂浜を見るのは。」
白井「ねぇねぇ!早く行こ!」
学「いいよ。俺もすぐ行くから先に行ってて。白石はみんなの事お願いね。」
白井「分かりました。」
    俺と敷根と縞大路は荷物を置くレジャーシートを敷いて荷物を整理してから海に行った。俺は白石達が心配だったから敷根と縞大路を残して先に行った。
学「俺は白石達の様子を見てくる。二人はゆっくりでいいから」
敷根「了解。気つけてな」
学「おう、また後で」
    学さん、良い所で抜けてくれました。今日の旅行の目的はただ楽しむだけではない。敷根さんに今までの想いを打ち明けないと。
縞大路「あの、今日は二人で行きませんか?私、泳ぐのが下手なので教えてもらいたいんですが。」
敷根「いいよ。じゃあ向こうの方でやろうか。」
    ありがとう。学。何を隠そう縞大路と二人にしてほしいと言ったのは俺だ。おかげで俺も気持ちが伝えられる。
    俺はあいつに言われた通り二人きりにした。きっとあいつの想いが実るといいが…
白井「どうしたの?なんか悩み?」
学「ん?なんでもないよ」
名取「平原さん!大変!白石さんが流された。」
そう聞いて沖を見ると白石が浮き輪に乗ったまま流されていた。間違いない。引き潮だ。気が付けばさっさと抜ければ問題は無いが、焦ると気が付かずそのまま戻ろうとする。それでは戻る事は難しい。早く助けなければ。
学「ちょっと行ってくる。白井達もここから離れた方がいい。危険だ」
白井「分かった、気を付けてね。」
愛南「一緒に行く!お兄ちゃんと離れたくない。」
学「…ありがとう。でも愛南の事危険には出来ない。絶対戻るから。待ってて」
    言ってくれたのは嬉しかった。でも、愛南を失うのは嫌だったからみんなといるように言った。早く助けに行かないと白石が危ない。親が漁師なのもあって泳ぐのは苦手ではなかった。
学「大丈夫か?落ち着け、今助ける」
白石「ありがとうございます。怖くて、どんどん流されていくし…」
    白石は泣き出してしまった。俺は思わず白石を抱きしめ、大丈夫と言い続けた。その間にも足を必死に動かして引き潮から抜けようとした。
    うっかり変な所に入って奥に流されてしまった。すぐに学さんが助けに来てくれて、安心したら涙が出てきて、そんな私を抱きしめて大丈夫と言ってくれた。怖いはずなのに、学さんの胸がとても安心して少し顔が赤くなった。
    しばらく漕いでやっとみんなの元へ帰った。安堵して白石を見ると、うつむいたままだった。
    学さんがみんなの元に戻してくれて、顔を上げようとしたら学さんと目が合いそうになってつい顔を落としてしまった。本当はお礼が言いたいのに、さっきの事を思うと顔が赤くなって上げられない。
白井「大丈夫?良かったね。学に抱きしめてくれて。」
白石「はい。でも、中々恥ずかしいですね。」
白井「そう?私は好きだけどなぁ。学の胸温かいし。」
白石「それは、同じです。温かくて、離れたくないと思いました。」
フラン「二人とも何してるの?向こうで一緒に遊ぼうよ~」
白井「いくいく~!」
    取り敢えず今はみんなで楽しく遊ぼう。夜になればまたみんなで報告しあって…そういえば、響子ちゃんと敷根見ないけど如何したんだろう。
    今、私のすぐ隣に憧れの敷根さんがいる。それだけで今にも気絶しそうな位気持ちが高ぶって、心臓が脈打つのが今までで一番よくわかる。
    隣に縞大路さんがいてその手を握ってる。ついこの間までは想像もできなかったシチュエーション、それも学のおかげ。今なら何でも言える気がした。
敷根「あ、あのさ。俺前から、言いたかった事があるんだよね。」
縞大路「なな、なんですの!?」
敷根「俺、ずっと縞大路さんのこと好きでした!良かったら、付き合ってください!」
縞大路「敷根さん。貴方からそんな事を言ってくれるなんて、感激ですわ。」
敷根「え、それって。もしかして」
縞大路「もちろん、よろしくお願いしますわ。」
敷根「ありがとう。縞大路さん!」
    感動のあまり勢い余って抱き着いてしまった。
    嘘、敷根さんが私の事を抱擁してくれている。何度夢に見たことでしょう。恥ずかしいけど、とっても充実したいい気分。
フラン「二人とも!ランチを食べたら街に行くからもう上がれって…」
敷根「フラン…その、これは」
縞大路「私達、付き合っていますの。」
敷根「ちょっ、縞大路さん!?何を」
フラン「そうだったのね~、お似合いだね!」
縞大路「だって、隠しても仕方ないでしょ。それと、私の事は響子と呼んで下さい。」
敷根「え、う、うん。」
縞大路「じゃあ、行きましょう。」
    縞大路、響子さんはそう言って手を握ってきた。嬉しい事には嬉しいが、こうもとんとん拍子に話が進むと頭の方が付いて行けなくなる。
    フランに二人を呼びに行ってもらって数分後、やっと敷根と縞大路の姿が見えた。手を繋いでこっちに合図している。吉報か。今夜が楽しみだ。昼食中もみんなの話題はそれで持ち切りだった。まさか本当にそこまで上手くいくと思わなかった。応援はしていたが驚きだ。食べ終わって中心街を歩いていると、いつにも増して白井がよくくっついてくるし愛南のテンションも上がりきってて、ここまで人が変わるものかと思ったが、楽しそうなのはなによりだった。
    さっき響子ちゃんを呼びに行った時の事もあったし、なんか今日はいつにも増して未央ちゃんや琴葉ちゃんや愛南ちゃんが平原に近い気がする。もしかして、白石の言ったことの全貌がつかめたようだった。
    部屋に戻ってご飯も食べて、いよいよお風呂だ。敷根には色々聞きたい事がある。湯槽に浸かりながら尋ねた。
学「なぁなぁ、如何だったんだよ。昼間の事。大分見せつけてくれちゃって。」
敷根「悪りぃ。いやぁ~思いもよらなかったよ、あんなに上手くいくなんて、俺は付いてるなぁ。」
学「まぁな、長年の想いが通じたんだ。俺も嬉しいよ。」
敷根「そんな事言ってるけど、お前の方は如何だったの?あんなに沢山の女子に囲まれて、どこのハーレムだよ。」
学「ハーレムって…キャラが濃すぎてまとまんねぇよ。それに、俺には無縁だろうなぁハーレムなんて」
敷根「そうか?意外と今夜何かが起きたりとかするかもよ?」
学「なんかってなんだよ?」
敷根「…はは!冗談だよ、冗談。そんな上手いことそうそう無いよな。」
学「まぁ、そうだろうな。」
    今ごろ女子の方もその話で持ち切りなんだろうな。
フラン「それにしても、敷根って意外と積極的ですね~旅行中に告白なんて、良かったじゃないですカ~!」
縞大路「フランさんお止めになって、余計に逆上せてしまいますわ。」
白井「でも、私達も言ってられないからね。」
白石「もちろん。やっと、どれほど待ち侘びたことか。」
愛南「今日しか、ない」
フラン「ねぇねぇ、みんなってさぁ、もしかして平原のこと好きなんですか~?」
白井「そうだよ。私も、未央ちゃんも、愛南ちゃんもみんな学のこと大好きなんだよ。」
縞大路「みんな!?それ、如何するんですの?」
白井「みんなで告白するよ。」
フラン「一夫多妻制ですね!外国では普通で~す!」
白井「ちょっと違うけどそんな感じ。今の関係とか壊したくないし。」
縞大路「そうですの。頑張って下さい。」
フラン「琴葉!私も応援してるのね~!」
白井「ありがとう!フランちゃん!」
河村「愛南ちゃんも、頑張って!」
名取「そうそう、きっと大丈夫。」
愛南「ありがとう。頑張る。」
千早「でも、確かにいいよね。学お兄ちゃん。なんか落ち着いてるし、みんなのリーダー的存在で頼りになるし。」
白石「そう言うところが好きなんです。」
フラン「未央ちゃん意外と乙女だね~!」
白石「や、やめてください…」
白井「じゃあ、頑張ろう。」
白石「はい。やりましょう。」
愛南「お兄ちゃん。待ってて。」
    風呂から上がって飲み物を買いに行った敷根と別れて部屋に戻った。すると、白井と白石と愛南がさっきまでとは全く違った表情で座っていた。
白石「学さん、大事な話があります。ちょっと聞いてください。」
学「なんだよ…話って」
白石、白井、愛南「私達、学が好きです。付き合ってください。」
学「…は!?何!?新手のドッキリ!?何で?ちょっと頭が」
白井「フランちゃんが外国では一夫多妻制は普通だって言ってたよ。」
学「いや、それはそうかもしれないけど。ここ日本だし、俺もみんな好きだよ。白石はしっかりしてて一緒にいると安心するし綺麗で、白井も昔からずっと一緒で、一緒にいて安心はできないけど楽しいし、愛南も家でいっつもそばにいてくれる可愛い大切な妹だ。でも、付き合うことは出来ない。っつか、1人には選べない。ごめん。」
白井「…ぷ、ははは!学ならそう言うと思った。そうだよね、学はそんなこと出来ないよね。これからもずっと一緒だからね。」
    そう言って唇を重ねてきた。まだ何が起きたのかわからない。
白石「ズルいですよ。白井さんだけじゃなくて、私にも」
    白石が目を閉じる。綺麗に潤んだ唇に吸い込まれるように唇を合わせた。それは本当に合わせるだけの拙いものだったが、今はそれだけで十分だった。
白石「ありがとうございます。私の初めて、貰ってくれて。」
愛南「お兄ちゃん、私にも」
    愛南が浴衣の裾を掴んで上目遣いに見つめる。自分の妹とは分かっていながら、軽くではあるが、白石や白井と同じ事をしてしまった。タイミングが悪く、丁度その時敷根が帰ってきた。愛南は真っ赤に頬を赤らめて胸に顔を押し付けてきた。相当恥ずかしかったのだろう。
敷根「その感じは、成功かな?」
白石「はい。ありがとうございました。」
学「敷根!お前、知ってたのか!?」
敷根「悪りぃな。忠告はしておいたんだけどな。」
学「分かるわけねぇだろ。」
    愛南はやっと顔を上げたが、まだ頬は朱いままだ。
学「さぁ、もう寝る準備だ。布団敷くぞ。」
白井「私、学の隣!」
白石「私も、隣がいいです。」
愛南「私は、お兄ちゃんと同じ布団が」
白石、白井「私も!」
学「それで、こうなったと。」
敷根「いいなぁ、暖かそうで。」
縞大路「貴方の事は私が温めて差し上げますわ。」
学「あったかいって、今真夏だぞ。暑いっつの。」
フラン「みんなラブラブでイイですね~!」
名取「本当、仲がいいね。」
千早「じゃあ、私達は私達で。ギュー!」
河村「私達、ナチカ隊だね。」
名取「なんかチ○メ隊みたいで可愛いね。」
河村「でしょでしょ。」
    それから数分後、あんなにはしゃいでいたのにみんなぐっすり眠って、起きていたのは俺と白石だけだった。ゆっくりと布団から出て誰もいないロビーでコーヒーを飲みながら話をした。
白石「今日は、ごめんなさい。驚きましたよね。」
学「まぁな、でも嬉しかったよ。そう思っててくれたのは。」
白石「はい。でも、なかなか言えなくて。」
学「あんまりそう言うの言わないもんね。そうだ、ちょっと目を閉じて。」
   そう言って目を閉じた彼女と、今度はさっきよりもしっかりと唇を交わした。一瞬体を震わせたが、すぐに落ち着きを取り戻したようだった。舌を絡めて、お互いの唾液が音を立てながら混ざりあった。その後も、頬の内側を這わすように舌を彼女の口の中に入れて、少しずつ身体の距離も近くなり、次第に背中に手を回し、足も絡ませて全身がぴったりとくっつくように抱き合った。やっと終わって身体を話すと、浴衣の乱れた彼女の姿が目に入った。
白石「お風呂に入りたいです。汗も掻いたし、汗以外も出ちゃいましたから。」
学「う、まぁ、風呂は入りたいな。」
女将「これ、良かったらどうぞ。大浴場の鍵です。今はもう閉めてあるので、混浴でも構いませんよ。」
学「あ、ありがとうございます。」
女将「いえいえ、ごゆっくり。」
白石「入りましょう。」
学「本当に混浴すんのか!?」
白石「嫌ですか?今ぐらいしか独り占め出来ないんです。」
学「まぁ、いいけど。」
白石「ふふ、興奮しないで下さいね?」
学「白石もだんだん危うくなってきたなぁ、白井と違って洒落になんないから。」
白石「まぁまぁ、女子の身体に慣れるのは大事ですよ。」
学「それは、妹のおかげで馴れてるから大丈夫だけど。」
白石「本当にそうですか?家族じゃ無いってだけでイメージは思った以上に変わりますよ。」
学「まぁ、よく見たりしない限り問題はないでしょ。そんな野暮なことはしないし。」
白石「普通ならジロジロ見たりなんてしたら野暮を通り越してインモラルですけど、あんな事があった後なら少しぐらい官能的になってもいいと思いますよ。」
    そんな会話をしながら湯槽に浸かった。今までの白石ならこんな事はあり得なかっただろうけど、実際そうなってるんだから人ってのは分からないもんだ。
    学さんは、こんな私を見てどう思っているんでしょう。普段は絶対に見せない私を、それにあんなに激しく接吻をし合った後なのに、平常心を保ったままでお風呂に入っていられるなんて、どうしてそんなに余裕なんでしょう。私に魅力が無いのか、それとも、学さんはそう言う感覚をも超越してるのでしょうか。
    なんか、夜中に目が覚めて隣を見たら学と未央ちゃんがいなくて何となく何かに呼ばれたように大浴場に来ると、片方だけ明かりがついて話し声がした。気になって覗いてみると未央ちゃんと学が楽しそうに話していて、吃驚すると同時に脅かしたくなって自分も服を脱ぐとソロソロと扉に手をかけ、一気にワッと浴室に入った。
白井「ずるいよ!未央ちゃんばっかり。私も一緒に入る。」
学「うわぁ!白井、起きてたのか。いいよ、入ってこい。」
    そう言うと勢いよく湯槽に飛び込んで来た。俺の腕を掴んで浸かるのはいいけど、知ってかしらずか胸を腕に押し付けてくる。
学「ちょっ、胸当たってる。」
白井「当ててんの。学が私の身体で興奮しないかと思って。」
学「お前普段もちょくちょくやってるだろ。」
白石「じゃあ、私も」
    白石まで身体を擦り付けてきた。逆上せているのか身体が熱い。いや、ただ単に恥ずかしいだけかもしれない。敷根じゃないが本当にどこのハーレムだって位の状態だ。しかも、流石にもうソロソロ限界、心では大丈夫と思っていても身体は正直だ。はやくでないと。
学「じ、じゃあ俺もう出るから。」
白井「え~じゃあ私も」
白石「待って下さい。私も上がります。」
学「分かった、分かったから前を隠せ前を!」
白井「イイじゃん、どうせ部屋に戻ったらまたするんだから。」
学「しねぇよ!する気ねぇよ!」
白井「もう、しょうがないなぁ。」
    渋々浴衣を着た白井を確認して白石と風呂を出て鍵を閉めた。布団に入って眠りにつく。二人も疲れたのかすぐに寝たようだった。
    次の日、帰り支度をして旅館を後にする手続きをしている時。
女将「昨日は楽しかったですか?」
学「は!?い、いや別に。特に何もありませんでしたから。」
女将「そうですか。掃除は簡単そうで良かったです。」
学「変な想像しないで下さい。」
女将「失礼しました。では、お気をつけて。」
学「お世話になりました。」
    旅館を後にして駅に向かって歩き出した。道が分かっているからか行きよりも早く駅に着いた。電車が来て乗り込むと、客は一人もおらず、陽光の照らす車内に疲れたみんなの寝顔だけが浮かんでいた。無理もないか、そう思っていると愛南が肩にもたれかかってきた。ただ黙って、でも少し頬を赤らめていた。俺も応えるように頭を優しくゆっくりと撫でた。前の席には敷根が縞大路と手を絡めて寝ている。10人もの人がいるのに電車はエンジン音だけを響かせて坂路町に近づいて行った。いつの間にか俺も眠ってしまい、気がつくとそこは見慣れた景色だった。次が降車駅だ、みんなを起こす。今日はすんなり起きてくれた。改札をくぐるとそれぞれの家路に着いた。
名取、千早、河村「みんな、ありがとうございました。また学校で。」
白井「学、ありがとう!楽しかった。」
白石「私もです。ありがとうございます。それと、ごめんなさい。いろいろ驚かせてしまって。」
学「いいえ、みんなが楽しかったら良かった。」
フラン「楽しかったね~!また学校で!」
縞大路「私達も行きましょう。晃さん。」
学「俺達も行こうか。愛南」
愛南「うん。じゃあね。」
    俺は愛南と一緒に歩き出した。駅が見えなくなると、愛南から俺の指を掴んできた。顔を合わせてから少し微笑むと、手を繋いでまた歩いた。家の敷居を越えると母さんが迎えてくれた。
母「おかえりなさい。楽しかった?」
学「うん。楽しかったよ。これ、お土産」
母「あら、ありがとう。なんか変わったことはなかった。」
学「う~ん、大丈夫かなぁ…」
俺はそう言うと部屋に戻って荷解きをしていた。すると、ドアが開いて愛南が立っていた。
学「どした?こっちくるか?」
愛南「うん。海行ってる間、ちょっと寂しかった。お兄ちゃん忙しそうであんまり話せなかった。」
学「そっか、ごめんな。大丈夫だよ。後はずっと家にいるから。」
愛南「本当に?ありがとう…大好き。」
学「そんな、改まって言うなよ。」
    それからはずっと愛南と一緒にいた。初登校日、教室で久し振りにみんなと会った。
学「おはよう!」
白井「おはよう!」
白石「おはようございます。お久しぶりです。」
そう言って二人が両腕にしがみついてきた。相変わらず敷根と縞大路も仲良くやっている。
敷根「おっす!そっちも熱いねぇ~。」
学「相変わらず調子のいい奴。」
縞大路「お久しぶりですわ。晃さんに気を利かせてくれてたみたいで、感謝します。」
学「いやいや、気にすんな。長年の思いだったからな。俺も敷根には幸せになって欲しかったし。」
敷根「有難ぇなぁ。さっすが、親友だな。」
    今日からまたお兄ちゃんのいないクラスだけど、休みの間うんと甘えられたし、みんなもいるから頑張ろう。
愛南「おはよう。」
名取「おはよう!見て見て、ナチカ隊のポーズ!」
愛南「いいね。可愛い。」
河村「やっぱり?愛南ちゃんなら言ってくれると思った。」
    良かった。愛南ちゃんも元気だ。これで、小学部もいつも通り。
白井「そういえばさぁ。フランちゃんは好きな人とかいないの?」
フラン「私は祖国スウェーデンのストックホルムにフィアンセがいますよ~」
白井、白石、学、縞大路、敷根「えぇ!?そうだったの?」
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