俺の彼女はHでデレる

竹田勇人

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俺の彼女はHでデレる

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中学三年の春、俺は転校してきた。都会の騒ついた空気に比べるとだいぶ居心地のいい場所だった。一つ不便だとすればバスがないことぐらいだ。それだって自転車があれば差し支えはない。こんな時期に転校かとうんざりしていたが、案外悪くないものだ。別に転校の理由だってさしあたって何かあったわけでもない。いや、他人目に見れば何かあったのだろうが、当の本人からすれば分かりきっていたというか、今更どうでもいい理由だった。
担任の先生から案内された席は窓側の三列目、ちょうど目の前に教室の中心の柱が立っていて先生からは死角になりやすいところ。前の学校でも今の学校でもやることは変わらない。ただ授業時間を席に座って窓の外を眺めることに費やし、消化しきったら帰る。数学は好きだったからたまに勝手に教科書を解いたり、国語の時間は寝ているか小説を読んでいるか2つに1つ。あとの授業は…その時々でやりたいことをやっていた。今日だって一緒だ。ぼんやりと外を眺め、家に帰ったら何をしようかとか、新しいチェスの勝ち方でも考えるか。なんかそんな感じのことを考えていた。
そういえば、何年か前はこんなではなかったかもしれない。友達がいた頃は、親父と一緒に住んでいた頃は、可愛い女子を目で追っていた頃は…なかったけど、少なくとも信頼できる誰かがいた頃は、きっとこうじゃなかったと思う。

「ちょっと、そこのあんた。呼ばれてるわよ。」

誰だ、親切にも俺を思案の彼方から引き戻したお節介もんは。黒板には二次方程式がいくつか並べられていた。そうか、今は数学の時間だったか。机の上を見るに俺はこの授業が始まってからずっと何か考えていたと見える。まず教科書がない。あぁ、机の中だ。ノートは、きっとこうなることを予測して休み時間の俺が開いておいてくれたんだろう。とりあえず今の2つほど先の単元までの答えが書かれている。あれ?これいつやったやつだっけ?前すぎて覚えてない。まぁそんなことはいい。とにかく黒板を見て、練習2の(1)…ほうほう、書いてある。ご丁寧に3つとも。

「上から±√5、6±8√13、5と8」

「全問正解、ちゃんと聞いてたのか」

授業なんか聞いているわけがない。というと語弊があるか。この学校では授業は聞くのが当たり前らしい。まぁ、前の学校でもそうだったけど。だけど俺に言わせればそんなことは大きな問題じゃない。授業を聞いていなくても、問題が解ければ何も文句はないわけだ。まぁ、「関心意欲」は低いのかもしれないけど、だからどうって話でもない。だってテストがある。授業を聞いているかどうかなんて全く加味されない、ちょっと面白いクイズ大会。あぁ、毎回テストだったらいいのに。そうするときっと授業をストライキする生徒が続発するんだろう。次の時間の議題はそれだな。授業が毎回テストだったら、一体どんなことが起こるのか。我ながら面白い話だな。と、ちょうど頭の中がひと段落したところで少し顔を上げた、そういえば俺をさっき思案の彼方から引き戻した張本人を俺はまだ見ていない気がする。まぁ、想像はつくけど。

「あんた、いっつも外見て何考えてるわけ?」

「別に、昔のことを思い出してた。」

隣の席の赤魔鈴音。少しつり上がった目と、視界の下半分にしか干渉してこない低い背丈、まぁあとは…言わないでおこう、かわいそうだ。

「都会から来たんじゃ、休みの日とかすること無いんじゃないの?」

休日…何してたっけ。えぇと、確か昔は気の知れた友人と遊びに…これ何年前の話だ?いかんいかん、また昔話を始めるところだった。えっと、前の休みは…あれ?本当に何してんだ?なんか暇だと出かけて遊んで、あぁそっか。

「ねぇよ、ゲーセンとカラオケに入り浸ってるくらい。」

「あんた結構根っこまで腐ってるわね。」

腐ってるとか言われた。知り合って、つか顔合わせてまだ数日のお節介に。

「別に、そんなことないだろ。で、なんでそんなことを聞いた?」

「あ、あのさ、良かったら、なんだけど、今度数学教えてくれない?」

あぁ、聞かなきゃよかった。まぁいいや、どうせ暇だし。昔は教えるのも嫌いじゃなかったな。よくいとこがきて勉強教えてた。たまにはいいかもしれない。人に教えるには理解したことを噛み砕いて説明する説明力と語彙力とあとは自分自身の理解度が必要だから自分の脳も活性化…今度は思い出どころか脳細胞の彼方に飛んでいきそうになった。

「別にいいけど。」

「本当!?じゃあ今週末に私の家でね、絶対来なさいよ。」

「いいけど、俺お前の家知らねぇよ?」

「あ、じゃあ、駅前で。」

よく考えたら、なんでわざわざ俺に頼んだのか、仲のいいやつならいたろうに。俺の気を遣ってとかはないだろうし、でもなぜだろう。普段ならこういう面倒な類はだいたい断るのだが、これは不可思議な話だ。なぜ俺は断らなかった。次の時間の議題は変更したほうがいいかもしれない。重要案件だ。俺の行動がバグを起こしている。これは原因を究明する必要がある。しかし、その後一日中考えても答えが出ることはなく、むしろ週末を心のどこかで楽しみに待つ気持ちがあることに戸惑うばかりだった。


約束の週末、駅前の広場で携帯を弄りながら鈴音の姿を待っていた。別に楽しみで早く着いたとかではない。ないはずだ。きっと偶然だ。

「おはよう、あんた来るの早いわね。」

「別に、そんなつもりはないが。」

鈴音はいつもの態度には似つかわしくない可愛らしいワンピースを身にまとって歩いてきた。

「とりあえず、行くか。」

「待ちなさいよ。す、少しくらい、遊んでからでもいいでしょ。」

いやいや、今日は勉強を教えに行くはずだっただろう。なぜこいつと遊ぶことになる。わけがわからない。とにかく早く教えて帰るべきだ。そう、頭では十分理解しているつもりなのだが…

「…まぁいいけど。」

なぜか口からは反対の言葉が飛び出す。俺がここに来た目的はそれじゃないはずだ。しかし、なぜか率先して行きつけのゲームセンターに足を運んでしまっている。結局、近くのゲームセンターで一緒にゲームの前に立っている。

「ぜんぜん取れない…」

「とってやろうか?」

「あんた、こういうの得意なの?」

「苦手ではない。」

機械にコインを入れて動かす。最近まで暇つぶしによくやっていたおかげで一発で取れた。なぜかこういう中途半端な特技が多い。

「そういえば入り浸ってるって言ってたけど、凄いわね。あんたって勉強も結構出来るわよね。」

「まぁ、いつの間にかな。」

「羨ましいわね。お昼食べたらそろそろいきましょう。何がいいかしら。」

「そうだな、あそこでいいんじゃないか?」

俺はファストフード店を指さした。

「そうね、最近出た新メニューが気になってたのよ。」

店に入って席に着くと、鈴音が隣に腰かけた。

「何で隣に座るんだ?」

「嫌なの?」

「そんなことはないが…」

今日は朝から少し調子がおかしい。なぜこんなにも鼓動が早くなって体が熱くなるのか。昨日の夜まではこんなことはなかったのだが。思えば学校と全く印象の違うワンピースを着ているところを見たあたりから変に意識しすぎている。今日は勉強を教えるだけ、そう思っていたつもりなのに思えばこうして2人でいることを楽しいと感じてしまっている。自分がいた。

「今日、私の家私しかいないから。」

「あっそ。」

その言葉に少しだけ心臓が跳ねた。男を部屋に入れるのに1人しか家にいないと宣言するこいつはアホなんだろうか。それとも俺を誘っているのだろうか。なんて都合のいい想像まで始まってしまっている。部屋に入ってもとりあえず平常心だ。あくまで今日は家庭教師。それ以外には何もない。

「じゃあ、早速お願い。」

「どこがわかんねぇの?」

「二次方程式がぜんぜん分かんないんだけど。」

「因数分解とか何とか色々言ってるけどとりあえず解の公式だけ覚えろ。」

「解の公式?そんなの習ってないわよ。」

「学校ではまだやってない。お前は人より飲み込みが悪いんだから先に練習しておけ。それさえ覚えれば全部の方程式解けるから。」

「相変わらず失礼な言葉を織り交ぜてくるわね。しかも言い返せないからムカつく。」

「じゃあこのまま帰ってやろうか?」

「待って!ごめんごめん!悪かったから、だから行かないで!」

「それで、そこ以外は出来てるのか?」

「あんた、今日はちょっと優しくない?」

「普段通りのつもりだが。」

普段通りじゃない。脈拍と体温が増加しっぱなしだ。やけに熱く感じるし、しかもさっき着替えたこいつはやたら無防備な格好だし。俺のことを男としてみていないのだろうか。口調は相変わらず憎たらしいのに、それすら少しだけ認め始めた自分がいた。本当にわからない。教えると言っても、普段はもう少し毒づいたりしているのだが、今日はほとんどなりを潜めている。これは一体、もう少しでこの気持ちの正体がわかるような気がしていた。だけど、あまりに初めてすぎて心がついて行っていない。

「ちょっとあんた、答えなさいよ。」

あぁ、また思案の彼方へ行ってしまっていた。えっと、なんの話してたっけ。とりあえず問題を教えることだけに専念しよう。よけなことには目を向けないでいこう。なんかすごく可愛らしい小物とか、シャンプーの香りに混ざるちょっと甘ったるく感じる香りとか。俺を惑わすものはとりあえず一旦遮断しよう。

「あ、悪りぃ。聞いてなかった。」

「急にどうしたのよ、この因数分解の応用教えて。」

「因数分解の応用?」

えっと…なんだっけ?全然頭が回っていない。少し考えればわかるはずなんだが…あぁ、マジで集中できない。なんとなく霞の先に何かが見える。えっと、答えだよな…あぁ、やっと思い出した。

「そこは、因数分解する前に同類項をまとめてカッコで括り出す。それからカッコを置き換えて計算すればいい。」

「そういうことね。ありがとう。学校の先生よりわかりやすいわ。」

なぜそんなにいい笑顔を向けるんだ。反則だろ。つか絶対誘ってるだろ。もう限界だ。だんだん身体が熱くなって頭がクラクラしてきた。理性の糸が切れる。耐えられない。

「鈴音…」

気がつくと鈴音を押し倒していた。薄い部屋着から覗く白い肌、驚いた彼女のぱっちり開いた瞳に落ちる長いまつげの影、口は少しだけ開いて妙に艶かしい吐息を漏らし、髪から香るシャンプーの匂いに混ざって身体からは甘酸っぱい匂いが鼻腔をくすぐっている。

「ちょっと…あんた、何して…」

「!…ご、ごめん!」

一瞬正気を失っていた。自分は一体何をしているんだろうか。自制心に関しては自信がある方だったんだが、以外と崩れるのは容易だった。

「なんか、お前といると調子狂うんだよ。いつもみたいに突き放せねぇし、笑ってる顔とか、すげぇ愛おしく思っちまうし、こんなの初めてなんだよ。」

「…私だって、同じよ。あんたに会った時から、顔見る度に胸が苦しくて、顔が真っ赤になってるんだから。」

なんでそんなことを口走っているのか分からなかった。だけど、俺はこいつが好きだとなぜか妙に納得できた。まだよく知らない相手なのに、理論じゃなく、だけど疑いなく一緒にいてもいいと思えた。

「鈴音…!」

俺は鈴音の肩を抱いて胸に寄せた。細く息をするたびに小さな肩が少し上がり、トクトクと心臓の鼓動が伝わってくる。

「ばかぁ…何で私にだけそんなに優しくするのよ。あんたみたいに、私のこと相手にしてくれる人、他にいないのよ…」

「俺、お前のこと好きだ。お前の生意気なとことか、たまに可愛く笑うとことか、全部好きだ。だから、もっとずっと、一緒にいてくれ。」

「私だって、あんたがいないと、つまんないんだから。ずっと、一緒にいなさいよね。私から離れたら、許さないから!」

小さい身体が小刻みに震え、胸のあたりが湿っている。あげた顔は頬が赤くなり、まつ毛が涙で湿っていた。

「あんた、今日は泊まっていきなさいよ。」

「何言ってんの!?流石に帰らないと。」

「嫌だ!いなくならないで!私を、もっと暖めて…」

「…分かったよ、ちょっと連絡するから、待ってて。」

俺は家に電話して今日は友達の家に泊まると連絡した。もちろん、男友達だと。

「いいよ、今日は一緒にいよう。」

「理樹!暖かい…」

鈴音はお腹に顔を埋めて擦り付けている。それはまるですり寄って甘える子猫のように愛おしくて可愛らしい様子だった。

「今日は、俺が飯作ろうか?」

「理樹、料理できるの?」

「別にそんな難しいものでなければ。」

「あんたって本当に何でもできるのね。」

「なんでもできるわけじゃない。それで、何作る?」

「私、カレーが食べたい。」

「分かった。作ってくるから、待ってな。」


キッチンで鍋を混ぜながらぼーっと考えていた。都会にいたらこんな自分はいなかっただろうと思う。ここに来て、鈴音に逢えたからこうして自分の気持ちに正直になれた。俺は、鈴音に助けられたのかもしれない。

「出来たぞ。」

「本当に上手ね。私より上手いかも。」

「いいから、早く食べろ。」

席についてスプーンを握る。誰かと話しながら食べる夕食は久しぶりで、明かりの下で笑う鈴音の顔はそれだけで心が温かくなる心地よい雰囲気だった。

「あのさ、理樹って呼んでもいい?」

「いいけど、二人の時だけな。」

「うん、学校では内緒にしておきましょう。」

小一時間ほどかけてゆっくりと夕食をとると、時計がもう8時半を回っていた。

「俺、下着だけ買ってくるから。」


鈴音が風呂に入っている間にコンビニで下着を選んでいた。ちょうど近くにコンビニがあり、安くで下着も売っていてちょうどよく買い物ができた。

「あれ、神田じゃん。どうしたのよ。」

「えっと、朝熊だよな?」

「もう、いい加減覚えてよ。つか、何で下着なんて?」

「別に俺の勝手だろ?今家にあるの切らしてんだよ。」

「ふ~ん、おやすみ。また明日ね。」

ヒヤヒヤした。バレることはないだろうと思いつつも、やっぱりクラスの人と会うとなると少し心配にも感じてしまうのは仕方ないことだろう。



「おかえり。先にシャワー浴びちゃったわよ。」

「ただいま、って何でタオルしか巻いてないの!?」

「いいでしょ、私の家なんだから、それに、私のこと押し倒しておいてそんなこと言わないでよ。」

「お前はいいのかよ。恥ずかしくないの?」

「私は、理樹になら恥ずかしくないわよ。全部見られても。」

鈴音はタオルを自分の手で床に解いた。

「おい…待てって…」

「ねぇ、私の身体、暖めて。心臓、こんなに強くどくどくしてる。理樹の胸で落ち着かせて。」

華奢な身体をもたれかからせる。その身体は冷たくも顔は火照って耳まで真っ赤に染まっていた。背中に手を回してその小さな身体を包み込む。

「理樹、暖かい。いい匂いがする。理樹も、どくどくしてる。」

「鈴音、少し顔を上げて?」

「理樹?…!」

少し顔を上げた鈴音の唇を俺の唇で覆い隠した。驚いた表情をした鈴音の背中に手をまわす。まだ風呂から出たばかりのしっとりした温かい肌が外の空気に触れた冷たい手に吸い付く。

「ん!?りひ…」

強く唇を吸うとピクリと肩が上がり、開いていた目が徐々に目尻を下げていく。

「ん…んん…」

舌を絡めながら次第に身体も捩れていく。足を少し絡めて壁にもたれかかる。二人揃って夢中で赤子が乳を吸うかのように吸い付きあった。

「熱い、理樹…大好き。」

しばらく裸の鈴音を抱きしめていた。

「そろそろ、服着てくれない?」

「ごめん、なんか、そういう気分になちゃったから。」

「今日、一緒に寝ようか?」

「あんた、私に襲われたいの?」

「お互い様じゃないの?」

「そうかもね。」

「まぁ、そういう気分ならそれもいいんじゃない?」

鈴音に手を引かれて部屋に通された。同じベッドに潜り込むとどちらからともなく手を絡めた。

「ねぇ、何で私だったわけ?他にも良い娘いっぱいいたんじゃないの?」

「わかんねぇ。一目惚れかな。お前となら、一緒にいれるって、なんか思えた。」

「一目惚れか…じゃあ私も一緒かな。あんたって何考えてるかよくわかんなくて、嫌われてるんじゃないかってずっと不安だった。」

「…なぁ、本当にいいのか?俺、途中で止められる自信ねぇぞ。」

「女の子にここまでさせておいて…恥かかせないでよ。」

俺は裸のままの鈴音の腰に布団の中で手を回した。少し緊張した様子で鈴音が吐息を吐き、それを受け止めるように唇を食むようにキスをした。

「んん、nん…んはぁ…」

キスをしながら少しずつ腰の手を臀部まで下ろし、薄い尻肉を撫でさするように揉んだ。すると、鈴音の吐息はより熱を帯びたものになり、時々小さな喘ぎも入り始めていた。

「あぁ…んん…あはぁ…そこ…は…」

徐々に尻肉から太ももの間に指を差し込み、その付け根へと近づくにつれ、粘液質で湿り気を帯びた肌が触れた。敏感で繊細な肌は少し触れるだけで鈴音が肩を震わせ、鼻で小さく鳴く。

「あぁ、そこは…そんなn…いじっちゃ…だめぇ…」

「鈴音…濡れてる。可愛いぞ。」

「あぁ、そんなこと言われたら、もっと感じちゃう…」

「俺も…もうキツい。」

「いいよ、さっきから、理樹の太くて熱いのが私のお腹に当たってビクビクしてる…」

俺はついに耐えきれず、自分の服を脱いで床に落とした。そして鈴音の上に跨り下腹部に俺のモノを当てた。

「本当に…いいんだな?」

「うん…来て。もらって…私の初めて。」

俺はもう一度鈴音にキスをして鈴音の陰部に自分の陰根を当てた。先が濡れそぼった陰部に少し沈み込む。

「うっ…思ったより…おっきい。」

俺は少しでも鈴音を気持ち良くしようと鈴音の胸に手を伸ばした。

「あっ、だめ…おっぱいは…ちっさいから…」

「鈴音の…可愛いよ。」

こねるように執拗に乳頂を弄ると、鮮やかな桃色の突起が姿を出した。

「あ、あぁん…それ…いい。じんじんする…。」

「そろそろ、奥まで入れるよ。」

「う、うん。いいよ…」

俺はゆっくりと自分の男根を秘裂に沈ませた。透明な粘液がぬぷぬぷと音を立てて奥へと誘う。

「うううぅ!ひぎぃ!い、痛…!」

「痛いか…一回抜くか?」

「ううん。そのまま、挿れて。奥まで」

涙目になりながらも鈴音は首を横に振った。俺は胸が熱くなるのを感じながら、なるべく痛くないようにと鈴音の陰核を指で少し押し撫でた。

「あぁぁ!理樹!それだめぇ!すごいの!びりびりするのぉ!」

一気に膣壁の蠕動運動が活発になった。同時に男根を一気に膣奥まで押し込み、途中の引っ掛かりを突破した。

「あぁぁあぁぁ!痛い!痛い!」

奥まで入ったところで少し動きを止めて陰核と陰部の入り口を弄りながら慣らした。

「あぁぁ、理樹の、すごい…それに中に硬くて、熱いのが入ってて…お腹一杯になってる…」
「そろそろ…動いて平気か?」

「うん…いいよ、いっぱい動いて…」

男根を少し引いて、さっきよりも早く押し込んだ。じゅぷじゅぷと愛液が音を立てて淫部の周りを濡らす。

「あぁぁ!すごい!動いてる!中が…気持ちいい!」

少し余裕が出てくると陰核や胸も同時に弄り始めた。

「理樹っ…それ、だめ!いい、気持ちいいのぉ、お腹の奥が!ズンズンってして、奥がキュンキュンしちゃうの!もっと、もっと激しくついてぇ!」

お互いどんどん熱くなっていき、肌が汗ばんでしっとりとしてきた。そして、お互い抱き合うように身体を求め、火照った身体を密着させあった。ぷちゅぷちゅと愛液がはね、下腹部がぶつかる音が次第に大きくなり始めた。ギシギシと鳴るベッドの上で2人の喘ぎが絡み合う。

「んん、あはあぁぁ!すごいいぃ!イィっ!きもちいぃ!」

「く…お、俺も…いいぞ。」

俺と鈴音は次第にキスもし始めお互いの唾液も交換し合った。

「んん、んんむんぅ!あはああぁ!もっと、もっとキスしてぇぇ!」

少しずつ高まっていく。徐々に徐々に限界が近くなっていく。鈴音が背中に足を回してより深く子宮の近くまで男根がささった。

「奥が!気持ちイィ!しゅごいのぉ!おくうぅいぅああぁぁ!」

「そ、そろそろ…でるから…抜くぞ!」

「中でだしてぇ!奥にあったかいの注いでぇぇ!私のこと、理樹のものにしてぇぇ!」

2人とも快楽の虜になり、本能のままに身体を打ち付けていた。

「あぁぁぁああっぁあ!いっくううぅぅぅ!私!イっちゃう!すごいのくるぅ!」

「俺も…イッく…」

「あぁぁ!だして!だしてぇ!」

「いくぞ!だすぞ!あぁぁ!…あぁ!」

「いっっくぅぅぅうううああぁっぁ!」

その時、ギュッと膣が締まり、白濁液が膣壁の奥へ一気に放出された。鈴音の体が大きくはね、ビクビクと痙攣している。それでも射精は止まらず、まだなお子宮に打ち続けていた。

「あぁあ…はぁぁ、ぁうん!すごい…お腹の中…あったかくて、理樹のが入ってる感じがする。すごく幸せ…」

「なか…スゲェしまってる」

「まだ抜かないで…しばらく…そのままにして。」

その場で力を抜いて抱き合う形で寝そべった。

「理樹の身体…あったかくて…いぃ。」

「なぁ、初めてだろ。大丈夫か?」

「平気。なんか、ふわふわしてる。理樹の太くて、びっくりしたけど、すごく気持ちよかった…」

「それもだけど…よかったのか?その…中で出して。」

「…う、うん。始めから、そのつもりだったから。初めてが理樹で…よかった。」

俺はその言葉に、たまらず強く抱きしめた。

「ぁん…もう一回は…無理だよ…」

「わ、分かってるって…とりあえず、もう寝ようか。」

「うん。今日は…このまま…」

少しウトウトし始めた鈴音はそのまま眠りの淵へ落ちていった。その後を追うように俺も隣で眠りについた。


次の日、少し早めに起きた俺は昨日から風呂に入っていなかったことに気がついて少しシャワーを浴びてから準備をしていた。キッチンで余り物を使って弁当を作って待つことにした。2人分を作るのはいつもと感覚が違って少々時間がかかってしまった。程なくして起きてきた鈴音がおきてきた。まだ時間に余裕がありそうな時間だった。

「何で私が起きるまで一緒にいてくれなかったのよ…」

「少し早く起きたからな。ごめんごめん、おいで。」

俺は鈴音をそっと抱き寄せた。

「ばかぁ…そうやって…」

鈴音の甘えたような声が昨日の情事を思い起こさせた。

「少し風呂入ってきたら?時間もあるし、結構身体汚れただろう
?」

「そうね、ちょっと浴びてくるわ。」

ここの学校は私服登校だ。鈴音が風呂に入っている間に自分の荷物を確認していた。勉強しに来ていたおかげで必要なものは揃っていた。鈴音が降りてくると一緒に家を出る。途中で昨日も会った朝熊と鉢合わせた。

「あれ、珍しいね、2人が一緒に登校してるの。」

やばい、よく考えたら少し時間をずらして行ったほうがよかった。

「ま、まぁね、途中で会っちゃったから仕方がなく一緒に行ってあげてるだけよ。たまたまよ、たまたま。」

それに、こいつが嘘が苦手でそう言いつつも顔を真っ赤にしているところを見ると朝熊の事だからきっと突っ込んで聞いてくるかもと思った。

「…そう、私今日日直だから先行くわ。」

思ったよりさっぱり終わったことに少し拍子抜けしながらもホッと胸をなでおろした。朝から悪い汗をかいてしまった。そう思いながら教室に入り席に着く。隣の席ではあるけど教室では普段通りに接するように決めていた。

「はい、号令お願いします。」

「気をつけ、礼。」

「早速だが、今日は席替えをする。前に貼ってある席に変われ。」

鈴音が不安そうな顔でこっちを見つめる。

「また放課後な。」

小声で囁いて席を動かした。今日はついてない。隣の席になったのは朝熊だった。

「偶然だね~よろしく!」

明るい朝熊の態度とは裏腹に俺の背中を一筋冷や汗が流れた。授業もろくに聞かずにどう言い訳をしようかと必死に頭を回している。そんな時に朝熊が肩を叩いた。

[後で、少しお話ししよう(笑)    朱莉]

ノートの端に整った字面で書かれていた。やたらと陽気な書き方が余計に邪心をのぞかせている。嫌な予感ばかりが頭を占領していた。

「神田、あのさ…鈴音ちゃんとそういう関係なの?」

「だから、ただのクラスメイトだって。」

「嘘、だって、昨日と同じ服だったよね。それに昨日の下着、そういうこと?」

「それは違う。…確かに俺は鈴音と付き合ってることは認めるけど…一緒にいただけで何もしてない。」

「…あっそ。よかった。さすがに友達がそういうことしてんのはちょっとね。」

朝熊は少しうつむいてそういった。まぁ、あまり言いふらすタイプではないから大丈夫だと思うが…

「安心して。このことは、誰にも言わないから。」

ほんの少し陰りを残したまま教室へ戻った。放課後、正門の前で立っていると鈴音が歩いてきた。少しいつもよりもテンションが低い。

「理樹、席離れちゃった…」

「なんだ、そんなことか。別にいいじゃん、こうやって一緒に帰れるんだから。それに、部活もないから休みの日も一緒にいれるしな。」

「そうだけど、なんか寂しい…」

中々気分の上がらない鈴音の髪をそっと撫でた。

「理樹、あったかい…」

こうしてみると少し犬のようで可愛らしかった。鈴音の家の前で手を振って別れる。帰り道を歩いていると友達の伊藤に会った。

「おい!神田!珍しいな、こんなとこで会うなんて。」

「ちょっと用事でな。」

「それはいいけどよ、ちょっと相談したいんだけど。」

「なんだよ、またアニメを見てなくてストレス溜まってんのか?」

「違げぇよ!俺を何だと思ってる。」

「二次元コンプレックス。」

「違うっつの。その逆だよ。」

「何?彼女でもできたの?」

「まだだけど…」

「あ、そういうこと。」

「なんでわかった?」

「だいたい想像つく。で、誰なの?」

「あのさ、お前のクラスの朝熊朱莉っているだろ?あの子可愛いなって思って」

「あ~、いいんじゃない?確かその辺の話はなかったし。」

「まじで!?サンキュー!俺決めた!明日告る!」

相変わらず単純な奴。確かいなかったと思うけど、好きな人はどうなんだろうか。


次の日は鈴音とは予定が合わなくて俺は学校に残っていた。委員会の用事で教室に戻ってきた時のことだ。中から伊藤の声がした。
「俺と、付き合ってください!」

ちょうどそれは伊藤が告白しているところだった。肝心の朝熊の方は少し困ったような表情をしていた。

「ごめん。私、好きな人いるからさ。」

「…嘘…」

少し気の毒に思いながらも、まぁそうかもと思っていた手前、別段驚きもしなかった。俺はこの時、朝熊が話していたことを聞いていなかった。

「もう、手が届かないけどね。今朝も、日直だからって嘘ついて逃げちゃった。難しいね。頑張って、きっとあんたが好きって人がいるよ。」


それから1日経って、俺はまた鈴音と一緒に登校している。と言っても今日は途中で合流する橋の上で待ち合わせてだった。教室に入り廊下で窓を開けて涼んでいると奥から一段と暗い顔の伊藤が見えた。

「残念だったな。焦りすぎたんだよ。自分を過信しないことだ。」

「相変わらず慰めてはくれないな。家に帰ったらアニメに癒されよう。」

「お前はそうしてずっと二次元に依存してればいいんだよ。」

「悔しいけど何も言い返せない…」

悔しさを滲ませ唇を噛む伊藤を尻目に教室へ戻った。鈴音が目を合わせて小さく手を振っていた。思えばもう6月だ。今朝のニュースでもう梅雨入りだと知らせていた。窓の外の雨雲を眺めながらふと実感した。黒板には今日も分かりきった公式が並べられてそれをクラスメイトは必死に頭を抱えて考えていた。こんな何でもない1日が今日も繰り返されているのは少し物足りなさを感じながらもホッとさせてくれた。これも鈴音と付き合い始めて毎日が充実しているからこそだろうか。


授業が終わって昇降口へ降りると鈴音が靴を履いていた。

「鈴音、帰ろう。」

「あ、理樹。うん、帰る。」

少し間を空けて門を出た。学校が見えなくなるとすぐに腕にしがみついてきた。いつものパターンだ。しばらく歩いていると真っ黒な雲がポツポツと雨を降らせ始め、気がついた頃にはもう前が霞む大雨になっていた。

「何よ、ついてないわね!」

鈴音は体を小さくして走り出した。

「俺の家の方が近いから、雨宿りしてけよ。」

「ありがとう。そうするわ。」

俺の家の方に走ること5分で家の前の灯が見えた。急いで鍵を開けて入る。今日は親はどっちも帰ってこない。家の中は静まりかえっていた。

「ありがとう。服がびしょびしょになっちゃった。」

「待ってな。今タオル持ってくるから。」

「うん…」

鈴音は少し顔を赤らめて下を向いていた。バスタオルを渡して部屋にあげた。風呂が沸いたのを確認すると鈴音に入るように言った。

「お風呂、ありがとう。」

服が乾くまで一応俺のTシャツを貸したけど、大きくてワンピースみたいになっていた。温かい飲み物を出してソファに腰掛ける。

「理樹の家に来るのって、初めてよね。なんか、緊張するわ。」

「別に、緊張するほどのことじゃないだろ。」

「よく言うわよね。いきなり襲いかかったのはどこの誰だったかしら。」

「そう言いながら鈴音だってその気になってただろ?」

「それは…そうだけど…」

鈴音は顔を赤らめて俯いた。それから1時間ほどした頃だろうか。

「そろそろ服乾いたんじゃないの?」

「そうね、雨は相変わらずだけど。」

顔をあげた鈴音は少し逆上せたような表情をしていた。

「なんか、紅いぞ。大丈夫か?」

髪を軽くあげて額同士をくっつけた。

「ひゃう…」

「大分熱いな。熱計るか。」

体温計は39度を示していた。

「そんなに高かったの?」

「今日は泊まってけよ。どうせ雨やまねぇし。親もいないんだろ?」

「ありがとう。そうするわ。」

「さてと、飯はどうする?消化のいい物の方がいいだろ?」

「月見うどん…」

「分かった。今作ってくるから。」

鈴音がご飯を食べている間に布団を敷いてベッドの上を空けていた。少しすると鈴音が上がってきた。

「ごちそうさま。」

「少しは良くなった?」

「ちょっと体が軽くなったわ。」

「じゃあ早く寝な。明日にはきっと良くなるよ。」

「理樹…相変わらずこういう時は優しいのね。」

鈴音をベッドに寝かして布団に入る。しばらくすると鈴音がか細く鳴き始めた。


「おい…お前…」

「んん~!離れちゃ、だめ。」

こうして体調を崩したりすると決まって甘えてきたり弱気になったりする。それが普段とのギャップで余計に劣情を駆り立てたりすることがある。

「いいよ。ずっとこのまま…な?」

「ありがとう…理樹…」

再び寝巻きを身につけた鈴音は胸の中で静かに寝息を立てた。眠っている間、朝までずっと鈴音の小さな肩を包んでいた。それはとても小さく、強く抱きしめれば割れて消えてしまいそうなほど華奢だけど、とても暖かく、愛おしかった。



「ん、おはよう。理樹。」

「あぁ、おはよう。昨日の今日で平気か?」

「大丈夫よ。見てなさい!体育祭は私が活躍してあげるから。」

「まぁ、俺はよく見ておくよ。委員会のおかげで特等席だし、どっかの運動バカの活躍ぐらい。」

「ちょっと!運動バカじゃないわよ。失礼ね。」

「別に鈴音の事だなんて言ってねぇよ。」

「そういうとこ変わんないわね。このドS。」

「まぁ、無理はすんなよ。応援してっからさ。」



そんなで出場競技もなくスタッフ用腕章を腕に通して審判位置にしゃがんでいた。

《次は、三年女子100m走です。》

一番後ろの組に鈴音の姿が見えた。次々とゴールテープが切られていった。ついに最後のレース。毎年接戦を繰り広げるこのレースには自然と視線が向けられる。スタートのピストル音が鳴り響き一斉に走り出した。1番内側を走る鈴音はトップでコーナーを曲がってそのままゴールへ…と思った瞬間、鈴音の足から力が抜けた。その場で滑り込むように倒れこんだ。その間に次々と他の選手がゴールしていく。気がつくとペンと結果表を投げて鈴音の元へ駆け込んでいた。先生たちが対応に困って立ち竦んでいる。

「どうしたんでしょう…」

「熱射病です!涼しい日陰に移動させて保冷剤とスポーツドリンクを準備してください。首筋、脇の下、脚の付け根を冷やして!」

すぐに鈴音を背負って保健室へ連れて行った。エアコンを最大風力で効かせて肌寒いほどに冷やす。カーテンを閉めて日陰にする。


一通りの処置をして鈴音の顔の横で祈るように鈴音の右手を握っていた。保健室の緊急用水分補給点滴が腕に繋がっている。

「必死になって助けていたわね。びっくりしたわ。」

「俺も、よくわからないけど、無我夢中だったんです。」

「本当に大事にしているのね。ところで、貴方ずいぶん応急処置が的確だったけど、何か講習でも受けているの?」

「いいえ、父が上級救命の資格を持っているので、簡単な事は教わりました。」

「そう、なるほどね。そう言えば、そろそろ戻らないと向こうが大変じゃないの?」

「でも…」

その手を離すのを戸惑っていた。独占欲が強くなったのか、鈴音の目が覚めた時、一番にその顔を見たいと思っていた。

「分かってるわ。これを持って行きなさい。」

先生は小さなインカムを投げた。

「私のインカムとだけ繋がってるわ。何かあったらすぐに伝えるから。」

「…ありがとうございます。行ってきます。」

インカムを耳に突っ込んで校庭の本部席に戻った。

「大丈夫だったかい?」

「はい、今は応急処置をしてもらってます。」

「そうか。ところで、審判担当から救護担当に代わってくれないか?結構忙しいが養護教諭が足りなくてな。」

「はい、分かりました。」



それから何時間か救護所での応急処置をしていた。

「生徒が1人怪我したそうです。」

手首を真っ赤に腫らした朝熊が入ってきた。涙目でしゃくりあげている。

「神田…痛いよ…」

それはいつになく不安そうでか弱い声だった。

「大丈夫だから、ちょっと見せて。」

手首を優しくとって様子を見る。

「固定したほうがいいですか?」

「これは…脱臼だな。あまり強くは固定しないで少し押さえる程度に支えてすぐに病院へ行ったほうがいい。」

「ありがとう。」

「お大事に。」



それからも何人かの救護をした後、少し暇を持て余していた時だった。インカムから声が聞こえてきた。

「赤魔さんの意識が戻ったわ。少し話してあげて。」

「分かりました!すぐ行きます!」

先生に許可を取って救護所を駆け出した。

「鈴音!もう大丈夫なのか?」

「もう平気よ。…その、ありがとね。」

安堵のあまり鈴音を抱きしめていた。

「理樹…ごめんね。」

「鈴音が無事なら、それでいい。」

「あらあら、私はお邪魔かしら?」

「先生も、ありがとうございます。また少し行かなきゃいけないんで、終わったらまた来ます。」

「あ…」

俺は鈴音を見て安心するとすぐに救護所へ戻った。さすがにいつまでも空けては置けない。

「神田君がいなくなって寂しいの?」

「そ、そんなこと…ないです…」

「神田君、貴女のことすごく心配してたわ。必死な顔で貴女をここまで運んできたのよ。」

「理樹ってば、いつもは少しきついのに、こういう時はすごく優しくて。」

「それで、気がついたら好きになってたの?」

「はい、理樹がいないと、不安になって…」

「神田君も罪な人ね。そういうことを自然にしているところがね。」

「それに、理樹がギュッとしてくれるとすごく安心できるんです。」

「大切にしないとだめよ。と言っても、あなたたちなら平気だろうけど。」



その後体育祭は無事に終了し、撤収を手伝って解散するとすぐに保健室に駆け込んだ。

「あら、神田君。赤魔さんは少し寝てるわ。今起こすから。」

「いいえ、しばらくそのままでいいです。」

「…そう。」

ベッドの横に腰掛けると鈴音の髪をそっと撫でた。

「貴方、赤魔さんととても仲がいいのね。貴方が戻ってからずっと2人の話しかしてなかったわ。」

「鈴音…」

「でも、気をつけなさい。貴方は気がつかないうちに心を奪ってしまう癖があるみたいだから。」

「そんなことは…」

「大丈夫よ。貴方が流されなければいいだけだもの。赤魔さんのことを泣かせたりしないことね。」

「…何があっても、何よりも、誰よりも、自分を捨てたって…鈴音から目をそらしたりはしません…」

「そうね。貴方は自分を曲げるような人ではない。大体分かるわ。そのまっすぐな瞳を見ればね。」

すると、眠っていた鈴音が少し身じろぎをしてから目を覚ました。

「ん…理樹。」

「鈴音、少しは良くなったか?」

「うん。もう大丈夫。先生、ありがとうございます。」

「いいのよ。これも仕事だから。二人とも、お似合いね。」

「ちょっと…先生。」

「べ、別に嬉しくないです!こんなのと一緒にされたって…」

「ふふふ、そう。そろそろ帰りなさい。ちゃんと送ってくのよ。」

「べ、別にあんたは来なくていいからね!」

「じゃ、俺は帰るか。」

「ちょっと…ま、待ちなさいよ。」

「なんだ?」

「…な、なんでそんな意地悪するのよ。…一緒に、帰りなさいよ。」

「…早く帰るぞ。」

「じゃあね、二人とも。」

「さようなら。」

「ありがとう。先生。」

鈴音の手を取って歩き出した。まだ少し頭が回っていないようだった。

「晩御飯、何が食べたい?」

「え?…そうね、親子丼とかいいわね。」

「じゃ、それにするか。」

鈴音の家に入ると台所で準備を始めた。

「鈴音!できたぞ。」

「ありがとう。」

今日のことを話しながら食べているといつの間にか時計は8時をまわっていた。

「じゃあ、俺はそろそろ帰るから。」

「待ってよ…泊まって行きなさいよ。私一人じゃ、寂しいのよ…」

「…そうだな、久しぶりに泊まるか。」

「ありがとう。私の部屋に来て。しばらく話してようよ。」

「待て、その前に風呂入れ。汗掻いただろ?」

「そうね、あんた先入っていいわよ。私色々準備あるから。」

「そうか、じゃあお言葉に甘えて…」

脱衣所で服を脱いで小さな湯船に浸かった。すると突然、ドアが開いて鈴音が入ってきた。それはまさに一糸纏わぬ姿で、小さな肩と先と頬を真っ赤に染めて。

「おい、何してんだよ。」

「私も…一緒にいれなさいよ。」

鈴音はそのまま湯船に入ってきた。

「やっぱり、理樹の身体ってあったかいわね。」

「そういうことじゃ…」

「もっと、理樹と一緒にいたい…」

「…分かったよ。もう少しだけな。」

「理樹…大好き。」

「改まって言うなって。」

さすがに2人同時に出るのは狭いからと先に上がってきた。鈴音の部屋で鈴音を待っていると鈴音も上がってきた。緩いTシャツとホットパンツで鈴音はベッドに胡座をかいていた。背後からそっと抱きしめる。

「ひゃっ!…ちょっと、理樹…」

「小さくて、かわいいな。」

「やめて…そこは、ダメ!…私、小さいから…」

「鈴音!…」

「理樹、あんたまたそんな…」

「先に誘ってきたのはどっちだよ。」

「…ここまで来て、やめないでよね…私だって、もう限界だから。理樹がほしい…」

鈴音の頬が酔っ払っているように紅くなっていた。俺は何も言わず、鈴音の唇にそっと口を重ね合わせた。

「もう、息荒くなってるな。」

「…バカ…」

俺は鈴音の胸を服の上から少しだけ撫でるように触れた。

「あぁあん!ちょっ…そんな触っちゃ…!」

「鈴音…可愛いよ。」

俺は鈴音の耳元で囁いた。

「だめぇ…ぞくぞくしちゃう…」

俺はさらにもう一方の手をホットパンツの隙間から中へ忍び込ませた。

「ちょっと…手が…あぁぁ!そこ、こすっちゃ…」

俺は少しぷっくりとした鈴音の陰核を軽く下着の上から擦った。それだけで鈴音は気持ちよさそうに顔をとろけさせ、口元から悩ましい吐息を漏らした。

「はああぁ…らめぇ~。ちから、抜けちゃう…」

俺はもうすでに脱力しきっている鈴音のTシャツをたくし上げ、胸を露出させた。

「あぁ…胸が…出ちゃった…」

俺も自分の下半身を露わにして自分の上に鈴音を跨らせた。

「え…理樹…?」

「今日は鈴音が上な。」

そう言うと俺は鈴音の腰を掴んで俺の淫根の上に乗せた。

「理樹の…あたってるよぉ~。」

そのまま胸を弄り始める。すると鈴音は切なげに喘いだ。

「あぁあ!あっ、胸はっ、こすっちゃらめぇ!」

すると徐々に鈴音の腰が前後に揺れ始める。

「鈴音、腰動いてるぞ。」

「らって、きもちよくて…熱いのもあたってて…もう我慢できないよ…」

鈴音はもう完全に興奮しきっていて、腰をクネクネと揺らしながら俺の淫根を求めていた。俺はホットパンツの隙間を指で広げ、そこに熱くなった男根を押し当てた。

「あぁ…おっきい…。」

「挿れるぞ。」

鈴音の腰を大きく上げて屹立めがけて落とした。

「あぁぁあ!すごいぃぃぃ!奥まで一気に、はいってきたぁぁ!!」

そのまま俺は腰を突き上げるようにしてダイレクトに振動が子宮へ伝わるように押し込んだ。

「すごいぃのぉ!奥がズンズンしてぇ、子宮もごりごりしちゃってるぅぅ!こんにゃの、たえられないよぉ!いっひゃう!すぐひっひゃうぅぅぅ!」

「もっと強くするぞ!」

膣の締まりが動くたびによくなり、ぎゅうぎゅうと締め付けてきた。

「だめぇえ!あぁぁぁぁっぁぁぁああああぁ!ああううんっっ!あぁあっ!あぁうっ!」

鈴音は早くも大きく腰を反らせて俺の上に倒れこんだ。身体をピクピクと痙攣させている。俺はその鈴音の身体を抱きしめてまた腰の動きを再開させた。

「あぁぁぁあ!だめぇぇ!イッてるのっ!いまイっちゃってるからぁぁ!そんなに突いたら!壊れちゃうぅぅっ!あぁぁっっっ!だめぇぇ!だめぇぇぇぇ!」

ズンズンと奥に響く振動を与え続けながら自分も少しずつ限界を感じ始めた。さらに早く強く動かしてスパートをかけた。

「あぁぁぁ!しゅごいぃ!奥がぁぁっっっ!イってるのにぃぃぃ!きもちぃよぉ!またイっちゃう!だめっ!つぎイったら!頭真っ白になるぅぅ!」

「いいよ!イけ、いっぱいイけっ!」

「あぁぁぁぁああっ!イクイク!イッックぅぅぅ!あぁあんっ!んんうぁぁぁぁんんんっ!」

プシャー!と派手に鈴音は潮を吹いた。それと同時にブチュブチュと精液が鈴音の膣内に解き放たれ、さっきから締まりっぱなしだった膣が一瞬これ以上ないくらい締まってすぐに紐が切れたように緩んだ。それからはピクピクと身体と対応して痙攣している。抱き合った2人は性器を結合させたまま息を荒くしてじっと快楽に浸かっていた。


「明日から夏休みだ。浮かれるのもいいが、問題だけは起こすんじゃないぞ。それと、勉強も忘れないことだ。」

うんざりするくらいによく晴れた真昼の空の下、今日は観測史上一番の猛暑日だそうだ。毎年毎年観測史上一番というが、このまま行くと数年後には本当に地球が砂漠で包まれそうな暑さだ。

「今日、暑いわね…」

「あぁ、そうだな…」

「どうしたの?なんかテンション低いわね。」

テンションが低いのも当たり前だ。この日差しに当てられてさっきから頭がゆで卵にされた気分だ。委員会の会議室が懐かしい。しばらくは学校に来ることもなく蒸し暑い部屋にいなければならないと思うと今から憂鬱だ。

「ねぇ、夏休み、どっか行かない?…その、2人で。」

「そうだな、この暑いのにこの町内に留まるのは気がひける。海でも行くか。」

「本当!?良いわねそれ。約束だからね!」

顔が一気に明るくなる。相も変わらず思っていることがすぐ顔に出て、それも少し可愛いと思ってしまった。

「でも、私去年の水着着れないかも。」

「大丈夫じゃね?つか成長してねえんじゃねぇの?」

「失礼ね。伸びたわよ!」

「何センチ?」

「…それは…1センチだけだけど。」

「…成長止まったな。」

「え、うそ!私ずっとこの身長のまま!?」

「冗談だよ。まだ成長止まるほど伸びてねぇじゃん。」

「本当にあんたってやつは。それに…あんたに、揉まれてから…胸も…」

「お前…ここでそんなこと言うなって。分かった、そんなに言うなら買いに行くか。」

「じゃあこの後すぐ!」

「マジで言ってる?俺この後宿題が…」

「嘘ついてんじゃないわよ。さっき先生の授業そっちのけで宿題やりきってたのはどこの誰だったっけ?」

「分かったよ。取り敢えず着替えて荷物を置かせてくれ。このままは面倒だ。」

「あ、それもそうね。分かったわ。じゃあ3時に駅前ね。絶対来なさいよ。」

また早々に振り回される予感がした。しかし、買い物に行きたかったのは事実だ。水着もそうだが…他にも買っておきたいものがあった。カバンに財布とケータイを突っ込んで家を出た。駅で待っていると鈴音は相変わらず性格に不似合いな可愛らしいワンピースを身にまとって走ってきた。いや、似合ってるんだが。

「あんた、いっつも来るの早いわよね。早く行こう。」

「どこ行くつもりだよ。」

「アウトレットモールに夏限定の水着ショップが出てるからそこに行くわ。」

それは駅から10分ほど歩いたところにあった。中へ入ると大きな吹き抜けの天井と高く積み上げられた店が並んでいる。店を探す道すがらそこら辺の店の売り物を眺めていた。

「あったわ。ここね。」

「あぁ、そうか。じゃあ俺はこの辺で…」

「ちょっと!待ちなさいよ。どこ行くつもり?」

「俺も水着欲しいから探しに。」

「そんなの私が後で一緒に探してあげるから先に私の選びなさいよ。」

「…分かったよ。さっさと選んでこい。待ってるから。」

鈴音はあっという間に店の奥へ消えていった。こういう時にあいつがすぐに帰ってきた試しがない。さっき眺めていた店で一軒気になる店があった。ここの近くだ。取り敢えずその店に入った。ショーケースにスペルを象ったネックレスがかけられている。

「この、Rのものを下さい。」

さっさと買って戻らないとそろそろ鈴音が決めて来る頃だろう。元のベンチでケータイを開いて何事もなかったかのように鈴音を迎える。人にプレゼントを買うのは初めてでこれでいいのかと少し不安も混ざっている感じがした。

「ねぇねぇ、これとこれ、どっちが良いと思う?」

「そうだな…赤の方が似合うと思うぞ。」

「そう?じゃあ赤にしよう!」

鈴音は飛び跳ねるようにレジへ消えた。その後、近くのカフェテリアで休憩しながら夏休みの予定について話をしていた。

「夏休みは家族と旅行に行ったりしないの?」

「それがさ、ひどいんだよ!私のことおいて旅行行くって。しかも、私の誕生日の日に。」

「じゃあさ、一緒に旅行でも行かない?どうせ暇なら。」

「いいの?でも今からじゃホテルとか取れないんじゃ…」

「大丈夫。そういうのは結構良く知ってるから。鴨川の方にいいところがあるんだ。行ってみない?」

「いいわね。じゃあ…」

「8月2日から3日。だろ?」

「うん。その、ありがとう…」

「いいよ。俺も行きたかったから。」

鈴音は礼を言う時に顔を真っ赤にして目を逸らす。

「…そろそろ帰るか。」

「そうね。じゃあ、帰ったらメールで。」

建物を出ると5時過ぎだというのに太陽はまだ大分高いところにいた。帰りの道すがらホテルに一本の電話をかける。

「はい、こちらホテルグリーンプラザ鴨川担当の赤石と申します。」

「すいません。8月2日から一泊予約したいのですが。」

「少々お待ちください。」

受話器から保留音楽が流れる。数十秒ほどすると音楽が切れ上品で落ち着いた声が流れてきた。

「お待たせいたしました。何名様でしょうか。」

「2人です。一部屋で。」

「承知いたしました。一部屋2名様、8月2日から一泊二日のご予約でよろしいですか?」

「お願いします。」

「それでは、お客様のお名前とご連絡先、年齢をお伺いします。」

「神田理樹、17歳です。この電話に折り返してください。」

「承知いたしました。それでは、ご来店心よりお待ちしております。」

「ありがとうございます。」

もちろん、17歳というのは嘘だ。しかし、中学生の予約が面倒なことは知っている。少しくらいは誤魔化してもバレはしないだろう。身分証に関しては忘れたことにすればいい。去年も似た方法で成功しているから心配はなかろう。



8月2日の朝、駅で鈴音の姿を探していた。

「理樹…おはよう…」

鈴音は髪を下ろして少し顔を落として立っていた。

「鈴音…似合ってるよ。」

「…ありがとう!」

鈴音は髪を舞わせて抱きついてきた。甘く優しい香りが漂う。

「…ここでは、やめてくれよ。」

「…もう少しだけ。」

言い出すと聞かないことは良く知ってる。周りの流れから取り残されたように肩を抱いていた。

「そろそろ特急が来るぞ。」

「じゃあ、もう行く。」

鈴音は少し寂しそうに顔を上げた。

「ホテルに着いたらな。」

耳元で小さく囁いた。鈴音の頬が赤くなった。
東京方面の東海道線特急に乗り東京駅まで揺られる。車内はすし詰め状態で大分息苦しかった。鈴音の上を覆いかぶさるように向かい合った。

「辛くないか?」

「私は大丈夫。理樹は、辛そうだけど。」

「俺は…鈴音が平気なら大丈夫だ。」

「ありがと…」

東京駅に着くとたくさんの人に押し流されてホームまで掃き出された。

「すげぇ混みようだったな…」

「理樹、ありがと。ずっと守っててくれて…」

「言っただろ。俺は鈴音が平気なら大丈夫だから。早く行かないと電車乗れないぞ。」

「あんたって…」

東京駅から特急わかしお安房鴨川駅行きに乗り席に着いた。

「こっちは特急で正解だな。鈍行じゃあ混んでてしょうがない。」

「どこまで行くんだっけ?」

「安房小湊駅まで。上総一ノ宮過ぎれば空くと思うよ。」

座れてはいるものの車内に空きはほぼなかった。一時間少しほどして上総一ノ宮の駅に入り一気に車内が寂しくなった。残り一時間もかからず安房小湊駅に着くだろう。

「もうすぐだよ。」

「長閑な場所ね。理樹は来たことあるの?」

「前に家族で来た。いいところだよ。海も山もあるし、少し田舎だけど見れる場所も多いし。」

「久しぶりに海で泳ぎたいわね。」

「今日は泳ごうか。明日は帰りがてら寄り道していこう。」

「いいわね…あ、私の水着…楽しみにしてなさいよね…」

「また襲っちまうかもよ。」

「もう何回も…してるじゃない。」

「…まぁ、お前も似たようなもんだしな。」

「ほんと…ズルいわね、あんたって。」

そうこう話しているうちに安房小湊駅に停車した。小さな建物をくぐり駅前の通りに出た。路線バスの時刻表を見ると一時間後に来るらしい。

「しばらくないな…先に飯にするか?」

「いいけど、こんな所に食べる所なんてあるの?」

ケータイを開いて近くを検索してみる。

「この辺に回転寿司があるらしい。軽く食べていくか。」

「そうね、朝から何にも食べてないから。お腹空いたわ。」

その店は駅から数分ほど歩いた場所にあった。軽く食べながら時間を潰し、気がつくともう10分前になっていた。

「そろそろ行くか。」

荷物を持って足早に停留所へ向かった。古びたバスが黒い煙を上げて近づいてきた。中へ乗ると人は乗っておらず。車ともすれ違わないまま山の中の道を進んでいった。

「海が全然見えないわね。」

「駅は結構中にあるからな。そろそろ見えてくると思うけど…」

ちょうどその時だった。山の谷間に埋もれていた道が開け、切り立った山肌と遥か彼方まで続く太平洋が姿を現した。

「いい景色ね…こんなの初めて見たわ。」

「もうすぐだな」

それからすぐのバス停を降りた。イルカと印象的な三つの山のマークが見えてきた。

「二人で予約の神田です。」

「2名様でご予約の神田様ですね。少々お待ちください。」

フロントの係員は手際よく後ろの棚に手を伸ばした。

「本日のお部屋は二階の奥、208号室でございます。お客様は初めてではないそうですので説明は省かせていただきます。何かご用がございましたら備え付けの電話でお知らせください。」

「ありがとうございます。」

鍵を受け取って部屋に入った。

「綺麗な部屋ね…」

「あぁ、でもシングルしかあいてなかったから…」

「別に私はいいわよ。理樹とならずっと一緒でも。」

「…とりあえず、着替えて海行くか。」

「そうね、それはそれでまた夜に…」

自分で言っておいて照れていることは疑問も感じつつ、海の独特の香りにテンションは上がっていた。

「ねぇ、私の水着、どう?」

そこには真っ赤な水着を着た鈴音が恥ずかしそうに立っていた。

「…店で見た時より、似合ってる。」

「ありがとう!理樹~」

鈴音は抱きついてきた。

「なんか今日はやたらと甘えてくるな。」

「だって…しばらく会えなかったから…」

そういえばそうか。あの日買い物に行ってからあとはメールしかしていなかった。こんなに長く会っていないのは初めてだったのだろうか。

「…そっか。大丈夫、今日から2日間はずっと二人きりだから。」

「理樹~理樹~…」

「…なぁ、そろそろ海行かない?続きはまた夜にっつうことで。」

「そ、そうね。じゃあ行きましょうか。」

浮き輪を持って裏の扉から堤防沿いの道に出た。目の前には海が広がっている。五分ほど歩くとぽつんと一つだけ海の家が建っている。

「ここを借りていこう。」

パラソルを一つ借りてレジャーシートを敷いた。貴重品は部屋に置いたから二人ともシートを離れて遊びに行ける。

「じゃあ、海行こうか。」

「うん…あれ?理樹の浮き輪は?」

「俺は浮き輪いらないから。」

「そう。まぁいいわ。」

水際まで降りると冷たくて気持ちのいい水が足を撫でた。

「ひゃっ、冷たくて気持ちいい…」

「もう少し奥まで行こうぜ。浮き輪乗れ。」

「わっ、ちょ、ちょっと待って!」

鈴音を抱き上げて浮き輪に乗っけて紐を引っ張って思い切り沖まで泳いだ。

「どうだ?結構沖合いは人がいないだろ?」

「気持ちいいわね。二人しかいないみたい…」

浮き輪の端に腕をかけて飛び乗った。

「ちょっと理樹!やめなさいよ、狭いでしょ。」

「いいだろ。ちょっとだけ。」

鈴音と笑いながらじゃれ合っていた。不意に鈴音の上に跨る形で目があった。思ったより至近距離で水着しか身につけていない肌が密着する。

「ちょっと理樹…」

「鈴音…」

少し顔を近づけた。鈴音が目を閉じる。キスするように顔を近づけてギリギリで手で海水を掬って顔にかけた。

「うわっ、理樹!」

「引っかかったな。」

「もう~!やめ…」

顔を真っ赤にして怒る鈴音に今度は本当に唇で口をおさえた。

「ん、んん…理樹…」

「引っかかったな。」

口を放すと白い糸が引いた。プツリと途切れるとしばらく波の音と遠くに聞こえる騒がしい砂浜のざわめきだけが流れていた。

「理樹…急だよ…」

「言っただろ。襲っちまうかもって。」

「本当…ズルいわね。」

「そろそろ戻る?そういえば、ちゃんと飯食ってなかったし。」

「そうね、なんで海ってこんなにお腹空くのかしら。」

「匂いのせいじゃないの?」

「そういうことにしておくわ。」

海を上がると太陽は頂点を過ぎていた。パラソルを借りた海の家で昼食を注文した。

「焼きそばと、焼きおにぎり。」

「ラーメンとチャーハンお願いします。」

注文を取った店員が厨房に入っていくと少し席を立った。冷蔵庫からコーラとお茶のペットボトルを一本づつ取り出して持っていった。

「鈴音、はいコーラ。」

「ありがとう。あんたって本当甘いもの食べないわね。飲み物もいっつもお茶だし。」

「甘いのはあまり好きじゃないから。ゼリーぐらいは食べるけど。」

「へぇ、私はチョコとか飴とか結構好きだけどな…」

そんな話をしているうちにメニューが運ばれてきた。

「その…今日はありがとう私、こんな充実した誕生日初めてだと思う。」

「今日はそういう湿っぽい話はなしだ。お前が楽しそうなら俺も楽しいから。」

「…ありがとう。そろそろまた海行こう。」

「じゃあ、行くか。」

会計を済ませて浮き輪を持った。波打ち際で浮き輪を浮かべると鈴音が腕を引っ張った。

「なんだよ。」

「今度はあんたが座りなさいよ。」

浮き輪に座って鈴音を見ると上に寝っ転がってきた。

「さっきのお返しよ。沖まで連れて行きなさい。」

「…分かったよ。落っこちんなよ。」

手で水をかいて沖へ進んだ。

「理樹の身体って…かたくて、なんか落ち着く。」

「そうか?鈴音の肌は白くて柔らかいな。」

「なんか、恥ずかしいわね。」

「いいんじゃない?たまには。」

「…もう少し、このまま。」

それから陽が傾くまで海面を漂っていた。

「そろそろホテル戻る?」

「そうね。さすがに疲れたし。」

浮き輪を持ってビーチを後にした。



部屋に戻って少し荷解きをしていた。

「そろそろお風呂行くか。」

「そういえば大浴場があるらしいわね。」

タオルと浴衣を持って風呂へ向かった。

「じゃあ、後でね…」

「おう、また部屋でな。」

久し振りの大浴場だった。湯船に浸かると背中がヒリヒリと痛んだ。何もない夏休みに一輪の花を添えてくれた。鈴音にはとても感謝している。こっぱずかしくて言えないけど…。タオルを首から下げて部屋に戻った。鈴音は早速ベッドに横になっていた。

「おかえり。背中が痛くて、びっくりしちゃったわ。」

「俺も、湯船に入るのが大変だった。」

時計を見るとまだ長い針は真下を向いていた。ご飯まではまだ一時間ほどある。

「ねぇねぇ、後でこの卓球やってみない?」

「いいよ。どこまで続くかわかんねぇけど。」

「そんなに難しく無いでしょ?」

「俺はそんなに運動神経良くないの。」

「よく言うわね。あんた基本的になんでも出来るじゃない。」

鈴音はテーブルの上に置かれていたゼリーの袋を開けた。

「ゼリーか、結構好きなんだよね。」

「これ、美味しいわね。帰りに買っていこうかしら。」

「そういえば、お前家族になんて言ってんの?いくら不在でも話さない訳いかないだろ?」

「友達と旅行行くって言ってるわよ。女友達だと思ってんじゃないの?」

「まぁ、普通そう思うよな。」

「ねぇ、そろそろ食べに行かない?あと少しで時間よ。」

ふと時計に目をやると7時30分前を指していた。さっき1時間前だと思っていたのに、少し驚いた。

「よし、そろそろ行くか。」

部屋を出て鍵を閉めた。エレベーターを降りるともう少しだけ人が集まっていた。エントランスとレストランの間に小さな縁日ができている。

「少し遊んでから行かない?」

「いいよ。どうせ時間あるし。」

各ゲームで高得点を取ると景品がもらえるルールになっていた。

「私、あれやってみたい。」

「射的か。面白そうだな。」

鈴音は手前のおもちゃのピストルを手にとって構えた。鈴音は弾を込めると片目を瞑って一発放ったが大きく右にそれて台に落ちた。

「あ~ダメだった…」

「こうやるんだ。」

鈴音の腕を背後からおさえた。顔を鈴音の横へ近づける。

「もっと脇を締めて、顔を寄せろ。」

指をかけるとゆっくり引き金を引かせた。弾は見事に最高得点の的に当たった。

「やった!当たった!」

「よかったな。景品選んでこい。」

鈴音が小さなぬいぐるみを抱えて戻ってくるとちょうど席へ通された。

「私取ってくる!行こう、理樹!」

「分かったから、引っ張るなよ。」

ぬいぐるみを席に座らせてトレーを手にとった。鈴音は皿いっぱいの料理を抱えている。10分ほどでテーブルにご飯が揃った。

「美味しいわね。これ。」

「別に焦って食わなくてもいいだろ。」

「だって美味しいんだもん!」

なんだかいつもよりも幼く見える鈴音にまた違った可愛さを感じた。鈴音に負けず劣らずの量をさっさと平らげて鈴音の顔を眺めていた。

「ちょっと…そんなにジロジロ見るんじゃないわよ。…は、恥ずかしいでしょ。」

少し頬を染めながらスプーンを噛んだ。皿の上にはもう骨と皮しか残っていなかった。

「そろそろ、戻ろうか。」

「そうね、美味しかったわ。」



帰りにフロントでラケットとピンポン球を借りて奥の広間に入った。卓球台が二つ並べられている。台を挟んで両端に立ちラケットを握った。球を空に浮かせ軽く弾く。軽快な音が3回なって鈴音が打ち返した。意外とラリーが続いていた。しかし、少しすると鈴音が疲れ切った顔になっていた。額から汗が垂れて浴衣が乱れている。その時、隣にあったタイマーが鳴った。

「よし、そろそろ終わりだな。」

「汗掻いちゃったわ。」

「大浴場寄ってから帰るか。」

「待って、今度は部屋の風呂にしない?…その、一緒に。」

鈴音は自分で言っておきながら真っ赤になってわめきだした。

「そ、そんなこと言うわけないでしょ、なn、なんであんたなんかと…」

「俺は別にいいけど…付き合ってんだし。」

「…はやく、部屋戻ろう…」



ドアの鍵を開けて中に入った。タオルと下着だけ持って部屋風呂に向かう。ユニットバスに入ってシャツを脱いだ。

「入るまで、見ないでよ…」

衣擦れの音とたまに鈴音の肌が狭い室内で触れた。

「あんた、先に入りなさいよ。」

少し足を上げて風呂に入る。後ろから入った鈴音が少し大人しくなってお腹に手を回した。

「お、おい…鈴音」

「理樹の背中…大きくて、堅くて、落ち着く…」

鈴音の滑らかで柔らかい肌が直で密着する。汗で少しぬるぬるして余計に変な感じがする。俺は鈴音に向き直って腰を抱きしめた。

「あ…ん、んん…理樹…」

「鈴音…」

そのままそっと唇を重ねる。這わせるように舌を入れ、さらに強く腰を抱いた。

「ん、んむ…むぁぁ…」

いつになく艶かしい声を出す。少し顔を上げて体を離すと、密着していた部分が糸を引いた。

「やだ…こんなに濡れてる…」

「俺も、結構きてるな…」

シャワーをひねってお湯を出した。汗でぬるぬるになった身体を洗い流した。

「私の身体も、洗って?」

鈴音はもう正気を失っていた。もう、肌は紅潮し、目尻も下がっている。俺は手に石鹸をなじませて身体を撫でた。

「理樹…気持ちい…」

泡が身体中にまとわりついた姿は余計に妖艶だった。

「もう一回、入ろうか?」

「…うん。」

湯船に入ると俺の前に乗っかるように鈴音が座った。ちょうど俺の目の高さから小さな丘の上に実るピンクの蕾が見えている。たまらず鈴音のお腹から両手を上げて2つの蕾を指でつまんだ。

「んn…理樹…つまんじゃ…だめぇ。」

「鈴音…かわいいよ…」

「理樹…ここで、しちゃうの?」

顔を上げた鈴音の表情は眉と目尻が下がり、頬を赤く染め、蕩けたような表情で少し開いた口元からは熱い吐息が漏れていた。

「俺もう…我慢できない。」

「理樹がしたいなら…いいよ?」

「鈴音…!」

俺は鈴音の胸を揉みしだいた。真っ白だった肌は紅潮し、ピンクの蕾はぷっくりと膨れた。揉むと手に伝わってくる柔肌の奥の柔肉の感覚はなるほど、少し大きくなっているかもしれない。

「ねぇ…そこばっかじゃなくて…こっちも…」

吐息交じりの鼻にかかった声で訴える鈴音の手は湯船の中の恥丘を押さえていた。

「背中に熱いのが当たって…キュンキュンするの…」

そう訴える鈴音を俺は少し持ち上げ、さらに体を近づけて下半身の双丘の間から鈴音の痴裂に俺の熱くなった屹立を押し当てた。

「んう…あぁ…おっきくて、熱いのが…」

そのままこするように鈴音の腰を前後に揺すった。

「あぁん!すごい…こすれて…おかしくなっちゃう!」

鈴音は首を上下に振って喘いでいる。俺は鈴音の首元から耳の裏にかけてを舌でゆっくり撫でた。

「ひゃうん!そこは…舐めちゃらめぇ…」

「なぁ、もう挿れていいか?」

「早く入れて…キュンキュンしてるのいっぱい突いて…」

俺は揺すっていた腰を上げて思いっきり上から下ろした。ぐぽっと泡が立って硬い俺の半身は鈴音の淫裂にぱっくり飲み込まれた。

「あぁあ!入ってきたぁ!いいよぉ!理樹の硬くて、すごいよぉ!」

「動くぞ、鈴音!」

上下に腰を動かし鈴音を突き上げるような形で奥を突いた。時期に鈴音もタイミングを合わせて腰を動かし始めた。

「鈴音…自分から腰振ってるぞ!」

「だって…これ、すごいんだもん!奥が…ズンッズンッってなってぇぇ!ダメなの!頭が、真っ白になるの!」

俺はさらに本能のままに腰を強く突き上げた。鈴音の身体が水面で揺れ、浮き沈みする乳頂を指でつまんでコリコリと弄った。

「それだめぇ!びりびりするっ!こんなの、すぐイっちゃうよぉ!」

「いいぞ、一緒にイこう!」

すると鈴音は髪を振り乱しながら俺の方を向いて、快楽に溺れた表情で熱い喘ぎの中から必死に俺に訴えた。

「ねぇっ!最後は…あんっ!理樹と…き、キス…しながら…んん!イキたい!」

「あぁ、分かった!」

俺は鈴音の唇に強引に自分の唇を合わせると、唾液を鈴音の口に流し込み、舌で歯列をなぞるように舐め上げた。

「んn!んうぅう!うんん!…んぷはぁ…」

「鈴音…鈴音…!」

「ああぁぁぁ!らめぇ!あらひ…もっ、イック…イクイク…イックぅぅぅううぅぅ!」

俺はまた鈴音の唇を食んだ。それと同時に腰を思いっきり上まで突き上げ、びゅるるっ、びゅる!っと大量の精液を鈴音の膣に流し込んだ。

「あぁぁぁああぁ!なかしゅごいぃぃおい!どくどくしてりゅぅ!あっうんっ!」

鈴音はびくっと身体を硬直させて首を振り上げた。それと同時に膣壁がざわっと
俺のペニスをしごき、さらに射精を促してくる。その間もビクビクと身体を震わせて鈴音は快楽に浸っていた。

「お腹の中、あったかくて…幸せ。」

意識がはっきりした鈴音はお腹を撫でながら顔を上げてそう言った。すると、浅ましくも俺の男根はまた反応する。

「あんっ。理樹のおちんちん、また私の中で大きくなった。」

「部屋で…もう一回するか?」

「うん…いこう。」

立ち上がって湯船から出た鈴音の淫部からはさっき俺が注いだ白濁液がどろっと漏れて太ももを伝って流れ落ちた。

「私も、またじんじんしてきちゃった。理樹のが挿入ってないと…寂しいよ。」




部屋に戻ると鈴音がベッドに飛び乗った。テレビでは見たことのない番組が放送されている。タオル一枚だけでベッドに入るとまた身体を撫でた。

「鈴音…」

「理樹…」

目を閉じて少し首を伸ばした。静かに唇が重なり合う。

「あ、あんたって、普段冷静なくせにこういう時は意外と積極的よね…」

「鈴音だって、人のこと言えないだろ…」

「確かに…私また、熱くなってる…ねぇ、私の身体、冷やして…」

鈴音は小さな肩からタオルを落とし、白く透き通った肌を月明かりに照らした。肩を少し寄せると「ん…」と小さく鳴き、俺の胸に身体を落とした。

「ねぇ、せっかくだし…あれ着てみない?」
「え?浴衣…?いいぞ。」

「じゃあ、ちょっと着てくる。」

少しすると浴衣を羽織ってゆるく帯を締め、少し乱れた浴衣姿の鈴音が戻ってきた。

「どうかな…似合ってるかな?」

「あぁ、よく似合ってるよ。」

「この下は…何もつけてないわよ。」

鈴音は浴衣の裾を捲って少しだけ恥部を見せた。俺は鈴音を抱きしめてそのまま一緒にベッドに倒れこんだ。

「やっぱり、お前の方が積極的だって。」

「い、いいじゃない。一回やってみたかったの。あんたに…犯されてるみたいになるかもって、思って。」

「じゃあ、激しくするぞ…」

「うん…きて…」

熱い身体が少しづつ触れ合う。浅い吐息や強い鼓動が直に伝わり、優しい月明かりに包まれた。肩から浴衣を外し、首筋に唇を這わせ、白く光る糸を引いた。鈴音の上に跨ると少しずつ舌を這わせ首筋からその下まで落とした。脇の下に鼻が当たる。

「そこは、だめぇ…汗掻いてるから…」

「鈴音のなら、いいよ。」

構わず舌を入れた。胸や、さらにその下も…少し舌を入れるともう透明な液体が流れ出していた。

「理樹…焦らさないでよ。」

「そろそろ、いくよ。」

「理樹…」

俺は背後から抱きつき、浴衣の裾をずらした。すると鈴音はそのまま尻だけを上げて寝そべり、猫の背伸びのような格好になった。俺は菊紋の下で透明な愛液に少しさっきの精液が混ざってぬらついてヒクヒクと誘っている淫裂に焼ごてのようになった俺の肉棒をあてがった。浴衣の隙間から完全には見えず少しだけ淫部が覗いているところが余計に淫美な雰囲気を醸し出している。すると、鈴音の太ももをつつっと透明な愛液が流れ落ちた。

「もう我慢できない…早く…挿れて。」

振り向いた鈴音の顔はもう悦楽に浸っているようだった。俺はあてがった肉棒を淫裂の奥へずぷっと一気に押し込んだ。

「あぁぁあ!挿入ったぁぁ!すごいぃ!奥熱い…あぁん!」

「うぅ、いつもより締まってる…」

俺は背後から鈴音の腰を持って自分の腰に押し付けた。あえて速くはグラインドせず捻るようにゆっくり腰を前後に動かした。

「あぁぁ!すごいぃ!じんじんする!いつもより感じてる!」

ゆっくり動かすゆえにより膣壁がしつこく肉棒にしがみついて蠕動運動してくる。

「理樹の…いつもより、おっきい?」

「あぁ、鈴音の中…気持ちいいよ…」

「ねぇ…これ、気持ちいいけど…もっと速くして…じんじんしちゃうよ…」

「お前からおねだりするなんて…エッチになったな。」

そう言うと鈴音の膣がキュッと収縮した。

「言われて感じたのか?」

「あぁ…ダメ…ぞくぞくするの…」

「くそ…俺もヤベェ。速くするぞ。」

俺はグラインドの速度を上げて激しく子宮を突いた。

「あぁっぁぁあ!やっぱりすごいぃぃ!奥がズンズンして、子宮がノックされてるぅぅぅ!これ…すぐイッっちゃうぅぅ!」

「中っ、めっちゃしまってるっ…」

「あぁっぁああ!イクっイックううう!」

鈴音の膣壁がぎゅっと締まって背中を反らせた。髪を振り乱してビクビクと痙攣している。俺は追い打ちをかけるように強く膣に肉棒をねじりこんだ。

「ダメダメ!イってるから!もうイっちゃってるからぁ~!そんなにしたら壊れちゃうぅ!あぁぁぁあ!またイクっ!あぁぁぁあぁぁぁっ!アンっ!ああんあぁぁあ!!」

一際大きく背中を反らせた瞬間肉棒を引き抜いた。すると鈴口からびゅくびゅくと精液がさっきと負けず劣らずの勢いで出た。

「お尻…あったかくて気持ちいい…」

「やばい…マジで腰抜けるかと思った。」

「二回もイっちゃった…もう動けない…」

俺は窓を開けて2人分の汗と愛液が混ざって湿った空気を入れ替えた。

「私、理樹でよかった。」

「よかったのか…俺で。」

「私、初めてだったの。何でも見せられると思える人ができたの。」

「俺もだ。初めて自分よりも大切に思う人ができた。」

「理樹…」

鈴音はゆっくり目を閉じた。乱れた髪を撫でながら優しく口を重ねる。

「さっきのこと、思い出しちゃった。」

「可愛かったよ…」

「…失礼ね。どこのこと言ってんのよ。」

「鈴音の…全部。」

「理樹…なんで…そんなに優しいの?」

「言っただろ。鈴音の笑顔が、好きだから。」

「…ズルい」

「さっ、寝ようぜ。明日も行きたいところあるし。」

「そうね。…あのさ…」

「…一緒に、寝てくれるか?」

「ありがとう…理樹」

部屋に戻ってもまだ顔を合わせられずにいた。

「あのさ…抱きついてもいい?」

「いいけど…もうそんな元気ないぞ?」

「ありがとう…」

鈴音はベッドの中で胴体に絡みついた。胸に顔を埋めている。

「…いい匂い…落ち着く。理樹の匂い…」

「あのな…お前は犬か…」

「いい…理樹…」

匂いを嗅いでいた鼻がいつの間にか寝息を立てていた。少し疲れていたのだろうか。その顔は穏やかに笑っていた。もしかしたら、寂しかったのかもしれない。自分には知りえない感情だがきっと鈴音は痛かったのだろう。いつも強がってるくせに本当は弱い。少しのことで心がおれる。そんな鈴音を包み込めるのか不安だった。でも、胸元で全てを預け切った顔で眠る鈴音の顔を見るとそれだけで自分は満足だと思えた。いつからだろうか、自分よりも大切だと思う人ができたのは…



次の日、目がさめると鈴音が腕にしがみついて眠っていた。ちょっとした悪戯心にかられ、眠る鈴音の唇を突然に奪った。

「ん…!んん!んむぁ!」

「おはよう、鈴音。」

「もう、びっくりしたわよ。」

「嫌だった?」

「そんなわけ…ないでしょ。」

「じゃあいいだろ?」

そう言ってもう一度唇を奪った。

「もう…いじわる…」

顔を赤らめて小さく言う。少し肌蹴た浴衣から真っ白な胸が覗いている。

「…浴衣、着直せよ。飯行くぞ。」

「え!?…うん。」

鈴音は自分の服に目を落としてさらに紅くなった。

「昨日は恥ずかしくなかったのに…」

「…何でだろうな…」

「冷静だからかもね。」

「また正気奪うぞ。」

「あんたと一緒にいたら、心臓はいっつも正気失ってるわよ。」

「とりあえず、飯行くか…」

昨日と同じように並べられた大皿から料理をとった。

「さすがに昨日ほどはとってこなかったな。」

「まだ眠くってね…それに疲れが取れてないし。」

「正直、俺も疲れは取れ切ってない。」

「寝る前にすることじゃないわね…」

「逆に昼間からもどうかと思うけど。」

「まぁ、毎日するわけじゃないから、たまにはいいかもね。」

「食べ終わったら戻ろう。今日はシーワールドでも寄ってから帰るか?」

「いいわね、最後に行ったのいつだったかしら。」

「決まりだな…」



部屋に戻って荷物の整理をしていた時だ。

「鈴音、ちょっとこっち来て。」

「何よ…」

「これ、誕生日だっただろ。」

「…え!?そ、そんな…旅行だけで充分だったのに…」

「いいから、後ろ向けって。」

鈴音の首にリングを通した。

「うん、よく似合ってる。」

「理樹!…ありがとう…」

鈴音は体にしがみついて顔を擦り付けた。

「…いいよ、鈴音が喜んでくれたから。」

「ねぇねぇ、早くいこ!シーワールド!」

「分かったから、ちょっと待てって。」


カバンの中身を詰め込んでロックをかけた。

「忘れ物は、ないな?」

「大丈夫!」

鈴音はポーチをたたいた。

「よし、じゃあ出るぞ。」

トランクケースを引っ張ってバス停まで歩いた。

「バスは…30分でくるね。」

「本数は少ないけど、昨日よりマシね。」

古いバスに乗って小さな道をゆっくり走って行く。シーワールドは思ったよりも近くにあった。

「ねぇねぇ!向こうにイルカがいる!行こうよ!」

鈴音は明らかにテンションが上がっている。

「待てって、まだ時間がある。他のところを回って時間を潰そう。」

本館の建物に入った。少し薄暗い館内を進む。

「こんなとこ来たのいつぶりだろう…懐かしい…」

「家族で…きたのか?」

「うん。まだ小さくて…お姉ちゃんに手を引いてもらってた。」

「お前、姉妹いたの?」

「うん、今は一人暮らししてるけど。」

「そうか…」

「何よ、その含みのある言い方。」

「俺はそういうのなかったから…羨ましいと思ってさ。」

「…私でよかったら、妹にでもお姉ちゃんにでもなるわよ…」

「…それは嫌だな…」

「何よ!人がせっかく言ってんのに!」

「そうじゃなくて、そしたら俺の彼女じゃなくなるだろ。その方が嫌ってこと。」

「理樹…何言ってんのよ…」

「…まっ、もともと同い年に見えねえしな。」

そう言って頭をぽんぽんと撫でた。

「失礼ね!そんなに小さくないわよ!」

「なんだよ、いつか自分で小さいって言ってただろ?」

「あの時のことは…言わないでよ。」

鈴音は少し紅くなって俯いた。

「そろそろ…シアター行くか?いい場所取りたいし。」

「そうね、あんまり遅くなると困るし。」

少し早めにシアターの椅子に座った。ショーが始まると何匹かのイルカやシャチが水槽を泳いで一周した。隣の鈴音はもう頬を赤くして叫んでいる。ショーの後半には疲れて息を切らしていた。顔を真っ赤にして早い息をする鈴音を見て少し顔を赤らめた。

「楽しかったか?」

「うん!こんなに楽しかった夏休み初めて!…全部、あんたのおかげね…」

「そっか…俺さ、この後本家の方に帰るからしばらくこっちにいないんだ…また夏休み明けな。」

「…そうなの…そっか…」

明らかに顔が寂しさを浮かべる。

「そんな顔すんなって、毎日メールはするからさ。」

「べ、別に…寂しくなんてないし…」

「…あっそう、なら俺も、心置きなく楽しめるな。」

「す、好きにすれば…私は、平気だから。」

「…帰ってきたら、ずっと一緒にいるからな。」

「ちょっっ!ばか…恥づかしいでしょ!」

顔を真っ赤にして怒る。

「はいはい、帰ろう。」

「もう!理樹ったら…」

帰りは上りが相変わらずな割に下はそれなりに空いていた。

「空いてるわね。」

「お盆前だしな。帰りにはいいんじゃない?落ち着くし。」

「それもそうね…でも、理樹が近くで守ってくれないから。」

「それならもっと近くに行ってやろうか?」

「それは…なんか恥づかしいじゃん。」

「…まぁ…そういうことだから。また、夏やすみ明けだな。」

<次は~東京~東京です。お忘れ物ございませんように。>

鈴音の手を引いて電車を降りた。東海道線はスーツを着たサラリーマンでごった返していた。

「これじゃ、行きと大差ないな…」

「でも…ちょっと嬉しいかな…」

「そういうことは…胸の中で言ってくれ。」

「私、あんたが恥づかしがってんの結構好き。」

「黙らないと潰すよ?」

「そんなに怒ることないでしょ。ただでさえあんたに弄られてばっかりなんだから。昨日の夜だって…」

「それは弄るの意味が違う!」

鈴音は舌を出して笑いながらそっぽを向いた。

「そろそろ降りるから、荷物とか忘れるなよ。」

「言われなくたって大丈夫よ。」

2日ぶりに懐かしい駅に戻ってきた。

「じゃあ、また学校の日にな。」

「うん…またね…」

鈴音えは少し顔を俯かせて一歩近づいた。

「なんだ?」

「…キス…しなさいよ…」

「…え?」

「きっ…キス!してよ…しばらく会えないんだから…」

「…お前、正直になったな。」

「どういう意味よ!」

「今の方が可愛いってこと。」

言い終わらないうちに唇を奪う。

「あっ…理樹…」

「毎日、メールするから。」

「絶対だからね!」

鈴音を家の前まで送ると帰路についた。



次の日、ザックを背負って大通りで待っていると白のクラウンが前に止まった。

「久しぶり、叔父さん。」

「乗りなさい。ここからは遠い。渋滞も考えると6時間はかかるかもしれないからな。なるべくSAには寄ろうと思ってるが。」

「ありがとうございます。」

「理樹君は助手席に乗りなさい。後ろは一人分しか空いていないからな。君のお母さんは寝てしまうだろう。」

話が終わった頃にはもう母さんは鼾をかいていた。

「やっぱりな。」

叔父さんは笑いながら言った。

「樹さんがドイツに行ってからもう何年経つか。うまくやってるのか?」

「はい、母は相変わらずですが、なんとかやってます。」

「はは、そうかい。君も相変わらず堅いね。もっと気楽にしてくれよ。」

「はぁ…」

「ところで、新しい学校はどうだい?可愛い子はいたのか?」

「叔父さんも好きですね…まぁ、いたと言えば…」

「なんだその含みのある言い方は。」

「実は…付き合ってる人がいるんで。」

「ほう、それはいいなぁ、毎日が楽しくなっただろう。」

叔父さんはもう一杯引っ掛けたように顔を赤くしている。

「母には、言わないでくださいよ。」

「分かってるよ。私もそうだった、恥づかしいものだからな。それで、どんな子なんだ?」

「ちょっと生意気だけど…可愛い子です。」

「ここだけの話…どこまで行ったんだい?」

「そ、それは…」

「他の人には言わないから、言ってみなさい。」

叔父さんはこういう話は他の人には漏らさない人だ。でも、さすがに…

「実は…泊まりで旅行に行きました…」

「いいじゃないか。母さんには友達と行くと言ったのか?」

「なんで分かったんですか?」

「血は争えんな。私も同じことをしたよ。まぁ、男としてはってことか?」

「…はい。」

「いいなぁ、青春だなぁ。安心しろ。他の人には言わないからな。でも、ゴムだけは着けたほうがいいぞ。相手にも迷惑がかかるからな。」

「はい、財布に入れてあります。」

「君は本当に大人だね。私は生でしたくてしょうがなかったよ。」

「彼女に、迷惑なんで。」

「大切にするんだな。それが男ってもんだ。」

「田舎の人たちは、みんな元気ですか?」

「あぁ、向こうに着いたら会えるよ。そういえば、梨香もいるからな。覚えてるか?君とはいつも遊んでいたが。」

「覚えてます…鮮明に。」

「そうか。梨香も会いたがってたぞ。仲がいいんだな。」

「はい、昔は毎日一緒でしたし。」

その時、俺は彼女とした約束を思い出した。次に会った時はお互いに抱き合って、一緒に遊ぶ時はキスをしよう。思えば何でそんな約束をしたのか。もうその時の気持ちは忘却の彼方で知る由はない。

「次のSAに一回入ろう。」

叔父さんはブラックガムを噛みながら言った。

「母は、寝かしておきましょう。」

「それがいいな。」

車を止めて自販機とテーブルが置かれた席に着いた。モニターを眺めながら渋滞情報を見る。

「こっちに出るのは久しぶりだったからなぁ、こんなに渋滞するとは思わなかった。着くのは夜明け頃になりそうだな。」

「そうですね。コーヒー、飲みますか?」


自販機でお茶を買った帰りに無料のコーヒーメーカーで一杯入れてきた。

「君は、コーヒーは飲まないのか?」

「お茶ぐらいしか。」

ほうじ茶を傾けながら話す。

「私はね、人のいない夜中のSAが結構好きなんだよ。落ち着くし、いつもの日常とは違うように思えてね。」

「分かります。日常からの離脱願望は数ある現代人の命題の一つですね。」

「君も分かるようになったな。」

「まだまだですね。」

「そう思い続けることは大切だ。さぁ、そろそろ行こう。夜明けまでにつかないとな。」

「それ、なんかの映画ですか?」

「いや、俺だよ。」

俺はそれから夜中の高速を流れるランプを眺めながら東の空が明るくなっていく様子を車の窓ガラス越しに見た。ちょうどその頃、最寄りのICを降りて一般道から家にほど近い場所まで入っていた。

「もうそろそろですね。」

「あぁ、とにかく君は懐かしい顔を見せてあげなさい。きっと喜ぶ。」

「はい。」

その時、眠り通していた母がやっと目を覚ました。

「理樹、着いたの?」

「もうすぐだから起きて。」

車が止まると真っ先に扉を開けて玄関先で叫んだ。

「理樹です!お久しぶりです!」

「あら、理樹さん、久しぶり。入って入って、お母さんは元気?」

「はい、さっき起きたみたいです。」

「そう、あ、ちょっと待ってね。」

叔母さんは階段の上に向かって大きな声で呼んだ。

「梨香!梨香!理樹さんきたわよ!」

階段を駆け下りてくる音が古い家の梁に響く。

「理樹~久しぶり!ねぇねぇ!元気だった!会いたかった~!」

首に手を回して抱きついてきた。

「梨香…久しぶり。元気だったよ。梨香は?」

「うん!元気だった!ねぇ!外行こう!久しぶりに遊ぼうよ!」

「栄華さん…いいですか?」

「理樹さん、お兄さんみたいね。いいわよ。お昼までに帰ってきてね。」

「やった~!行こ行こ!」

梨香は腕をぐいぐいと引っ張って俺を外に連れ出した。


着いたのは裏山の古びた作業小屋、何でもひいおじいちゃんの隠れ家だったとか。中には竈門とハンマーや大きなペンチのようなものが壁にかかっている。

「懐かしいね~ここでいっぱい遊んで、怒られて隠れたこともあったよね。すぐ見つかっちゃったけど。」

「…今でも、よく覚えてるよ。」

「ん~ごめん。でさでさ、今夜一緒に寝ない?いっぱい話したい!」

「えっっ!…いいよ。栄華さんにも聞いてみようか。」

「じゃあさ、そろそろ戻ろう?」

「そうだな、後は晩御飯の時にでも話そっか。」

山を駆け下りて家に戻った。

「お帰りなさい。手を洗ったらご飯にするわよ。」



台所の皿の上には素麺が山盛りになっていた。梨香と洗面所で手を洗ってテーブルに向かって座った。

「二人は打ち解けるのが早いな。」

「うん!楽しかった。」

「できたわよ~。はい、召し上がれ。」

「いただきます。」

「ねぇねぇ、今日さ、りっくんと一緒に寝てもいい?」

「え…」

栄華さんは少し困惑した表情を見せた。

「まぁ、いいじゃないか。昔はそうだったんだし。」

「そうね、いいわよ。好きにしなさい。」

「やった!いただきます!」

「そんなにいっぱい突っ込むとつまらせるぞ。」

「んん~!水!水!」

「言わんこっちゃない。」

その空気は騒がしくてもどこか落ち着けるようで妙に懐かしく感じた。



夕暮れ近く、半分だけ顔を出す太陽が照らす川沿いに座っていた。

「…りっくん…なんか、嬉しいな。またこうして一緒に川に来られて…」

梨香は背中に頭を当てながら呟いた。

「そうだな…もっと、一緒にいたいね。」

「りっくんも…そう言ってくれるんだ…」

「あぁ…そう思う。」

「ねぇ、あの日の約束、覚えてる?」

「…あぁ、覚えてるぞ。」

「…そっか。してくれる?」

「…ごめん。それはできない。」

「…そうだよね。あの時は分かってなかったもん。仕方ないよね。でも、今ならちゃんと分かるよ。だから…」

すると梨花は俺の首に手を回して顔を近づけた。すると唇を俺の頬に寄せて軽く頬にキスをした。

「いつか、りっくんからも返してね。さっ、帰ろう!もうすぐ晩御飯だよ。お腹すいた!」

「そうだね。帰ろうか。」

家の前の一本道を戻った。川が夕日に照らされて煌めいている。




「あらあら、今日は一日中遊んでたわね。早く手を洗って来なさい。ご飯はもうすぐ出来るわ。」

食卓は豪華だった。旬の山菜や茸が並んでいる。

「食べていい?」

「いいわよ。召し上がれ。」

「いただきま~す!」

「いただきます。」

「いやいや、本当に元気だな。私はずっと寝ていたよ。」

「私もよ。眠くて仕方がなかったわ。」

「母さんはずっと寝てたでしょ。」

「そうね。ご飯食べたら私はもう寝るわ。」

「まだ寝るの?」

「仕方ないね。布団は自分で敷いてよ。部屋はいくらでも空いてるから、二階の好きな所を使って。」

「ありがとう。おやすみ~。」

「変わらないな。」

「年中あんなですから。」

「私も、今日は早かったので、そろそろ寝ますね。」

「おやすみ!」

「おやすみなさい。栄華さん。」

「後は、やっておきます。」

「お願いしますね。」

栄華さんは階段の上に消えた。

「叔父さん、少し飲みますか?」

「すまないね。一杯頼むよ。」

グラスに注いだ日本酒を一気に飲み干した。

「よく飲むんですか?」

「普段は一、二杯だけどな。今日は少し多めに飲みたいな。」

「いいですよ。片付けしておくので、後はやっておきますから。」

「いいのかい?」

「母があれですよ。いい加減慣れてます。」

「それなら、お言葉に甘えよう。」

叔父さんは三杯ほど飲んで少し上機嫌になっていた。

「少し皿を洗って来ますね。」

台所にたまっていた皿を洗って風呂に入る準備をしていた。

「りっくん、久しぶりに、一緒に入らない?」

「いやいや、それはちょっと…」

「梨香とじゃ…いや?」

「そうじゃないけどさ…まぁいいや、先に入るから待ってて。」

「うん、しばらくしたら行くね!」

叔父さんはテーブルに突っ伏して眠っていた。

「そうだよな…気にするな」

溜息をつきながら浴室の鏡に映る自分の頬を叩いた。白く湯気のかかったバスルームで髪を擦る。一日中遊んでいたが都会のように手に張り付く感覚はなかった。ごわごわと短い髪が掌を擽った。鏡に昔の自分を映して赤擦りで身体を撫でた。滑らかで小さく華奢だった自分の身体が昔をいつも眺めていた曇った鏡に映る。しかし、それは過去の思い出と幻想に過ぎない。身体は大きく硬くなり、筋肉や毛でゴツゴツ、ザラザラとした体に変わっていた。

「りっくん!もう入っていい?」

元気な梨香の声が聞こえた。

「あぁ、いいよ。入って。」

自分を隠すように湯船に飛びこんだ。

「お待たせ。栄華さんも、みんな寝ちゃったね。」

「…あ、あぁ。そうだね。」

「りっくん?何で顔を逸らすの?」

梨香は、何も隠していなかった。恥ずかしげもなく、両手を広げて立っている。

「い、いいから。早く身体洗え。」

「変なりっくん…?」

不思議そうな顔で首を傾げてイスに座った。梨香は気付いていない。俺の心が男になったことも、自分の身体が女になっていることも。

「ねぇねぇ、久しぶりに…背中、洗って?」

「…!あのなぁ…」

「ん?何?」

また何の躊躇もなく身体をこっちに向けた。

「分かったから!前を向け!」

「どうして?」

「あのなぁ…もう少し自覚を持て。お前も俺ももう中学生だぞ?前と同じようにってのは無理な話だ。」

「え~?いいじゃん!」

「いいじゃん!じゃなくて…例えば、知らない人と一緒に風呂に入るのは恥づかしいだろ?」

「そうだけど、りっくんは知らない人じゃないよ?」

「…もういいや。とにかく、ちょっとは気をつけろ。」

「う~ん…よく分かんないけど分かった。」

背中越しに答えた。梨香はあの頃とは違う。小さくて華奢な身体は変わらないけど、もっと柔らかくて、あったかくなったような気がする。それはもう俺の自制心を破壊するのに充分な力を持っていた。昔の思い出と鈴音の影だけが支えている。梨香の心は何ひとつ変わっていない。昔のまま、昔の、仲良く遊んだ親戚のままだった。

「りっくん…昔と変わらないね。優しくて、あったかい。」

「…そうかな。梨香も…変わらないな。」

「うん!梨香はずっと梨香のまんまだよ!」

その言葉が痛かった。自分の心だけが梨香を取り残して汚れているようで、梨香の透き通った眼差しが曇った眼に無垢に問いかけているようで、今だけはその瞳を向けないで欲しいと思った。心が崩される前に、少しでも離れたいと、初めて思った。

「梨香も入る!」

「待て待て!狭いから!」

「え~?いいじゃん!一緒に入ろうよ!」

「俺もう出るから、ゆっくり入れ。」

「しょうがないなぁ。じゃあ後でね。」

「はいはい。」

脱衣所で風呂場から漏れる水面を揺らす音が妙に心を擽った。幼心には感じなかった思い。鈴音にも感じた甘く優しい感覚とは少し違う。少し、陰りや黒い濁りを含んだ、嫌な愛おしさだった。ただの親戚なのに、そう言い聞かすことしか心を紛らわせなかった。部屋で本を読んでいてもまだ心の奥底に暗く疼く魔物がいるように思えた。

「りっくん!りっくん!」

「ん、んん?どうした?」

「りっくん…なんか変だよ?どうしたの?」

梨香は額の髪を上げて顔を近づけた。思わず、後ろに下がった。

「だ、大丈夫だから。それより、みんな寝てるからちょっと静かにしような。」

「う~ん…そうだね、布団の中で話そっ!」

少し声を抑えてウインクした。

「じゃあ、そっちに布団敷いて。」

「うん、待ってて。」

押入れから布団を引っ張り出して隣にくっつけて敷いた。

「も、もう少し離したら?部屋広いし…」

「え~、いいの!この方が話しやすいもん!」

本当に、あの頃から梨香の心は何ひとつ変わってない。ずっと純粋で無垢な小学生のままだ。白くて綺麗な前に自分の心を置かれるとくすんで薄汚れた、その醜さが自分でもわかる。いつからそんな人間になったのか。いつか誰かを傷付けるんじゃないか。そこまでに廃れた自分が憎くて怖かった。

「ねぇりっくん?聞いてる?」

「え?う、うん聞いてるよ?何?」

「やっぱり今日のりっくんなんかおかしい!ねぇ、どうかしたの?」

「なんでもないよ。大丈夫だから。」

「嘘、梨香だって、りっくんのこと何にも知らないわけじゃないんだよ?りっくん、昔から弱音も言わないししっかりしてるから、辛いことも苦しいことも全部一人で抱え込んでる。もっと…頼っていいんだよ。だって…そうじゃないとりっくんが壊れちゃったら、みんな悲しいもん。」

その眼はいつもみたいに笑っていなかった。真剣に、目の奥を突いていた。

「梨香…ごめんね。久しぶりだからさ、梨香と話が合うか不安だった。けど、大丈夫。梨香は全然、変わってないもん。」

「…そっか。さっきも言ったよ。梨香はずっと梨香のまんまだよ!」

「そうだな…」

いつもの笑顔に戻っていた。

「今日はこっちで寝よ!」

布団の中に潜り込んで目の前に顔を出した。

「暑いって…」

「梨香は暑くないも~ん♪」

「あっそ…」

「…」

「梨香?」

目にかかる髪をどかすともう寝息を立てていた。穏やかな寝顔をそっと撫でるとなぜか涙が梨香の頬に落ちた。誰にも…見せなかった涙を…

「りっくん…大丈夫だよ…」

心臓が速くなった。いくら寝言でもタイミングが良すぎた…さっきの話もあるし…夢でまで考えていたことが少しむず痒くなった。



次の日、鈴音は理樹のいない街で買い物をしていた。

「鈴音か?久しぶり。」

「誰?なんだ、久留米か。」

「なんだってなにさ~久しぶりに会ったのに。」

「別に、会いたいと思ったことないし。」

「相変わらずつれないなぁ。せっかくだしちょっと話さない?」

小学校の時からつきまとってきた久留米に会った。少し気が重かった。

「久しぶりに会ったのに、なんで何にも話さないの?」

「あんたに興味ないから。ウザいし、早く帰りたいんだけど。」

「本当ひどいよね。俺は鈴音のこと好きだったのにさ。」

「は?あんた本当黙って。キモいから。」

「本気で、今も好きだから。」

急に真顔になった久留米は髪を撫でて顔を引き寄せた。

「ちょっと!止めて…嫌だ…理樹!」

無理やり顔を寄せた久留米はそのまま強引にキスをした。

「…!」

「…やっぱ、お前って理樹のこと好きだったのかよ。」

「ふざけんな!この変態!」

「…本当に、俺じゃ嫌な訳?」

「…!…」

その時、鈴音はすぐに答えられなかった。好きでもなんでもないはずなのに、強引にキスをされた時、少しだけ心臓が強く脈打った。それに、今だって鼓動が速くて顔が耳の先まで真っ赤になっている。

「俺は、あいつのこと想ったままでもいいと思ってるから。これから、うち来いよ。」

「…行くわ。行ってあげる。」

頭に血が上って自分でも何を言っているかわからなかった。本当は、理樹がいいのに、身体がそれでもいいと思っているようだった。

「お前…意味わかってるよな。」

「わかってるわよ。何でもしてあげる。」

泣きたいほど苦しかった。身体が欲してるのに心はすぐにでも理樹に助けて欲しいと思っている。それなのに気がつくと久留米の部屋のドアの前まで来ていた。

「うち、親が今仕事で一人だから。」

それだけ言って鈴音の身体をベッドに押し倒した。

「…」

いろんな景色が目の前を掠めた。理樹の笑顔、旅行の思い出、いろんなとこに行って、いろんなことをして、全部理樹が一緒にいてくれた。こんなに強い想い、忘れていた。

「止めて!離して!」

気がつくと久留米を突き飛ばして家を飛び出していた。服が乱れたまま、家まで必死に走っていた。自分の部屋で布団に潜り込んで、机の上に理樹からもらったネックレスが引っかかっているのが見えて、初めてこのベッドで一緒に寝た時のことを思い出した。

「理樹…ごめん…理樹…」

それしか言えなかった。涙がとめどもなく溢れて、理樹の顔も霞んでいくように感じた。

「鈴音?ご飯は?」

「今日は…いらない」

もう何もする気にならなかった。本当ならもうすぐで理樹に会えてすごく楽しみなはずなのに、今は理樹と顔を合わせるのが不安だった。



里帰りから帰った理樹は明日からの学校の準備をしていた。

「…一人で…抱え込んでるか…鈴音もそう思ってたのかな…」

帰って早々鈴音のことを考えていたが、梨香のこともあって少し憂鬱だった。本当はたくさん土産話をしたかったけど、さすがにそんな気にならない。



次の日、久しぶりに会った鈴音の眼は赤く腫れて少し暗い顔をしていた。

「久しぶり。どうした?元気ないけど。」

「そ、そんなことないよ。それよりどうだったの?帰省は?」

「あ、う、うん、結構楽しかったよ。」

「そっか、よかったね?」

何も聞かない鈴音が辛かった。きっと気づいていないだけだけど、それが一番心に突き刺さった。授業中も目を合わせられなかった。



理樹の顔を見た時、まともに目を合わせられなかった、あんまり会話もしなかったし、授業中も目を合わせてくれなくて、気がつかれたのかと思って不安でどうしようもなかった。



「鈴音、帰ろう。」

「う、うん、かえろっか。」

帰り道もあまり会話がないまま歩いた。

「おい!久しぶり。」

「久留米…なんでいるのよ。」

「当たり前だろ。それより、もしかして、付き合ってんの?」

「お前、誰だよ。」

「態度が悪いな。転校生の神田、だろ?俺は鈴音の幼馴染だ。でもまさか、鈴音の彼氏だったとはね。あそこまでするから一人だと思った。」

「あそこまでって、何だよ。」

「待って、それは…」

「あれ、もしかして言ってないの?まぁ言うわけないよね。何の関係もない人とキスして家にまで行ったなんて」

「おい、ふざけたことを言うな。そんなわけがあるか。」

「いい彼氏さんだね。裏切っていいの?」

「違うの…理樹…それは…」

「嘘だよな。あいつのデタラメだろ?」

「…」

「わかっただろ?嘘じゃないよ。俺は本気だからね。俺は鈴音のため何でもするからね。お前から奪うくらい、造作もないさ。」

「悪い。俺先に帰る。」

「待って!理樹…」

遠ざかる理樹の背中、追いかけられなかった。

「追いかけないんだ。その気になったの?」

「あんた、本当大っ嫌い。」

「人聞きの悪い、誘いに乗ったのは鈴音だよ。」

「止めて!2度と私の名前を呼ばないで!」

走り去る鈴音の背中を見ながら、久留米は右手の親指の爪を噛み、不敵な笑みを口元に浮かべていた。



その日、家に帰ると玄関のすぐ前に大きなスーツケースが置いてあった。

「ただいま…」

「おかえり~りっくん!」

「梨香!?どうしたの?」

「えへへ…きちゃった。」

「社会勉強で連れて行って欲しいって言うから、しばらくここに泊めるわ。」

「社会勉強って…ここだってまぁまぁ田舎だろうが。」

「そういったんだけど、梨香が来たがってるからって。」

「うん!すごいよ!お店がみんな大きくて、人がたくさんいた!」

「そっか、梨香はあんまり出たことないんだよな。」

ただでさえ仕事で家を空けるのに、梨香と二人きりであることに全く危機感を覚えない一族がどうも理解できない。

「ねぇ、買い物行こう!」

「買ってきて欲しいものがあるの。連れて行って。」

「分かった、行こうか。」

「うん!」

着替えて家を出た。

「…りっくんと、二人っきり…」

「この間もそうだっただろ?」

「そうだけどさ…なんか、嬉しいじゃん?」

「そうかな?」

「そうなの!」

スーパーのカートを押して野菜を次々と放り入れた。すると偶然、目の前に鈴音がいるのが見えた。

「理樹…」

「…ごめん、急いでるから…」

「早く行こう!」

「その人…」

理樹が通り過ぎた直後、鈴音は後ろを付いていた人が誰なのか気になったが、聞けなかった。きっと、理樹だって…


またやってしまった。しっかり話したかったのに、また逃げてしまった。ちゃんと伝えないと、伝わらないことは分かってる。なのに、その最初の一言が出てこない。

「さっきの人、知り合い?」

「う、うん、学校の友達。」

「そうなんだ。あんまり仲良くないの?」

「そんなこと…ないよ。」

荷物を抱えて家に帰った。ご飯を食べて、風呂に入って、梨香と話していても、何も頭に入ってこない。何でこんなに言いたいことが言えないんだろう。今まで感じたことがないもどかしさだった。鈴音が、もし去ってしまったら、きっと自分が自分じゃなくなる、そんな気がした。鈴音と会うまで、自分以外の人間なんてどうでもいいと思っていた。なのに、今は自分がいなくなっても鈴音に幸せになって欲しい、笑顔になって欲しい。そう考えるようになった。それが、言いたいことを言わせなくした原因な気がする。
結局、次の日は学校で一言も声をかけられなかった。このまま終わるのか、初めて失いたくないと思ったのに、失うのか、絶望だった。帰り道、俺の家と鈴音の家に行く分かれ道の橋の上でいつもは鈴音の家のある右へ行くが、今日は左に…踏み出せなかった。どっちつかずで足踏みをしていると、忌々しい声がした。

「あれ?神田君、だよね。まだ鈴音と喧嘩したままなんだ。」

「お前はなにがしてぇんだ。これで満足だろ。俺の前に2度と顔をだすな。」

「ははっ、鈴音にも同じことを言われたよ。」

「どういう意味だ。あいつは、お前と一緒に…」

「君は鈍いね、鈴音は最後まで君の名前を呼んでいたよ。」

「最後まで…それじゃあお前は、無理やり鈴音を…」

怒りに手が震えて久留米の胸ぐらを掴みあげていた。

「それは少し違う。これだよ。」

久留米はポケットから白い錠剤を取り出した。

「これは媚薬だ、効果は知ってるだろう。これを少し飲み物に混ぜた。それだけだ。」

「てめぇ…それじゃあ無理やり襲ったも同然じゃねぇか!」

「俺のことなんて好きでも何でもないだろうな。」

「許さねぇ…」

頬を一発思いっきりぶん殴った。

「これはこれは、随分と手荒なことを。」

「うるせぇ!てめぇ、自分が何やったか分かってんのか!」

「大袈裟だな~。薬盛っただけじゃないか。言っただろう?俺は鈴音を手に入れるためならなんだってする。君や鈴音の気持ちなんて知ったことか!俺は俺が良ければそれでいいんだ。」

「それ…本気で言ってんのか…」

「あぁ、もちろんさ。もう少し時間があれば僕のものになってたのに、手首でも縛っておくべきだったかな~?」

ついに堪忍袋の尾が切れた俺は思いっきり久留米を突き飛ばして馬乗りになった。

「これは、俺からの分だ!」

そして力一杯右の頬を殴った。
グシャッ!と鈍い衝撃が突いて歯が一本宙を舞った。

「これは、鈴音の分!」

次は左の頬を思いっきり殴った。
ドスッと強く当たった衝撃で久留米がむせ、口から血を吐いた。

「最後に、二度と俺らの前に現れんな!」

そう言って胸ぐらを掴んだまま橋から下の川へ思いっきり背負い投げで落とした。バッシャーン!と水しぶきを上げてまるでマネキンのように水面に叩きつけられた久留米に大きな声で叫んだ。

「2度と、顔を見せるな!俺にも、鈴音にも!次会った時は三途の川に突き落としてやるからな!」

すぐに曲がり道を右に切った。自分を忘れて怒って、鈴音は無理やりされて、慰めればよかったのに、余計に傷つけて、それでも…

「鈴音!」

鈴音の家の前から窓に向かって大きく叫んだ。

「…理樹…」

「ごめん…俺、ついカッとなって…自分だってキスされたくせにお前のことばっか遠ざけて…でも、嫌だったんだ!自分勝手なのはわかってる!でも、鈴音が他の誰かと仲良くしてるのが…どうしても…」

「そんなの、私だって同じよ!私だって…あんたがいなきゃ、張り合いないんだから!」

「大好きだ!鈴音!」

「私も好きよ…好きで好きで、しょうがないわよ!」

鈴音は窓を離れて階段を駆け下りた。勢いよくドアを開けて神田の胸に飛び込んだ。

「鈴音…ただいま。」

「…おかえり。」

抱き合う二人を見送るように大きな太陽は真っ赤に街の外れに目を閉じた。

「そろそろ、帰らないと。」

「うん…ありがとう。やっぱり、理樹の胸が…一番好き!」

「そういうの…マジで止めて…」

「え…?」

「帰りたく…なくなるから。」

「理樹…帰らないで。」

「鈴音…」

「ごめん…なんでだろ…嬉しいのに…涙が…」

「明日も、明後日も、毎日会えるだろ。そんな顔すんなって…。」

「そうだよね。理樹は…ずっと、一緒だもんね!」

顔を上げた鈴音の頬に涙は仄かに紅く煌めいた。それは、空高く煌る一番星のように。

「また、明日な。」

「うん…また明日!」

鈴音は少し背伸びをして頬に唇を当てた。



家のドアを開けると梨香が屈託のない笑顔で迎えに出てきた。

「りっくん!おかえり!」

「あぁ、ただいま。」

「今日はね、梨香がご飯作ったんだよ!りっくんも食べて!」

「さっきからずっとそわそわして待ってるから。食べてあげて。」

「おいしいね。さすがだな。栄華さんから教わったのか?」

「うん!昨日、りっくん元気なかったでしょ。だから、元気になって欲しいなってね?」

「そっか…悪いな…心配かけて」

「最近、変わったわね。人間らしくなった。」

「人間らしく…か。」

「あの人の…おかげ?」

「あ、あの人って…」

「あら、もしかして女の子?」

「仲直りしたの?」

「…!まぁ、一応…」

「…そっか、よかった。これで私の独り占めも終わりか…」

梨香は少し寂しそうに俯いて笑った。

「さぁ、梨香も食べよ。お腹すいたし。」



次の日、教室に入るといつものように笑う鈴音の姿があった。

「おはよう!理樹!」

「鈴音…学校ではやめろって。」
「…わ、わかってるわよ。言われなくたって。」

「どの口が言ってんだか…」

「そういえば、親戚の子って実家にいたんじゃないの?」

「そうなんだけどさ、社会勉強とかで都会に出したいって。」

「都会って、ここだって十分田舎じゃない。」

「そう言ったんだけどさ。どうしてもって言うらしいから。」

「どうしてもねぇ…」

鈴音は少し不服そうな顔で疑うように言った。

「そういえば、あん時に言ってたこと、私まだちゃんと聞いてないんだけど?」

「い、いや、…あれは何っつーか…流れでな…」

「流れってなによ流れって。しかも一緒に暮らしてるし。一体家でナニやってんだか?」

「はっ!?別にそういうことしてねぇから。」

「私のことを散々襲ってきたあんたに言われても説得力ないわよ。」

「それを言うんじゃねぇ…あれは、お前だから…」

「じゃあね…またうちに来てよ。そしたら信用してあげる。」

少し悪戯っぽく言った。

「…いつがいいんだよ?」

「そうだなぁ、来週の土曜は?うち誰もいないし。」

「わぁったよ。行けばいいんだろ。」

半ば投げやりだったが内心は少し嬉しかった。旅行以来ちゃんと行くのはなんだかんだ言って久しぶりだった。



土曜日、梨香がいることも自然になってきて普通に遊びに行くと家を出て行った。

「鈴音!来たぞ。」

「理樹!入って入って~」

妙に上機嫌な鈴音を少し疑問に思いながらも玄関の中からドアを閉めた。

「理樹~理樹~」

唐突に首に手を回して体を押し付けてきた。少し盛り上がった可愛らしい胸部が突く。

「おい…どうした?なんか変だぞ?」

「そんなことないよ~あたしはいつも通りだよ~」

トロンとした目で顔を見上げながら唇を近づけてくる。その息が少しアルコールくさかった。

「お前…まさか酒飲んだのか?」

トロトロになった鈴音を引っ張ってリビングに入るとチューハイの缶が一つ空いていた。

「えへへ~バレちゃった~」

「お前…何してんだ。とりあえず水持って来るからちょっと待ってろ。」

台所に体を向けた神田の袖を鈴音がぎゅっと掴み、後ろから抱きついた。

「理樹の…背中…好き…」

さっきよりも強く締める腕に引き寄せられて鈴音の控えめな胸が背中に押し付けられた。

「私、頑張ったのに…女の子らしくしようとして、服も、口調もちょっとだけだけど、良くなったのに…理樹がどっかいっちゃったらって…怖かった。」

鈴音の小さな手がぎゅっと服を握りしめる。背中が熱く湿ってきた。

「お前…そんなこと…」

「理樹…私、欲しい。理樹の…。私のこと…安心させて…」

その言葉に少しだけ…いや、だいぶ心が傾いた。その時、テーブルの上の空き缶が飛びかけた理性を引き戻した。

「お前…酔ってるだろ。」

鈴音の体を持ち上げて二階の鈴音の部屋へ運ぶ。切れかけた理性の糸が目の前で無防備に頬を赤らめる姫の姿にギリギリで抵抗していた。部屋のベッドに寝かせると布団をかけた。酔いが回っているのか頬はますます赤くなり目尻も少し垂れ下がっている。

「あ…理樹…」

寝かされた鈴音は寂しそうに手を伸ばした。その手を握り額にキスをした。

「いてやるから。鈴音が起きるまで…」

唇に触れなかったのは怖かったからだ。鈴音を自分の手で汚してしまいそうで。
目を覚ましたのはそれからだいぶ経った頃だった。カーテンの隙間から照らす月明かりで目が覚めた。顔を上げると鈴音はスヤスヤと寝息をたてていた。

「可愛い寝顔…」

少し茶色がかって月光に艶めく髪を左手でそっと撫でた。堅く筋張った浅黒い手が、白く柔らかな、今にも消えそうに月光を反射させる肌に触れた。薄桃色の掛け布団にポツポツと涙の染みが垂れた。あまりにも儚げな姿と穏やかな寝顔が愛おしく、自分の元から消えてゆく不安が胸に込み上げた。もっとずっと、いつまでも触れていたい、眺めていたい。自分の姿形なんてなくていい。ただ…目の前の穏やかで美しい顔だけは、永遠に消えないで欲しい。初めて感じた恐れ、愛情、執着…愚かに思い嘲笑った感覚が今は胸を締め付ける。その痛みは愛おしい寝顔を見れば見るほど狂おしく心の内側に牙を突き立てる。居ても立っても居られず部屋を出た。洗面所で少しこけた頬の自分の姿を見た。最近悩み事でろくに寝食をしていなかったツケがまだ残っていた。冷たい水で頬を叩き熱くなった心臓と不安を冷ます。その時、不意に出た空咳に鮮血が混ざっていることに気がついた。最近少し咳が多いようには感じていたが、さっきの不安と相まって心の底が疼くような苦しさに襲われた。自分を誤魔化すように血を洗い流す。姿見に顔を戻すと後ろに人影があったことに気がついた。

「理樹…今の…」

さっきまで寝息を立てていた少女が目を大きく開いて不安げな顔で見つめている。

「悪い。起こしちまったな。大丈夫だ。きっと疲れてただけだ。」

「いや、いやだ…やだよ!」

鈴音は理樹の胸に顔を埋め大きな声で叫んだ。

「いなくなっちゃやだ!置いてかないで!私も一緒に行くから…だから、連れてって!」

「本当に大丈夫だから。落ち着けって。」

後半恐ろしいことを口走った鈴音を優しく撫でる。

「本当?本当にいなくならない?」

「当たり前だろ。そう簡単にくたばらねぇよ。ちょっと体調が優れないだけだ。今度病院で診てもらうから、心配はいらない。」

「…」

鈴音はただ無言で腕の力を強めた。何も言わず、でも何かを伝えようとしていた。

「晩御飯作るか?お腹すいただろ。」

「…いい。いいから、動かないで。」

どうやらここから動かさせてはくれないようだ。鈴音の熱く湿った吐息が胸にかかる。腕を回して押し付けられた小さな体は燃えそうなほどに熱く、顔は耳まで真っ赤になっている。その小さく触れただけで砕けそうな身体をそっと抱きしめ返した。二人とも動かずに、ただ二人の存在を確かめ合うように強く、強く身体を絡めた。
結局、その後は体調のこともあって特に何もなく家に買ってきた。

「ただいま。」

「りっくん!会いたかったよ~!」

真っ先に廊下を走って飛び込んできた。その姿はご主人を迎える犬のそれにも似た様子だった。その時、顔を上げた梨香が少し目を細める。

「りっくんの部屋行こう!」

すぐに元に戻った梨香はグイグイと腕を引いて部屋に入った。

「りっくん…女の子といたの?」

神妙な表情で問いかける。

「な、なんでそう思うの?」

「匂い…かなぁ。甘くて優しい、女の子の匂いがする。」

「そ、そうかなぁ?気のせいじゃない?」

「らしくないよ。取り乱してる。叔母さんには言わないから、梨香には…本当のこと言って欲しいな。」

「…うん。スーパーで会った子のとこにいた。それだけだよ。」

少し目を逸らしてそう言うと梨香は目をじっと見つめて少し間を空けた。

「そっか。じゃあ今日から梨香の番だね!」

「へ!?何言ってんの?番って何??」

「梨香ね。決めたの。もう我慢しないし隠さないって。梨香は昔からずっとりっくんのこと好きだったからね。ずっとずっと、誰にも負けないくらい大好きだからね。だから…これからは正直にりっくんに気持ち伝える。」

「梨香…」

「…ってことで今日は一緒に寝ようね!梨香のりっくん!!」

「え!?なんで?」

「だって寂しかったんだよ…だめ、かな?」

少し上目遣いで見つめる。驚いた。何よりも、梨香が思ったよりも成長…魔性化していたことに。

「分かったから、そんな顔で見るな。」

「やったぁ!ありがとう!りっくん!!」

知ってかしらずか抱きついた梨香の少し大きめな胸が腕に押し付けられた。ぱっと手を離した梨香はすたすたと階段を下りて食卓に行ってしまった。オーバーヒートした頭を掻きながら少し遅れて椅子に腰掛けた。満面の笑みで梨香がご飯を頬張っている。

「これから少し出かけてくるわ。先に寝てて。」

ハイヒールの踵に指をさして振り向きぎわに言った。梨香が少し口元を緩める。

「…ごちそうさま。梨香、先にお風呂入るね。」

伏し目がちに席を立って脱衣所へ歩いて行った。程なくシャワーから水が出る音が聞こえた。自分の部屋に戻って洗濯物の整理をしていた。夏休みに久しぶりに梨香と会った日のことを思い出し、少し頬が緩んだ。窓の外を見ると綺麗な月が優しく輝いていた。

「りっくん!!上がったから入っていいよ!」

ドアを開けながら梨香が叫ぶ。

「あぁ、はいはい…」

着替えを持って立ち上がった鼻先に立っていた梨香はロングTシャツ一枚だった。

「お、おい梨香!もう少しちゃんとした服を着ろ。」

顔を逸らしながら言う。

「えぇ?だってこの方が楽だよ?」

「そう言う意味じゃなくてなぁ…」

少し呆れ気味にため息をついて部屋を出た。脱衣所で服を脱ぎながらぼんやりと考えた。よく考えれば思ったよりも魔性だったわけで無垢に見えた誘惑だったとすればさっきのも少なからず…思わず無防備な梨香の姿を思い浮かべた理樹は顔を振って浴室のドアを開けた。もわっと身体を覆う湯気には心なしかまだ甘い梨香の香りが残っているように感じた。余計な妄想と相まって額からじんわりと汗が垂れた。目を閉じるとあの日を思い出す。一緒にお風呂に入ると半ば強引に浴室に乱入してきた梨香を無邪気な親戚に思っていたそれも、梨香はきっと考えて行って、今までの運びは計算通りだった。そう言うことだったのかもしれない。部屋着に首を通してタオルを首にかけた理樹は自分の部屋のドアを開ける。梨香はベッドに頭だけのせて座っていた。

「りっくん~おかえり~!」

赤く紅潮した頬で立ち上がった彼女の格好はさっきのそれと同じだった。やっぱりそうかと小さくため息をついた理樹は自分の自制心にもう一度強く念押ししてベッドの上に胡座をかいた。

「りっくん!」

裏返って顔を向けた梨香はベッドに飛び乗って身体に顔を擦り付けてきた。

「梨香…犬じゃないんだから…」

少し呆れ気味に言うと顔を上げて微笑んだ。小悪魔のような影が見える。そんな気がした。

「りっくんと一緒なんて久しぶりだなぁ。」

「夏休みもそうだったろ?」

「もう、りっくんはもっと女の子の心を読むべきだよ。鈍いよ鈍すぎだよ。」

「んなこと言われたって…」

「…ま、梨香はりっくんのそういうとこが好きなんだけどね。」

室内が少し静かになった。

「もう、寝たいかな。ね、いいでしょ。」

「分かったから、寝るときはもう少し離れてくれ。暑い。」

「つれないなぁ。いいけどね。」

梨香は電気を消して布団に潜り込んだ。

「りっくんの匂い…落ち着く。」

「むず痒いこと言わないでくれ。」

布団の中から顔だけ出して舌を出して笑った。

「おやすみ、りっくん」

「はいはい、おやすみ。」

朝起きると梨香がすやすやと寝ている。

「また潜り込んだのか…」

あの日から時々梨香が布団に潜り込んでくるようになった。先に布団を抜けて処方箋を水で流しこんだ。吐血の原因は胃潰瘍だそうだ。日頃の不摂生とナーバスになっていたことが問題らしい。薬で治るほどの軽傷だったのは幸いだ。着替えて荷物を持った理樹はそそくさと家を出ると路地で鈴音と会った。

「理樹、おはよう。」

「あぁ、おはよう。」

「どうしたの?元気ないみたいだけど?」

「いや、なんでもない。ちょっと学校がかったるいだけ。」

「あんたって相変わらずなのね。」

「そりゃそうだろ。面倒なものは面倒なんだ。」

教室に入った理樹と鈴音は自分の席に座った。理樹の隣の席にはもう朝熊が座っていた。

「神田、おはよう。朝から見せつけちゃって。」

「はぁ!?んなつもりねぇよ。」

「でも、それはいいけど、最近なんか、鈴音以外の匂いがするわよ?浮気?」

「違げぇよ、最近親戚が家に来てるから、それだけだ。」

「…そういうんだったら朝に鏡を見ることね。髪の毛がついてるよ。一緒に住んでるだけじゃつかないようなところにね。」

髪の毛に触れると不自然に柔らかく長い髪があった。潜り込まれている間についたのに気がつかなかったか。理樹の心臓は大きく飛び上がった。

「あんまり手出しちゃダメだぞ。」

悪戯っぽく言った朝熊の目は少し笑っていないように見えた。窓の外はすっかり葉の落ちた寒々しい木が木枯らしの訪れを告げるように揺れている。いつの間にかテストも終わり冬休みも近くなっていた。

「夏休みが終わったのがこの前だと思ってたんだが…」

見上げる窓越しの空は高く透き通っていた。



短縮授業が終わって家に帰る途中、鈴音がうなだれていた。

「私、高校行くところがない…」

「おいおい、行くところがないじゃねぇよ。」

「まぁいいんだけどね。別に家の手伝いしたって。でも出来れば行きたいしな~。理樹は?どうすんのよ?」

「俺は…まぁ、どこでも行けるし。迷ってねぇ。」

「羨ましいわね。授業もまともに聞いてないのに、不公平よ。」

「そんなの俺に言うな。ま、勉強すんだな。」

理樹は話を逸らした。少し心の中に実った不安が大きくなった気がした。

「なんとかしないとな…」

「なんか言った?」

「なんも言ってねぇよ。」

神田は小さな声で呟いた。鈴音との関係にまだ踏ん切りがついていなかった。
すっかり葉の落ちた校庭に出ると凍てつくような冷たい風が頬を叩く。

「ひゃっ、冷たいっ!」

空からはパラパラと雪が降っていた。真っ白な結晶が鈴音柔らかく小さな肌を紅く染めた。

「う~寒い…」

「もう冬だな…」

「最近本当おかしいわよ。夏は暑いし冬は寒いし。」

「それは普通のことだろ。」

「そういう意味じゃないわよ。」

「まぁ、それはそうと、冬休み入ったらまた鈴音の家行ってもいいか?」

「珍しいこと言うわね。いいけど、どうして?」

「いや…その、前に行った時は結局落ち着けなかったじゃん?」

「それは…悪かったわよ。」

「別に責めてるわけじゃない。俺だって飲んだことはある。酔っ払わないように加減はしたけどな。」

「…あんたの方が常習感がすごいんだけど。」

「それで、いいのか?」

「い、いいに決まってるでしょ。また親のいない日空けとくから。」

「別に親がいたっていいんだぜ。なんにもしねぇから。」

「え…」

鈴音が顔をしゅんとさせた。

「なんかされたかったのか?」

「ば、ばっかじゃないの?そそ、そんなわけないでしょ。ただちょっと気まずいかもとか思っただけで、前みたいに一晩中してくれないかなとか思ってないし。」

「へぇ~、一晩中して欲しかったのか。」

「ち、ちがうちがう!そんなわけない。私がそんなこと言うわけないでしょ。あんた何考えてんの?この変態、スケベ、野獣!」

「ま、ちっちゃいし別にいいけど。」

「う、うるさいわね。ちっちゃいのかわいいって言ってくれたじゃん!」

「やっぱり嬉しいんじゃん。」

「う…いじわる。いっつもそうやって私で遊ぶんだから。」

「鈴音がかわいいからだよ。」

「……」

鈴音は顔を耳の先まで真っ赤にして俯いた。

「じゃ、そういうことで。また明日な。」

「あ、じゃあね。」

素直に視線を送ってくる鈴音は前よりずっと自分に正直になった。喜怒哀楽も全部【怒】だったのがいつの間にかちゃんと笑うしちゃんと泣くし、たまに顔を真っ赤にして怒ったり恥ずかしがったりする。その全部が愛おしいしかわいい。変わったのは自分だけじゃない。お互いに大きな影響を与えているようだ。



家に帰ると梨香が飛びついて迎えてくれる。すっかりおなじみの風景になった。

「ねぇねぇ、冬休み遊びに行こう!どっか連れてって!」

相変わらず子ども…というか幼児っぽくお願いしてくる。

「仕方がない。どっか行こうか。でもちょっと泊まりで出かけるから。」

「…あの人のところ?」

梨香の顔が少し暗くなった。

「…まぁ、そうだけど…」

「そっか…行くんだ。泊まりで…。そうだよね、大事にしないとね。」

笑って顔を上げて見せたが明らかに無理をしているように見えた。やっぱり、あまり聞きたい話ではないか。小悪魔な心に少しヒビを入れてしまった気分になった。

「そうそう!今夜は雪だって!明日積もってるかな~?」

「そ、そうだな。積もってるといいな…」

そう返すのが精一杯だった。



次の日、案の定梨香が言った通り外は真っ白に雪が積もっていた。家の屋根がこんもりと雪で白くなり、窓の端が曇っている。

「マジで積もりやがった。寒そう…」

唖然としている尻目に梨香は浮かれてぴょんぴょんと跳ね回っている。

「やったぁ!積もった積もった!ねぇりっくん!積もったよ!雪だよ!」

「そりゃあな。学校休学中のお前はいいかもしれないけど、これ面倒だな…」

珍しくいつもより着込んで家を出た。路地にはもう鈴音が立っていた。

「鈴音、おはよう。」

「おはよう…寒い…」

見ると鈴音の指先が真っ赤になっていた。

「お前、なんでそんな薄着なの?」

マフラーも手袋もつけていなかった。鈴音がもごもごと口ごもっている。

「はしゃいでたら…転んで、汚れちゃったから…」

あまりに幼稚な失態に思わず失笑した。

「何よ!笑うなら笑いなさいよ。どうせ子供っぽいわよ!」

「別にそんなこと言ってねぇよ。なんか、らしいからさ。」

そう言って自分の巻いていたマフラーを鈴音にかぶせた。

「使えよ。俺は平気だから。」

「…悪いから…」

「え?なんて?」

「悪いから、半分使いなさいよ。」

そう言って端っこを巻き付けようとした。少し背伸びして。

「…じゃあ、そうするか。」

2人で半分ずつ巻いて歩き出した。

「まさか、本当にはしゃいで転ぶんだな。」

「うるさい!だまれ~!」

「はいはい。分かった分かった。」

怒ってぽこぽこと叩く。本当なら可愛いんだろうけど…いや、可愛いは可愛いが、結構なダメージを食らう。結構痛い。

「でも、幸せだな…あんたとこうやって一緒にいれるって。」

急に神妙になった鈴音の口調にあのことを思い出した。

「何言ってんだよ。普通のことだろ。」

「いいの!普通でもなんでも嬉しいの!」

「何ムキになってんだ?」

「どうせあんたにはわかんないわよ。」

そっぽを向くそぶりをした鈴音の横顔が少し心配だった。きっと笑顔で、ずっと一緒にいれるって思っていた。信じている。だけど、ほんの少しだけ怖かった。




教室に入るといつも通り何事もなかったかのように席に着く。珍しく伊藤が茶化してきた以外は特に穏やかな朝だった。

「おはよう。神田。」

「おはよう。」

先生が入ってきて忙しなくみんなが席につく。相変わらず授業も聞かずぼーっとしていた。ふと横を見ると朝熊と目があった。

「授業中は集中しないとダメだぞ~!」

唇に手を当てて小声で言った。綺麗な艶のいい桃色の唇が指でひしゃげている。ハリの良さがよくわかるほど光を反射していた。つい見惚れていて頬を赤らめる。

「お、お前だって人のこと言えねぇだろ。」

朝熊は舌を出して笑うとノートに何か書いてよこした。

[鈴音ちゃんとどこまでいったの?]

いきなりとんでもない質問をするもんだからうっかり声が出そうになった。

[どこまでってなんだよ。]

急いで書き返す。

[だから、キスとか、それ以上とか…]

「そんな訳ねぇだろ…それ以上って。」

「その焦り方。なんか怪し~」

「う、うるせぇ。何にもねぇ、何にも。キスだけだって。」

「あ…キスはしたんだ…」

朝熊は急に静かになった。

「な、なんだよその反応…」

「いや、なんでもない。神田にはわかんないよ。」

「おい!うるさいぞ!」

先生に怒られてしまった。
そして朝熊から言われたことが気になる。最近よく言われる気がする。梨香にも、鈴音にも、朝熊にも…俺には分からないってどういう意味なんだろうか。



休み時間になるとやはりというかなんというか。やっぱり鈴音はむくれていた。

「どうしたんだよ。ふくれっ面して。」

「分かってるくせに、お楽しみだったんでしょ?朱莉ちゃんと。」

やっぱりと思いつつも不自然に可愛かった唇と話を思い出して赤くなった。

「あ!赤くなった!理樹の浮気者!」

「違うって!誤解だし!」

「してる人はそういうもんね!」

「…お前とのこと茶化されただけだよ。」

「…?」

鈴音はあっけにとられた顔をした。

「なんだ…そうだったの。」

「だから言っただろ。何にもねぇって。」

「でも授業中に私以外と話してたし、罰は受けてもらうわよ。」

「罰ってなんだよ。」

「…私と、ここでキ、キスしたら許してあげる。」

鈴音は顔を真っ赤にして言った。

「罰って…お前が赤くなってんじゃん。」

「ううるさい!い、いいからしなさいよ!私にキ、キ、キスしなさいよ!」

中庭とはいえ周りには結構な人がいる。クラスの人も何人かは…

「マジでここですんの…?」

「隣の席の人とは授業中イチャつけるのに彼女とはキスできないの?」

「…分かったよ。目…閉じろよ。」

少し顔を上げた鈴音はそのまま目を閉じて唇を突き出す。ゆっくり近づいてもう少しで触れそうな位置で目を閉じる。視覚の遮られた身体は自ずと触覚に意識を集中させ、鈴音の柔らかい肌の感触を最大限に感じようとしている。触れ合った唇は優しく熱を帯び、引き込まれそうな快感が脳を揺さぶった。周りの音がだんだん遠くなっていき、2人だけの世界が展開される。お互いを求めあうように唇を撫で、舌を絡め、身体に手を回してさらに密着させ熱を貪る。

「んん、ん、んむn…」

「ん、りん…ね…」

「nり、き…んんむぅ…」

顔を離して見つめ合うと恍惚の表情と艶かしく紅潮した頬で心をくすぐってきた。背中に一筋の汗が走る。身体がためにためた熱が体内で爆発しそうになっていた。

「そろそろ、戻ろうぜ。」

「そ、そうね。なんか急に恥ずかしくなっちゃった…」

周囲の人からの視線が降り注ぐ。真っ赤になった鈴音は袖を引っ張ると足早に教室へ駆け込んだ。席に着くとことの発端がこっちをにやにや見つめていた。

「真昼間から…お元気ですね。」

「う、うるせぇ。誰のせいでこうなったと思ってんだ。」

「私は悪くないわよ。すぐに周りの女子にちょっかいを出す神田が悪いんだから。」

「ちょっかいって…」

「…ま、神田は私なんかにちょっかいなんて出さないって分かってるけどね~、分かってる…」

朝熊は俺に横顔を向けた。少し、悲しげにも見える横顔を。



それから、何事もない日常は旋風の如く尾をひく速さで流れていった。木枯らしはいつの間にか頬を刺す本格的な寒風に変わっていた。気がつけばもう冬休みを目前に待つ暇な午後の授業を過ごしていく消費戦になっていた。窓の外の木が凍えるように幹を揺らしている。どこか寂しげな表情の木はあの日から一歩も動かずにそこに立って教室を覗いていた。ただ、その面持ちだけを変えながら。




学校から帰る帰り道、鈴音が少し落ち込んだような顔で歩いていた。

「どうした?なんか暗いな。」

「今日さ、最終進路決まったんだよね。私、理樹とは別の学校になっちゃった…」

鈴音は俺が地元ではまぁまぁの学校に行くことを知っていた。

「方向も違うし、一緒に登下校できなくなる…」

気がつくのが遅いのにも驚きだが、そんなしんみりした顔を見るのは初めてだった。胸が締め付けられるような痛みに襲われる。

「…んなもん、気にすんな。たまには会えるだろ。大体、俺もお前もまだ合格したわけじゃねぇんだし、もっと考えることがあるだろうが。」

「…そうね。悩んでもしょうがないわ。今はできることをすればいいわね。」

「そういうこと。」

「じゃあ今週末うちに来なさいよ。冬休みの最初の週末。」

「んな急に…まぁいいけど。でも、いいのか?クリスマスとか。」

「その日は、珍しく家族みんな揃うのよ。だから…」

「分かった。水は差さない方がいいだろ。それに、お前は2人っきりがいいんだよな。」

いつかの話を思い出させる言い方をする。

「…!いいから、そういうことよ!べ、別に、あんたと何もできないのが物足りないとか、そう言うんじゃないし、ただ家族と過ごしたいだけだし!」

「…お前って時々わざとなんじゃねぇかって思うぐらい嘘が下手だよな。」

「う~!!しょうがないでしょ!…そう言うの、苦手なんだから…」

「…まぁ、嫌いじゃないから。」

「え…!?」

「鈴音の無駄に正直なところ、好きだから。」

鈴音は顔を真っ赤にして俯いた。

「と、とにかく!今週末ね!こなかったら承知しないから!!」

思いっきり顔を上げた鈴音が思ったよりも近かった俺の顔にまた赤くなる。

「また明日。」

おでこにそっとキスをして帰った。恥ずかしくて振り返れなかった。




それから数日、例の日が来た。今日は泊まるとだけ言って玄関に出るとすぐ後ろを梨香がついてきた。

「りっくん…いってらっしゃい。」

ちょっと寂しそうに言う。

「…いってきます。」

鈴音の家のインターホンを鳴らすと明らかにテンションが高そうな声が聞こえてきた。

「理樹!おかえり!」

「おう…!?」

「…!!あ、私、今…」

「おかえりって、言ったよな。」

うっかりあまりにも自然で答えてしまったがよくよく考えるとおかしい。普通はいらっしゃいとか、よく来たとか、そう言う言葉を使うはずだが…
そう思いながら鈴音の顔を覗き込むと頬から耳の先まで真っ赤にして下を向いていた。目が愛おしく潤んでいる。

「い…で…ょ…」

蚊の鳴くような声で言った。

「いいでしょ…私、嬉しかったんだから。理樹がきてくれるって、ずっと、一緒にいれるって、すごい嬉しくて…楽しみで…ドアの前で物音がするたびに玄関の前まで出てって、ただの風だったり、やっぱり…それも楽しくて、だから、理樹のこと大好きなんだって!どうしようもないくらい、自分じゃどうにもできないくらい、好きで、好きで…たまらないんだって!」

「鈴音…そんなこと、俺だって同じに決まってるだろ。俺だってお前のこと、鈴音のこと大好きだよ!お前がいなくて、お前と話せなくて、寂しいと思った夜だっていっぱいあった。布団の中で一晩中鈴音のこと考えてたり、自分でもわけわかんねぇくらい頭ん中いっぱいになって、なんでそんな風に思うのか、理解できないし、自分が自分じゃねぇ気もしてる。でも、それでも、俺の何もかも変えられたって、俺はお前が、鈴音が大好きだ!」

勢いに任せて思いっきり鈴音を抱きしめた。

「私、正直じゃないし、いっつも理樹に優しくしたり、本当はしたいのに、恥ずかしくて、できなくて…なのに、理樹があんまり優しいから、そんな自分が嫌になって、理樹は、こんな私じゃいつか離れてくって思って…ずっと、怖かった…」

「…鈴音がそう思ってくれてんのはよく分かってる。だから、あんな言い間違いしたんだろ?」

「恥ずかしいから、言わないで…」

「俺、嬉しかった。鈴音がそこまで思っててくれるのが…だから、俺がいるときは、俺も、ただいまって言っていいか?」

「理樹…!理樹…理樹、理樹!大好き!ずっと好き!一緒にいて!毎日おかえりって言って!私も、毎日理樹に…ただいまって…言いたい。」

あまりに素直でいつもらしくない鈴音に身体が火照って心臓がバクバクしていた。

「…それって、プロポーズか?普通が男の方から言うもんじゃねぇの?」

俺だって…正直じゃない。そうやって嬉しい気持ちとか緊張とか隠して冷静を装っている。

「ちっ、違うけど!…でも、それでもいいかも…理樹は、私のこともらってくれる?」

ひょこっと腕の中に顔を上げた鈴音の顔が真っ赤になったままになっている。とてつもない破壊力で心をぶち抜いた疑問符は無邪気に三半規管をさまよっている。

「お、お前…そんなん、いいに決まってんだろ。」

いくら勢いに任せたとはいえ、さすがに冗談にもならないことを…顔を上げた鈴音に少し困ったような顔を向ける。

「…っご、ごめん。私、すごいこと言ってた。と、とりあえず中入りなさいよ。も、もてなしてあげるから。」

急に正気に戻った鈴音は恥ずかしさを紛らわすようにリビングの奥に消えた。鈴音が戻ってくるまでの間、自然と黙り込んで沈黙が流れる。お互いの目も見られずに。

「あ、あのさ…今日は…その、と、泊まるんでしょ?」

「うん、まぁ、そのつもり。」

「そのさ…さっきの話じゃないけど、なんていうか…もっと家族みたいに、してみたいな…なんて…」

「…?何が言いたいんだ?」

「夕方さ、一緒に買い物行きなさいよ。そしたら、一緒に晩御飯作って、そその、ふ…夫婦、みたいにさ…ね?」

自分で言って自分で恥ずかしがる鈴音につられて頬を赤らめる。

「い、いいんじゃねぇの…俺は、かまわねぇよ。」

「そ、そう…じゃあ、そうしましょ。」

「あぁ…。…なんか、おちつかねぇな。なんかして気分変えようぜ。」

「……」

鈴音は答えずにただ黙っていた。

「鈴音…?」

「あ、あのさ…あ、あ、ありが…とう…」

「え…?なんで急に?」

「いつも…一緒にいて、くれて。決めたから。正直になるって…」

鈴音のいじらしい態度に思わず頬を緩ませて優しく微笑んだ。

「鈴音…ありがとう。でも、わかってるから。お前の気持ち。だから、少しずつな。俺だって、正直じゃねぇからよ。」

「理樹…!ありがとう!大好き!もっともっと、ず~っと大好き!」

「…お、俺だって…ずっと、大好きだって…」

「…じゃあさ!今から買い物行こう!2人で!」

「いいけど、まだ昼だぞ?」

「いいから行くの!」

「…分かったよ。行けばいいんだろ。」

少し呆れたように納得しコートを着なおした。

「鈴音はその服でいいのか?」

「待って。私も着替える。」

自分の服の裾に手を掛けた。慌てて鈴音に背を向ける。

「ちょっと待て!俺先に出るから!着替えてから来い。」

「なんでよ。いいじゃん。全部知ってんだし。」

「そういうことじゃねぇよ!とにかく、俺出るから!それから着替えろ!」

時に鈴音の奇行に都惑わされることがある本人は気にせずやっているのだろうが、素肌が覗くたびに鼻腔をくすぐる甘く優しい香りが気を高ぶらせ理性のブレーキを外しそうになる。自分を落ち着けるように深呼吸して靴紐を締め直した。ドアの開く音がして屈み込んだ状態で顔だけあげる。そこにはタイトなタートルネックにモコモコした淡桃色のコートを着込んだ鈴音が立っていた。膝より少し上の赤いひらひらしたスカートに長い靴下を組み合わせた相変わらず可愛らしい服に思わず見とれる。

「…なによ?なんか変?」

「いや、そうじゃなくて…可愛いなってさ。」

「…//う、うるさい!いいから退きなさいよ。私も靴履くから!」

少し早口になって神田を押し出しブーツに足をねじ込んだ鈴音は外に出ると鍵を閉めて早足で歩き出した。

「早く来なさいよ!」

「…はいはい、分かった。」

そう言いながら少し頬を緩めている。隣に並んで出ると少し歩速を緩めた。

「あんたって、なんでそんな歯の浮くようなこと平気な顔で言えるのよ。」

「別に…正直に言ってるだけなんだが…」

「…!そ、そういうのが恥ずかしいって言ってんの!」

なぜか怒った鈴音は顔を外側に向けた。ふわっと甘いいい香りが漂う。その横顔は少し微笑んでいるようにも見えた。

「…久しぶりだな。何事もなくこうやって歩くのは。」

「そ、そうね。最近いろいろあって落ち着かなかったし、夏休み以来かも。」

「…嬉しい…かもな。」

「嬉しいかもってなによ!」

「そういうお前はどうなんだよ。」

「…嬉しくないわけ、ないでしょ?」

「…似たようなもんだろ。」

「う、うるさい…」

少し会話が途切れる。無言で隣同士でしばらく歩いていた。すると、鈴音がつんつんと手の甲を突いてくる。顔は伏せたまま。神田はなにも言わずに手を握って自分のコートのぽけっとに手を入れ、顔を覗き込んだ。

「…//理樹…。」

「…この方があったかいだろ。」

「…うん…」

鈴音の手は冷たく真っ赤になっていた。スーパーにつき手を引き抜こうとすると鈴音はポケットの奥に手を押し返した。

「…おい、鈴音?」

「…このままにしておきなさいよ。」

「…。分かった。じゃあもっと近寄れ。」

そういうとポケットの中の鈴音の手を引き寄せて身体を近づけた。

「…あ、歩きづれぇからよ。」

「そ、そう…分かったわ。」

自分でやっておいて恥ずかしさで自分でも分かるくらい顔が真っ赤に熱を持っていた。

「…こういうの、幸せね。理樹とこうやって、一緒にいれるって。」

「…そりゃ、そうだけどよ…」

自然と会話が途切れる。不自然なまま体だけを寄せる2人の前に見覚えのある顔が見つめていた。

「あれ、神田と鈴音じゃん。2人で買い物って、おしどり夫婦だね。」

「ば、ばか、お前はそういう…」

思わず鈴音の顔を見ると真っ赤になって何も言えずに俯いていた。

「でも、なに買いにきたの?野菜とか肉とか、だいぶ庶民的な買い物だけど。」

そこまで言われて初めて鈴音が口を開いた。

「理樹と…晩御飯買いにきた…」

小さな声で目を合わせないままいう。

「…へぇ…ご飯一緒に食べるんだ…」

「な、なんだよ。別にいいだろ。」

「い、いやぁ、夫婦みたいだなって思っただけだよ。そ、それじゃあ私も買い物あるから、お幸せに~」

夫婦という言葉に過剰反応した鈴音がポケットの中で手を強く握る。

「う、うるせぇ。茶化すな!」

朝熊が陳列棚の奥へ消えていくと鈴音がゆっくり顔を上げて少し笑った。

「私たち…夫婦だって…」

少し照れたように笑う鈴音の頭を撫でた。

「…ちょっと黙れ」

神田も照れ隠しに腕を引いて歩き出した。

「それで、今日はなに作るの?」

「そうね、シチューとか、どうかしら。」

「じゃあそうしよう。あと足りないのは…」

カートを見ながら確認していた。

「あのさ、あ、私にも作り方、教えてくれない?」

「え、まぁ…いいけど。」

「私もさ、理樹にちゃんと、料理作ってあげたいなって…」

「そんなのいい……ありがとう。」

「…ぜ、全部揃ってるわね。もう帰りましょ。早く作りたいし…」

「あ、あぁ、そうだな。」

お互い少し恥ずかしさを抱えたままビニール袋を提げて店を出た。

「あ、あんた今日…ど、どこで、寝るのよ…」

「…どこで寝て欲しいんだ?」

少し悪戯っぽく笑った。

「あぅ…そ、そんな…」

「別に、リビングで寝てもいいけど?」

容赦なく言葉で攻める。その真っ赤な顔からどうしてもその答えが聞きたかった。所謂好きな女子にちょっかいを出すそれにも似た心情だった。

「あ、私の…と、隣で…寝なさいって、言ってんのよ…」

唇に力を入れたまま潤んだ瞳ですがるように言った。久しぶりに見せた顔のあまりの可愛さにドキッと心臓が跳ね上がった。

「…鈴音…その顔…すげぇ可愛い。」

「う、うるさい!黙れ~!バカバカ、理樹のバカ!」

顔を真っ赤にして肩をバシバシと叩いた。そんな帰り道がこの上なく幸せだった。

「お前親いないこと多いのに普段の晩飯どうしてんだ?」

「…コンビニとかスーパーで弁当買ったり、冷凍食品で済ませてる。」

「…不健康にも程があるな。」

「うるさいわね!しょうがないでしょ!」

「一緒に暮らしてればよかったけどな。」

「ちょっ…それって…」

「お前なんか想像したな?」

「べ、別に!なにも想像とかしてないし!」

「わかりやすい奴…どうせ朝熊から夫婦とか言われたのまだ気にしてんだろ?」

「そ、そんなんじゃないし!そんなのいちいち気にしてないし!」

「はいはい、わかったよ。認めたくないんだろ?」

「む~!またそうやって意地悪言うんだから!」

「お前って案外M気質だよな、結構喜んでるし。」

「そ、それは…理樹だから…」

「…ま、別にいいけど。自分の彼女の性癖とか聞きたくないし。」

「今更よく言うわね。とっくに全部知ってるくせに。」

他愛もなく話していると鈴音の家まで着いた。

「ただいま…」

「…ただいま。」

「…なんか、嬉しいね。一緒にただいまっていう人がいるって。」

「そうだな。」

「ずっと、こうしてられれば…」

「…今は、言うなよ。未来なんて…」

「私も…未来なんて見たくない…ずっと、ずっと…理樹だけ見てたい。」

「…俺だって…そうだけど。今はまだ…」

今にも零れ落ちそうなほどいっぱいに涙をためた涙袋がぷっくりと膨れている。ゆっくりと、傷つきやすい果実を撫でるより、儚い蜃気楼に手を伸ばすよりも優しく小さな頬に手を添えてそっと滑らせた。二本の涙の小川が流れる。上気した肌を染めながら、一滴、また一滴と床に零れ落ちる。

「理樹…もっと、一緒にいたい…」

「俺も、お前だけいれば…何も…」

お互いにそれだけをいうのが限界だった。肩を包み合いながら涙を受け止める。自分さえ気がつかないうちに目から一滴だけ、涙の粒が落ちた。誤魔化すようにわざと気丈に振る舞う。

「さ、晩飯作っちまおう。教えてやるから。」

顔を上げた鈴音の頬の涙を指で受け止める。

「今は今を楽しもう。だろ?」

「うん。ありがとう。そうね、こうしてても、何も始まらない。」

涙を拭った鈴音は笑った。

「教えて?私も、理樹の味が作れるようになりたい。」

「そんな大層なものじゃねぇけど。」

そう言いながら慣れた手つきで野菜を切って鍋に放り込む。水を入れて火にかけているうちに肉をパックから出した。適当に鈴音に説明しておく。
残りの具材と肉を入れてルーと一緒にしばらく煮込むと美味しそうな香りが漂ってきた。

「すごい!シチューになってる!」

蓋をあけると鈴音が驚いたように言う。

「そりゃ、作り方が合ってりゃシチューになるだろうよ。」

鍋の中身を覗きながらまだ不思議気な顔をしている。

「さっさと食っちまおう。持ってくから手伝え。」

鈴音と皿を運び椅子に座った。

「いただきます。」

「俺も、いただきます。」

鈴音がスプーンで一口すくい取る。

「美味しい。こんなに美味しいの、初めて食べた!」

「そっか、なら良かった。」

「…理樹、ありがとう。私、あんたからいろんなこと教えてもらった。」

「なんだよ急に…らしくない。」

「いいでしょ。言いたくなったから行っただけよ。」

「この後どうする?洗い物はやっておくけど…」

「私お風呂の準備するわ。」

「じゃあ先入れよ。俺後で入るから。」

「ありがとう。あんた、着替え持ってきたの?」

「あぁ、今日はな。」

「じゃあ、私先行くわね。」

「おう、出たら言えよ。俺もすぐ入るから。」

鈴音は脱衣所へ入っていった。いつか泊まった日のことを少し思い出しながら皿を洗う。なんとなく懐かしい。鈴音の滑らかで柔らかい肌や熱くなった身体、甘くとろける儚げな吐息や声までもが鮮明に思い出される。

「…こんなことじゃ…」

そう独り言を言いながら手元に意識を戻す。

「もうすぐ、今年も終わりか…」

しみじみと今年の終わりを思いながら一年を振り返る。

「あいつと会ってから…変わったかもな。こんなに思い出が多い一年なんて、なかった…」

自分でも呆れるくらい毎日がつまらなかった。色がなくて、スカスカで、目に映るものに興味なんてまるでなかった。それが、鈴音と会って、付き合いだして、いろんなところへ行って、いろんなことをして、その顔が、仕草が、小さな微笑みすら愛おしくて、失いたくない、離したくない、鮮やかな笑顔に満たされた鈴音がわけもなく輝いて、自分にないものがあって、守りたい。心からそう思った。心を全部染めていった。そう思っているうちに、なぜか自然に涙が零れた。

「なんでだよ…悲しい…わけじゃ…」

分からない。なのに、とめどなく涙が溢れてくる。鈴音に見せないように何度もなんども拭っても、次から次へと溢れて、目の前が霞んで見える。

「…鈴音…大好きだ。」

掠れた小さな声で絞り出した。その時、風呂のドアを開ける音がした。そろそろ鈴音が出てくる。涙を拭って強く拳を握り締めた。涙が溢れるのを押しとどめるように。

「ありがとう。理樹も早く入って。そしたら…」

その後は言わなくても分かった。

「…あぁ、先に部屋にいってて。俺も後からいく。」

目が赤くなっているのを気づかれないように振り向かずに言った。

「なんか、ちょっと変?どうかした?」

「どうもしないよ。大丈夫だから。」

少し不思議そうな表情をしたまま階段を上っていった。

「俺も…そろそろ入るか…」

残った皿の水気を切るとカバンの中から部屋着をとって脱衣所に入った。まだ鈴音の甘い匂いが仄かに残っている。前と同じでなんとなく予想はしていたが、生身を感じるよりも変な気分がする。鼻腔だけがくすぐられるもどかしさが心に募っていた。服を脱ぎながら気にしないように軽く顔を振った。風呂の扉を開けて中に入ると湯気が立ち込めていた。シャワーで身体を流して髪を洗う。石鹸で身体も洗い終わった頃にはあまり気にもならなくなっていた。身体を拭いたタオルを頭にかけて部屋着になると二階の鈴音の部屋まで上がった。ドアの前で大きく深呼吸してドアをノックした。

「鈴音、入るぞ。」

「理樹、いいよ、入ってきて。」

ドアを開けるとそこには薄い布地の部屋着…というより下着に近いような服を着た鈴音がベッドの上に座っていた。

「ちょっ、お前、その服…」

「う、うるさいわね!あ、私だって頑張ったんだから…あんまり触れないでよ。」

服のことに触れるとぽっと頬を赤らめて目をそらした。少し上気して見える顔とその服、そして自分が連れてきた湿気のせいもあって余計に身体が熱くなっていた。少し箍が外れた身体が勝手に鈴音に寄り添い、背中に腕を回した。

「理樹…急だよ…」

もうお互いにこの後のことは気がついていた。何も言わずにただ腕の力を強くするとそれに応えるように鈴音も背中に腕を回し、そのまま倒れこむようにベッドに横になった。

「理樹の身体…熱くて、ドクドクしてる…」

「鈴音も…熱いよ。それに、柔らかくて…すごい、可愛い。」

「やめて…恥ずかしい…」

少し腕の力を緩めて身体を起こした。いよいよ真っ赤になった顔と潤んだ瞳で見つめる。その顔はあの時よりも更に恍惚として背徳的だった。見つめ合うほどに距離が近くなり、徐々に綺麗に湿った唇が近づいて、鈴音が目を閉じた。そっと、覆いかぶさるように唇を重ねゆっくりと舌を頬裏へ潜り込ませた。鈴音の舌も交差して口の中に入ってくる。熱くなった身体が触れ合い更に熱くなる。0距離で交わす舌に吐息が溢れた。少しずつ手を前に回し、服の上から小さな胸部を撫でるように揉んだ。薄い服では隠し切れないほどはっきりと頂部が硬くなっていた。そっとつまむと鈴音の身体がびくっと跳ねる。少し口を離して顔を眺めるように起こした。

「理樹…そこは…」

そう言いかけた鈴音の首筋にまた舌を這わせた。そのまま下へと下ろし、腋の下に触れさせると拒むように腕を少し閉めた。

「ダメ…私…汗かいて…そこ、臭いから…」

「鈴音のなら…全部欲しい。」

「だめだってぇ…」

甘ったるい声で拒む一方で腕の力は確実に弱くなっていた。服の上から撫でていた手を下に下ろし服の内側へ潜り込ませ、直に頂部を執拗に苛めた。服の上からよりも鮮明に形が分かり、柔らかい肉感や滑らかな肌に硬く隆起した頂部が鮮明に感じられた。

「あぁ…理樹…だめぇ…」

鈴音の声や肌の感触で自分ももう我慢がきかなくなっていた。そのまま上の服を持ち上げて脱がした。白く綺麗な肌が露わになり、頂部にそっと唇を当てると反応良く鈴音が跳ねた。

「だめぇ…そこ、弱いの…」

喘ぎが混ざり始めた吐息に理性を吹き飛ばされ、胸に当てていた右手を下腹部から淫部へと下ろした。近づくにつれ湿気が多くなるように感じ、周りがもう濡れているのがわかった。入り口を優しく指でなぞると鈴音が少し大きな声で喘いだ。

「あぁ!だめぇ!ん!…あぁ、んあぁ!」

ぬるぬると滑る指に悶える鈴音の顔がこの上なく美しく見えた。

「俺…もう…」

「理樹…欲しい…」

喘ぎの間に小さく息の抜けた声言った。その声に最後のストッパーが外れた。ズボンに手をかけて下に下げた。下着にはもうシミができている。下着に手をかけ少し下ろすと溢れでる湿気が甘く独特な匂いを発していた。ピンク色の淫部の先が尖っている。それをつまむようにして手の中で転がすと鈴音が大きく反応した。

「あぁ、あぁあん!らめぇ!そこはぁ、はぁん、ぁん!」

撫でるたびに愛液が溢れ出てくる。鈴音の淫部を撫でながら自分も服を脱ぎ下着をおろした。

「鈴音…挿れるよ。」

「いいよ、理樹…来て。」

入り口に先端を当てて位置を確認するとゆっくりと奥へ進めた。その瞬間、鈴音が大きく身体をのけぞらせる。

「んぎ、あぁぁ~入ってくる…熱い…」

「痛くないか?」

「んん…大丈夫…動いて。」

中は痛いくらい強く締め付けてきた。絡みついた肉壁がうねるように刺激してえもいわれぬ快感が押し寄せる。

「あぁ!理樹の…熱くて、大きい!あぁ、気持ち…いい!」

少し動く速度を速めた。ぴちゅぴちゅと愛液が混ざる淫らな音がする。少し緩くなったように感じると今度は体位を変えて横向きになった。

「あぁぁ!そこは!初めて…なにこれ!すごい!」

またさっきよりも大きく反応した鈴音の声が少しずつ高くなっていた。

「あ、あぁ、あっ、きちゃう!すごいの、きちゃうぅ~!んん!あぁぁぁぁん!!」

大きく背中をのけぞらせると淫部から大量の愛液を出した。膣内が大きく痙攣している。

「あぁ、はぁ、すごい…」

それでも止められずまた腰を動かし始めた。

「あ!だめ!おかひくなっひゃう!動かないで!あぁぁ、あぁ、はぁぁん!らめぇ~!」

少し動かす速度を落としてゆっくりなだめるように動くと奥へさすたびにため息交じりの喘ぎを出す。

「鈴音、動いてみるか?」

「え!私が?」

鈴音を抱えて騎乗位の姿勢で腰を落とした。

「あぁぁ!これも…すごい…あぁ!また、イっちゃう!」

愛液でビショビショになった淫部がぶつかり合いしぶきを上げた。一度鈴音がイってから更に締め付けが強くなりもうそろそろ限界だった。

「鈴音…そろそろ、抜くよ。」

鈴音の腰を抱き上げようとすると鈴音は力を入れて、腰を落とした。

「お、おい…鈴音…ヤバイから…」

「だめ!抜かないで…膣内に出して!」

そのまま大きく腰を落とす。

「お、おい…鈴音…やめろって…マジで…」

「あ、私も、一緒に、イくから…あぁ!だめ、抜いちゃ…」

鈴音は両手を伸ばして仰向けの神田と手を繋ごうとした。それに応えるように理樹も手を伸ばし、2人が手を合わせた瞬間、鈴音が大きく腰を浮かせた。

「私…もう…イク…!」

「お、俺も…もう、限…界」

鈴音は大きく上げた腰を勢い良く落とし、一気に奥まで咥え込んだ。それと同時に身体を神田の上に伏し、膣内の形が少し変わった時、奥にコツンとぶつかり合い、耐えきれなくなった俺は頭が真っ白になるほどの強い快感とともに射精した。

「ん、おう…ぐぅ…」

「あぁぁぁぁあ!熱い…!理樹のが!入ってくる!いっぱい!あぁぁぁ!頭、ふわふわする~!!」

びくっと強く痙攣した膣が肉茎を刺激し最後の一滴まで絞り出した。じわじわと鈴音の愛液と神田の精液が混じった白濁液が漏れだしてくる。激しく動いたせいでお互いに全身汗まみれだった。身体の上でビクビクと震える鈴音を神田がそっと抱きしめた。握っていた手の力が抜けていた。

「鈴音…なんで…」

聞くべきことではないことは分かっていた。だけど、耐えきれなかった申し訳なさとなんでそこまでしたのかという疑問で聞かずにはいられなかった。

「私…理樹のことが大好きで…理樹のなら、全部欲しかった。だから…もうあんまりできなくなるかもしれないし、今のうちにって思ったら…」

「でも…お前…大丈夫なのか?」

「うん、今日は多分…大丈夫だと思う。それに…理樹のなら、本気でいいかなって思ってるし。」

「…そ、その。ありがとう。」

「え…?怒らないの?」

「驚いたけど…結局出したのは俺だし…それに、鈴音がそう思ってくれてたのが…嬉しかったから。」

「理樹…私も、ありがとう。嬉しい。お腹の中が、まだあったかくて…理樹が…入れてくれたんだって…」

「…その言い方は、やめてくれ。」

「今日は、このまま寝よう?」

「…なんかお前、いつもと違う?」

「い、いいでしょ?たまには、こういうのもいいかなって。それに…理樹の前なら、正直になれるかもって。」

「そういえばさ、なんでお前っていつもあの感じなの?」

「は、恥ずかしいっていうか…なんか、らしくない感じがして。」

「…そんなことないよ。鈴音は充分可愛いし、別に普通にしてもなにもおかしくない。」

「そ、そそ、そういうこと言わないでよ。面と向かって言われると…照れるじゃん。」

「それに…小さいしな。」

「う、うるさい!それ言うな~!!ていうか関係ないでしょ!」

「…まぁ、今日はこのままでいいか。寝よう…」

少しずれて横向きになると鈴音が腕の間に入ってきた。

「理樹の腕って、すごい落ち着く。」

「本当好きだよな。まぁいいけど。」

「明日の朝も…一緒。」

「…分かってるよ。ちゃんと起きるまで待っててやるから。」

「ありがとう。おやすみ。」

鈴音は神田の腕の中で幸せそうに、温かさに包まれながら眠った。



次の日、神田は凄まじい腕の痺れとともに目を覚ました。それもそのはず、隣には昨日と同じように腕の中で穏やかに鈴音が眠っていた。一晩中鈴音の枕になっていた左腕は鈴音の手前と奥で色が変わっている。

「まぁ…そうなるよな。」

鈴音が目を覚まさないようにゆっくりと腕を抜こうとすると少し表情を変えた鈴音が寝返りをうった。

「これで一応血は通ったか…」

変色した左腕をさすりながら鈴音の寝顔を見つめていた。その時思い出したが神田も鈴音も昨日そのまま寝たせいで服を着ていなかった。頂部は布団で隠れていたが乳輪のピンク色が少しだけ覗いていた。思わず上から布団をかけ直すと鈴音が音に気がついて目を覚ました。

「理樹~おはよう~」

「お、おう…おはよう…」

鈴音も起き上がるなり自分の姿に気がついて慌てて布団で体を隠した。起き上がった神田は昨日脱ぎ捨てた自分の服と鈴音の服を渡した。

「あ、あのさ…一緒に、お風呂、入らない?昨日そのまま寝ちゃったから」

「あぁ、い、いいよ。俺も汗とかすごいし…」

お互い少し恥ずかしがりながらも脱衣所へ向かった。服を棚に置いて中に入ると追い炊きのままの湯船から湯気が立ち込めた。

「昨日追い炊きのスイッチ切るの忘れたな。」

「いいよ。おかげでお風呂あったかいままだし。」

ボディソープをタオルにつけて体を洗い始めた。鈴音の体を先に洗い鈴音は湯船に浸かっていた。

「昨日は…気持ちよかった。」

「それは…今言うなよ。」

体を洗い終わった神田は背中合わせで湯船に入った。




その後は平和に何日が過ぎ、学校でも何事もなく過ごしていた。

「おっす、おはよう~」

「どうした?きょうはやけにご機嫌だな。」

「昨日さ、面白いところ見ちゃったんだけど」

「は?何の話だ?」

「お前が女子と仲よさそうに歩いてるの見たんだよな~。もしかして彼女じゃねぇの?」

少し慌てて否定しようとした神田の後ろから更に厄介な奴が首を突っ込んできた。

「あぁ、鈴音ちゃんでしょ。そうだよ。」

「うっそ!マジで!?彼女だったの!?」

「おい、朝熊…つかお前も声でけぇよ!」

「え、誰々?神田の彼女?」

「同じクラスの…」

「お、おい!お前黙れって!」

「あ~、その感じは本当なんだ!」

群がっていた女子たちはそそくさとどっかへ消えてしまった。

「まぁ~いつかはバレることだし。」

「お前が言うな!」

「ごめんごめん、口が滑っちゃって。」

「くそ~この裏切り者!!お前は興味ないとばかり…」

よく分からない悔しがり方をしている伊藤に呆れて溜息をつきながら鈴音の方を見るともう何人かの女子に囲まれていた。うっかり目があうとそれに合わせて外野が騒ぐ。やっぱりかと頭を抱えながら席に戻った。




その日の放課後、いつも通り門で待っていたが、どうも周りの人の視線が痛い。近づいてきた鈴音も同じ表情をしていた。

「ねぇ、とりあえず行こ…なんか気まずい。」

「そ、そうだな。ここじゃ落つかねぇな。」

そう言って人通りが少し少なくなるところまで歩いた。

「なんか、ごめんな。バレちまって。」

「いいよ。理樹が悪いわけじゃないし。それに、ちょっと嬉しかった。からかわれてる時、付き合ってるんだって実感した感じで。」

「鈴音…」

「それに、これからは学校でもちょっとは仲良くできるでしょ。その方が自由だし、嬉しいかな。」

「…ありがとな。」

「べ…別に、あんたのためとかじゃ、ないんだから。」

卒業を待つ残り数ヶ月は、ある程度は楽しめるような予感がしていた。



それから数日後、卒業旅行は当然のように鈴音と神田はくっつけられ、朝熊も伊藤の首を引っ張ってどっかへ行ってしまった。

「これで、理樹と遠くに行けるのも最後かな…」

「何言ってんだよ…今は、楽しもう。」

「そうね、そんなこと言っても仕方がないし。」

そう言って遊び始めたが、どうしても心から笑顔にはなれなかった。

「やっぱり…何となく、盛り上がれないね。」

寂しそうに呟く横顔が忘れられなかった。




怒涛のように過ぎた一ヶ月だった。無事に学校が決まり、着々とこの学校を去る準備が進んでいった。卒業式の日、正装に身を包んだ同期が証書入れを持って思い思いに話したり、泣いたりしていた。

「卒業…しちゃったね。」

「あぁ…」

「高校でも…元気でね。」

「…」

「でも…もっともっと、一緒にいろんなことしたかったな…」

鈴音の目から一粒の涙がこぼれ落ちる。顔を真っ赤にして必死に耐えても抑えきれない気持ちが一粒一粒、涙になって崩れてゆく。

「あ、あのさ。鈴音。」

「ん、なに?」

「俺も…もっと、ずっと鈴音と一緒にいたい。だから…俺が高校を卒業するまで、待っていてくれないか?」

そう言って鈴音に小さな指輪を差し出した。

「これって…」

「婚約…までは言えないけど、約束。」

「そ…そんな。」

こぼれ落ちるだけだった涙がどんどん溢れて赤い頬を慰めるように流れた。

「受け取って…くれるか?」

「そんなの、当たり前じゃん!理樹のこと!大好きだもん!何年たっても、何十年たってもずっと大好きだもん!!」

喜びを抑えきれなくなった2人はお互いの体を強く抱きしめあった。存在を確かめ合うかのように、強く強く抱きしめた。

「ねぇ、つけて?」

俺は小さく頷いて鈴音の左手をとり、中指に指輪をはめた。それはとても小さくて、だけどぴったりとはまって誇らしげに輝いていた。そして手の甲に軽くキスをして、顔を上げた。

「本物の指輪まで、薬指は取っておけよ。」

「理樹…」



そのあとも歯止めが効かなくなった俺たちは鈴音の家へ行ってすぐにベッドへ直行した。

「理樹…もう我慢できない!挿れて!理樹のおちんちんで、私のこといっぱい突いて!」

「鈴音…鈴音!」

俺は制服を脱ぐと鈴音のシャツとブラウスを脱がし、露わにした胸を揉みしだいた。

「あぁぁん!理樹の逞しい手が、私の胸…気持ちいい…」

「鈴音…かわいいよ…」

俺は鈴音の胸を揉みながら下着をすべて脱がせ、自分も全裸になって覆いかぶさった。

「あぁ、ん!理樹…お腹に熱いの当たってる…」

俺はそのまま自分の男根を鈴音の女裂に擦り付けた。陰核はぷっくりと充血し、乳首も小さくそそりだっている。

「あぁ!すごいよ!理樹ので擦られると…気持ちよくて…頭がふわふわするのぉ!」

「鈴音!俺も、気持ちいいよ!もっと…もっと鈴音を感じたい。」

「理樹!挿れて!早くさして…もう、我慢できないよ…」

鈴音は自ら自分の痴裂を指で押し開いた。広がった淫裂はぱっくりと口を開け、ヒクヒクしながら愛液にぬらついている。その淫美な雰囲気に飲み込まれるように俺は自分の淫棒をその穴の中へ押し込んだ。

「あぁ!すごいぃ!奥まで来てる!いいよぉ!もっともっといっぱい動いてぇ!」

「鈴音…すごいっ…吸い付いてくる…」

「ズンズンして…気持ちいい!イクっイっちゃう!」

そう言うと鈴音は俺の腰に足を回してより奥に密着するように抱きついてきた胸の頂点が俺の胸をくすぐり、小さいグラインドでより深く刺さるように挿入した。

「深いぃ!これしゅごいのぉ!奥まで届いてるのぉ!イクイクっ…イっちゃうぅぅ!」

「出るって…俺も出るから…」

「だしてぇ!なかでだしてぇ!わたしのなかいっぱいにしてぇぇ!理樹!しゅごい!だいしゅき~!あうん!んうぅう!あんn!…」

鈴音は足で力いっぱい俺の腰を押し付けて自分の膣内に俺の精液を全て飲み込んだ。どくどくと流れる精液が鈴音の中を満たしていく。

「すごいぃ…子宮にかかってる…」

「また中に出しちまった…」

「嬉しい…もしできちゃっても、理樹のなら…喜べる気がする。私、理樹と小さなお店とか作りたいな。理樹が料理作って、私がそれを出して、みんなに食べてもらうの。」

「じゃあ、高校卒業したらお店出そうぜ?思い出の場所でさ。」


「いいわね、2人で小さなお店を経営しながら。そしたらその時は…夫婦で…子供もいるかもね。」

「あぁ…そうかもな。」

朝焼けに照らされた駅を眺めながら繋いだ手を強く握りしめ、長い長いキスをした。俺が鈴音のお腹をゆっくりさすると。鈴音は幸せそうに微笑むのだった。
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