上 下
36 / 61
本編

 37話 暗闇の中で③

しおりを挟む
不思議な夢を見ていた。あれはいつのことだったか…まだ母さんが本性を表す前…だから僕が3、4才の頃だろう。目を覚ますと、視点がいつもより低く、手も見慣れた物ではなく、小さな紅葉の手だった。これは家族で水族館に行った時の夢のようだった。あの頃は家族4人みんな仲良くて今じゃ考えられないぐらい僕は笑っていた。そんな僕の人生でも1番楽しかったんじゃないかと言う頃を夢で見ていた。イルカのショーを見て、クラゲとかを見て、近くの海のレストランでシーフードカレー食べて、そんな楽しい休日の一コマだった。帰り道に母さんたちと歩いていると、美琴と真由、優希が3人で歩いていた。僕は、
「あ!美琴だ。真由に優希も。お~い、みんな~。」
と幼児特有の高い声で言うと、3人の元に駆け出そうとしたが、親と繋いでいた方の手が離れ無い…父さんと繋いでいたはずの手が離れなかった。
「父さん?」
と僕は顔の方を見ると、そこには父さんで無いものがいた。
「…え…?」
と僕は動揺を隠し切れず、口からそうこぼれた。確かに僕と手を繋いでいるのは父さんだ。父さん…なのだが…
「いい?マコト、あなたはこっちに行くのよ。あっちじゃないこっちに行くの。」
と、父さんの方から聞こえた……そう、倒産だと思っていた人物、確かに体つきは父さんだ。しかし、顔は母さんのものだった。
「うわぁ!」
と僕は声がその場に尻餅をついた。そこで僕は自分の声がもとに戻っていることに気付いたが、それどころではない。僕はこの場から一刻も早く逃げ出すべく走った。しかし姿が消えても声だけが永遠と追ってきた。
『『マコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコト』』
「うわぁぁ!」
と悲鳴を上げながら叫ぶ。いつしか洞窟のような真っ黒な空間を白い光の方へと走る。そして光の中に飛び込む時、母さんの声とは違う声がした。
「待ってよ…お兄ちゃん…置いてかないで…」
と幼い声がした。いきなりの事で僕は動転したが、その声は誰かの声によく似ていた。あれは一体誰なのか…僕には思い出すことができなかった。しかし、なぜか安心できる声だったことだけは確かだった。と考えながら、視界がホワイトアウトしていくのを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】悪女のなみだ

じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」 双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。 カレン、私の妹。 私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。 一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。 「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」 私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。 「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」 罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。 本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

処理中です...