俺のパソコンに王女様がやってきた

大沢 雅紀

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反撃

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中村翔は、ごく平凡な家庭に何不自由なく育った少年である。彼にとってトオルは単なるストレス解消のおもちゃで、自分の小遣いを減らさず飲み食いをするための便利な道具だった。
彼がどんなに抗議してもクラスの皆は自分に味方してくれた。どんなに馬鹿にしても人気者の自分が皆に愛され、彼のほうが悪者になっていた。
そんな彼は、今実家のリビングで正座させられている。
テーブルの前には一通の分厚い内容証明があった。
「……ここに書かれていることは事実なのか?」
自分にスポーツを教えてくれた父親が、激怒した顔でにらみつけてくる。
「ち、ちがう……俺はそんなつもりじゃ」
「お前の考えなんてどうでもいい。事実かどうかを聞いているんだ」
体育会系の父親は、怒ると恐ろしい。そして子供が嘘をつくことを絶対に許さなかった。
父親以外にも、優しい母親と可愛い妹が固唾を呑んで見守っている。
「だ、だから、友達にちょっと奢ってもらってただけだって」
「その友達とやらが、わざわざ弁護士を雇って訴えてくるのか」
父親は内容証明を開いてみせる。それは今まで翔に恐喝され続けたことを訴える内容だった。
「被害届はすでに出されている。証拠も同封されているDVDを見れば勝ち目はない。それ以前に私は父親として、お前のような子供を育てたことを情けなく思う」
父親は厳しい顔をしている。母親は涙を流しており、そして妹は軽蔑の視線を翔に向けていた。
「……最低。あんたが苛めなんかする人間だったとは思わなかった。こんな兄がいたら、私までいじめられるじゃん。どう責任とってくれるの?」
昨日までお兄ちゃんと慕ってくれていた妹は、ムシケラのような目で翔をにらんでいる。
「……とりあえず、私から弁護士に連絡を取る。誠心誠意謝るしかないだろうな。覚悟しておけ。場合によっては、せっかく推薦で入った大学にもいけなくなるかもな」
父親の言葉に、翔はがっくりと肩を落とした。

中村翔が父親から説教を受けているころ。
クラスメイトの女子リーダー、真田美穂は必死にスマホの相手に弁解していた。
「だから、全部誤解なの。信じて。私はからかっていただけ。苛めじゃなくて弄りなの!」
彼女が弁解しているのは、大学生の彼氏である。小さいころからの幼馴染で、美穂のとっては最愛の人間だった。
しかし、スマホからは冷たい声が聞こえる。
「動画をみたよ。お前の本性は集団で抵抗できない人間をいたぶるようなやつだったんだな」
それを聞いて、美穂は何もいえなくなる。
「俺もさ。お前が知らない所で苛められたことがあったんだ。だから苛める方の人間の言い訳もよくわかるよ。私たちは弄っていただけ、苛めじゃないって。でも、それをどう受け取るかは相手なんだよ」
電話の向こうの彼氏は、正論で美穂を追い詰める。
「悪いけど別れてくれ。集団で酷い苛めをしたり、かつあげするような人間は顔もみたくない」
その言葉を残し、電話が切れる。あわてて電話やラインをしても、すでに拒否されていた。
「なんでこんなことに……全部神埼のせいよ!絶対に許さない。みんなと協力して、復讐してやるから!」
美穂は自分の部屋の中で、悔しさに唇をかみ締めていた。

理事長室
弥勒学園の理事長である聖清大吾は、娘から延々と訴えられていた。
「お父様の力で、この動画を消してください」
彼女が差し出す動画には、度々トオルに対して寄付の名目で金をせびっていたり、カラオケ店で調子に乗って彼を見下した発言をする様子が再生されていた。
『なんだこいつ。最低だな』
『何思い上がってんだよ。何様のつもりだよ。まさに勘違いしたお嬢様ってとこだな』
『信じられない。こんなこと本気で考えている人がいるなんて。ドラマとか漫画の中の悪役令嬢みたい』
動画のコメントにはさやかを揶揄する発言であふれかえっていた。
「無理をいうな。学校内でのことならどうにでもなるが、それ以外で私にできることなどない。神埼徹はすでに卒業しており、進学もしていないから何の影響も及ぼせないしな」
大吾も困り果てている。さやかはそれを聞いて、初めて何でもできると思っていた父親でも所詮弥勒学園という井戸の中で威張る蛙だったことを思い知った。
そこから一歩でも足を踏み出したら、無力だと散々あざ笑っていたトオルにさえ指一本触れられないのである。
「だ、だったらこっちも弁護士を雇って、あいつを名誉毀損で訴えて」
「それこそ奴の思う壺だ。下手をしたら子供の苛めじゃすまなくなって、この学園にまで飛び火するかもしれん」
さやかや生徒たちをけしかけて、トオルから金を巻き上げていた黒幕は彼である。自分の立場を危うくすることはできなかった。
「なら、どうすればいいのです!」
癇癪をおこすさやかを、大吾は宥める。
「こういう時は相手にせず、騒ぎが沈静化するまで一年でも二年でも無視するのだ。お前は日本の大学をあきらめて、アメリカの大学に留学しなさい。海外でほとぼりを醒ましてもどってくればいい」
「……はい」
さやかはしぶしぶ日本から逃げ出すことを了承するのだった。

都内 某ホテル
「すごいですね。閲覧数100万を超えました」
画面の中のメルが喜んでいる。
「これもメルのおかげだよ」
「い、いや。たいしたことはしていませんから」
顔を赤くするメルだった。
「いや。俺の苛め動画だけじゃ、ここまで拡散されなかっただろう。メルが丁寧に解説してくれたおかげだよ」
トオルは投稿した動画を見る。そこには可愛らしい制服をきたメルが、トオルの苛めについてじっくりと解説する様子が映し出されていた。
『こいつの苛めなんてどうでもいいけど、解説する女の子が可愛い件について』
『誰だ?外国人タレントにこんな子いたか?』
中には動画の内容そっちのけでメル探しに血眼を上げているものたちもいた。
「メル。それじゃ次の段階に入ろう」
「はい。生徒たちの進学情報はすべて抑えていますわ。進学予定先の大学に証拠となる動画を送りつけ、弁護士さんたちが告訴する予定であることを伝えると、大学側も考え直すでしょう」
それを聞いて、トオルは会心の笑みを浮かべる。
「俺のまっとうな高校生活を奪った報いに、奴らの大学生活という未来を奪ってやろう」
トオルは100人を超える自分をいたぶった生徒たち一人ひとりの情報を編集し、彼らが進学する予定の大学におくった。

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