上 下
22 / 28

後悔

しおりを挟む
次の日
町の広場ではお祭り騒ぎが起こっていた。
中央の台には10人ほどの老若男女が十字架にかけられ、その足元には薪がくべられている。
「処刑しろ!」
「詐欺師を信じて流言飛語をとばし、この地を混乱させようとした裏切り者に天罰を!」
長い寒さから開放され、常春の地となったレイルダットの地の人々は、まるで今までの鬱憤をはらすかのように老神官と信者たちに罵声を浴びせていた。
「何か言い残すことはありませんか?」
残酷な笑みを浮かべたソフィアが、老神官に問いかけるも、彼はただ哀れんだ目で彼女を見つめていた。
「一言だけ申し上げます。あなた方はこの地にようやく来た救いの手を払いのけ、再び寒くて薄暗い永遠の冬に帰ろうとしています」
「負け惜しみを!せいぜい偽の天空王に祈ることね。もっとも」
ソフィアは杖をかかげる。
「もし万一、お前たちを助けにきたら、その瞬間に私の魔法の餌食になるだけだけどね」
ソフィアは彼らをえさに、ルピンを始末しようとしていた。
「さあ!やりなさい!」
彼女の命令で、10人の信者の磔台の下に積み上げられた薪に火がつけられる。
油をまかれた薪は盛大に燃え上がり、信者たちは煙に包まれた。

俺はその姿を天空城から静かに見下ろしていた。
「天空王様……お助けください」
「この地に豊穣を与えてくださったあなた様を、私たちは最後まで信じます!」
老神官を初めとする敬虔な信者がいる一方で、彼らの処刑を見て喜んでいる者たちもいる。
「あはは、どこからも救いなんてこないじゃないか!」
「やっぱりソフィア様の言うことが正しかったんだ」
同じ俺が与えた「太陽のオーブ」の恩恵を受けながら、一方は素直に俺に信じ、もう一方はソフィアを信じる。
俺は人間というものがわからなくなった。
「普通、恩恵が与えられたら素直に俺に従うものだとおもっていたけどな……人間って単純じゃないというわけか。俺みたいな神を胡散臭く思いないがしろにして、実際に目の前にいる貴族などの偉い人間にしたがう者たちもいるわけだ。なんだか哀れだな」
だからといって、俺に従う敬虔な信者たちを見捨てるわけにはいかない。
俺は天空城をレイルダットの上空に移動させた。

レイルダットの町を照らしていた「太陽のオーブ」の光が、何か大きなものに遮られる。
何事かと思って空を見上げた民たちが見たのは、巨大な空に浮かぶ城だった。
「て、天空城?」
「ばかな!どうして!」
驚く民たちを相手にせず、天空城から白い光が発せられる。それは磔にされている信者たちを包み込み、拘束していた縄を切った。
「敬虔なる我が信者よ。そなたたちを助けよう。宗教都市エルサレムにいって穏やかな一生を過ごすが良い」
重々しい声が響き渡ると同時に、信者たちの姿が消えていく。
「天空1王よ。感謝いたします」
老神官と信者たちは歓喜の声をあげながら消えていく。。
レイルダットの民衆たちは、その姿を呆然と見送っていた。
その中にいたソフィアが、はっと我に返る。
「ルピン!そこにいるのですか!でてきなさい!」
「無礼な奴だが、いいだろう。昔の誼で姿を見せてやろう」
その言葉とともに、白衣を着た少年が現れる。それはまぎれもなく、勇者パーティの一人で元転移士のルピンだった。

光をまとった少年が天空城から降りてきたので、その神々しさに打たれて民たちが土下座を始める。
しかし、ソフィアと騎士たちだけはなおも轟然と立ちつくしていた。
「大罪人ルピン。おとなしく降りてきて降伏なさい。そうすれば、寛大な処分を陛下にお願いしましょう」
ソフィアは上空にいるルピンを見上げながら、震える声で命令した。
少年-ルピンはそんな彼女を哀れむように笑う。
「天空王になった俺を、地上の王が裁こうというのか。身の程をしらないとは哀れなものだな」
「なにを!卑しい庶民の転移士の分際で!「フレイムドラゴン!」
ソフィアの杖から炎でできたドラゴンが現れ、ルピンに襲い掛かる。しかし、彼の体を照らしている光にあたった瞬間、フレイムドラゴンは跡形もなく消えてしまった。
「くっ!騎士たちよ!」
「はっ!」
ソフィアの周りを固めている、王国軍の精鋭たちが杖剣を抜き、上空にいるルピンに魔法を放つが、すべての魔法が消されてしまった。
「何を勘違いしているのだ。お前たちに与えられた「魔法」は天空王から与えられたもの。天空王たる我に通じるはずがあるまい」
それを聞いた騎士たちに、畏怖が広がっていった。
「まさか……本当にルピンが天空王になったのか?」
「魔法が通じない……なら、どうやって捕まえれば」
頭を抱える騎士たちに、ソフィアが叱咤激励する。
「何をまよっているのですか!魔法がつかえなけば、剣で!」
「どうやってですか?奴は空中に浮かんだまま降りてきません!」
そういわれて、ソフィアは悔しそうにルピンを見上げる。
「卑怯者!降りてきて正々堂々と戦いなさい」
「断る。貴様たちのような下賎な者たちを相手にするまでもない」
ルピンは冷たく笑うと、ふっと姿が消える
ソフィアたちはなすすべもなく見送るのだった。
彼の姿が消えてすぐ、天空城から重々しい声が聞こえる。
「レイルダットの者たちよ。よく聞くがいい」
それを聞いた民たちは、ビクッと体を震わせる。
「お前たちは我が恩恵を与えたにもかかわらず、ソフィアにたぶらかされて恩知らずにもわが敬虔な信者を処刑しようとした。それにふさわしい罰を与えよう」
その言葉とともに、「太陽のオーブ」が教会から消失する。同時に、青い色のオーブが台座に設置された。
「その「寒冷」のオーブはこの地を浄化してくれるだろう。恩知らずの者たちが住む地を永遠の雪と氷に閉じ込めてな」
急激に気温が下がり、レイルダットの地に雪が降り始める。それはあっという間に周囲一帯に降り積もり、この地を外界から断絶させた。

一ヵ月後
「寒い……」
「いつになったらこの吹雪はやむんだ……」
レイルダットの町では、人々が家の中で震えていた。つい一ヶ月前までの陽気は嘘のようになくなり、以前に数倍する寒波が押し寄せている。
そのせいでせっかく芽吹き始めた農地は全滅し、それどころかあまりの寒さのあまり野生生物すら逃げ出してしまい、民衆は飢えと寒さで苦しめられていた。
彼らは家族ごとに家の中にひきこもり、ひたすら天空王に祈りを捧げている。
「ねえ……どうして寒くなっちゃったの?この間まで暖かかったのに」
寒さのせいで体調を壊した子供たちに、親は何も答えられなかった。

「どうして俺たちは神官様のいうことをしんじなかったんだ?」
「感謝したのに!暖かくなった時は、これで幸せな生活を送れるとおもったのに。今じゃ地獄だ!」
「なんでこんなことになったんだ!」
民衆のそんな思いは、ある一点に収束される。
「あの女が悪い」
「あの女が、嘘をついて俺たちをだましたんだ!」
誰かが言い出したその言葉は、燎原の火のようにレイルダットの民衆の間に広まっていく。
次第にこの地に不穏な気配が漂っていくのだった。
「さあ、もう寝よう。そして天空王様に許しを請うんだ」
レイルダットの民衆は、震えながら家族で身を寄せ合って毛布に包まる。
そんな日が何日も続いた後、レイルダットの地にいる者たちの夢にある少年が現れた。
「私の恩寵を振り払った恩知らずたちよ。お前たちの祈りに答えて、一度だけ贖罪のチャンスを与えよう」
「は、はい。何でもおっしゃってください」
その夢を見た者たちは、一人の例外もなく土下座して許しを請う。
「私の許しがあるまで、このまま寒さに耐えよ。家族・隣人と助け合って、一人の餓死者も凍死者も出さぬように耐え忍ぶのだ。十分に反省の意思を感じることができたら許しを与えよう」
「しかし……私たちはもう限界です。いつまで耐えればよいのでしょうか?」
「私を裏切った者が悔い改めるまでだ」
そう訴えかける者に、少年-天空王ルピンは冷たく答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...