追放された転送者は、天空王となって世界に復讐する

大沢 雅紀

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八つ裂き

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「せ、聖騎士様、どうすれば!」
騎士隊のメンバーはレイルを中心に身を寄せ合って、防御体系をとっている。
襲い掛かってくるアンデットとなった村人たちを見たレイルは、即座に命令をくだした。
「剣をとれ!奴らすでに魔物だ。躊躇するな!」
「はっ!」
レイルの激励により、騎士たちは士気を取り戻し、村人たちに剣を振るう。
たちまち辺りには血しぶきが舞い散る凄惨な光景になった。
「ああ……痛い」
「もう片方の手まで切られた。お前の手をよこせ!」
しかし、村人たちは切られても切られてもつかみかかってくる。
その混乱の中で次第に騎士隊は防御陣形が保てなくなり、いつしか個々に分断された。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!痛い!」
あちこちで体の一部がもぎりとられた騎士の悲鳴が響き渡る。しかし、すぐに悲鳴の内容が変わっていった。
「バカな!なぜ死なない!」
「それは『不死のオーブ』のおかげさ。ほらほら、とられた手は別の者の手をとることでくっつけられる。早くしないといつまでもその痛みが続くぞ」
俺の煽りを聞いて、痛い痛いと泣き叫んでいた騎士は、血走った目で隣で戦っていた騎士を見る。
次の瞬間、隣の騎士の腕がぶった切られた。
「ぎゃぁ!」
「お前の手をよこせ!」
切った騎士は、落ちた腕を自分の欠損した部分に取り付ける。すると、いびつな形ながらくっつき、痛みもとまった。
「返せ!」
「いやだ!これはもう俺のものだ!」
二人が争っている間にも、村人たちが襲い掛かってくる。
いつしかマッスル村は騎士、村人たちの区別もなくなり、お互いの体の一部を延々と取り合う地獄絵図と化していった。

「はあ……はあ……ここまでくれば」
お互いを喰いあう地獄とかしたその場をなんとか抜け出した少女がある。
聖騎士の一人、レイルだった。
「恐ろしい……早く逃げないと」
いかに聖騎士でも、切っても死なない不死身の化け物には対抗できない。
お供の騎士たちを見捨てて逃げようとする彼女の前に、数人の村人たちが立ちふさがった。
『姉さん……あなたのせいでこんな目にあっているんだ」
レイルの肩ほどしかない背丈の少年は、村に残してきた彼女の弟だった。
「我々は新たなる天空王の怒りに触れた。だが、ただひとつだけ救いの道があるかもしれない」
そあつぶやく筋肉ムキムキの女モンク僧は、彼女の母だった。
「そうだ、お前さえ我が家にこなかったら、こんなことにならなかったんだ。何が天空人の血を引く聖戦士だ。疫病神め!」
そう怒鳴りつけるのは、彼女の祖父で剣を教えてくれた老人だった。
「お前の体をよこせ!」
自分を慈しみ育ててくれた親族が、憎しみに目を血走らせて迫ってくる。
「うわぁぁぁぁ!どけえ!」
レイルは滅茶苦茶に剣を振り回し、全員を切り捨ててその場から逃げた。
「なんで……なんでこんなことになったんだ」
親しい人々までが自分に憎悪を向け、本気で襲い掛かってくる。
そのことに絶望する彼女の耳に、冷たい声が響いてきた。
「さあ。俺も処刑されそうになった時は、そんな思いをしたよ」
「くっ!」
俺はレイルの側に現れて、からかうようにささやいてやる。
「貴様!」
「おっと」
レイルが切りつけてきたので、俺は「転移」で逃げ出した。
「貴様のせいでこの村が地獄となった。殺してやる」
「否定はしないが、俺を殺したからってどうなる。元にはもどらねえぞ」
「うるさい!」
レイルはめったやたらに切りかかってくるが、俺は軽く転移を続けて交わし続けた。
「卑怯者め!正々堂々と勝負しろ!」
「断る。天空王である俺がお前みたいな下賎な奴を相手にするものか!」
俺は上空の天空城に転移して、上から声をかける。
「それじゃあ、これでさようならだ。人を傷つけることしかしらない愚かなレイルよ。貴様には永遠の修羅地獄がふさわしい」
そのまま俺は天空城に乗って、マッスル村の上空から去るのだった。

レイルは、天空城を呆然と見ていたが、すぐに気を取り直す。
(あんな邪悪な男が天空王だと!そんなことが許されるはずがない。勇者と協力して奴を滅ぼさなければ)
そう思ったレイルは、一目散に村の出口に向かう。
つかみかかってくるモンク僧たちを切り捨て、全身汗と血まみれになってようやく村の門にたどり着いた。
「ようやくアンデットどもを振り切ったか……これで」
安堵しながら村の外に足を踏み出した瞬間-
一瞬で辺りの景色が変わっていた。
「……ここは?」
レイルの目の前には、村の中央にある神殿があった。辺りにはもはや騎士や村人たちの肉体が入り混じった化けものが這い回っている。中にはひとつの体に二つの頭がついていたり、手が3本ついていたりしていた。
彼らはそんな体になっても意識を保ち続けているらしく、苦しげに何事かつぶやいている。
『残念だったな。この村は世界に不要な場所として『隔離』させてもらった。アンデットたちが外に出ると、世界に迷惑がかかるだろう?』
上空からルピンのからかうような声が聞こえてくる。
「隔離だと!」
『そうさ。村の周囲を転移魔法で覆って、誰も出られなくした。お前は戦いがすきなんだろう?永遠に戦い続けるがいいさ」
その言葉とともに、上空の天空城は遠ざかっていった。
「まってくれ!私が悪かった!」
あわてて謝罪するレインだったが、その声は届かない。必死に許しを請うレインを数十人の人影がとりかこんだ。
『目をくれ』
「手がほしい」
「心臓……」
人間の形を保っているが、まるで一度バラバラにされながら適当につなぎ合わせたような体をもつものたちがいっせいにレインに襲い掛かる。
「助けてくれ!」
そのままレイルは八つ裂きにされ、体中のパーツを奪われてしまうのだった。
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