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魔王討伐失敗

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「ここが天空城かぁ」
金髪のやんちゃそうな少年勇者ウェイが、楽しそうにつぶやく。その傍らで俺、転送士ルピンも同じような感慨にふけっていた。
ただの商人だった俺が、こんな所までこれるとはな。
自然と今までの苦労が思い出される
勇者パーティの斥候役として真っ先に危険なダンジョンに足を踏み込み、何度も大怪我を負った。
危なっかしい彼らをフォローして、レベルが高い敵と出会って危険に陥ったら、俺の『転移(テレポート)』の力で逃してやった。
奴らは俺がいないと、何度も死んでいたはずだ。だから、さすがの勇者ウェイでも、俺を置き去りにしたりしないだろう。
振り返ると、にっこり笑う俺と同じ黒髪の少女と目が合う。
「がんばったね。ウェイ」
「ああ。『転移』で地上からここまで来るのは大変だったよ。『神竜』はレベルが足りないって背中に乗せてくれなかったし」
俺は同じ町の幼馴染で聖女フローラに笑いかける。
次の瞬間、尻に激痛が走った。
「パシリの分際で、私たち選ばれた聖戦士に馴れ馴れしい声をかけるな」
俺の尻を蹴飛ばしたのは、引き締まった肉体をもつ女戦士レイル
「そうですよ。身分を弁えなさい。あなたは使用人にすぎないのですから」
ツンとそっぽを向くのは魔術師のソフィア。
この二人は貴族階級の出身で、いつも俺とフローラを見下していた。
「そんなやつにかまうな。いくぞ」
勇者ウェイが従い俺たちは天空城の門にいく。
強そうな神兵の門番に止められた。
「とまれ。お前たちは何者だ」
「俺たちは勇者とその仲間だ。来てやったぞ」
ウェイが愁傷に告げると、門番はうなずいた。
「話はきいている。通るがいい」
重厚な扉が開かれていく。俺たちが入ろうとすると、門番に止められた。
「呼ばれたのは勇者と聖戦士のみだ。使用人は門の外で待て」
それを聞いたウェイは大笑いする。
「ぎゃはははは!そりゃそうだ。単なる雑用係兼乗り物はたしかに入る資格はねえよなぁ」
そういい捨てて、城に入っていく。
フローラも俺のことを気しながら城に入っていった。

俺はなすすべもなく、天空城の入り口でまっていた。
そんな俺を、町の住人たちがものめずらしそうに見ていてる。
「ねえ。見て。あの人頭の輪と翼はどうしちゃったの?_」
小さな天空人の男の子が、俺を指さして母親に聞いていた。
「しっ。見ちゃだめ。あれは地上人という生き物よ」
「……生き物?」
「ええ。みじめに地面を這いつくばって、毎日泥まみれになって働かないと生きていけない下賎な生き物。かかわったら私たちまで堕天するかもしれないわ」
母親は俺から目をそらし、そそくさと立ち去った。
おなじような反応をしたのは彼女たちだけではない。
「いや~不細工な男。なんでこんなのが天空界にいるのかしら?」
「ああ、勇者の乗り物係だよ。ああやってご主人様が出てくるのを待たされているんだ」
「ふーん。まるで犬みたいね」
若いカップルからは蔑みの視線で見られ……。
「おい。貴様!さっさと出て行け。ここは貴様のような下賎な生き物がいていい場所ではないんだ」
老人の天空人からは食ってかかられる。
天空城の門番たちは、そんな彼らを諌めるでもなく、俺が馬鹿にされるのをニヤニヤと眺めていた。
そんな屈辱の時間が終わり、勇者たちが城から出てくる。
天空城から出た彼らの装備は一新されていた。
全身を金色で輝く神々しい鎧で覆い、持っている武器もキラキラと輝いている。
さらに、全員の背中に白い羽が生えていた。
「まさか、俺たちが天空人の子供だったなんてな」
「道理で周りの人間とは違うと思っていました」
「私たちはもともと特別だったのだ!」
彼らは満足した笑みを浮かべている。
「さあ、魔王の城に連れて行け!」
勇者ウェイは俺を蹴飛ばしながら命令した。

そして魔王城では、満身創痍となった勇者パーティがいよいよ魔王の間にたどりついていた。
「おかしいな。敵がここは魔王の間なのに、守護者である魔将軍がいない」
俺は警戒するが、彼らは楽観的だった。
「びびってんのかよ。俺たちが強くなったので、奴らは逃げ出したのさ」
勇者ウェイはこんなときでも俺をバカにしてきた。
「怖いならいつものようににけだしたらどうだ?臆病者のルピン」
「」なたは仲間ではなく道具ですからね。用済みです」
「ルピン、大丈夫よ。私たちを信じて」
俺たちは魔王の間の扉を開ける。巨大な角が生えた魔王が玉座に鎮座していた。
「良くぞここまできた……といいたい所だが、勇み足であったな」
魔王はニヤニヤ笑う。
「なんだと!」
「貴様たちはレベルが低いままここに来た。まあ、わざと招かれたのだがな」
魔王の角が輝きだす。
「見るがいい。『魔王砲』」
魔王の角から、協力な魔力砲が発せられた。

魔王砲は勇者パーティをたったの一撃で壊滅させた。
彼らがまとっている伝説の鎧はボロボロに砕け、装備している武器や杖も壊れている。
「運がいいやつだ。伝説の装備のおかげで命だけは助かったか。だが、もう戦えまい。お前たちは奴隷として一生こき使ってやる。まずはこの女からだな」
魔王は呆然と座り込んでいるフローラに手を伸ばす。
「やめろ!」
俺は思わずその間に割って入った。
「ほう?地上人のくせにワシに逆らおうといる気概は面白いな。この女はお前の何なのだ?」
「……婚約者だ。この旅が終わって故郷に帰ったら、結婚すると誓っている」
それは故郷の町を出るときに誓った神聖な誓い。彼女は泣きながら不安だからついてきてくれと俺に頼み込んできたのだ。
俺が一般人ながらこのパーティに参加したのも、彼女を守るためだった。
『美しい純愛とやらか。だが、それもここで終わる」
悦に入って何か言おうとした魔王の前で、俺は魔力を集中させる。
「『転移(エスケープ)』
俺の持つたった一つの力。たとえどんな場所からでも、どんな状況からでも逃げ出せる、移動系スキルの最上位の能力。
俺は渾身の魔力を振り絞って、勇者パーティと共に魔王の間からに逃げ出した。

気がつくと、俺たちは王城に用意されていた自分たちの部屋にいた。
「ふう……助かった……」
俺は胸をなでおろすが、いきなりウェイに胸倉をつかまれた。
「てめえ!何勝手に逃げ出しているんだよ!」
思い切り殴られたせいで、歯が何本か折れて飛んでいった。
「情けないやつだな」
女戦士レイルが、俺の尻を蹴飛ばす。彼女は魔王に殺されかけた鬱憤を晴らすように、しつこく何度も蹴りを入れてきた。
「そんな!俺のおかげでみんなが助かったんじゃないか!」
俺が抗議すると、魔術師ソファアがあざ笑った。
「何を言ってるんです?私たち天空人の血を引く者が負けるわけないではないですか。あれからフローラの回復魔法で全快して、魔王を倒せたはずなんですよ。ね、フローラ」
「う、うん」
聖女のフローラまで皆に同意してしまった。
「ちっ。この事は国王に報告するからな。お前のせいで魔王を倒せなかったって!」
ウェイは情け容赦なく俺を殴り続ける。
襤褸切れのようになった俺は、力なく床に倒れこんだ。
「きたねえな……。このゴミを部屋の外に捨てて……いや、いい事を思いついた」
ウェイはにやっと笑うと、三人の女を抱き寄せる。
「こいつの目の前でやってやろうぜ!魔王を倒せなかった憂さ晴らしだ!」
ウェイがそういうと、レイルとソフィアはキャーと歓声を上げながら服を脱ぎ始めた。
「ほら、フローラも」
「う、うん……だけど」
フローラは俺のことを気にして、チラチラと視線を送ってくる。
「気にすることはないわよ。私たちは特別な血をもつ高貴な天空人。汚らわしい地を這う虫けらも同然の人間のルピンとの婚約なんて、この場で解消してやればいいわ」
「わかった」
フローラは頷くと、俺を見下ろしていった。
「ルピン。残念だけど私たちとあなたでは釣り合わないの。私はウェイのお嫁さんになる。これは当然の成り行きなのよ」
フローラは服を脱ぎ捨て、ウェイにしなだれかかる。
俺は見たくもない痴態を見せ付けられ、絶望の涙を流した。

地獄のような一夜が明けて、俺たちは国王の間に呼ばれる。
俺たちは陛下の前に跪いていた。
「そうか……魔王は倒せなんだか……」
髭を生やした王様は落ち込むが、ウェイの言葉を聴いて再び希望を持った。
「ですが、俺たちは魔王城の最深部までたどりつきました。もう少しレベルを上げて再戦すれば、魔王など簡単に倒せます」
「おお……さすが勇者。一度や二度の負けなどものともしない強い心の持ち主じゃ」
王様は勝手に感動している。
実際にはウェイは俺に散々八つ当たりしたり聖戦士と飽きるまでベッドを共して、悔しい気持ちを静めたんだけどな。
「ですが……私が再び魔王と戦うにあたり、排除しなければならない者がいます」
『排除だと?それは誰じゃ?」
王の言葉を受けて、ウェイは自信満々で俺を指差す。
「戦いにおいて役立たずどころか、少し不利になっただけで仲間を巻き込んで逃げ出す臆病者ルピンがいる限り、まともに戦えません」
「そうだそうだ。お前がいなければ魔王に勝っていたんだ」
「本当に役立たずの上、邪魔ですわ」
ウェイに賛同して、レイルとソフィアも騒ぎたてる。
俺は一縷の望みをこめてフローラを見たが、彼女の口から漏れたのは俺への弁護ではなく疑念だった。
「陛下。私たちは天空王に会い、自らの正体を知らされました。天空人の血を引く私たちは、魂で結ばれた仲間……いや、伴侶も同然です」
フローラの背から白くて美しい翼が出る。国王や貴族たちはその美しさに見惚れた。
「しかし、ルピンだけは違います。彼は私たちを天空城に運ぶ役目を担うだけのただの人間。それが終わった後までついてこられると、迷惑になるのです」
庇護欲を誘うような美少女であるフローラの言葉に、国王は簡単に乗せられてしまった。
「わかった。転移士ルピンよ。勇者の邪魔をした罪で、お前を追放する!」
国王の言葉と共に、騎士たちがやってきて俺を乱暴に立ち上がらせた。
「ま、まて!俺がいないと、いざという時に逃げられないぞ!」
俺の抗議に、勇者パーティ、国王、貴族、騎士たちが大爆笑する。
「何を言っているのですか?勇者様が逃げるなんてことあるわけがないです。あなたみたいな臆病者とは違います!」
国王の傍にいた王女レイチェルからも笑われてしまった。
「で、でも。ほかの町に行くときとか、もう一回魔王の城にいくときとか……」
「必要ねえ。移動には別の転移士を雇えばいいだけだからな」
勇者ウェイは思い切り見下した目で笑った。
「ええい。もういい。目障りだ!荷物をまとめる時間はくれてやる。明日になったらこの王城から退去せよ!」
王は厳しい声で命令する。俺は騎士たちによって、玉座の間から追い出されてしまった。

「陛下。このまま追い出すのですか?」
「ああ。勇者たちの失敗を公表するわけにはいかん。転移士にはいくらでも代わりがいる。奴のせいにして追放すればいい」
国王の言葉に対して、宰相が反対する
「ですが、このままでは奴が余計な悪評をふりまくかもしれません。なにせ奴は転移で好きな所にいけるのですから」
「では、どうすべきだと思う?」
黒衣を着た宰相が進み出て、なにやら国王に耳打ちする。
それを聞いた国王は、大きく頷いた。
「なるほど。よかろう。姫と勇者に一肌脱いでもらうとしよう」
王は勇者ウェイと王女レイチェルを呼び出すのだった。

自分に与えられた部屋にいた俺は、ぶつぶつ不満をもらしながら荷物をまとめていた。
「くそっ。なんで魔王から勇者を救った俺が追放されるんだよ!」
腹立ち紛れに粗末な壁をけりつける。思えば今までも俺に対して不当な差別がされていたような気がする。
勇者ウェイや聖戦士たちは豪華な部屋なのに、従者の俺は物置まがいの粗末な部屋で寝泊りしていた。
腐っていたら、ドアがノックされて城の侍女がやってくる。
「転移士ルピン様。王女レイチェルさまがお呼びです」
「王女が?何の用だろう?」
「あの場では擁護できなくて申し訳ない。城から旅立たれる前に、今までのお礼をしたいそうです」
侍女が神妙な顔をしていう。普段なら疑うべき所だったが、ウェイやフローラに裏切られて落ち込んでいた俺は飛びついてしまつた。
「わかりました。すぐに行きます」
俺は侍女について王女の部屋に向かう。このことを後悔するのだった。

「王女様。転移士ルピン様がおいでになりました」
「ご苦労様」
ピンク色で飾られた豪華な部屋に入ると、なぜか薄着をした王女レイチェルに迎えられた。
彼女この国一番の美少女といわれ、豪華な金髪と雪のように白く輝く肌をもつ「金輝姫」といわれている。
俺は思わず彼女に姿にみとれてしまい、侍女が不自然に入り口のドアをふさぐように立つのに気づいてなかった。
レイチェルは俺を冷たく見つめると、いきなりつけていたネックレスを引きちぎり、自分の上着を破く。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!何をするの!」
いきなりの出来事で、俺は状況がわからなかった。
「お、王女様?」
「こないで!だれかぁ!」
王女が叫び声をあげた瞬間、ドアを蹴破ってウェイと騎士団が入ってくる。
「ルピン!見下げ果てた奴だな。王女を襲うなんて!」
「ち、ちがう!」
「問答無用!奴に「魔封じの手錠」をつけろ!」
ウェイの命令で騎士たちが俺に駆け寄り、黒い手錠をつける。そうすると魔力が封じられて、転移で逃げることができなくなった。
「よし。では早速処刑すぞ。市中引き回した上で、大広場で斬首せよ!」
俺は騎士たちに引きずられて、王城から引きずり出されてしまう。その姿を、聖戦士たちが面白そうに見ていた。
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