偽勇者扱いされて冤罪をかぶせられた俺は、ただひたすらに復讐を続ける

大沢 雅紀

文字の大きさ
上 下
34 / 55

聖女の暗躍

しおりを挟む
王城 謁見の間
パーティ会場で、王子がモンスターと化して勇者と戦い、倒されたと聞いて、国王は怒り狂う。
「勇者光司!なぜ我が息子を殺した!」
国王は詰問するが、光司は恐れ入らなかった。
「ああん?てめえの息子がモンスターになったから、討伐しただけだろうが!なんか文句あんのかよ。ひっく」
そう答える光司の顔は真っ赤になっている。もはやコカワインに依存しきっていて、常に飲んでいないと正気を保っていられない状態だった。
自分に敬意を払わない光司に、国王は激高する。
「ええい!こやつを切れ!」
国王の命令に騎士団長をはじめとする衛兵たちが剣を抜く。
光司もフレイムソードを抜いて相対した。
一触即発の危機に、今までだまっていた聖女マリアが口を開く。
「陛下、心をお鎮めください。光司様は勇者としての役目を果たしただけでございます。ヴァンパイアと化した王子を放置していたら、多くの貴族たちが襲われて、王都が滅んでいたかもしれません」
「ぐぬっ」
正論を言われて、国王は沈黙する。
「光司様も剣を引いてください。息子を殺されたのです。陛下のお気持ちもお考え下さい」
マリアに諭されて、光司もしぶしぶ矛を収める。
「あなた方が本当に立ち向かうべきは、王子をモンスターに落とした魔王ライトでございます。今は協力して彼に対抗すべきかと」
その言葉に、国王はなんとか自制心を取り戻す。
しばらくして、絞りだすような声で光司に礼を言った。
「勇者光司よ。魔物と化した息子を倒してくれて感謝する。おかげて魔物の侵攻を未然に防ぐことができた」
「いいってことよ」
国王の謝罪を、光司は軽く受け流した。
「褒美に何が欲しい?」
「そうだなぁ。女も金も酒も困ってないしなぁ」
酔った頭で考え込む。
「そうだ。王子がいなくなったんだから、俺を代わりに王位継承者にしてくれよ。勇者でシャルロットの夫である俺ならふさわしいだろ」
光司の言葉に、国王は怒りのあまり立ち上がりそうになるが、傍に控えていた騎士団長に手を引かれて座りなおした。
「……いいだろう。ただし、第二の魔王と化したライトをお前が倒せたらだ」
「いいぜ。あんな奴、俺にかかれば一ひねりだぜ。はっはっは。ひっく」
光司は機嫌よく高笑いしながら退出していった。
謁見の間に残された者たちの間に、沈黙が降りる。
「ライトを偽勇者として処断し、光司を真の勇者として王国の守護者にするとしたのは、間違いであったか」
国王は今更ながらに、自分の判断を後悔する。
冷静に考えてみれば、ライトを無理に冤罪をかぶせて偽勇者扱いする必要などなかった。
普通に厚遇して手駒にしていれば、もし光司が勇者にふさわしくない行動や言動をしても、その代わりの象徴として使えたはずである。
『光魔法を使えるライトは、同じ勇者ライディンの子孫である王家の権威を脅かす可能性があります』とマリアに言われて、安易に処罰してしまったしてしまったことが悔やまれる。
「マリア殿。あなたの助言に従ったせいで、ライトは第二の魔王となり反乱を起こし、光司は堕落した。どう責任を取られるおつもりか?」
「くすくす。今更私の責任を問われても。陛下もベッドの中で『それはいい考えだ』と同意してくださったではありませんか」
「なっ!」
いきなり暴露されて、国王は動揺する。それをみた騎士団長や大臣たちは、国王に軽蔑の視線を向けた。
「聖女様に手をだしただと?」
「いくら陛下といえども、あまりに無節操な……
そんな空気が広がる中、マリアはさらに告げる。
「まあ、今更そんなことを言っても無意味ですわ。魔王となったライトに対処せねばなりません」
「あ、ああ。そうだな」
国王は頷くと、宰相に目を向けた。
「それで、ライトは今どこにいる?」
「はっ。農業都市コルタールをはじめとする各都市を壊滅させた後は、行方をくらませております」
「となると、次は教会の本部がある宗教都市エルシドか、この王都ということになるのか」
国王は地図をみながら、じっと考え込む。
「王都を落とされるわけにはいかん。マリア殿。エルシドに赴いて、わが弟である教皇マルタールに、『輝きの球』を貸し出してくれるように交渉してくれぬか」
「陛下のご命令に従います」
こうしてマリアは、援軍につけられた騎士団と共に宗教都市エルシドに向かうのだった。



「王子が殺されたか……」
宗教都市エルシドに向かう途中、俺の中に王子の魂が入ってくる。
それによって、俺は王子の最期を知ることができた。
「マリアの闇の魔力って、何なんだ?」
同じパーティにいるころは深く考えもしなかったが、マリアの力は確かに異常だ。
なぜ奴は闇の魔力なんて使えるんだ?
本来、闇属性の魔法は魔王とその配下のモンスターにしか使えないはずなのに。
もしかして、奴は先代魔王となにかつながりがあったのでは?
そう考えこんでいると、清らかな気配がして、アリシアの魂が降りてきた。
「お義兄様。まだ心が休まりませんか?」
「ああ。まだまだ満足しない」
俺は正直にそう答えた。
「次はお前の姉であるマリアを殺す。これでお前も俺に愛想を付かすだろう」
アリシアを早く天に昇らせてやりたくて、俺はそう言い放つ。もうお前はすべてのしがらみから自由になったんだ。いつまでも汚らしい地上に関わって欲しくない。
しかし、アリシアは天に帰ろうとしなかった。
「……私には、痛いほどお義兄様の苦しみが伝わってくるのです」
魂だけになったアリシアには、人の心の中も手に取るようにわかるらしい。彼女は慰めるかのように、俺を抱きしめていた。
「アリシア。もうお前には関係ないことだ。いつまでも俺を見守ってないで、天に昇るがいい」
そう勧めても、アリシアは悲しそうな顔をして、首を振った。
「お義兄さま。マリアお姉さまがお義兄様を裏切ったのにも、何か深い理由があるように思えるのです」
「なんだと!どんな理由があるというんだ」
あいつはただ俺が身分の低い農民だからという理由で、俺を裏切った。そのために自分の体まで使って国の上層部を操っていたはずだ。
「それはわかりません。ですが、魂だけになった今の私には、マリアお姉さまの先代魔王に対する深い愛と悲しみが伝わってくるのです」
「先代魔王だと……?」
そういえば、俺は先代魔王の名前すら知らず戦っていた。
彼が過去に人間に滅ぼされた魔族という種族で、復讐のために戦っていたという所までは「復讐の衣」からの記憶でわかっている。
しかし、本当に何があったのか、マリアとどんなつながりがあったことまではわからなかった。
考えてもわからない事ばかりなので、俺は一つ首を振って気分を切り替えた。
「もういい。奴にどんな理由があろうと、俺は復讐するだけだ。アリシア、醜い現世のことは忘れて、天に帰れ」
アリシアの魂は、悲し気な笑みを浮かべて去っていった。
そのまま空を飛んでいくと、遠くに宗教都市エルシドの象徴となる大灯台が見えてくる。
「よし。一気に侵入して滅ぼそう」
そう思っていると、いきなり大灯台の頂上が輝き、真っ白い聖なる光の矢がこちらに向けて発せられた。
「なにっ?」
『復讐の衣』がはぎ取られそうになる。俺は必死に意識を集中させて、消えようとする衣を再び引き戻した。
「まずい。『輝きの球』の聖なる光にあてられると、俺が浄化されてしまうかもしれん」
俺は『電化(サンダーフィギュア)』を解くと、エルシドから少し離れた丘の上に降り立つのだった
私はマリア。現世ではコルタール公爵の長女で、『聖女』と呼ばれている女です。
ふふ、この私が『聖女』ですか。人間たちからそう呼ばれることになるとは、皮肉なものですね。
今、私たちは宗教都市エルシドに向かって護衛の騎士たちと共に馬を進めています。
幸いにも王都からエルシドは近く、街道も整っていたので、二日ほどで到着することができました。
エルシドの城壁に近づくと、なぜか所々に黒焦げになった人間の死体が転がっていました。
「マ、マリア様。これはなんでしょうか?」
動揺する騎士たちを下がらせて、死体を検分してみます。残った骨からは、とがった牙が確認できました。
「どうやら、ヴァンパイアはこの都市も襲おうとしたみたいですね。ですが、教皇様が設置した『防衛装置』がうまく機能したみたいです」
「防衛装置?」
騎士が首をかしげていると、都市の大灯台から真っ白い光が空中に向けて放たれた。
「うわっ!」
その光にあてられた黒いローブを纏った飛行物体が、拡散しそうになっている。
あれは……もしかして、ライト?
「チャンスです。今のうちにエルシドに入りましょう」
私たちは馬に鞭を当てて足を速める。こうして、無事にエルシドに入城できたのでした。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...