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貴族

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夜10時を過ぎると、農地に働きにでていた者たちが帰ってくる。同時に今まで開いていた店舗も、店じまいを始めた。
「えっ?なんで店を閉めるんですか?夜行性なんじゃ?」
「なにいっているにゃ。夕方から4時間も働いたニャ。今日のお仕事はおしまいニャ」
そういって、ネコミミ領主はテントに入っていく。
「今日はよく働いたから、チュールスライム缶頼むニャ」
「かしこまりました。ご領主さま」
テントに控えていたメイドは、缶を取り出して蓋をあけて食卓に並べる。一秒で終わってしまった食事の用意だったが、ネコミミ少女は嬉しそうにしっぽをピーンとたてた。
「これこれ、働いた後はチュール缶に限るニャ」
一口でペロリと食べて、ふわぁとあくびをする。
「それじゃ、うちは寝るニャ。あとはよろしく」
そういって、奥にひっこもうとするので、慌ててリポーターは取りすがった。
「ま、まってください。その、まだいろいろ聞きたいことがありまして、この後インタビューを……」
そう頼み込むが、ネコミミ少女は聞き入れない。
「今日の業務時間は終了だニャ」
「そ、そんな……まだ4時間しか働いてないじゃないですか。領主なんでしょ、ちゃんと責任を果たして……」
思わず責めてくるリポーターに、少女は首を振った。
「そんなの、知ったこっちゃないニャ。うちらは難しいことをなぁんにも考えず、のんびり暮らすのがすきなんだニャ。ということで、夜食を食べ終わったから夜寝するにゃ」
そういって奥にひっこんでいく。それを見送ったネコミミメイドは、リポーターに説教する。
「領主さまいわく「働いたらすみやかに食べて寝るべし」だそうです。領主自ら率先して休まないと、下の者が休めないからだそうですよ。今じゃ一日16時間はお休みになってます」
そういって、この島独自の勤務体系を説明する。
「私たちの島『生獣(ナマ・ケモノ)島』では、奴隷の労働時間は4時間、残業厳禁と定められています。あと三食と寝床とアニメや動画が見れる個人パソコンは領政府から支給され、全員に毎月20万の給料が保証されますわ」
そこまでいって、ネコミミメイドはふわぁとあくびをした。
「あらいけない。このままじゃ禁断の残業になっちゃいます。では、おやすみなさい」
そういってメイドたちも引っ込んでいく。あとには茫然としたリポーターたちが残されるのだった。
それを見ていたニートやアルバイトたちは狂喜する。
「一日4時間働いて20万かぁ」
「仕事も楽そうだし、俺でもできるかも」
こうして、奴隷になりたがる者がまた増えるのだった。


各島をまわったリポーターたちは、最後にシャングリラ島へ上陸する。その際に、騎士の恰好をした亜人族の担当者に注意を受けた。
「シャングリラ島は王の直轄地だ。王の直接の家臣となった私たち『騎士』や、『貴族』の方々たちも住んでいる。身分による格差が存在している島だということは、最初にわきまえていてほしい」
「『身分』ですか?」
日本に住んでいるリポーターたちには身分制度による差別があると聞かされ、憮然となる。
「……身分かぁ。きっと奴隷とか平民とかは、横暴な貴族たちに泣かされているんだろうなぁ。やっぱりここは悪の独裁者が支配する島だ」
そう思いながら町の住人たちを見てみるが、誰も困っている様子はなかった。思い浮かぶ奴隷や貴族の恰好をしている者は誰もいない。
気になって町の者にインタビューすると、苦笑とともにこう返された。
「身分?そんなのあって当たり前だろ。国に対して貢献をしたものが報われて高い地位に就くのは当然だ」
「貴族になりたきゃ、頑張って認められればいい。俺は嫌だけどな。今のままのんびり平民として生きていくのが性にあっているよ」
どうやら、この町の住人たちは身分制度を認めているらしい。奴隷身分の者に聞いても「自分はここに来たばかりだから仕方がない。働いていればすぐに平民になれる」と自分の立場を受け容れているようだった。
「……次は、『貴族』にも聞いてみよう」
沿う思って中央のタワーマンションにいくが、やっぱり貴族らしい恰好の人間はいない。いるのは騎士の鎧をまとった者ばかりだった。
リポーターが貴族を探して歩きまわっていると、美味しそうな匂いが漂ってくる。いつのまにか、食堂が並ぶ階層にきていた。
「腹減った。何かたべよう」
『魔物料理店tuchya』と書いてある店に入ってみる。中にいたのは、坊主刈りのヒゲ中年だった。
「うちの料理が食いたいって?いいだろう。覚悟を決めて食べるんだな」
そういって奥に引っ込んでいく。しばらくすると、エビとセミが合体したような謎生物の鍋が出てきた。
「これは、『イセミエビの味噌煮込み』だ。島で大繁殖しているセ〇の魔物を料理したんだが、美味しいぞ」
途中小声になって何を言っているのかわからなかったが、リポーターはおそるおそる口に運んでみる。すると濃厚でクリーミーなエビの風味が口に広がった。
「おいしいです」
「そうだろ?どんどん食べろ。これはサービスだ」
そういって、今度は細長いロールケーキを持ってくる。
「これは『スィートターマイト』だ。ビルドプラントを食い荒らすシ〇アリの胴体なんだが、甘くて美味しいぞ」
勧められてロールケーキを食べたリポーターは、またもその美味しさに感動した。
「おいしいです。こんなの食べたことがない」
「そうだろう。ここにはおいしい魔物……げふんげふん、異世界の食べ物にあふれている。日本の方々には、ぜひ新たな観光名所として訪れてほしい」
ヒゲ中年はそういって、カメラの前でニャっと笑った。
「でも……ここは身分制度がある国なんでしょ。下手に観光にきたら、横暴な貴族に因縁をつけられたり……」
そんな心配をするリポーターを、ヒゲ中年は笑い飛ばす。
「何言っているんだ。ここでの『貴族』とは、企業の経営者のことだぞ」
「えっ?」
首をかしげるリポーターに、ヒゲ中年はこの国の身分制度のことを語った。
「そもそもこの国の移住者は、まずは奴隷として与えられた仕事に従事する。そこでの働きぶりが認められたり、一定の年数が経過すると、晴れて正式な国民として認められ、「平民」として無償で土地を与えられるんだ」
「えっ?本当に土地がもらえるんですか?」
驚くリポーターに、ヒゲ中年はさらに続けた。
「平民の中でも、兵役を受けいれたり、公務員として採用されたものは「騎士」になれる。高給が約束され、妻も二人まで持てるようになるが、いざとなっては体を張って国を守り通さなければならない義務を負う」
高い身分と特権と引き換えに、命かげで国を守るという義務も背負わされると聞いて、リポーターも少し納得する。
「そして、『騎士』の中でも異能を身に着け、個人で軍隊に対抗できるようになり、国家に貢献した者は、私のように『貴族』になれる」
「え?あなたは貴族だったんですか?」
どうみても食堂のおっちゃんにしか見えなかったヒゲ中年が、貴族だと知ってリポーターは衝撃を受けた。
「貴族になれば、三人まで妻をもらってハーレムを築くことができるぞ。もっとも、それにふさわしい経済力も求められて大変だがな。改めて名乗ろう。私はシャングリラ王国の法衣貴族、土屋剛だ」
土屋は、堂々と貴族を名乗るのだった
「なぜ料理店などをしているのですか?」
「それが太郎君から与えられた、私に対しての『報酬』だからだ」
そういって、土屋はこの国の貴族について語った。
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