14 / 20
魔王討伐
しおりを挟む「やだ。シラミがついている。まったく、これだから男の子ってだらしないのよ」
ぶつぶつ文句をいいながら、シルキドはワルドの髪を整えていく。
「ご、ごめん」
「そこまで気にしなくていいわよ。辺境の田舎育ちで髪にシラミがいない人なんていないんだから。でも、あんたは貴族になるんだから、身なりも整えないとね」
そう言いながら、ワルドに回復ポーションを飲ます。シルキドは実にかいがいしくワルドの面倒を見ていた。
「なあ、王子は本当に魔王を倒しに行く気なのかな」
「心配しなくていいわ。殴ってでも止めさせてやるから。だいたい、レベル10前後で倒せる魔王なんていないわよ」
それを聞いて、ワルドもほっとする。
「そ、そうか。なら『緊急脱出』で……」
そこまで言ったところで、ワルドのところに王子たちがやってきた。
「もう魔力が回復しただろう。いくぞ」
無理やりワルドを促して、連れて行こうとする。
「待ってください。まだワルドは回復しきっていません。今すぐ脱出魔法を使わせるというのは……」
「脱出はしない。今から魔王城にいく」
頑なに主張する王子に、とうとうシルキドは切れてしまった。
「いい加減にしてください。独断専行も度が過ぎます。どうしても行かれるというのなら、あなたたちだけで行って……ふがっ」
次の瞬間、シルキドの鼻と口が何かの液体でふさがれる。王子の後ろで、クラウディアが杖を振りかざしていた。
「『眠りの水(スリーピーウォーター)』
水の魔法を使って、シルキドを眠らそうとする。
「なにを……がぼっ」
こらえきれずに息を吐いた鼻と口に、『睡眠』の魔法がかかった水が浸入してくる。シルキドは、あっという間に眠りに落ちた。
「シルキド!何をするんだ!」
驚いてシルキドに駆け寄ろうとしたワルドの首元に、ゲオルグが剣を突きつけた。
「いいか、逃げたらシルキドを殺すぞ。大人しくついてこい」
そう言われて、ワルドはしぶしぶ王子たちについていく。シルキドを除いた六人は、魔王城へと向かうのだった。
魔王城
王子たちとワルドが魔王城に入ってくるのを、堕人王ダニエルはモニターで見ていた。
「よし。いよいよ「計画」の最終段階だぞ。後はどうやって奴らを魔王の間におびき寄せるかだが……とにあえず、堕人族の親衛隊に戦わせて……」
ダニエルがそこまで言った時、威厳のある声が遮った。
「必要ない。後は適当に宝箱でも置いておけば、欲の皮が突っ張った奴らは勝手に深入りしてくれる」
ダニエルたちが振り向くと、彼らが崇める「主」がその場にやってきていた。
「わが主よ。こちらにいらしたのですか?」
「ああ。最後に「ワルド」の姿を目に灼きつけておきたくてな」
「主」はモニターに映るワルドを、悲しそうな目で見つめる。
そして一つ首を振ると、堕人族たちに命令を下した。
「堕人王ダニエルを残して、他の者は退避せよ。奴らと無駄な戦いをする必要はない」
「はっ」
その場にいた堕人族は、「主」の命令に従ってアダムアップル城から退避していった。「主」は残ったダニエルの肩に手を置いて頼み込む。
「ワルドを頼んだぞ。すぐに迎えに行く」
「……できれば、私だけでもワルド様のお傍にいて差し上げたいのですが……」
その訴えに、「主」は首を振った。
「ダメだ。ワルドは永遠の苦痛と孤独を耐えてもらわなければなければならないのだ。この世界のために」
「……ご命令に従います」
堕人王ダニエルは悲痛な顔をして、頭を下げるのだった。
王子たち一行は、魔王城の中に入る。奇妙なことに、堕人族どころか魔物の一匹もいなかった。
「どういうことだ?ここが魔王城というのは間違いだったのか?」
「いや、間違いないでしょう。記録にある数百年前の魔王城の構造が一致しております」
ヘルマンが昔の地図を確認しながらつぶやいた。
「なら、なぜ魔物がいない?」
「もしかして……俺たちが攻めてくると知って、にげだしたんじゃねえか?」
ゲオルグが大口を開けて笑うが、ワルドはその笑いに同調できなかった。
(なんか悪い予感がする。これはワナなんじゃ?)
そう思ったワルドは「緊急脱出」で逃げたくなるが、シルキドを残して逃げるわけにはいかない。
仕方なく王子たちについていくと、豪華な扉がついた部屋が目に入った。
「ここは……?」
ドアを開けてみると、無数のカプセルと宝箱が並んでいる。
「なるほど。ここで魔物を作っていたのだな」
ワルドはダンジョン内の魔物がどうやって生まれるのか知って納得するが、ほかのメンバーは宝箱に釘付けである。。
宝箱の一つを開いてみると、まばゆいばかりの財宝が入っていた。
「やった!宝だ!」
「きれいなネックレス!これは私のものよ!」
よりによって魔王城で宝漁りなどしてしまう
「やれやれ……今はそんな状況じゃないだろうに」
そんな王子たちに、ワルドは幻滅してしまうのだった。
「宝はみつけたんだし、もういいでしょう。引き返して、シルキドを連れて脱出しましょう」
ワルドはそういうが、王子たちは聞き入れない。
「だめだ。ここまで来たんだ。絶対に魔王を倒す」
そういって奥に進んでいくので、仕方なくついていった。
城の最深部で、重厚な扉がついた部屋を発見する。
「おそらく、ここが魔王の間だろう。みんな、行くぞ」
王子の激に、他のメンバーの顔にも緊張が浮かぶ。
「その前に、荷物を取り出してここに置いておけ」
王子はワルドに向けてそう命令した。
「なぜです?」
「うるさい!財宝抱えて戦えるか!いいから全部出して置いておけ」
そうがなり立てるので、しかたなくワルドはすべての財宝や食料などを出して置く。玉座の前の広間は、ワルドが取り出した金銀財宝でいっぱいになった。
「これでよし。あとはこいつを生贄にして……」
「え?」
「なんでもない。いくぞ」
王子は扉を開けて中に入っていく。玉座には、黒いマントを纏った堕人族の王ダニエルが座っていた。
「よくぞここまで来た。勇者たちよ」
玉座に座った堕人王ダニエルは、偉そうに王子たちに声をかける。そしてワルドをみて目礼した。
「ふん。一人とはなめてくれたものだな」
「勘違いするな。我々にもある「計画」がある。そのために、わざわざ一人でお前たちを待っていたのだ」
ダニエルは、王子の煽りに恐れ入ることなくそう告げた。
「計画だと?なんのことだ?」
「それを知りたければ。余と闘うがいい!」
ダニエルは、玉座を降りて剣を構える。
「では、いくぞ!」
魔王と王子一行の戦いが、始まるのだった。
「ふふ、未熟だがなかなかやるな」
「なめるな!」
王子とゲオルグが二人一組になって、ダニエルと剣を交えている。
ヘルマンとローズレットは魔法で攻撃し、クラウディアは回復役に徹している。
そしてワルドの役目は、アイテム係である。
「なにぼやっとしてんのよ!王子にポーションを渡しなさい。この役立たず!」
「は、はいっ」
ローズレットに怒鳴られ、ポーションを投げ渡す。
「あなたはひっこんでいてください。戦闘力のないあなたがいても邪魔です」
クラウディアからは、冷たい声とともに後ろに追いやられていた。
それなりにバランスが良いパーティ編成だったため、レベルにおいて劣る王子たちでも、なんとか魔王と戦えている。
しかし、魔王は遊び半分のようで、あきらかに殺さないように手を抜いていた。
「このままじゃ、きりがねえ。アレをやるぞ」
いつまでも続く戦いにうんざりし、王子は皆に命令して一度後方に下がる。
「ぐははは。何をするつもりか知らんが、せいぜいあがくがいい」
それに対して魔王のほうは、追い打ちをかけずに剣を振る手を止めて王子たちの出方を伺った。
「王子には何か作戦があるのですか?」
そう問いかけるワルドに、王子はニヤッと笑った。
「ああ。こうするのさ。ゲオルグ!」
「はっ」
次の瞬間、ワルドはいきなりゲオルグに突き飛ばされる。なすすべもなく転がっていき、堕人王ダニエルの近くに投げだされた。
「ワルド様!」
ワルドが突き飛ばされたのを見たダニエルは、助け起こそうと慌てた様子で近づいていく。
「いまよ!ウインドバインド!」
ローズレットが杖をふると、風でできたロープがワルドとダニエルを取り巻き、締め上げる。二人の体は密着したまま動けなくなった。
「王子!今です」
「ああ!ライトニング!」
王子が振りかざした剣から、一筋の稲妻が走り、二人を打ち据える。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐっ」
ワルドとダニエルは同時に叫び声をあげる。激痛とともに神経が麻痺し、動けなくなった。
「仕上げは僕ですね。『闇人形(ダークマリオネット)』
ヘルマンが杖をふると、そこから魔力でできた黒い糸が発せられ、ワルドに絡みつく。
次の瞬間、ワルドの魔力が暴走し、空間に黒い穴が開いた。
「そんな!なぜ!」
「僕の闇魔法は相手の体を操ることができます。あなたの「空」の力、今こそ魔王封印の為に役立たせていただきましょう」
ヘルマンの笑い声が、玉座の間に響き渡る。空間の穴はどんどん広がっていき、ワルドとダニエルを呑み込もうとしていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
「……これで「計画」は成った。だが、愚かな人間どもよ。忘れるな。ワルド様に無礼を働いた貴様たちは、「あのお方」にきっと裁かれるだろう」
ワルドの絶叫とダニエルの捨て台詞を残し、空間の穴は二人を吸い込んでいく。
「やったぞ!俺たちで魔王を倒した!」
玉座の間に、王子たちの歓声が響き渡るのだった
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る
はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。
そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。
幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。
だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。
はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。
彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。
いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!
naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。
うん?力を貸せ?無理だ!
ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか?
いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。
えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪
ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。
この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である!
(けっこうゆるゆる設定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる