異世界に来た俺の話

四季織

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23 オニ族 

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 いつもの職員風の上下でなく、騎士服を着たユーシスさん、もといユーシス殿下が左右に騎士を伴ってこちらに歩いてくる。
 なんか、満を持して登場したヒーローみたいだな。
 バックに効果音も聞こえる気がする。


「そこの渡り人は婚姻関係を結び、この国の国籍を得た。国民を拉致監禁したのだ。犯罪と言われても仕方ないだろう?」
「聖女は神殿管轄ですぞ!」
「水晶は反応しなかった、違うか?」

 神官長がユーシス殿下に怒鳴り、合わせて俺を掴む力もどんどん増していく。
 なんだか顔も怒りのオーラも凄い。

「謀ったな」
「私は渡り人同士、会合の場を設けただけだ。誤解したのはそちらだろう」

 神官長が、喉を搾るように呻いた。


 なるほど。
 ユーシス殿下は俺を囮にして、神官達を一網打尽にする計画を立てたんだ。
 
 神官長の前で、口角を上げてにやっと笑うユーシス殿下が、もう。

 前言撤回。
 この人、ヒーローじゃなくてラスボスでいいんじゃないかな?


「うわっ」

 急に神官長に手を引かれてつんのめった。首をがっちりホールドされる。

「認められるか! 神殿は不可侵だ! 何者にも侵されない聖域なのだ! 王族などよりも崇高で……」

 神官長は俺を人質に、奥の扉に逃げ込もうとした。
 年寄りだというのに、俺より遥かに大きな体で力も強い。俺は引き摺られるがままだ。

 ユーシス殿下の声が聞こえた。

「分かっているか? 神官長。あなたは怒りを買ったのだ」

 オニ族の。


 ドォォオオーンッ!!

 まさしくそんな音がして、建物が大きく揺れた。

「うっ!」
「え、じ、地震?!」

 いや。地震じゃない。
 断続的に地響きと獣のような咆哮が下階から響いてくる。

 神官長の手が緩んだ隙に、俺は窓に張り付いた。


 オル達だ!

 オルとイオさんを先頭に、他は王都に住む村出身の人達だろうか?
 同じような大柄で屈強なゴリラ軍団が砂埃を巻き上げ、この建物に突進してきていた。
 神官や神殿騎士、味方のはずの第二騎士団ですら、素手で吹き飛ばしているのが見える。


 あれ?
 いつから、怪獣大戦争になったかな?


「オル! オル!」 

 窓越しだったけど、俺の声に反応したオルがこちらを見上げたと思ったら……。

「ガァアアアアッ!」

 咆哮をあげた。


 どどどどどうしよう。
 オルが、いよいよ人を止めてしまった。


 破壊音と地響きと轟音はあっという間に広間に到達して、扉が吹き飛んだかと思うと、体から湯気をあげたオル達が咆哮をあげて立っていた。

「ヒィィッ」

 思わず、敵のはずの神官長と抱き合って悲鳴を上げた。


 次の瞬間、オルが神官長に飛びかかってきた。

「オル!」

 ダメだ、殺しちゃいけない!

 俺は、オルに体当たりした。
 大型タンクローリーか新幹線に撥ね飛ばされる衝撃を覚悟したのに、抱き止めていたのはオルの温かくて太い腕だった。

「……シン、シン」

 オルの声も体も震えていた。

 そっと、オルの体を抱きしめる。


 心配かけたんだ、これだけ。
 俺の首がぐっしょり濡れてしまうほど、オルの涙が止まらないほど。


 俺も、怖かった。

 目の前が霞んで、いまさら足に震えが来た。

 帰れないかと思ったんだよ。
 もう二度とオルに会えないかと思った。それがすごく怖かった。


「オニ族に吹き飛ばされては命がなかったろうからな。我らに拘束されることを幸運に思うことだ」

 ユーシス殿下が、床にへたり込んだ神官長にそう言っていた。





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