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番外編 村の祭り1
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山に帰ってからも、たまにオルは俺を連れて村に行く。
オルは村の青年団ってのに参加していて、そこで「嫁さんも連れてこい」って言われたらしいんだ。
そうだよね、俺だって村の一員なんだから……と思ったら。
何故か、お母さんに連れられていったのは婦人会の集いだった。
「え、なんで……」
「青年団は力仕事が多いわよ? 自警団と消防団の手伝いもあるし、狩りも多いし」
「婦人会でお願いします」
絶対、できる気がしない。
今日は村長の家に集まって、村祭りで使う舞台の飾りを作っている。
この村では毎年大きな祭りがあって、豊作や豊猟を祈願する。
新たに結婚した夫婦と生まれた子どもも祝福するというので、俺も呼ばれたというわけだった。
祭りの期間は、遠くにいる村出身者も帰ってくるという。
お盆や正月の帰省みたいな感覚なのかな。
イオさんは今年は戻らないらしい。会いたかったのに残念だ。
「ねぇ、ここはどうするの」
「あたしに聞かないでよ」
基本的にこの村の人は、食べられればいい、住みやすければいいと、繊細さや情緒、機微などに無頓着だ。
体格や力が一番の美徳っていう種族だもんな。
村長の奥さんをはじめ、年長者が造花の作り方を教えてくれるんだが、どうもうまくいかない。
多分、みんな手がでかいんだよ。
それなのに、なんでこんなに細かい細工にしたんだろう。この村なら、舞台も丸太で組んで終わりそうなのに。
「飾り付けなんてしないと思ってた」
「渡り人がもたらしたのよ」
向こうのテーブルにいた村長の奥さんが、手を止めて答えてくれた。
「渡り人?!」
「うちの人の弟の嫁だったの。祭りなのにあまりにも無骨だと言って、飾りを教えてくれたのよ」
その渡り人が来たのは、日本の10進法でいう約26年ほど前。
村長の弟さんが一目惚れして、押して押して嫁になってもらった人だったらしい。
「でもね、早くに亡くなったのよ」
あんたみたいにちっこくて細い子だったわねぇって言われて。
ちょっと場がしんみりしてしまった。
確かに、華奢で繊細な女の子だったんなら、一人でこの世界に来たという不安もあっただろうな。
「お風呂や『といれ』が『すいせん』になったり、『こんろ』が入ったのも義弟の嫁さんのおかげなの。嫁さんのために、義弟が王都から技師を呼んで備えさせてね。村にも広まったのよ」
前にカラウ伯父さんから、村の暮らしが便利になったのは20年ほど前のことだと言っていた。それのことか。
「膝が痛いってしゃがむのも一苦労で、井戸の水汲みも大変そうだったからねぇ」
ん?
「とらじっていったの。シンは同じ種族かしら?」
とらじ?!
渡り人って男でお年寄り?! もしかして、お爺ちゃん?!
い、いや、待て。トラジって名前で外国の女の子かもしれないし。
「男だったわよ」
「い、いくつだったんですか、その人」
「それがねぇ、分からないの。ななじゅう? はちじゅう? 聞いたことない数を言ってたから」
あ、あー。6進法ではない数字だからかぁ。
確か、55の次は100だっけ? 70、80って言われても理解できなかったろうな。
でも、早くに亡くなったって、それ……。
この村にとっては、とらじさんが渡り人の標準なんだ。
だから、ここまで「渡り人は弱い」って思われてたのか。理由がよく分かった。
「おーい、進んでるかぁ?」
明るい声が庭先から聞こえた。
広場で舞台を作っていた青年団だ。後ろにオルの幼馴染みもいる。
「今年結婚した嫁さん達に来てほしいんだよ。『ごむひも』の確認しとけってさ」
「ゴム、紐?」
俺の他に何人かが立ち上がる。キョトンとしてるのは俺だけだ。
「新婚夫婦はね、二人で飛び降りる儀式があるのよ」
「え?」
飛ぶ、じゃなくて、飛び降りる?
「あの、どこから?」
村長の奥さんが指を指したのは、村にある一番高い火の見櫓の上だ。
平屋の家ばかりだから、村のどこにいてもその高い火の見櫓はよく見える。
「え?」
「あそこから紐を結び合って飛び降りるの。二人の絆と度胸試しよ」
それってバンジージャンプじゃ……?
え、なんでバンジー?
「とらじが提案したのよ」
めっちゃアクティブじゃん、お爺ちゃん!
足腰悪かったのに、心臓は大丈夫だったの?!
オルは村の青年団ってのに参加していて、そこで「嫁さんも連れてこい」って言われたらしいんだ。
そうだよね、俺だって村の一員なんだから……と思ったら。
何故か、お母さんに連れられていったのは婦人会の集いだった。
「え、なんで……」
「青年団は力仕事が多いわよ? 自警団と消防団の手伝いもあるし、狩りも多いし」
「婦人会でお願いします」
絶対、できる気がしない。
今日は村長の家に集まって、村祭りで使う舞台の飾りを作っている。
この村では毎年大きな祭りがあって、豊作や豊猟を祈願する。
新たに結婚した夫婦と生まれた子どもも祝福するというので、俺も呼ばれたというわけだった。
祭りの期間は、遠くにいる村出身者も帰ってくるという。
お盆や正月の帰省みたいな感覚なのかな。
イオさんは今年は戻らないらしい。会いたかったのに残念だ。
「ねぇ、ここはどうするの」
「あたしに聞かないでよ」
基本的にこの村の人は、食べられればいい、住みやすければいいと、繊細さや情緒、機微などに無頓着だ。
体格や力が一番の美徳っていう種族だもんな。
村長の奥さんをはじめ、年長者が造花の作り方を教えてくれるんだが、どうもうまくいかない。
多分、みんな手がでかいんだよ。
それなのに、なんでこんなに細かい細工にしたんだろう。この村なら、舞台も丸太で組んで終わりそうなのに。
「飾り付けなんてしないと思ってた」
「渡り人がもたらしたのよ」
向こうのテーブルにいた村長の奥さんが、手を止めて答えてくれた。
「渡り人?!」
「うちの人の弟の嫁だったの。祭りなのにあまりにも無骨だと言って、飾りを教えてくれたのよ」
その渡り人が来たのは、日本の10進法でいう約26年ほど前。
村長の弟さんが一目惚れして、押して押して嫁になってもらった人だったらしい。
「でもね、早くに亡くなったのよ」
あんたみたいにちっこくて細い子だったわねぇって言われて。
ちょっと場がしんみりしてしまった。
確かに、華奢で繊細な女の子だったんなら、一人でこの世界に来たという不安もあっただろうな。
「お風呂や『といれ』が『すいせん』になったり、『こんろ』が入ったのも義弟の嫁さんのおかげなの。嫁さんのために、義弟が王都から技師を呼んで備えさせてね。村にも広まったのよ」
前にカラウ伯父さんから、村の暮らしが便利になったのは20年ほど前のことだと言っていた。それのことか。
「膝が痛いってしゃがむのも一苦労で、井戸の水汲みも大変そうだったからねぇ」
ん?
「とらじっていったの。シンは同じ種族かしら?」
とらじ?!
渡り人って男でお年寄り?! もしかして、お爺ちゃん?!
い、いや、待て。トラジって名前で外国の女の子かもしれないし。
「男だったわよ」
「い、いくつだったんですか、その人」
「それがねぇ、分からないの。ななじゅう? はちじゅう? 聞いたことない数を言ってたから」
あ、あー。6進法ではない数字だからかぁ。
確か、55の次は100だっけ? 70、80って言われても理解できなかったろうな。
でも、早くに亡くなったって、それ……。
この村にとっては、とらじさんが渡り人の標準なんだ。
だから、ここまで「渡り人は弱い」って思われてたのか。理由がよく分かった。
「おーい、進んでるかぁ?」
明るい声が庭先から聞こえた。
広場で舞台を作っていた青年団だ。後ろにオルの幼馴染みもいる。
「今年結婚した嫁さん達に来てほしいんだよ。『ごむひも』の確認しとけってさ」
「ゴム、紐?」
俺の他に何人かが立ち上がる。キョトンとしてるのは俺だけだ。
「新婚夫婦はね、二人で飛び降りる儀式があるのよ」
「え?」
飛ぶ、じゃなくて、飛び降りる?
「あの、どこから?」
村長の奥さんが指を指したのは、村にある一番高い火の見櫓の上だ。
平屋の家ばかりだから、村のどこにいてもその高い火の見櫓はよく見える。
「え?」
「あそこから紐を結び合って飛び降りるの。二人の絆と度胸試しよ」
それってバンジージャンプじゃ……?
え、なんでバンジー?
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