上 下
8 / 12

警戒と期待3

しおりを挟む
「テオバルド・シャムス王子ご入来」

その声に目を向ける。

褐色の肌に漆黒の髪、そして黒曜石のような瞳、聞き及んでいた通りテオバルドはシャムス王国の王族に伝わる髪色も瞳の色も持ち合わせてはいなかった。しかし、その相貌は美しく見る者を魅了した。


アレックスはテオバルドが武力でその地位を手に入れたと聞き、傭兵のように屈強な筋肉ダルマが出てくるかと思っていた。だが、実際は誰もがうらやむような美貌の持ち主であった。

高身長で筋肉質、だが暑苦しさなど感じさせぬその相貌、アレックスは国王とリアムがテオバルドと挨拶を交わす間中、テオバルドに見惚れてしまっていた。

テオバルドがこちらを見たことで、アレックスは我に返る。

「アレックス・リュミエールと申します」

そう挨拶すると、テオバルドは眉を少しあげながら、「あぁ、貴殿が。今回の訪問では貴殿が案内を申し出てくれたとか」と言った。


何だと?今何と言った?申し出た?2週間前に押し付けたくせによくも!

それを言ったであろう国王とリアムに殺意を抱きながらも、「えぇ、私もシャムス王国出身の母を持つ身ですので、シャムス王国の使節団の方々にリュミエール王国をご案内したく思いまして」とアレックスが笑顔で返すと、近くに控えるロベルトがわかりやすく安どの息をついたのが伝わってくる。

「楽しみにしておこう」

テオバルドはアレックスの内心の動揺に気づいているのかいないのか、そう微笑んだ後は隣の第三王子と挨拶を交わし始めた。

第三王子フレディ・リュミエールはアレックスの腹違いの弟だったが、攻略対象ではない。性格もリアムとは似ても似つかぬ温厚さなので、特に警戒はしていないので問題もないのだが、もしリアムが国王になるなんてことがあるとこの国も終わりなので、その点では頑張ってほしいと言わざる負えない。王族に伝わる髪色と瞳を持ち合わせている彼を支持する貴族は少なくともアレックスよりは存在するのだから。









その日の催しを終え、アレックスは床に就こうとしていた。

それにしても今日は驚くことが多かった。


アレックスの知らぬ間にジェイクはリアムと仲を深めたこともそうだが、もちろん『リュミエールの薔薇』には他の攻略対象も存在する。それは宰相の息子であるレン・ハイルト、そしてアーロンの弟であるケイ・フィレンスだった。

ジェイクとリアム、そしてアーロンの様子が異様すぎて忘れかけていた、というのは内緒だ。

今日テオバルドと挨拶を終えてからこっそりと観察していると、宰相の息子、レイはジェイクに熱い視線を送っていたが、ケイに関してはフィレンス家の者たちと一緒にジェイクとリアムをものすごい勢いで睨みつけていたので、どうやら正気に戻ったらしい。アーロンが変わるとケイまでその影響を受けるのか、これで被害者がまた減ったな、とケイの婚約者を想って涙ぐんだ。

レンも婚約者のいる身、早々に正気に戻ってほしいものだと思いながらも、アレックスの頭の中の大半を占めているのはテオバルドだった。

「やっぱり強いんだろうになぁ」


シャムス王国は魔法に秀でた国、その中でもテオバルドは魔力が強く強力な魔法を使えるという。アレックスとて戦果を挙げ地位をあげてはきたが、魔法を使うことはできなかった。
リュミエール王国は魔法に頼ることが有るにもかかわらず、それを施すものを下に見る風潮があるからだ。密かに魔法の勉強をしてはいるものの、それを他者の目に触れさせるわけにもいかなかった。

それほどに、この国の魔法使いの立場は低い。立場の低いはずの魔法使いを使って戦争をしていたことは事実であるのに、それを王族や貴族たちは認めはしなかった。だから、魔法使いの多いシャムス王国を自然と見下している人間がいるのだ。

それが国王までだとは、今回の一件があるまでアレックスも思ってはいなかったが。


「へましたら魔法で消し飛ばされたりして」

そんなことを考えながらもアレックスは笑っていた。何だか、テオバルドともっと話しがしてみたかった。

「魔法を教えてくれたりしないかな」

少しの期待を胸にアレックスは眠りについたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生場所は嫌われ所

あぎ
BL
会社員の千鶴(ちずる)は、今日も今日とて残業で、疲れていた そんな時、男子高校生が、きらりと光る穴へ吸い込まれたのを見た。 ※ ※ 最近かなり頻繁に起こる、これを皆『ホワイトルーム現象』と読んでいた。 とある解析者が、『ホワイトルーム現象が起きた時、その場にいると私たちの住む現実世界から望む仮想世界へ行くことが出来ます。』と、発表したが、それ以降、ホワイトルーム現象は起きなくなった ※ ※ そんな中、千鶴が見たのは何年も前に消息したはずのホワイトルーム現象。可愛らしい男の子が吸い込まれていて。 彼を助けたら、解析者の言う通りの異世界で。 16:00更新

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

これかも、ずっと、彼と

栄吉
BL
伊集院瑠華と天野陽向は同棲中 『 彼と過ごした一年間』 『 これから、彼と』 の続きとなっております。 この作品だけでもお話しは、分かるようになっておりますが、併せてお読み頂けると嬉しいです

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

総受けなんか、なりたくない!!

はる
BL
ある日、王道学園に入学することになった柳瀬 晴人(主人公)。 イケメン達のホモ活を見守るべく、目立たないように専念するがー…? どきどき!ハラハラ!!王道学園のBLが 今ここに!!

娼館産まれの人形でも、皇子に娶られる夢を見たい。

空倉改称
BL
 魔法により、人形に意志を持たせられるようになって既に数年。セクシャルドールとして娼館で働いていた人形、カシュラは、いつも窓から外の世界を眺めていた。  カシュラは主人との契約により、勝手に娼館の外に出れば命を失う。ゆえにカシュラの唯一の楽しみは、同僚と慰め合ったり、娼館を訪れる冒険者たちから、数多の冒険譚に耳を傾けることだけ。  ――しかし、隣国セントヴルムとの外交会談当日。なんとセントヴルムからの代表人、セファール・セヴルム皇子が、なんの気まぐれかカシュラを呼び寄せ、夜伽を命じた。  「ただの皇族の遊び」。カシュラはそう確信しながら、最初で最後の外の世界を目に焼き付ける。そして一度きりのつもりで皇子を愛した……の、だが。なぜかセヴルム皇子は、翌日、翌々日と続けてカシュラを買い続け……?

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

処理中です...