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警戒と期待3
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「テオバルド・シャムス王子ご入来」
その声に目を向ける。
褐色の肌に漆黒の髪、そして黒曜石のような瞳、聞き及んでいた通りテオバルドはシャムス王国の王族に伝わる髪色も瞳の色も持ち合わせてはいなかった。しかし、その相貌は美しく見る者を魅了した。
アレックスはテオバルドが武力でその地位を手に入れたと聞き、傭兵のように屈強な筋肉ダルマが出てくるかと思っていた。だが、実際は誰もがうらやむような美貌の持ち主であった。
高身長で筋肉質、だが暑苦しさなど感じさせぬその相貌、アレックスは国王とリアムがテオバルドと挨拶を交わす間中、テオバルドに見惚れてしまっていた。
テオバルドがこちらを見たことで、アレックスは我に返る。
「アレックス・リュミエールと申します」
そう挨拶すると、テオバルドは眉を少しあげながら、「あぁ、貴殿が。今回の訪問では貴殿が案内を申し出てくれたとか」と言った。
何だと?今何と言った?申し出た?2週間前に押し付けたくせによくも!
それを言ったであろう国王とリアムに殺意を抱きながらも、「えぇ、私もシャムス王国出身の母を持つ身ですので、シャムス王国の使節団の方々にリュミエール王国をご案内したく思いまして」とアレックスが笑顔で返すと、近くに控えるロベルトがわかりやすく安どの息をついたのが伝わってくる。
「楽しみにしておこう」
テオバルドはアレックスの内心の動揺に気づいているのかいないのか、そう微笑んだ後は隣の第三王子と挨拶を交わし始めた。
第三王子フレディ・リュミエールはアレックスの腹違いの弟だったが、攻略対象ではない。性格もリアムとは似ても似つかぬ温厚さなので、特に警戒はしていないので問題もないのだが、もしリアムが国王になるなんてことがあるとこの国も終わりなので、その点では頑張ってほしいと言わざる負えない。王族に伝わる髪色と瞳を持ち合わせている彼を支持する貴族は少なくともアレックスよりは存在するのだから。
その日の催しを終え、アレックスは床に就こうとしていた。
それにしても今日は驚くことが多かった。
アレックスの知らぬ間にジェイクはリアムと仲を深めたこともそうだが、もちろん『リュミエールの薔薇』には他の攻略対象も存在する。それは宰相の息子であるレン・ハイルト、そしてアーロンの弟であるケイ・フィレンスだった。
ジェイクとリアム、そしてアーロンの様子が異様すぎて忘れかけていた、というのは内緒だ。
今日テオバルドと挨拶を終えてからこっそりと観察していると、宰相の息子、レイはジェイクに熱い視線を送っていたが、ケイに関してはフィレンス家の者たちと一緒にジェイクとリアムをものすごい勢いで睨みつけていたので、どうやら正気に戻ったらしい。アーロンが変わるとケイまでその影響を受けるのか、これで被害者がまた減ったな、とケイの婚約者を想って涙ぐんだ。
レンも婚約者のいる身、早々に正気に戻ってほしいものだと思いながらも、アレックスの頭の中の大半を占めているのはテオバルドだった。
「やっぱり強いんだろうになぁ」
シャムス王国は魔法に秀でた国、その中でもテオバルドは魔力が強く強力な魔法を使えるという。アレックスとて戦果を挙げ地位をあげてはきたが、魔法を使うことはできなかった。
リュミエール王国は魔法に頼ることが有るにもかかわらず、それを施すものを下に見る風潮があるからだ。密かに魔法の勉強をしてはいるものの、それを他者の目に触れさせるわけにもいかなかった。
それほどに、この国の魔法使いの立場は低い。立場の低いはずの魔法使いを使って戦争をしていたことは事実であるのに、それを王族や貴族たちは認めはしなかった。だから、魔法使いの多いシャムス王国を自然と見下している人間がいるのだ。
それが国王までだとは、今回の一件があるまでアレックスも思ってはいなかったが。
「へましたら魔法で消し飛ばされたりして」
そんなことを考えながらもアレックスは笑っていた。何だか、テオバルドともっと話しがしてみたかった。
「魔法を教えてくれたりしないかな」
少しの期待を胸にアレックスは眠りについたのだった。
その声に目を向ける。
褐色の肌に漆黒の髪、そして黒曜石のような瞳、聞き及んでいた通りテオバルドはシャムス王国の王族に伝わる髪色も瞳の色も持ち合わせてはいなかった。しかし、その相貌は美しく見る者を魅了した。
アレックスはテオバルドが武力でその地位を手に入れたと聞き、傭兵のように屈強な筋肉ダルマが出てくるかと思っていた。だが、実際は誰もがうらやむような美貌の持ち主であった。
高身長で筋肉質、だが暑苦しさなど感じさせぬその相貌、アレックスは国王とリアムがテオバルドと挨拶を交わす間中、テオバルドに見惚れてしまっていた。
テオバルドがこちらを見たことで、アレックスは我に返る。
「アレックス・リュミエールと申します」
そう挨拶すると、テオバルドは眉を少しあげながら、「あぁ、貴殿が。今回の訪問では貴殿が案内を申し出てくれたとか」と言った。
何だと?今何と言った?申し出た?2週間前に押し付けたくせによくも!
それを言ったであろう国王とリアムに殺意を抱きながらも、「えぇ、私もシャムス王国出身の母を持つ身ですので、シャムス王国の使節団の方々にリュミエール王国をご案内したく思いまして」とアレックスが笑顔で返すと、近くに控えるロベルトがわかりやすく安どの息をついたのが伝わってくる。
「楽しみにしておこう」
テオバルドはアレックスの内心の動揺に気づいているのかいないのか、そう微笑んだ後は隣の第三王子と挨拶を交わし始めた。
第三王子フレディ・リュミエールはアレックスの腹違いの弟だったが、攻略対象ではない。性格もリアムとは似ても似つかぬ温厚さなので、特に警戒はしていないので問題もないのだが、もしリアムが国王になるなんてことがあるとこの国も終わりなので、その点では頑張ってほしいと言わざる負えない。王族に伝わる髪色と瞳を持ち合わせている彼を支持する貴族は少なくともアレックスよりは存在するのだから。
その日の催しを終え、アレックスは床に就こうとしていた。
それにしても今日は驚くことが多かった。
アレックスの知らぬ間にジェイクはリアムと仲を深めたこともそうだが、もちろん『リュミエールの薔薇』には他の攻略対象も存在する。それは宰相の息子であるレン・ハイルト、そしてアーロンの弟であるケイ・フィレンスだった。
ジェイクとリアム、そしてアーロンの様子が異様すぎて忘れかけていた、というのは内緒だ。
今日テオバルドと挨拶を終えてからこっそりと観察していると、宰相の息子、レイはジェイクに熱い視線を送っていたが、ケイに関してはフィレンス家の者たちと一緒にジェイクとリアムをものすごい勢いで睨みつけていたので、どうやら正気に戻ったらしい。アーロンが変わるとケイまでその影響を受けるのか、これで被害者がまた減ったな、とケイの婚約者を想って涙ぐんだ。
レンも婚約者のいる身、早々に正気に戻ってほしいものだと思いながらも、アレックスの頭の中の大半を占めているのはテオバルドだった。
「やっぱり強いんだろうになぁ」
シャムス王国は魔法に秀でた国、その中でもテオバルドは魔力が強く強力な魔法を使えるという。アレックスとて戦果を挙げ地位をあげてはきたが、魔法を使うことはできなかった。
リュミエール王国は魔法に頼ることが有るにもかかわらず、それを施すものを下に見る風潮があるからだ。密かに魔法の勉強をしてはいるものの、それを他者の目に触れさせるわけにもいかなかった。
それほどに、この国の魔法使いの立場は低い。立場の低いはずの魔法使いを使って戦争をしていたことは事実であるのに、それを王族や貴族たちは認めはしなかった。だから、魔法使いの多いシャムス王国を自然と見下している人間がいるのだ。
それが国王までだとは、今回の一件があるまでアレックスも思ってはいなかったが。
「へましたら魔法で消し飛ばされたりして」
そんなことを考えながらもアレックスは笑っていた。何だか、テオバルドともっと話しがしてみたかった。
「魔法を教えてくれたりしないかな」
少しの期待を胸にアレックスは眠りについたのだった。
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