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警戒と期待2
しおりを挟む使節団到着の日、アレックスは絶望していた。しかし、嘆いたところで現実は変わらない。
使節団の出迎えのため、王族や貴族の当主たちも出席しているのだが、それに何故か、当主でもなければ長男でもないジェイク・ルーエリオンも参加しているのだ。
「リアム様、今日もかっこいいですね」
そう言ってリアムにべったりとくっついて離れないジェイク。もちろん、婚約者のアーロン・フィレンスもその場にいる。
当のアーロンといえば我関せずといった様子で、気にするそぶりも見せていないが、フィレンス家やその取り巻きと思しき貴族たちは怒りを隠しきず、ジェイクを射殺さんばかりにみていた。一方ルーエリオン家のほうはジェイクの愛らしさなら当然とばかりに堂々としている。
地獄絵図とはまさにこのことだ。
頭を抱えたいのを我慢してアレックスは毅然とした態度を保つ。
それにしても、どうにもジェイクとアーロンの様子がおかしい。出会いの場はゲームと違ってしまったったが、これからの展開にそこまで支障はないだろうと思っていた。しかし、アレックスの知っているゲームの展開とはあまりにも違いすぎる。
本来なら、来月にあるリアムの生誕パーティーでリアムがジェイクをパートナーにしたことで、アーロンの怒りは爆発し、ジェイクを排除しようとする。そして、リアムがジェイクを愛していることはそこで初めて公に知られることとなる。
それなのに、今の時点でリアムはジェイクを侍らせているうえ、アーロンではなくジェイクを愛しているという事が公然の事実として広まっているようだった。
一体全体、どうしてこうなったのかわからない。使節団を迎えるための準備に追われている隙に、リアムたちの関係性が進行していた。ジェイクとアーロンがもめてるなんて情報はアレックスのもとには届いていなかったため、この場にきてからようやく事態に気づいた。
『悲運の王子』はどのルートでもジェイクと大きくかかわり、事あるごとに政略対象とジェイクの仲を切り裂こうと奔走していたはずなので、ここまで知らぬ間に何かが変わることなどないはずなのだが、何故こうも知らぬ間に事が起きているのだろうか。
ジェイクに関わらないようにしようと思っただけでこうもうまくいくものとは思えない。
それともあのジェイクであっても、テラスの一件でアレックスの怒りをかい、もう関わるべきではないとわかったのだろうか。
となると、これで『悲運の王子』と呼ばれる結果から解放される…?
ゲームと違う展開にはなりつつあるが、アレックスにとってはこのほうが都合がいいかもしれない。このままジェイクがアレックスと関わらなければ国外追放にならずに済む。
あとは一番最初にゲームとは違う行動をしたアーロンだが、今の我関せずといった態度を見るにもしかするとリアムへの心離れが原因でアレックスの生誕パーティーに来ていたのかもしれない。彼はジェイクとリアムの犠牲者と言っていいポジションで、できればゲームのように国外追放になるのではなく新しい相手でもみつけてほしい、そう願っていたので心離れなら大歓迎だった。
とにかく、これは吉兆かもしれない。
あとは、シャムス王国の使節団滞在中にジェイクが問題を起こさなければ何の問題もない。そこまで考えて、アレックスは気づいた。ジェイクがいて何も起こらぬはずがないと。
となると、吉兆ではないかもしれない。
いや、しかしシャムス王国に政略対象は存在しない。ならばシャムス王国の使節団とトラブルを起こしたりはさすがにしないだろう。
とにかく、ジェイクが問題を起こさないように見張ればいいんだな。
……そうすると、ジェイクに関わることにならないか?
「いや、何とかなるはずだ」
思考の混乱したアレックスは、気づかれぬように見張れば大丈夫なはずだと己を無理やり納得させそう呟いたわけだが、そばにいたロベルトにそれが伝わるはずもなく、「2週間精一杯準備したのですから大丈夫ですよ」と笑顔で返されたのだった。
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