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:御曹司、悲鳴を上げる:

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「なにその、情けない声」
「だ、だってぼくはSだから意地悪されるの好きじゃないんだよね」
「あら、わたしだってSよ? あんたが手錠で拘束されたり射精管理されたり、あの手この手で苛まれてるところを見たら大興奮するわ」
 悪趣味だなぁ、と疾風は顔を顰める。
「で、疾風がそこまで沈没してるってことは、辰之進は、彩葉ちゃんをめでたく落とせたのね」
 うん、と疾風は苦笑を浮かべる。
「色気がないというか……。辰之進さ、どうやって意中の相手を口説いたらいいかわからなかったらしくて、婚姻届けと一緒に、結婚することのメリットデメリット、自己や自社のアピールをプレゼン宜しくまとめて、彩葉ちゃんに渡したんだよ」
 レイナがぷっと噴き出した。長いまつ毛が小気味よく動く。
「そんなもの渡されて喜ぶ女の子がいると思ったのかしらね、あの仕事馬鹿」
「ぼくもそう言ったんだけどさ……。でもね、すごいのは彩葉ちゃんの方なんだよ」

 彩葉はその奇妙な資料をきちっと読んで、疑問点を即座に辰之進にぶつけた。
 辰之進もそれに答えたのだが――疾風が覗きに行ったとき、丸いテーブルの上に書類や資料を積み上げて真面目に激論を交わしているようであった。
「とてもプロポーズの雰囲気じゃなくてさ……」
 プロポーズが成功してあわよくば致しているところに乱入して自分も彩葉を味見しようと不埒なことを思っていたのだが、それどころではなかった。
 そっと扉を開いて薔薇園に足を踏み入れる。
 薔薇の芳香が――と楽しむ余裕もなく、彩葉の刺々しい声が飛びこんできた。
「もういい、ってどういうことよ! そうやって切り捨てて突き放して、人がついてくると思うの?」
「考えたってどうしようもないだろう? 無理なものは無理なんだからもういいんだよ」
「馬鹿でしょ、住良木辰之進。何で最初からあきらめるわけ? 試しにやってみればいいでしょ」
「無駄だ、無駄無駄。そんなことに時間とエネルギーを使うのはもったいない」
「何で無駄だって決めつけるの?」
「俺は、絶対に成功するものしか手を出さない。リスクは切り捨てる」
 何の話かさっぱりわからない。経営にも聞こえるが、結婚生活のアレコレにも思える。
 だがほどなくして彩葉が「もう、このハナシはおしまい。無理です!」と叫んで走り始めた。辰之進も即座に追いかけるが、たちまち置いてけぼりになる。見事な快足である。
 あわよくば彩葉を捕まえて、相談に乗る振りをしてどこぞに連れ込もうと思ったのだが、同じように様子を見に来たのであろう住良木家のメイド頭の姿が生垣の向こう側に見えたため、疾風は撤退したのである。

「彩葉ちゃんは辰之進の熱意ににおされて――というか、流されてるだけでさ。まだぼくの入る余地はある」
「あるわけないでしょ。彩葉ちゃんは、辰之進に惹かれてるのよ。だからちゃんと向き合うの。アンタに勝ち目はない」
 ひどいレイナ、と疾風は唇を尖らせる。
「あんたさ、結局一度も彩葉ちゃんを抱けてないんでしょ?」
「そうなんだよ……いいところで、全力で逃げられちゃう」
 はぁぁ、と、ため息を吐く疾風のおでこが、ピン! と弾かれた。
「わたし、浮気者の婚約者をこのまま許すほど優しくはないのよ、知ってる?」
「へ?」
「しかも、わたしの大事な辰之進の、婚約者に手を出すなんて最低。お仕置きが必要ね」

 そのまま、疾風はレイナの住んでいる豪邸へと移動させられていた。
 高級車の後部座席で、疾風はレイナからの悪戯に困惑しっぱなしだった。
「レイナ、酷いよ……手錠かけるなんて……」
「いきなりわたしの胸を揉むだなんて誰の許しを得たの? 手癖の悪いエロ猿だわね」
 言いながら、レイナは疾風の股間を露出させる。手で軽く扱かれて痛いほどに張り詰めたのだが――。
「え、ここで放置?」
「アンタを喜ばせるためのプレイじゃないもの。そうねぇ……窓でも開けましょうか。信号で止まったら隣のクルマやバイクが覗き込むかもね」
 いやだ、と呟く疾風は青くなったり赤くなったり忙しい。
 今すぐにでもレイナの中に入りたいくらいだが、レイナは素知らぬ顔。
「もうすぐ着くから、我慢しなさい」
 藤木家は江戸時代からこの土地に住んでいたらしい。レイナが周辺の土地を少しずつ買って拡大し、去年この豪邸が完成した。
「おかえりなさいませ」
 使用人一同が頭を下げる。そんな中を手錠をかけられて前屈みで歩かねばならぬ疾風を見て、レイナはご満悦である。

 寝室に入るなり、疾風の両手は黒い革ベルトで拘束され、両脚は若干開いた状態で固定され、仰向けにベッドに押し倒された。
「ひ、レイナ、さん……」
「たまには、アンタを徹底的に虐めてみたくてね。あら、もう萎えたの? 使えない男ね」
 形の良いレイラの唇が疾風に迫る。濃厚なキスに翻弄され、疾風の下半身はすぐに反応を示す。
「こらえ性のない下半身ね……」
「う」
 ベッドサイドにあったペン立てから持ってきたはさみで、身に着けているものがすべて切り裂かれる。スーツが、只の布切れになってベッドに散らばる。
「ああ、ぼくのブランドの来季の新商品なのに」
「誰が日常的にショッキングピンクのスーツで仕事するの」
「えーっ、だめかなぁ。楽しいと思うんだけど……」
 と、疾風の顔が引き攣った。
「ね、ね、これ……」
「ん?」
「ペニスリング……つけ、た?」
「ええ。好きでしょ、こういうの」
 好きなわけないでしょ、と、疾風が叫ぶがレイラはどこ吹く風。デジカメまで持ち出す有様だ。
「わーっ、撮るの反対、ごめんなさぁい!」
「だぁめ……わたしの許可なくイくことのないよう、調教してあげるわね」
 助けてぇ、と、疾風は悲鳴をあげた。
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