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:メイド、悔いるが…:

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 そもそもどうして、ミニ丈のメイド服を着て、イケメンに追い回されることになったのか。

 事の発端は今から数か月前にさかのぼる。
 彩葉の父、いや、一族が経営に携わる株式会社ユウキは、創業以来の経営危機に陥っていた。
 国内の景気が悪化したところへ、海外の取引先が倒産したり突如取引を停止してきたりして、大口取引先を一気に失った。
 株式会社ユウキの経営は急速に悪化した。
 一大事である。
 グループ会社を含めると社員の人数は膨大、下請けや関係先も含めるとユウキが倒れた場合の損害は大変なことになる。
 金策や会社の立て直しに日々奔走する父の元へ、住良木辰之進と住良木グループの会長である住良木幸之進《すめらぎこうのしん》がやってきたとき、彩葉も社長室にいて事業計画案を読んでいた。

 そして――父と住良木グループは何度も話し合いを重ねるのだが、ずいぶん難航しているようで、父は日に日にやつれていく。

「パパ、じゃなくて社長、何か大変な条件でも提示されたの?」
「ああ、彩葉……聞いてくれるか」
「うん」
 そこに座ってくれ、と、社長室のソファーを指さす。
 彩葉が座ってからも、父はなかなか口を開こうとしない。経理担当者と額を突き合わせていた彩葉の母が見かねて「あなた」と背中を叩く。
「会社に融資してくれる条件のひとつが『彩葉を屋敷に住み込ませ、メイドさせる』という要求なんだ」
「へ? あたしを?」
「というのも、大昔、住良木家やがよその家や会社に融資や援助をする際に、妻子を人質同然に預かって、ときには当主や息子たちの妻にしたこともあるとかで、その名残であるらしいんだ」
 彩葉は、ぽかんと口を開けた。想定外すぎる。
「パパ、それを断ろうとしてくれたのね?」
「当たり前だ! 娘のお前をそんな人質に差し出すような真似……」
「パパ……ありがとう。でも、あたしなら大丈夫! 住良木グループは、大事なうちの会社を助けてくれるんでしょう? だったらあたしは住良木辰之進さんのお役に立ちたい」
 この時の彩葉は、心の底からそう思った。

 ――こんな変態社長だと知っていたら、断ったのに!

 変態かもしれないと気付いたのは、なんと住み込み一日目。
 制服はミニスカート、それを着用した彩葉を絶賛した。
「……やっぱりいい素材だ……お前、Mだろ?」
 と、耳元で囁いてきた。
「は、え? 服のサイズですか?」
「……素でその反応か。なら、処女だな」
「へ?」
「乳よし、尻よし、腰よし! ふふん、俺好みの、俺が忘れられないカラダに開発してやる。そうだな、業務終了後に特別にエロ調教してやるから俺の部屋に来い」
 言いながら爽やかイケメンが黒い笑みを浮かべた。
 これが変態でなくてなんなのか。
 
――こんな変態社長だと知っていたら、断ったのに!

 一日に何度もそう思うも、時すでに遅し。
「まったく。お前みたいに自分ちの会社を心の底から愛するご令嬢、俺は他に知らないな……」
 当たり前でしょう、と、彩葉は住良木辰之進を睨みつける。
 が、うっかり見惚れてしまいそうになる。いかんせんこの男、自社ブランドや、取引先の海外セレブ御用達ブランドのモデルもこなしているだけあって、見た目は素晴らしいのだ。
 そこらのモデルやタレントたちがかすんでしまうほどの高身長、美貌、体形だ。品の良い仕草で当然それらはいちいち様になる。
 いや、そのうえ、学歴も職歴も家柄も申し分ない完璧な男である。
「江戸時代から続く老舗をひいおじいさまが現代に合う形にして、おじいさまが盛り立てて、パパが命がけで守ろうとしてる会社だもん。跡取りのあたしも頑張るの」
「はっ! 健気なことで……」
「たかだか三代目のアンタにはわからないでしょうね、この、老舗の苦労は!」
「確かに、そればっかりはわからないな。うちは成り上がりの若い会社だからな」
 住良木辰之進の手が、彩葉の腰に回された。そのままメイド服のスカートが捲られる。
「ひっ……この変態!」
 こんなところでスカートを捲らせるわけにはいかない。厭らしく動き回るそのその手を、自慢の反射神経に物言わせてパシンパシンと払いのけた。
 スカートを捲られたら最後、どんな淫らなオモチャが出てくるかわからないし、この場で背後から挿入されてしまうかもしれない。
 欲情したら、見境がなくなるのだ。
 ホールに響く淫らな喘ぎ声や、肌と肌がぶつかる音、いつだれが通るかわからないスリルが彩葉の羞恥心と罪悪感と焦燥感を煽るのだが、その様子を見て心の底から楽しむのがこの男。
 今までに何度玄関ホールでヤられたかわからない。
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