上 下
56 / 62
本編

第16話_罠返し-4

しおりを挟む
その肉声を聞いた[霆蛇テイダ]は、巨体をもたつかせながら起こし、目の前に立つ炎の戦士へ目を剥いた。

「なっ…!? …ありえない…、火炎のお前がここへ来ることは私の想定に入っていない!!」

もがき、避けようとする巨体の反対側へ回り込み、ロードナイトは逆側の鰭も全て薙ぎ払った。

「ぎっ…あ゛ぁぁぁ!!」

青い水中を大きな鰭が上へと漂い消え、辺りの水域を赤黒い靄と肉の焦げた煤が汚す。
全ての鰭を切り落とされ、苦しみ悶えながら[霆蛇]は渾身の落雷を見舞う。が、風属性が元々得意であるロードナイトには効果が薄い上に、彼を護る防御壁が完全に遮断する。そしてその防御壁の造り手である葉月エピドートは雷嵐をかざし、[霆蛇]の撃った落雷を集めて吸収する。

「はっ!!」

許容いっぱい帯電した雷嵐を足元へ突き、特大の落雷を引き起こす。
再び余所者の電撃を喰らい、力を維持できなくなった[水の異形]は沈黙し、水流が収まっていく。

「くそっ…くそっ!!」

おたまじゃくしのような風体になった[霆蛇]は、血をまき散らしながら尾鰭だけでその場を撤退していく。

「ここまでは、私の予測通りだったのに…っ…!! あと一歩だったのに…!! 糞!!」

[異形手駒]を無くし、推進力を失った重い体躯は、見る間にロードナイトに追いつかれる。
ぷるぷると左右に動く不細工な尾鰭へ、ロードナイトは紅い瞳を鋭く見開き、一閃する。

「ぎゃあ゛ぁぁぁっ!!」

そして、全ての機動力を失った黒い塊の前方へと追い越すと、唇から下をはみ出させるその顔貌を射殺すように睨んだ。

「散々蒼矢アズライトをたぶらかしてくれたな…正直てめぇは殺すだけじゃ足りねぇくらいだぜ。…その汚ねぇ面、二度と見せんな」

そう言い捨てると、『紅蓮ぐれん』を[霆蛇]の正面から水平に薙ぎ、切り落とした尾の付け根まで横一文字に振るう。

「…ぁぱぁっ……! …」

身体を上下に割られ、ふたつの塊に分かれた[霆蛇]は無抵抗に漂い、水に溶けていった。

紅蓮を振るい収めると、ロードナイトはエピドートの元まで戻る。

「…!」

そして無言で頷き合い、急ぎ地上を目指した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※溺愛までが長いです。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常

丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。 飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。

処理中です...