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本編
第11話_傷心に触れる柔肌-2
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――
もう、待てなかった。
むしろ、待ち過ぎたのかもしれない。
「そろそろはっきりさせねぇか? 俺たち」
穢れを知らない薄い瞳が、きょとんと見返してくる。
心から、"見当がつかない"という面持ちを晒してくる。
予想通りの反応だったが、この時ばかりは爪の先ほどでもいいから察して欲しいと恨んだ。
「先輩じゃねぇよ。外向けにそう言うことはあっても、俺ん中では自分を"先輩"だって思ったことねぇし、お前のことも"後輩"だとは思ってねぇからな。初めて会ったお前の入学式の日から、一度も」
当然だ。初めて一目惚れした相手を、自分の"後輩"なんてポジションに置けるはずがない。
周りの誰に指摘されなくたって、そんな関係で収まることなんて望んじゃいない。
出会ってから一度たりとも、俺の中のあいつへの思慕はずれたことが無い。
…出会ったあの時からずっと、誰よりも、何を捨ててでも、常に一番に想ってきた。
…どんなにあいつに伝わらなくても。
「出会った時から、お前が好きだ。ダチンコとか、仲間とか、そういう類のもんじゃねぇ。お前を、俺の恋人にしたい。そういう"好き"だ。わかるよな?」
自分でも笑えてくるくらい、子供相手に教えるような言葉を並べて説き伏せる。
これくらいのレベルで伝えないと、何度も煮え湯を飲まされてきた経験則上また空振りを喰らい、逃げられてしまう。
それでも馬鹿にし過ぎたと思ったが、結果自分に用意された"決断"のステージを、ようやく理解できたようだった。
「4年半、ずっと好きだった。もう俺は十分待った…お前にとって、俺は何だ? …今ここで、お前の答えを聞かせろ。蒼矢」
「……っ…」
影斗にそう問われ、真っ直ぐ見つめてくる彼の瞳から逃げるように、蒼矢は視線を外す。
「蒼矢」
呼び掛けに、蒼矢は困惑した面持ちから上目遣いで影斗を見返した。
「…今すぐ、じゃないといけませんか…?」
おずおずと漏れる言葉に、影斗はため息をつく。
「俺はもう、充分お前に考える時間をやってる」
「……」
急かされるものの、口をつぐんでしまう彼を見つめ、影斗は努めて柔らかな口調で低く呟く。
「…"男だから"って理由で断っちまってもいいんだぞ」
考え方次第では、悪手ともとれる一言だった。しかしその実、影斗にとっては保険のようなものだった。
もはやそれが理由でもいい。
そう思って、あえて伝えた。
蒼矢は逡巡するように目を伏せ、沈黙した後、再び影斗を見つめた。
もう、待てなかった。
むしろ、待ち過ぎたのかもしれない。
「そろそろはっきりさせねぇか? 俺たち」
穢れを知らない薄い瞳が、きょとんと見返してくる。
心から、"見当がつかない"という面持ちを晒してくる。
予想通りの反応だったが、この時ばかりは爪の先ほどでもいいから察して欲しいと恨んだ。
「先輩じゃねぇよ。外向けにそう言うことはあっても、俺ん中では自分を"先輩"だって思ったことねぇし、お前のことも"後輩"だとは思ってねぇからな。初めて会ったお前の入学式の日から、一度も」
当然だ。初めて一目惚れした相手を、自分の"後輩"なんてポジションに置けるはずがない。
周りの誰に指摘されなくたって、そんな関係で収まることなんて望んじゃいない。
出会ってから一度たりとも、俺の中のあいつへの思慕はずれたことが無い。
…出会ったあの時からずっと、誰よりも、何を捨ててでも、常に一番に想ってきた。
…どんなにあいつに伝わらなくても。
「出会った時から、お前が好きだ。ダチンコとか、仲間とか、そういう類のもんじゃねぇ。お前を、俺の恋人にしたい。そういう"好き"だ。わかるよな?」
自分でも笑えてくるくらい、子供相手に教えるような言葉を並べて説き伏せる。
これくらいのレベルで伝えないと、何度も煮え湯を飲まされてきた経験則上また空振りを喰らい、逃げられてしまう。
それでも馬鹿にし過ぎたと思ったが、結果自分に用意された"決断"のステージを、ようやく理解できたようだった。
「4年半、ずっと好きだった。もう俺は十分待った…お前にとって、俺は何だ? …今ここで、お前の答えを聞かせろ。蒼矢」
「……っ…」
影斗にそう問われ、真っ直ぐ見つめてくる彼の瞳から逃げるように、蒼矢は視線を外す。
「蒼矢」
呼び掛けに、蒼矢は困惑した面持ちから上目遣いで影斗を見返した。
「…今すぐ、じゃないといけませんか…?」
おずおずと漏れる言葉に、影斗はため息をつく。
「俺はもう、充分お前に考える時間をやってる」
「……」
急かされるものの、口をつぐんでしまう彼を見つめ、影斗は努めて柔らかな口調で低く呟く。
「…"男だから"って理由で断っちまってもいいんだぞ」
考え方次第では、悪手ともとれる一言だった。しかしその実、影斗にとっては保険のようなものだった。
もはやそれが理由でもいい。
そう思って、あえて伝えた。
蒼矢は逡巡するように目を伏せ、沈黙した後、再び影斗を見つめた。
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