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本編
第11話_傷心に触れる柔肌-1
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すっかり日が暮れ、都内の某大学に隣接している男子学生寮にも、夜の時間が訪れていた。
学生たちが続々と大学やバイト先から帰宅し、景色に溶ける灰色の低層建物にぽつぽつと明かりが灯り始める。静かな時間帯にさしかかるところ、かえって次第に喧騒が増し賑やかになっていく様は、若者だけが集う学生寮ならではといったところであった。
部屋から部屋へ足音をたてて移動していく者や、なにやら奇声をあげる者など、既に日常茶飯事の様相を呈していく中、とある角部屋の一室はそれらとは一線を画す静寂と、濃い霧のような煙で満たされていた。
狭いワンルームに備えられた小窓の下で片膝を立てて座り、宮島 影斗は、口端に煙草を咥えたまま煙を吐き出した。
休日とあって起き抜けなのか、いつもは彼流に整えられている黒髪は乱れ、下着が見えそうに緩く履いたスウェットにタンクトップ姿で、首からは黒い石が光る銀色のペンダントが下がっていた。
「…」
表情に生気は薄く、虚ろげな双眸は間接照明しか灯らない空間をどこともなく見やったままで、短くなった煙草を指に摘み、既に吸殻で埋め尽くされた灰皿に投げる。
口に残った紫煙を溜息と共に吐くと、スウェットのポケットに収められた煙草ケースへ伸ばす。しかし途中で手は止まり、そのまま前髪をかき上げ頭を軽く打ちつけた。
と、床に転がるスマホが震え、影斗は視線だけをやり、光る液晶をぼんやりと眺める。
持ち主に拾われることが無いままスマホは長く振動し続け、やがて静かになった。
「…放っとけって言っただろうが。…阿呆が」
留守電を残していった相手――葉月へ伝わることのない悪態をつき、影斗は再び深くため息をついた。
「……思い出させんじゃねぇよ」
学生たちが続々と大学やバイト先から帰宅し、景色に溶ける灰色の低層建物にぽつぽつと明かりが灯り始める。静かな時間帯にさしかかるところ、かえって次第に喧騒が増し賑やかになっていく様は、若者だけが集う学生寮ならではといったところであった。
部屋から部屋へ足音をたてて移動していく者や、なにやら奇声をあげる者など、既に日常茶飯事の様相を呈していく中、とある角部屋の一室はそれらとは一線を画す静寂と、濃い霧のような煙で満たされていた。
狭いワンルームに備えられた小窓の下で片膝を立てて座り、宮島 影斗は、口端に煙草を咥えたまま煙を吐き出した。
休日とあって起き抜けなのか、いつもは彼流に整えられている黒髪は乱れ、下着が見えそうに緩く履いたスウェットにタンクトップ姿で、首からは黒い石が光る銀色のペンダントが下がっていた。
「…」
表情に生気は薄く、虚ろげな双眸は間接照明しか灯らない空間をどこともなく見やったままで、短くなった煙草を指に摘み、既に吸殻で埋め尽くされた灰皿に投げる。
口に残った紫煙を溜息と共に吐くと、スウェットのポケットに収められた煙草ケースへ伸ばす。しかし途中で手は止まり、そのまま前髪をかき上げ頭を軽く打ちつけた。
と、床に転がるスマホが震え、影斗は視線だけをやり、光る液晶をぼんやりと眺める。
持ち主に拾われることが無いままスマホは長く振動し続け、やがて静かになった。
「…放っとけって言っただろうが。…阿呆が」
留守電を残していった相手――葉月へ伝わることのない悪態をつき、影斗は再び深くため息をついた。
「……思い出させんじゃねぇよ」
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