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本編
第7話_不穏残る帰還-2
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「陽、君は[異界のもの]とは接触したんだよね?」
「うん。『閃光』ぶっ刺してすぐ退散したからあんまよくは見てねぇけど…馬鹿でけぇナマズみたいな奴だった」
「それは[侵略者]だったのかな」
「んー…多分。[異形]がいたのかどうかはわかんねぇ。蒼兄、そのナマズ野郎に喰われちまってたから、その時出来た傷なのかもしれねぇけど、あんなに思いっきり喰われててそれだけか? って気もしちゃうなー」
「…っ? 食べられてた…!?」
「あー、悪い。口に咥えられてたって状況。胃の中には収まってねぇよ」
「…そ、そうなのか…」
顔色を変える葉月へそうフォローを入れた陽は、再びそろりと蒼矢の内腿へ視線を注ぎ、首を振ってみせた。
「多分、今回のじゃないと思うぜ。『現実世界』で昨日あたり悪い虫に喰われたんだよ、きっと」
「…うん…」
「蒼兄の着替え、要るだろ? 俺取ってくる!」
「あぁ…、ありがとう。居間の襖隣の部屋にある六段の桐箪笥から、襦袢と帯をひとつずつ持ってきてくれるかな。君のセンスに任せるよ」
「了解っ」
陽が部屋を出て行くと、息をついた葉月は、改めて蒼矢を見下ろすようにうかがう。
「…」
先ほどあれだけ身体を動かされたのに、蒼矢は気がつく気配が全く無かった。
目を固く閉じたままの顔を見やり、ひとつ息をつくと葉月は先ほど陽が漏らした言葉を思い返す。
…"喰われ"てしまった。…僕が行けていたら…ちゃんと機能していれば、そうはならなかったかもしれないな…
そう、自身の不甲斐無さと後悔の念に駆られながら、意識を奥底へ追いやられてしまった美麗な面差しを見つめ、白い頬を撫でた。
「……」
…君はその心と身体をいつまで、どれだけ削れば、何にも犯されず穏やかに生きられるんだろうね…
その日、蒼矢は終ぞ目覚めることはなく、楠瀬家の静かな夜は更けていった。
「うん。『閃光』ぶっ刺してすぐ退散したからあんまよくは見てねぇけど…馬鹿でけぇナマズみたいな奴だった」
「それは[侵略者]だったのかな」
「んー…多分。[異形]がいたのかどうかはわかんねぇ。蒼兄、そのナマズ野郎に喰われちまってたから、その時出来た傷なのかもしれねぇけど、あんなに思いっきり喰われててそれだけか? って気もしちゃうなー」
「…っ? 食べられてた…!?」
「あー、悪い。口に咥えられてたって状況。胃の中には収まってねぇよ」
「…そ、そうなのか…」
顔色を変える葉月へそうフォローを入れた陽は、再びそろりと蒼矢の内腿へ視線を注ぎ、首を振ってみせた。
「多分、今回のじゃないと思うぜ。『現実世界』で昨日あたり悪い虫に喰われたんだよ、きっと」
「…うん…」
「蒼兄の着替え、要るだろ? 俺取ってくる!」
「あぁ…、ありがとう。居間の襖隣の部屋にある六段の桐箪笥から、襦袢と帯をひとつずつ持ってきてくれるかな。君のセンスに任せるよ」
「了解っ」
陽が部屋を出て行くと、息をついた葉月は、改めて蒼矢を見下ろすようにうかがう。
「…」
先ほどあれだけ身体を動かされたのに、蒼矢は気がつく気配が全く無かった。
目を固く閉じたままの顔を見やり、ひとつ息をつくと葉月は先ほど陽が漏らした言葉を思い返す。
…"喰われ"てしまった。…僕が行けていたら…ちゃんと機能していれば、そうはならなかったかもしれないな…
そう、自身の不甲斐無さと後悔の念に駆られながら、意識を奥底へ追いやられてしまった美麗な面差しを見つめ、白い頬を撫でた。
「……」
…君はその心と身体をいつまで、どれだけ削れば、何にも犯されず穏やかに生きられるんだろうね…
その日、蒼矢は終ぞ目覚めることはなく、楠瀬家の静かな夜は更けていった。
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