16 / 62
本編
第4話_水底の罠-3
しおりを挟む
「…通信が途絶えた」
その頃待機する地上では、やはり脳内会話が出来なくなったことに程なく気付いた葉月と陽が、顔色を一変させていた。
「っ…なんでだよ!? 今までこんなこと一度も無かったじゃねえかっ…!!」
サルファーの言う通り、セイバー間の脳内通信機能は、今まで幾度も繰り返してきた戦闘歴の中で、いかなる場面でも途切れることは無かった。
今回も、蒼矢の姿が視認できない状況ではあるものの、いなくなってからの経過時間を加味しても、水中を介してではそれほど遠いところにいるとは思えず、距離が理由だとは考えにくい。
体調を概ね戻したエピドートが、やはり核心に辿り着く。
「[侵略者]か[異形]に妨害されてる…そうとしか考えられない」
彼の読みに、サルファーも深く頷いた。
つまり、アズライトは既にどちらかと遭遇…最悪対峙している可能性もある。
「…行く」
そうぼそりと漏らすと、サルファーはエピドートの反応を待たずに池へとずんずん歩いていく。
「…! 待てサルファー」
「止めるな月兄!! 蒼兄がピンチになってるかもしれねぇってのに、こんなところで突っ立ってられるか!!」
「うん、わかってる。だからちょっと待ってくれ。…僕に考えがある」
頬を膨らませ、鼻をつまんで頭から飛び込もうとしていたサルファーは、エピドートの言に眉をひそめながら振り向いた。
水際で立ち止まる彼の周囲を突如、風の壁が覆う。
「僕の防御壁は、セイバー以外は何も通さない。水中でもきっと呼吸出来るだろうし、水に濡れることさえないだろう」
「…! すげぇっ…」
「僕は引き続き、監視で地上に残る」
「っ!!」
射し込んだ光明に気が昂りかけたサルファーだったが、ついで告げられたエピドートの言葉に、表情を固まらせた。
「どうにせよ、おそらく今の僕は水中では役に立たない。…君ひとりで行って来てくれ」
一転して不安げな面持ちになるサルファーへ、エピドートは優しく微笑んで見せた。
「風の壁は、必ず君を護る。…おそらく脳内会話は出来なくなる。でも落ち着いて、アズライトを連れ戻すことだけを考えて。君が使う光属性は、有効な相手も少ない一方で不得意も無い。属性だけを取れば、不利になることはないはずだ。自分の実力を信じて」
「……!」
「大丈夫。風を"僕"だと思って。…ずっと君に付き添っているから」
エピドートの声掛けに、サルファーの金色の瞳が大きく見開かれ、力と意志が宿っていく。
「アズライトを見つけたら、どんな状況であってもすぐに彼を防御壁へ取り込んで、即刻戻ること。無茶をしてはいけないよ。…いいね?」
「了解!」
そしてそういつも通り応答すると、サルファーはきびすを返し、エピドートへ振り向かないまま静かに水中へと身を落としていった。
エピドートはその後ろ姿を見送りながら、祈るような思いで両拳を強く握った。
その頃待機する地上では、やはり脳内会話が出来なくなったことに程なく気付いた葉月と陽が、顔色を一変させていた。
「っ…なんでだよ!? 今までこんなこと一度も無かったじゃねえかっ…!!」
サルファーの言う通り、セイバー間の脳内通信機能は、今まで幾度も繰り返してきた戦闘歴の中で、いかなる場面でも途切れることは無かった。
今回も、蒼矢の姿が視認できない状況ではあるものの、いなくなってからの経過時間を加味しても、水中を介してではそれほど遠いところにいるとは思えず、距離が理由だとは考えにくい。
体調を概ね戻したエピドートが、やはり核心に辿り着く。
「[侵略者]か[異形]に妨害されてる…そうとしか考えられない」
彼の読みに、サルファーも深く頷いた。
つまり、アズライトは既にどちらかと遭遇…最悪対峙している可能性もある。
「…行く」
そうぼそりと漏らすと、サルファーはエピドートの反応を待たずに池へとずんずん歩いていく。
「…! 待てサルファー」
「止めるな月兄!! 蒼兄がピンチになってるかもしれねぇってのに、こんなところで突っ立ってられるか!!」
「うん、わかってる。だからちょっと待ってくれ。…僕に考えがある」
頬を膨らませ、鼻をつまんで頭から飛び込もうとしていたサルファーは、エピドートの言に眉をひそめながら振り向いた。
水際で立ち止まる彼の周囲を突如、風の壁が覆う。
「僕の防御壁は、セイバー以外は何も通さない。水中でもきっと呼吸出来るだろうし、水に濡れることさえないだろう」
「…! すげぇっ…」
「僕は引き続き、監視で地上に残る」
「っ!!」
射し込んだ光明に気が昂りかけたサルファーだったが、ついで告げられたエピドートの言葉に、表情を固まらせた。
「どうにせよ、おそらく今の僕は水中では役に立たない。…君ひとりで行って来てくれ」
一転して不安げな面持ちになるサルファーへ、エピドートは優しく微笑んで見せた。
「風の壁は、必ず君を護る。…おそらく脳内会話は出来なくなる。でも落ち着いて、アズライトを連れ戻すことだけを考えて。君が使う光属性は、有効な相手も少ない一方で不得意も無い。属性だけを取れば、不利になることはないはずだ。自分の実力を信じて」
「……!」
「大丈夫。風を"僕"だと思って。…ずっと君に付き添っているから」
エピドートの声掛けに、サルファーの金色の瞳が大きく見開かれ、力と意志が宿っていく。
「アズライトを見つけたら、どんな状況であってもすぐに彼を防御壁へ取り込んで、即刻戻ること。無茶をしてはいけないよ。…いいね?」
「了解!」
そしてそういつも通り応答すると、サルファーはきびすを返し、エピドートへ振り向かないまま静かに水中へと身を落としていった。
エピドートはその後ろ姿を見送りながら、祈るような思いで両拳を強く握った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました
尾高志咲/しさ
BL
部活に出かけてケーキを作る予定が、高校に着いた途端に大地震?揺れと共に気がついたら異世界で、いきなり巨大な魔獣に襲われた。助けてくれたのは金髪に碧の瞳のイケメン騎士。王宮に保護された後、騎士が昼食のたびに俺のところにやってくる!
砂糖のない異世界で、得意なスイーツを作ってなんとか自立しようと頑張る高校生、ユウの物語。魔獣退治専門の騎士団に所属するジードとのじれじれ溺愛です。
🌟第10回BL小説大賞、応援していただきありがとうございました。
◇他サイト掲載中、アルファ版は一部設定変更あり。R18は※回。
🌟素敵な表紙はimoooさんが描いてくださいました。ありがとうございました!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
ガイアセイバーズ -GAIA SAVERS-
独楽 悠
BL
声をかけた男は、"人"とはどこか一線を画していた――
異なる世界線から現世を襲いに来る異形の者(侵略者)達から地球を防衛する使命を受け、日々戦い続けるガイアセイバーズ。その一人である大学生・髙城 蒼矢(タカシロ ソウヤ)は、何気ない学校生活を送る中で一風変わった男と面識を持ち、知らぬ間にその身を危険に晒してしまう。彼を執拗に狙う男の正体とは…?
◆完結済(2020/9/1)
◆注意事項(下記ご心配な方は作品閲覧をお控え下さい)
・一部年齢制限表現有(各話タイトルで判別可能です)
・愛にまつわる要素(恋愛・純愛・愛憎 など)はありません。
・フェティシズム要素有。
・残酷な描写はありませんが、若干リョナ有。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ガイアセイバーズ7(HC) -畏友の絆を分かつ禍-
独楽 悠
BL
異なる世界線から現世を襲いに来る異形のもの([侵略者]たち)から地球を防衛する使命を受け、日々戦い続けるガイアセイバーズ。
みずからの想いを自覚した烈は、幼馴染・蒼矢の言動や仕草に心を揺さぶられ、自身で打ち立てた信念に自信を無くしかけていた。
そんな折、営業の甲斐あって実家の酒屋に太客が付く。
バー店長のその男は烈の人柄に惹かれたと言い、彼へ近付き、親愛のしるしと身体に触れる。
単なる友愛の表現なのかあるいは好意なのか、ふたりの親密な掛け合いを目にした蒼矢の胸はざわつく。
一方、卒業研究の時期を迎えた影斗は一旦セイバーから離れ、大学へと集中すると宣言する。
しばらくの間セイバーズにおける主力を欠かし、不安定な体制を強いられる中、秘密裏に事が動き始めていた――
◆完結済(2023/6/19)
◆注意事項(下記ご心配な方は作品閲覧をお控え下さい)
・一部年齢制限表現有、過激描写多数(過去作比)。背後要注意(各ページ冒頭で判別出来るようにします)
・フェティシズム要素有。
・いわゆるヒーローピンチ要素(やられ、屈服)多数。伴ってリョナや怪我の描写多数。
・細部端折っている部分があります。
第1作目『ガイアセイバーズ -GAIA SAVERS-』及び過去ナンバリング作を先に読まれることをお勧めします。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる