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本編
第13話_花の置き土産-1
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それから1週間が経過し、週末の土曜日になった。
都心から少し離れた隣県港湾の商業施設で発生した、未確認生物出現による器物破壊事件は、負傷した被害者たちの治療経過や現場の復旧工事を含めなければ当日中に収束し、その後怪奇的な事象はなにも起きることなく穏やかな日々だけが過ぎた。
渡日直後に騒動に巻き込まれたものの、その後はおおむね当初予定どおりに各地の名所を満喫したカレンは、帰国便へ乗るため国際便が離着陸する都内某所の空港を再び訪れていた。
来た時の便はひとりだったが、帰国の今日は、数日前に合流した母親と一緒だ。
フライト時間になるまで待合スペースで談笑している彼女たちのもとへ、ひとりの青年が歩み寄っていく。
「――…? …! ソウヤ…っ!」
遠くから小さく手をふりながら近付く蒼矢の姿を認め、カレンは一瞬驚いたように目を見張ったもののすぐに表情をほころばせ、立ちあがって大きく手をふり返した。
「――。」
たどり着いた蒼矢と対面したカレンは、初めて目にする眼鏡オフの彼の顔を見、言葉を失う。
隣の母親からも口を半開いたまま眺められるなか、彼女たちの無言の反応に戸惑った蒼矢は少し頬を染める。
「…? あの、なにか…?」
「! あっ、ううん、…なんでもないの。ありがとう、見送りにきてくれて」
「私のせいでご迷惑をかけてしまって、ごめんなさいね。娘がお世話になりました」
「いえ、お役に立てて光栄です」
頭を下げるカレンの母へ恐縮すると、蒼矢はカレンを柔らかく見つめる。
「あの日以降、観光は楽しめた?」
「ええ! どこもとても素敵だったわ。いい思い出が沢山できた」
「よかった」
「欲を言えば…あなたがずっと一緒にいてくれてたら、もっと素敵な旅になってたと思うわ」
「…俺はどこ行ってもまともに案内できないから、いてもなんの役にも立たないよ」
そう苦笑してみせる蒼矢へ、カレンは期待していた反応が得られなかったからか呆れたように眉を上げ、くすりと微笑った。
ついで、やや憂うような面差しに変わって彼を見やる。
「怪我の具合はどう? もう痛みはないの?」
「ああ、大丈夫。ここも念のため保護してるだけだから」
こめかみにあてている保護テープを指しながらはっきりそう返す蒼矢に、カレンもすぐに笑顔を取り戻した。
「お大事にしてね」
「ありがとう」
フライトの時間が近付き、カレンたちは乗りこむ準備に荷物をまとめる。
「また会いましょう、今度は英国で! ユイコさんいつも寂しがってるから、たまにはあなたが会いに行ってあげて」
「うん、わかった」
「ありがとうね、蒼矢君。お母さんにはよろしくお伝えしておくわ」
「はい、道中お気をつけて」
手をふりながら国際便チェックインカウンターへと遠のいていくカレンたちを、蒼矢は見えなくなるまで見送った。
都心から少し離れた隣県港湾の商業施設で発生した、未確認生物出現による器物破壊事件は、負傷した被害者たちの治療経過や現場の復旧工事を含めなければ当日中に収束し、その後怪奇的な事象はなにも起きることなく穏やかな日々だけが過ぎた。
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「――。」
たどり着いた蒼矢と対面したカレンは、初めて目にする眼鏡オフの彼の顔を見、言葉を失う。
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「…? あの、なにか…?」
「! あっ、ううん、…なんでもないの。ありがとう、見送りにきてくれて」
「私のせいでご迷惑をかけてしまって、ごめんなさいね。娘がお世話になりました」
「いえ、お役に立てて光栄です」
頭を下げるカレンの母へ恐縮すると、蒼矢はカレンを柔らかく見つめる。
「あの日以降、観光は楽しめた?」
「ええ! どこもとても素敵だったわ。いい思い出が沢山できた」
「よかった」
「欲を言えば…あなたがずっと一緒にいてくれてたら、もっと素敵な旅になってたと思うわ」
「…俺はどこ行ってもまともに案内できないから、いてもなんの役にも立たないよ」
そう苦笑してみせる蒼矢へ、カレンは期待していた反応が得られなかったからか呆れたように眉を上げ、くすりと微笑った。
ついで、やや憂うような面差しに変わって彼を見やる。
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「ああ、大丈夫。ここも念のため保護してるだけだから」
こめかみにあてている保護テープを指しながらはっきりそう返す蒼矢に、カレンもすぐに笑顔を取り戻した。
「お大事にしてね」
「ありがとう」
フライトの時間が近付き、カレンたちは乗りこむ準備に荷物をまとめる。
「また会いましょう、今度は英国で! ユイコさんいつも寂しがってるから、たまにはあなたが会いに行ってあげて」
「うん、わかった」
「ありがとうね、蒼矢君。お母さんにはよろしくお伝えしておくわ」
「はい、道中お気をつけて」
手をふりながら国際便チェックインカウンターへと遠のいていくカレンたちを、蒼矢は見えなくなるまで見送った。
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