40 / 70
本編
第8話_地中からの怪異-4
しおりを挟む
地面から出現したのは、コンクリートのがれきでできた灰色の[蠕虫]だった。
ひとの背丈をふたまわりほど越す巨大なそれは、硬質組織で構成されているにもかかわらず、腹部に見える部位が滑らかにぜん動していた。
体躯の尾部を地中へ埋めたまま、舗装された地面をめきめきと破壊しながらふたりへ距離を詰める。
ふたりを囲う三体の内、正面の[蠕虫]が鳴き声のような奇声をあげる。
立ちあがった頭頂部から、細長い紐状の器官がいくつも伸び、触手のようにうごめく。
それらの中央部には口器とみられる穴があり、開いたりすぼまったりを繰り返し、動かすたびに内部から消化液か単なる体液か見分けのつかない、粘り気のある分泌物が漏れ出て地面へ滴っていく。
異界の生物[異形]の、その奇怪でおぞましいさまにカレンは瞬時に恐怖に支配され、つかむ蒼矢の腕を支えにかろうじて立つ。
彼女を後ろ手に守りながら、蒼矢は懸命に頭を冷やし、状況の把握と策を巡らそうとしていた。
…この執拗な追跡…並の人間なら、一体で充分戦意喪失するはず…まさか俺が『セイバー』だとわかってるわけじゃないよな…?
…そして、これほどの数の[異形]を使役しながら、[侵略者]はまだ出現してない。これまでの戦闘ではありえなかった…どういうからくりがある…?
…いずれにせよ、『起動装置』はまだ光らない。もう少し時間を稼ぐ必要がある…接触する前に、カレンをなるべくこの場から遠ざけなければ…
「…!」
視界の端に、倉庫裏に備えつけられたスタッフ用出入り口が見えた。
扉がわずかに半開いているのを認めた蒼矢は、背中で震えるカレンへささやく。
「…後ろに建物内に入れるドアがある。中に入ったらすぐ2階に上がって、なるべく建物の中心に逃げよう」
「…! わ、わかったわ…」
蒼矢が体で誘導しながら、ふたりは少しずつ扉へ近付いていく。
しかし開閉部に手がとどく寸前で、再び奇声をあげた[蠕虫]が触手を伸ばし、扉を叩きつけてひしゃげさせる。
開閉不能になった扉と眼前に迫った触手を見、蒼矢は咄嗟にカレンを連れて距離を置こうとするが、人外の脅威による破壊的な攻撃にカレンは腰を抜かしてしまい、その場に尻もちをつく。
動けなくなった彼女の腕に触手が巻きつき、身体が引っ張られて前倒しになる。
「や、あぁっ…!」
「カレン!」
蒼矢は引きずられていくカレンの前に入って触手を掴み、弾力性のあるそれを渾身の力で引きちぎる。
ぶちぶちと繊維が切れる度に、引っ張る[蠕虫]が鋭い悲鳴を漏らす。
全ての触手が切り離され、カレンを抱き起そうと手を伸ばしかけたところで、別の[蠕虫]から高速で伸ばされた新たな触手が網目に絡み、ひとまとまりの太い縄状になって襲いかかり、蒼矢の身体を薙ぐ。
「あ゛っ…!!」
触手に弾き飛ばされた蒼矢は、後方の建物外壁に叩きつけられる。
外壁沿いに束ねて置かれていた足場の管材を崩し、けたたましい音をさせながら地面へ落ち、がくりと頭を前傾し動かなくなった。
ひとの背丈をふたまわりほど越す巨大なそれは、硬質組織で構成されているにもかかわらず、腹部に見える部位が滑らかにぜん動していた。
体躯の尾部を地中へ埋めたまま、舗装された地面をめきめきと破壊しながらふたりへ距離を詰める。
ふたりを囲う三体の内、正面の[蠕虫]が鳴き声のような奇声をあげる。
立ちあがった頭頂部から、細長い紐状の器官がいくつも伸び、触手のようにうごめく。
それらの中央部には口器とみられる穴があり、開いたりすぼまったりを繰り返し、動かすたびに内部から消化液か単なる体液か見分けのつかない、粘り気のある分泌物が漏れ出て地面へ滴っていく。
異界の生物[異形]の、その奇怪でおぞましいさまにカレンは瞬時に恐怖に支配され、つかむ蒼矢の腕を支えにかろうじて立つ。
彼女を後ろ手に守りながら、蒼矢は懸命に頭を冷やし、状況の把握と策を巡らそうとしていた。
…この執拗な追跡…並の人間なら、一体で充分戦意喪失するはず…まさか俺が『セイバー』だとわかってるわけじゃないよな…?
…そして、これほどの数の[異形]を使役しながら、[侵略者]はまだ出現してない。これまでの戦闘ではありえなかった…どういうからくりがある…?
…いずれにせよ、『起動装置』はまだ光らない。もう少し時間を稼ぐ必要がある…接触する前に、カレンをなるべくこの場から遠ざけなければ…
「…!」
視界の端に、倉庫裏に備えつけられたスタッフ用出入り口が見えた。
扉がわずかに半開いているのを認めた蒼矢は、背中で震えるカレンへささやく。
「…後ろに建物内に入れるドアがある。中に入ったらすぐ2階に上がって、なるべく建物の中心に逃げよう」
「…! わ、わかったわ…」
蒼矢が体で誘導しながら、ふたりは少しずつ扉へ近付いていく。
しかし開閉部に手がとどく寸前で、再び奇声をあげた[蠕虫]が触手を伸ばし、扉を叩きつけてひしゃげさせる。
開閉不能になった扉と眼前に迫った触手を見、蒼矢は咄嗟にカレンを連れて距離を置こうとするが、人外の脅威による破壊的な攻撃にカレンは腰を抜かしてしまい、その場に尻もちをつく。
動けなくなった彼女の腕に触手が巻きつき、身体が引っ張られて前倒しになる。
「や、あぁっ…!」
「カレン!」
蒼矢は引きずられていくカレンの前に入って触手を掴み、弾力性のあるそれを渾身の力で引きちぎる。
ぶちぶちと繊維が切れる度に、引っ張る[蠕虫]が鋭い悲鳴を漏らす。
全ての触手が切り離され、カレンを抱き起そうと手を伸ばしかけたところで、別の[蠕虫]から高速で伸ばされた新たな触手が網目に絡み、ひとまとまりの太い縄状になって襲いかかり、蒼矢の身体を薙ぐ。
「あ゛っ…!!」
触手に弾き飛ばされた蒼矢は、後方の建物外壁に叩きつけられる。
外壁沿いに束ねて置かれていた足場の管材を崩し、けたたましい音をさせながら地面へ落ち、がくりと頭を前傾し動かなくなった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ガイアセイバーズ6.5 -在りし日の君と僕-
独楽 悠
青春
15年前、とある都心の住宅地に、若い家族が越してきた。
ひとり息子の蒼矢(ソウヤ)は、買い物に寄った酒屋の息子で同い年の烈(レツ)と出会い、初見で一方的に親友認定される。
見知らぬ土地で不安と緊張を抱える中、快活で人懐っこい彼に、奥手で少し浮世離れした性格を補って貰いながら、少しずつ友情を深めていく。
幾つもの転機が訪れ、その度に乗り越えてふたりで成長していく蒼矢と烈。
そして大人になる手前、彼らの今までの人生で並ぶものが無かったほどの、劇的な転機を迎える――
◆更新スケジュール:2023/2/1から20:40に、毎日更新
◆注意事項
*著者の投稿済作品群『ガイアセイバーズ』の小サブストーリー集です。
著者の頭の中にある過去ネタをかき集めて、ひとつの作品としてそれっぽく仕上げてみました。
* 全年齢対象作品です。
* ヒーロー要素はありません。
* 途中、関連する他作品の閲覧が必要になるシチュエーションが挟まります。
必須ではありませんが、著者の他ナンバリング作品へ目を通されていますとよりわかりやすくお読み頂けます。
なお、他作品は全てレーティング有(全てBL)ですのでご注意下さい。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる