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本編

第8話_地中からの怪異-4

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地面から出現したのは、コンクリートのがれきでできた灰色の[蠕虫ワーム]だった。
ひとの背丈をふたまわりほど越す巨大なそれは、硬質組織で構成されているにもかかわらず、腹部に見える部位が滑らかにぜん動していた。
体躯の尾部を地中へ埋めたまま、舗装された地面をめきめきと破壊しながらふたりへ距離を詰める。

ふたりを囲う三体の内、正面の[蠕虫ワーム]が鳴き声のような奇声をあげる。
立ちあがった頭頂部から、細長い紐状の器官がいくつも伸び、触手のようにうごめく。
それらの中央部には口器とみられる穴があり、開いたりすぼまったりを繰り返し、動かすたびに内部から消化液か単なる体液か見分けのつかない、粘り気のある分泌物が漏れ出て地面へ滴っていく。

異界の生物[異形]の、その奇怪でおぞましいさまにカレンは瞬時に恐怖に支配され、つかむ蒼矢ソウヤの腕を支えにかろうじて立つ。
彼女を後ろ手に守りながら、蒼矢は懸命に頭を冷やし、状況の把握と策を巡らそうとしていた。

…この執拗な追跡…並の人間なら、一体で充分戦意喪失するはず…まさか俺が『セイバー』だとわかってるわけじゃないよな…?
…そして、これほどの数の[異形]を使役しながら、[侵略者]はまだ出現してない。これまでの戦闘ではありえなかった…どういうからくりがある…?

…いずれにせよ、『起動装置鉱石』はまだ光らない。もう少し時間を稼ぐ必要がある…接触する前に、カレンをなるべくこの場から遠ざけなければ…

「…!」

視界の端に、倉庫裏に備えつけられたスタッフ用出入り口が見えた。
扉がわずかに半開いているのを認めた蒼矢は、背中で震えるカレンへささやく。

「…後ろに建物内に入れるドアがある。中に入ったらすぐ2階に上がって、なるべく建物の中心に逃げよう」
「…! わ、わかったわ…」

蒼矢が体で誘導しながら、ふたりは少しずつ扉へ近付いていく。
しかし開閉部に手がとどく寸前で、再び奇声をあげた[蠕虫ワーム]が触手を伸ばし、扉を叩きつけてひしゃげさせる。

開閉不能になった扉と眼前に迫った触手を見、蒼矢は咄嗟にカレンを連れて距離を置こうとするが、人外の脅威による破壊的な攻撃にカレンは腰を抜かしてしまい、その場に尻もちをつく。
動けなくなった彼女の腕に触手が巻きつき、身体が引っ張られて前倒しになる。

「や、あぁっ…!」
「カレン!」

蒼矢は引きずられていくカレンの前に入って触手を掴み、弾力性のあるそれを渾身の力で引きちぎる。
ぶちぶちと繊維が切れる度に、引っ張る[蠕虫ワーム]が鋭い悲鳴を漏らす。
全ての触手が切り離され、カレンを抱き起そうと手を伸ばしかけたところで、別の[蠕虫ワーム]から高速で伸ばされた新たな触手が網目に絡み、ひとまとまりの太い縄状になって襲いかかり、蒼矢の身体を薙ぐ。

「あ゛っ…!!」

触手に弾き飛ばされた蒼矢は、後方の建物外壁に叩きつけられる。

外壁沿いに束ねて置かれていた足場の管材を崩し、けたたましい音をさせながら地面へ落ち、がくりと頭を前傾し動かなくなった。
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