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本編
第7話_よぎる想い人のおもざし-1
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待ち合わせ場所の宿泊ホテルから出た蒼矢とカレンは、ひとまず電車で最初の目的地の台場へ着くとそこから湾岸線に沿って南下し、タクシーを使いつつ目的地を観光して回った。
途中、カレンが事前にリサーチしていた和食料理店でランチを食べ、腹がふくれて満足してから海岸沿いに整備された遊歩道をのんびり歩きつつ、陽の光を反射する海や観光船の係留する港の景色を観て楽しんだ。
日本語も英語も堪能なふたりの会話は、シチュエーションやその時の会話のテンションで公用語が使い分けられていたが、どちらかというとカレンが日本語での表現の言語化に苦心することが多く、時間がたつにつれ英語での会話頻度が多くなっていった。
湾岸が見渡せるティーサロンで休憩し、やがてオーダーしたふたり分のアフタヌーンティーセットが、パステルカラーのクロスがかぶさるテーブル一面に並べられる。
蒼矢がどこから手をつければいいか迷いの視線を漂わせていると、正面に座るカレンがため息まじりにつぶやいた。
「…本当にすごいわ、ソウヤ。どうしてそんなに英語が上手なの? 留学経験も海外旅行したこともないんでしょう?」
「うん。…母のお陰かな。小さい頃は、家で母と話す会話は全部英語だったから。児童書も英字版が多かったし」
「でも、ユイコさんはソウヤがほんの小さかった頃にはもう英国にいたんでしょう? 英会話に触れられる時間は短かったはずよね?」
「渡英したあとも、連絡くれる時の会話は必ず英語だった。たぶん母は、俺が忘れないように意識的に英語を使ってくれてたんじゃないかなって、今は思ってる。だから俺も、日本での英語の授業は大事にしようって意識に自然となれてた」
「愛されてるのね…」
目を細めながら感想をこぼすカレンの微笑みに、蒼矢は少し頬を染めながらも、複雑な表情を浮かべた。
「今通ってる大学では、外国語は専攻してないのよね?」
「うん、これ以上極めたいっていう気持ちまではないんだ。今のところは、論文を読み解くツールとしてありがたく使わせてもらってる」
さらりとそう述べる蒼矢に、カレンは今度は苦笑を返した。
「…もったいないわ、そんなに綺麗なブリティッシュなのに」
「そうかな」
「そうよ。日本人は第一外国語定着がなかなか進んでないみたいだし、あなたほど語学が堪能な人は、きっと貴重よ。ユイコさんからは語学以外もとても優秀だって聞いたし、きっと将来は日本にとどまらず世界で活躍できると思うわ」
返答に困ったように口をつぐむ蒼矢へ、カレンは視線を外し、ナプキンを広げて膝の上に敷きながら続ける。
「…ユイコさんは、ソウヤを日本へ置き去りにしてしまった、って事あるごとに漏らしてた。親なのに近くにいてあげられないことを、とても気に病んでいたわ」
「…!」
「渡英した時の彼女は、たぶん自分の夢を叶えたい一心だったと思うけど、ママと私に出会って少しずつ考え方が変わっていったみたいなの。愛があるなら家族は一緒に暮らして、ひとつ屋根の下でコミュニティーを築いていくべきだって」
両親の離婚と片親との離別を経験しているカレンの言は説得力を帯び、言葉端には少し熱がこもっているようだった。
「…うん」
彼女の言葉を受け止めながらも、蒼矢は静かに頷き返すことしかできなかった。
途中、カレンが事前にリサーチしていた和食料理店でランチを食べ、腹がふくれて満足してから海岸沿いに整備された遊歩道をのんびり歩きつつ、陽の光を反射する海や観光船の係留する港の景色を観て楽しんだ。
日本語も英語も堪能なふたりの会話は、シチュエーションやその時の会話のテンションで公用語が使い分けられていたが、どちらかというとカレンが日本語での表現の言語化に苦心することが多く、時間がたつにつれ英語での会話頻度が多くなっていった。
湾岸が見渡せるティーサロンで休憩し、やがてオーダーしたふたり分のアフタヌーンティーセットが、パステルカラーのクロスがかぶさるテーブル一面に並べられる。
蒼矢がどこから手をつければいいか迷いの視線を漂わせていると、正面に座るカレンがため息まじりにつぶやいた。
「…本当にすごいわ、ソウヤ。どうしてそんなに英語が上手なの? 留学経験も海外旅行したこともないんでしょう?」
「うん。…母のお陰かな。小さい頃は、家で母と話す会話は全部英語だったから。児童書も英字版が多かったし」
「でも、ユイコさんはソウヤがほんの小さかった頃にはもう英国にいたんでしょう? 英会話に触れられる時間は短かったはずよね?」
「渡英したあとも、連絡くれる時の会話は必ず英語だった。たぶん母は、俺が忘れないように意識的に英語を使ってくれてたんじゃないかなって、今は思ってる。だから俺も、日本での英語の授業は大事にしようって意識に自然となれてた」
「愛されてるのね…」
目を細めながら感想をこぼすカレンの微笑みに、蒼矢は少し頬を染めながらも、複雑な表情を浮かべた。
「今通ってる大学では、外国語は専攻してないのよね?」
「うん、これ以上極めたいっていう気持ちまではないんだ。今のところは、論文を読み解くツールとしてありがたく使わせてもらってる」
さらりとそう述べる蒼矢に、カレンは今度は苦笑を返した。
「…もったいないわ、そんなに綺麗なブリティッシュなのに」
「そうかな」
「そうよ。日本人は第一外国語定着がなかなか進んでないみたいだし、あなたほど語学が堪能な人は、きっと貴重よ。ユイコさんからは語学以外もとても優秀だって聞いたし、きっと将来は日本にとどまらず世界で活躍できると思うわ」
返答に困ったように口をつぐむ蒼矢へ、カレンは視線を外し、ナプキンを広げて膝の上に敷きながら続ける。
「…ユイコさんは、ソウヤを日本へ置き去りにしてしまった、って事あるごとに漏らしてた。親なのに近くにいてあげられないことを、とても気に病んでいたわ」
「…!」
「渡英した時の彼女は、たぶん自分の夢を叶えたい一心だったと思うけど、ママと私に出会って少しずつ考え方が変わっていったみたいなの。愛があるなら家族は一緒に暮らして、ひとつ屋根の下でコミュニティーを築いていくべきだって」
両親の離婚と片親との離別を経験しているカレンの言は説得力を帯び、言葉端には少し熱がこもっているようだった。
「…うん」
彼女の言葉を受け止めながらも、蒼矢は静かに頷き返すことしかできなかった。
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