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本編
第6話_兄貴分たちからの激励-2
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「今日は苡月いないんすか?」
「うん。一日図書館で勉強して、買い物してから帰るって言ってたよ」
腫れた指に湿布と指先用の固定サポーターを巻きながらそう答えると、葉月は怪訝な面持ちで烈をじっと見つめる。
「気をつけて。いくら体が丈夫でも、指までは鍛えようがないんだからね」
「…はい、すんません」
「元気ないけど…なにかあったの?」
「あー…、はい…」
蒼矢への思慕が知れて以降、烈は葉月へは、なにか聞かれれば素直にことの次第を明かすようになっていた。
葉月にどれほどの経験値があるのか、また果たしてこの筋への造詣が深いのかは知れなかったが、自分よりはよほど見識があり、きっと的を射たアドバイスがもらえるだろうと信頼を寄せてのことだった。
また彼は、なににおいてもふたつ返事で相談にのってくれるし、頭で整理する前に口走りがちな自分の話も黙って聞いてくれる、という安心感もあった。
烈は、蒼矢との旅行を予定立てた発端から流れてしまったところまでのいきさつを話して聞かせた。
「そっか、そんなことが…」
葉月は居間の隣の台所で昼食の準備をしながら耳をかたむけ、暗いトーンで語る烈の心情に寄りそった。
「いずれ機会があれば改めてって感じっすね。俺も蒼矢も行きたい気持ちはあるんで」
「そうだね。でも、次また予定を合わせて旅行にいくってのも結構難しそうだよね。蒼矢だけじゃなく、君だってお店があるんだし。年末年始以外無休でしょ? …今回のって、わりと貴重なチャンスだったんじゃないかな…」
「…そっすね…」
「そう考えると、僕はことさら残念に感じるなぁ…」
「…」
親身に同情の言葉を重ねられ、烈は黙ったまま再び頭をテーブルへごつんと落とした。
「ごめんね、追い打ちをかけてしまったね。でも、これが僕の素直な感想」
伏せる烈の前に、葉月は昼食のパスタとサラダの大皿を並べた。
「まぁ一旦忘れよう。冷めちゃうから食べて」
「おー、旨そうじゃん。俺にも分けてよ」
と、居間の障子が開き、黒革のライダース姿の男が悪戯気な笑みを浮かべながら現れた。
「…影斗…!?」
「おひさー」
「うん。一日図書館で勉強して、買い物してから帰るって言ってたよ」
腫れた指に湿布と指先用の固定サポーターを巻きながらそう答えると、葉月は怪訝な面持ちで烈をじっと見つめる。
「気をつけて。いくら体が丈夫でも、指までは鍛えようがないんだからね」
「…はい、すんません」
「元気ないけど…なにかあったの?」
「あー…、はい…」
蒼矢への思慕が知れて以降、烈は葉月へは、なにか聞かれれば素直にことの次第を明かすようになっていた。
葉月にどれほどの経験値があるのか、また果たしてこの筋への造詣が深いのかは知れなかったが、自分よりはよほど見識があり、きっと的を射たアドバイスがもらえるだろうと信頼を寄せてのことだった。
また彼は、なににおいてもふたつ返事で相談にのってくれるし、頭で整理する前に口走りがちな自分の話も黙って聞いてくれる、という安心感もあった。
烈は、蒼矢との旅行を予定立てた発端から流れてしまったところまでのいきさつを話して聞かせた。
「そっか、そんなことが…」
葉月は居間の隣の台所で昼食の準備をしながら耳をかたむけ、暗いトーンで語る烈の心情に寄りそった。
「いずれ機会があれば改めてって感じっすね。俺も蒼矢も行きたい気持ちはあるんで」
「そうだね。でも、次また予定を合わせて旅行にいくってのも結構難しそうだよね。蒼矢だけじゃなく、君だってお店があるんだし。年末年始以外無休でしょ? …今回のって、わりと貴重なチャンスだったんじゃないかな…」
「…そっすね…」
「そう考えると、僕はことさら残念に感じるなぁ…」
「…」
親身に同情の言葉を重ねられ、烈は黙ったまま再び頭をテーブルへごつんと落とした。
「ごめんね、追い打ちをかけてしまったね。でも、これが僕の素直な感想」
伏せる烈の前に、葉月は昼食のパスタとサラダの大皿を並べた。
「まぁ一旦忘れよう。冷めちゃうから食べて」
「おー、旨そうじゃん。俺にも分けてよ」
と、居間の障子が開き、黒革のライダース姿の男が悪戯気な笑みを浮かべながら現れた。
「…影斗…!?」
「おひさー」
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