25 / 70
本編
第4話_母の依頼と、父の助言-5
しおりを挟む
蒼矢が淡々とした返答に努めていると、父は更に続けて問いかけた。
「烈君はどうしてる」
なんの前ぶれもなく烈の名前を突然出され、蒼矢は内心大きく動揺する。
「最近も会ってるのか? 元気にしてるか、彼は」
「…っ! はい、今日もさっきまで会って話してました。…相変わらず元気です。この間の父さんの福岡土産も、とても喜んでくれてました。珠代おばさんも気に入ったみたいで、今度直にお取り寄せするって言ってました」
「そうか」
「店の方も…仕入れや配達も、快おじさん並にこなせるようになってきたって、おばさんが。本人には伝えてないそうですが」
「…運転にはくれぐれも気をつけるように伝えておいてくれ」
「はい」
少し焦りながらも近況をまじえて伝えると、静矢はゆっくり頷きながらそう返し、ソファから腰をあげる。
話が終わったことを察し、蒼矢も遅れて立ちあがる。
顔をあげると、いつの間にかこちらを見ていた静矢と目が合った。
眼鏡の奥にある一重の眼差しは、印象深い鋭さを帯びつつも、静かに息子を見つめていた。
「近しい友人は、今後も変わらず大事にしなさい」
そう言い、蒼矢の返答を聞く前に静矢は視線を外し、ダイニングテーブルへと戻っていった。
「…はい」
口元で小さくこたえ、父の背中へ向けて会釈してから、蒼矢はリビングから退室していく。
階段をあがりながら、蒼矢は高鳴る鼓動を少しずつおさめていった。
そもそもこれほど長く会話をすること自体久しぶりだったのだが、父の常の言動からは予想のつかない話題を出され、シチュエーションへの喜び以上に戸惑いが先走ってしまっていた。
静矢は、シャープな面差しに基本オールバックというルックスで、いかなるシーンでも身だしなみや所作を非のうち所なく整えており、加えて多くは語らない寡黙さと鋭い眼光から、大抵の相手へ近寄りがたい印象を与えがちな男だった。
息子である蒼矢でさえ、近しい立場なりに人間性は理解しつつも、一歩さがって後ろからうかがうような、畏敬する存在だった。
そんな父から思いがけない言葉をかけられ、蒼矢は意図が読めなさ過ぎて困惑しきりだった。
静矢をはじめとした髙城家・花房家の大人たちが、蒼矢と烈の間で認めているだろう"友人"という相関は、今や過去のものになっている。
『セイバー』についてもしかり、家族へは不要な波風をたてぬよう生きている蒼矢にそれを明かす考えは毛頭ないし、特にこちらからはなにも説き伏せてはいないものの、おそらく烈も自分から能動的に家族へ明かすことはないだろう。
変わらない日常の中にありながら進展しているふたりの関係は、ふたり以外誰も知らない。
「……っ!」
隠しごとをしているがゆえの様々な憶測が脳裏をよぎったが、今はそんな場合ではないと頭を振ってかき消し、3階の自室へ入るとすぐにスマホに指を触れた。
「烈君はどうしてる」
なんの前ぶれもなく烈の名前を突然出され、蒼矢は内心大きく動揺する。
「最近も会ってるのか? 元気にしてるか、彼は」
「…っ! はい、今日もさっきまで会って話してました。…相変わらず元気です。この間の父さんの福岡土産も、とても喜んでくれてました。珠代おばさんも気に入ったみたいで、今度直にお取り寄せするって言ってました」
「そうか」
「店の方も…仕入れや配達も、快おじさん並にこなせるようになってきたって、おばさんが。本人には伝えてないそうですが」
「…運転にはくれぐれも気をつけるように伝えておいてくれ」
「はい」
少し焦りながらも近況をまじえて伝えると、静矢はゆっくり頷きながらそう返し、ソファから腰をあげる。
話が終わったことを察し、蒼矢も遅れて立ちあがる。
顔をあげると、いつの間にかこちらを見ていた静矢と目が合った。
眼鏡の奥にある一重の眼差しは、印象深い鋭さを帯びつつも、静かに息子を見つめていた。
「近しい友人は、今後も変わらず大事にしなさい」
そう言い、蒼矢の返答を聞く前に静矢は視線を外し、ダイニングテーブルへと戻っていった。
「…はい」
口元で小さくこたえ、父の背中へ向けて会釈してから、蒼矢はリビングから退室していく。
階段をあがりながら、蒼矢は高鳴る鼓動を少しずつおさめていった。
そもそもこれほど長く会話をすること自体久しぶりだったのだが、父の常の言動からは予想のつかない話題を出され、シチュエーションへの喜び以上に戸惑いが先走ってしまっていた。
静矢は、シャープな面差しに基本オールバックというルックスで、いかなるシーンでも身だしなみや所作を非のうち所なく整えており、加えて多くは語らない寡黙さと鋭い眼光から、大抵の相手へ近寄りがたい印象を与えがちな男だった。
息子である蒼矢でさえ、近しい立場なりに人間性は理解しつつも、一歩さがって後ろからうかがうような、畏敬する存在だった。
そんな父から思いがけない言葉をかけられ、蒼矢は意図が読めなさ過ぎて困惑しきりだった。
静矢をはじめとした髙城家・花房家の大人たちが、蒼矢と烈の間で認めているだろう"友人"という相関は、今や過去のものになっている。
『セイバー』についてもしかり、家族へは不要な波風をたてぬよう生きている蒼矢にそれを明かす考えは毛頭ないし、特にこちらからはなにも説き伏せてはいないものの、おそらく烈も自分から能動的に家族へ明かすことはないだろう。
変わらない日常の中にありながら進展しているふたりの関係は、ふたり以外誰も知らない。
「……っ!」
隠しごとをしているがゆえの様々な憶測が脳裏をよぎったが、今はそんな場合ではないと頭を振ってかき消し、3階の自室へ入るとすぐにスマホに指を触れた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
とろけてなくなる
瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。
連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。
雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。
無骨なヤクザ×ドライな少年。
歳の差。
26歳童貞聖姫、3王子に溺愛される~オレ、童貞なのに子供産めるって?
金剛@キット
BL
アニメオタク。26歳童貞。下越リョータ、異世界召喚されるなら勇者希望。「オレも異世界召喚されて、ハーレム体験してぇ~…」ある日突然、リョータの夢が叶った。…BLだけど。
【完結】A市男性誘拐監禁事件
若目
BL
1月某日19時頃、18歳の男性が行方不明になった。
男性は自宅から1.5㎞離れた場所に住む40歳の会社員の男に誘拐、監禁されていたのだ。
しかし、おかしな点が多々あった。
男性は逃げる機会はあったのに、まるで逃げなかったばかりか、犯人と買い物に行ったり犯人の食事を作るなどして徹底的に尽くし、逮捕時には減刑を求めた。
男性は犯人と共に過ごすうち、犯人に同情、共感するようになっていたのだ。
しかし、それは男性に限ったことでなかった…
誘拐犯×被害者のラブストーリーです。
性描写、性的な描写には※つけてます
作品内の描写には犯罪行為を推奨、賛美する意図はございません。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
堕ちた英雄
風祭おまる
BL
盾の英雄と呼ばれるオルガ・ローレンスタは、好敵手との戦いに敗れ捕虜となる。
武人としての死を望むオルガだが、待っていたのは真逆の性奴隷としての生だった。
若く美しい皇帝に夜毎嬲られ、オルガは快楽に堕されてゆく。
第一部
※本編は一切愛はなく救いもない、ただおっさんが快楽堕ちするだけの話です
※本編は下衆遅漏美青年×堅物おっさんです
※下品です
※微妙にスカ的表現(ただし、後始末、準備)を含みます
※4話目は豪快おっさん×堅物おっさんで寝取られです。ご注意下さい
第二部
※カップリングが変わり、第一部で攻めだった人物が受けとなります
※要所要所で、ショタ×爺表現を含みます
※一部死ネタを含みます
※第一部以上に下品です
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
溺愛お兄ちゃんとドMの弟くん
枕
BL
※注意※
♡ハートが乱れ飛びます♡
苦手な方は回避お願いします。
内面もさることながら容姿が並外れて良い兄弟がいた。兄は全てを許されるタイプの美形、弟は何かと被害に遭いやすい美形だ。
兄は弟を深く愛し、弟は兄を尊敬し愛していた。
そしていつからだろうか、弟は兄にこうせがむようになった。
「兄さん、僕のこと縛って……?」
「兄さん、踏んでほしいの」
「ねえ兄さん、……ひどいことして……?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる