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本編
第10話_ささやかな埋め合わせ
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数日後、学校から帰宅の路についていた蒼矢は最寄り駅の改札を抜け、いつもの帰り道を歩いていた。
少し人通りのある小さな商店街へ差しかかると、立ち並ぶ小店の中から、ツンツン頭の少年が蒼矢が通りかかるタイミングを見計らっていたかのように飛び出てきた。
「あーっ、蒼矢!! やーっと会えたぁー」
ツンツン少年はため息混じりに大口を開け、指を差しながら蒼矢へ近付いてくる。
「…烈、人を指差すな」
片眉をあげ、眼鏡を光らせる蒼矢へ、"烈"と呼ばれたその少年――花房 烈は、あわあわともう片方の手で指差した手を引っ込めると、すぐに表情を戻してずいっと寄ってきた。
「? なんだよ…」
「お前何日か前、家に居なかったろ? どこ行ってたんだ?」
「!」
烈の言う、家を留守にしていた日が葉月宅へお世話になっていた日だとすぐにわかり、蒼矢ははっとして口をつぐんだ。
「玄関の電気灯いてねぇし、呼び鈴鳴らしても出て来ねぇし…なんだったんだよ、親父さんの用だったのか?」
「いや、そういうんじゃ…」
「じゃあ、どっか泊ってたのか? 影斗ん家か?」
「! 先輩の家じゃないけど…別のお宅に…ちょっと」
「ふぅん、そうだったのかぁ。にしてもさぁ、携帯くらい出ろよな! めっちゃ鳴らしたけど全然出てくれなかったじゃんか」
「あ…悪い、電源切ってた…」
頬を膨らませながら詰めてくる烈の剣幕に、何も言い訳できない蒼矢は素直に頭を下げた。
そのつむじを見ていくらか気が落ち着いたのか、烈は眉を寄せながらもぼそりともらす。
「…頼むから、連絡つくようにしといてくれよ。こないだのことがあるから、俺すげー心配したんだからな。母ちゃんも顔見たがってたぞ」
「…ごめん」
蒼矢と烈は幼少期からの幼馴染で、中学以来学校は違えどお互いに一番近しい友人として関係が続いていて、"空気"のような存在と認め合う仲だった。また家族ぐるみでも交流があり、蒼矢はたまに花房家の夕食のご相伴にあずかっていて、烈の両親からも大変可愛がられている。
そんな両家だったが、つい最近蒼矢にまつわるトラブルに花房家一同も関わることとなり、落ち着くまでしばらく気を揉ませたばかりだった。
「おじさんとおばさんには、改めてきちんと挨拶に行くよ」
「おう! かしこまったのはいいから近いうちに夕飯食いに来いよ、カレー作ってくれるよう頼んどくからさ。お前うちの母ちゃんのカレー好きだろ?」
「うん」
お互いに少し頬を染めながらそう同意すると、蒼矢は肩の鞄をかけ直す。
「じゃ、また」
「いやいや、ちょっと待てよ」
「?」
用は済んだと足を進めようとする蒼矢を止め、烈は振り返る彼を軽く睨んだ。
「俺への礼がまだだろ」
「え?」
「え、じゃねーよ! 俺のお前への気持ちはどうでもいいってのか!? 不公平だ!!」
烈は腰に手を当てて仁王立ちになり、蒼矢へ頬を膨らませてみせる。少し滑稽に見えたものの彼自身は至って真面目に怒っているようで、その意を酌んで蒼矢は向き直り、同じように真剣な視線を返した。
「そうだったな。怪我した件でもこの前も、お前には心配かけた。…どうすればいい?」
「…買い物」
「…ん?」
蒼矢に見守られる中、烈は勢いよくズボンのポケットへ手を突っ込むと、両手でわさわさと整えてから彼の目の前にB5大の用紙を広げてみせた。
「ここ、行くぞ!」
ややしわの寄ったコピー紙には、近郊のショッピングモールの中広場で開催されるフリーマーケットの案内がしたためられていた。
目を点にしながら文面を読む蒼矢へ、依然興奮した面持ちで烈は訴えかけた。
「前から月一くらいでやっててさ、一度行ってみたかったんだよ! この辺の住民の持ちよりらしくて、ミニ四駆とかプラモとか出してるやつがいるんだって。掘り出しもんもあるかもしれねぇし、面白そうだろ?」
「それくらいお前だけで行けば…」
「それじゃつまんねぇしっ…なにより一人じゃ買いにくいだろーが! 俺はお前と行きたいんだよぉ!」
「あぁ…ごめん。わかったよ、一緒に行こう」
再び熱くなりだしそうなところをなだめつつ蒼矢が了承すると、烈は片腕をあげてガッツポーズを決めた。
「よっし、決まり! 安心しろ、お前の好きそうな古本とか専門書出してるやつもいるみたいだから。退屈しねぇと思うぜ」
「ふぅん…そうなんだ」
一つ頷き、視線を用紙から烈へと戻すと、彼は頬を紅潮させながらにっかりと笑っていた。
その表情を見、つられるように蒼矢はくすりと笑った。
「? なんだよ」
「…お前は本当にお手頃な奴だなと思ってさ」
「…? どういう意味?」
「いや、なんでも。で、いつ行くんだ?」
「! そうそう、今度の土曜11時! 絶対だからな、キャンセル禁止!」
「…了解」
少し人通りのある小さな商店街へ差しかかると、立ち並ぶ小店の中から、ツンツン頭の少年が蒼矢が通りかかるタイミングを見計らっていたかのように飛び出てきた。
「あーっ、蒼矢!! やーっと会えたぁー」
ツンツン少年はため息混じりに大口を開け、指を差しながら蒼矢へ近付いてくる。
「…烈、人を指差すな」
片眉をあげ、眼鏡を光らせる蒼矢へ、"烈"と呼ばれたその少年――花房 烈は、あわあわともう片方の手で指差した手を引っ込めると、すぐに表情を戻してずいっと寄ってきた。
「? なんだよ…」
「お前何日か前、家に居なかったろ? どこ行ってたんだ?」
「!」
烈の言う、家を留守にしていた日が葉月宅へお世話になっていた日だとすぐにわかり、蒼矢ははっとして口をつぐんだ。
「玄関の電気灯いてねぇし、呼び鈴鳴らしても出て来ねぇし…なんだったんだよ、親父さんの用だったのか?」
「いや、そういうんじゃ…」
「じゃあ、どっか泊ってたのか? 影斗ん家か?」
「! 先輩の家じゃないけど…別のお宅に…ちょっと」
「ふぅん、そうだったのかぁ。にしてもさぁ、携帯くらい出ろよな! めっちゃ鳴らしたけど全然出てくれなかったじゃんか」
「あ…悪い、電源切ってた…」
頬を膨らませながら詰めてくる烈の剣幕に、何も言い訳できない蒼矢は素直に頭を下げた。
そのつむじを見ていくらか気が落ち着いたのか、烈は眉を寄せながらもぼそりともらす。
「…頼むから、連絡つくようにしといてくれよ。こないだのことがあるから、俺すげー心配したんだからな。母ちゃんも顔見たがってたぞ」
「…ごめん」
蒼矢と烈は幼少期からの幼馴染で、中学以来学校は違えどお互いに一番近しい友人として関係が続いていて、"空気"のような存在と認め合う仲だった。また家族ぐるみでも交流があり、蒼矢はたまに花房家の夕食のご相伴にあずかっていて、烈の両親からも大変可愛がられている。
そんな両家だったが、つい最近蒼矢にまつわるトラブルに花房家一同も関わることとなり、落ち着くまでしばらく気を揉ませたばかりだった。
「おじさんとおばさんには、改めてきちんと挨拶に行くよ」
「おう! かしこまったのはいいから近いうちに夕飯食いに来いよ、カレー作ってくれるよう頼んどくからさ。お前うちの母ちゃんのカレー好きだろ?」
「うん」
お互いに少し頬を染めながらそう同意すると、蒼矢は肩の鞄をかけ直す。
「じゃ、また」
「いやいや、ちょっと待てよ」
「?」
用は済んだと足を進めようとする蒼矢を止め、烈は振り返る彼を軽く睨んだ。
「俺への礼がまだだろ」
「え?」
「え、じゃねーよ! 俺のお前への気持ちはどうでもいいってのか!? 不公平だ!!」
烈は腰に手を当てて仁王立ちになり、蒼矢へ頬を膨らませてみせる。少し滑稽に見えたものの彼自身は至って真面目に怒っているようで、その意を酌んで蒼矢は向き直り、同じように真剣な視線を返した。
「そうだったな。怪我した件でもこの前も、お前には心配かけた。…どうすればいい?」
「…買い物」
「…ん?」
蒼矢に見守られる中、烈は勢いよくズボンのポケットへ手を突っ込むと、両手でわさわさと整えてから彼の目の前にB5大の用紙を広げてみせた。
「ここ、行くぞ!」
ややしわの寄ったコピー紙には、近郊のショッピングモールの中広場で開催されるフリーマーケットの案内がしたためられていた。
目を点にしながら文面を読む蒼矢へ、依然興奮した面持ちで烈は訴えかけた。
「前から月一くらいでやっててさ、一度行ってみたかったんだよ! この辺の住民の持ちよりらしくて、ミニ四駆とかプラモとか出してるやつがいるんだって。掘り出しもんもあるかもしれねぇし、面白そうだろ?」
「それくらいお前だけで行けば…」
「それじゃつまんねぇしっ…なにより一人じゃ買いにくいだろーが! 俺はお前と行きたいんだよぉ!」
「あぁ…ごめん。わかったよ、一緒に行こう」
再び熱くなりだしそうなところをなだめつつ蒼矢が了承すると、烈は片腕をあげてガッツポーズを決めた。
「よっし、決まり! 安心しろ、お前の好きそうな古本とか専門書出してるやつもいるみたいだから。退屈しねぇと思うぜ」
「ふぅん…そうなんだ」
一つ頷き、視線を用紙から烈へと戻すと、彼は頬を紅潮させながらにっかりと笑っていた。
その表情を見、つられるように蒼矢はくすりと笑った。
「? なんだよ」
「…お前は本当にお手頃な奴だなと思ってさ」
「…? どういう意味?」
「いや、なんでも。で、いつ行くんだ?」
「! そうそう、今度の土曜11時! 絶対だからな、キャンセル禁止!」
「…了解」
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