上 下
11 / 23
本編

第10話_ささやかな埋め合わせ

しおりを挟む
数日後、学校から帰宅の路についていた蒼矢ソウヤは最寄り駅の改札を抜け、いつもの帰り道を歩いていた。
少し人通りのある小さな商店街へ差しかかると、立ち並ぶ小店の中から、ツンツン頭の少年が蒼矢が通りかかるタイミングを見計らっていたかのように飛び出てきた。
「あーっ、蒼矢!! やーっと会えたぁー」
ツンツン少年はため息混じりに大口を開け、指を差しながら蒼矢へ近付いてくる。
「…レツ、人を指差すな」
片眉をあげ、眼鏡を光らせる蒼矢へ、"烈"と呼ばれたその少年――花房 烈ハナブサ レツは、あわあわともう片方の手で指差した手を引っ込めると、すぐに表情を戻してずいっと寄ってきた。
「? なんだよ…」
「お前何日か前、家に居なかったろ? どこ行ってたんだ?」
「!」
烈の言う、家を留守にしていた日が葉月ハヅキ宅へお世話になっていた日だとすぐにわかり、蒼矢ははっとして口をつぐんだ。
「玄関の電気灯いてねぇし、呼び鈴鳴らしても出て来ねぇし…なんだったんだよ、親父さんの用だったのか?」
「いや、そういうんじゃ…」
「じゃあ、どっか泊ってたのか? 影斗エイトん家か?」
「! 先輩の家じゃないけど…別のお宅に…ちょっと」
「ふぅん、そうだったのかぁ。にしてもさぁ、携帯くらい出ろよな! めっちゃ鳴らしたけど全然出てくれなかったじゃんか」
「あ…悪い、電源切ってた…」
頬を膨らませながら詰めてくる烈の剣幕に、何も言い訳できない蒼矢は素直に頭を下げた。
そのつむじを見ていくらか気が落ち着いたのか、烈は眉を寄せながらもぼそりともらす。
「…頼むから、連絡つくようにしといてくれよ。こないだのことがあるから、俺すげー心配したんだからな。母ちゃんも顔見たがってたぞ」
「…ごめん」
蒼矢と烈は幼少期からの幼馴染で、中学以来学校は違えどお互いに一番近しい友人として関係が続いていて、"空気"のような存在と認め合う仲だった。また家族ぐるみでも交流があり、蒼矢はたまに花房家の夕食のご相伴にあずかっていて、烈の両親からも大変可愛がられている。
そんな両家だったが、つい最近蒼矢にまつわるトラブルに花房家一同も関わることとなり、落ち着くまでしばらく気を揉ませたばかりだった。
「おじさんとおばさんには、改めてきちんと挨拶に行くよ」
「おう! かしこまったのはいいから近いうちに夕飯食いに来いよ、カレー作ってくれるよう頼んどくからさ。お前うちの母ちゃんのカレー好きだろ?」
「うん」
お互いに少し頬を染めながらそう同意すると、蒼矢は肩の鞄をかけ直す。
「じゃ、また」
「いやいや、ちょっと待てよ」
「?」
用は済んだと足を進めようとする蒼矢を止め、烈は振り返る彼を軽く睨んだ。
「俺への礼がまだだろ」
「え?」
「え、じゃねーよ! 俺のお前への気持ちはどうでもいいってのか!? 不公平だ!!」
烈は腰に手を当てて仁王立ちになり、蒼矢へ頬を膨らませてみせる。少し滑稽に見えたものの彼自身は至って真面目に怒っているようで、その意を酌んで蒼矢は向き直り、同じように真剣な視線を返した。
「そうだったな。怪我した件でもこの前も、お前には心配かけた。…どうすればいい?」
「…買い物」
「…ん?」
蒼矢に見守られる中、烈は勢いよくズボンのポケットへ手を突っ込むと、両手でわさわさと整えてから彼の目の前にB5大の用紙を広げてみせた。
「ここ、行くぞ!」
ややしわの寄ったコピー紙には、近郊のショッピングモールの中広場で開催されるフリーマーケットの案内がしたためられていた。
目を点にしながら文面を読む蒼矢へ、依然興奮した面持ちで烈は訴えかけた。
「前から月一くらいでやっててさ、一度行ってみたかったんだよ! この辺の住民の持ちよりらしくて、ミニ四駆とかプラモとか出してるやつがいるんだって。掘り出しもんもあるかもしれねぇし、面白そうだろ?」
「それくらいお前だけで行けば…」
「それじゃつまんねぇしっ…なにより一人じゃ買いにくいだろーが! 俺はお前と行きたいんだよぉ!」
「あぁ…ごめん。わかったよ、一緒に行こう」
再び熱くなりだしそうなところをなだめつつ蒼矢が了承すると、烈は片腕をあげてガッツポーズを決めた。
「よっし、決まり! 安心しろ、お前の好きそうな古本とか専門書出してるやつもいるみたいだから。退屈しねぇと思うぜ」
「ふぅん…そうなんだ」
一つ頷き、視線を用紙から烈へと戻すと、彼は頬を紅潮させながらにっかりと笑っていた。
その表情を見、つられるように蒼矢はくすりと笑った。
「? なんだよ」
「…お前は本当にお手頃な奴だなと思ってさ」
「…? どういう意味?」
「いや、なんでも。で、いつ行くんだ?」
「! そうそう、今度の土曜11時! 絶対だからな、キャンセル禁止!」
「…了解」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

学校の脇の図書館

理科準備室
BL
図書係で本の好きな男の子の「ぼく」が授業中、学級文庫の本を貸し出している最中にうんこがしたくなります。でも学校でうんこするとからかわれるのが怖くて必死に我慢します。それで何とか終わりの会までは我慢できましたが、もう家までは我慢できそうもありません。そこで思いついたのは学校脇にある市立図書館でうんこすることでした。でも、学校と違って市立図書館には中高生のおにいさん・おねえさんやおじいさんなどいろいろな人が・・・・。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。

ガイアセイバーズ2 -海の妖-

独楽 悠
BL
少し気晴らしに来ただけなのに…! 異なる世界線から現世を襲いに来る異形の者(侵略者)達から地球を防衛する使命を受け、日々戦い続けるガイアセイバーズ。梅雨明けたばかりの7月、プチ旅行の計画を立てた一行は週末を利用して国内リゾート地へ。しかしそこに待ち受けていたのは、安息ではなく災難だった… 初稿『ガイアセイバーズ -GAIA SAVERS-』に続く次回作。 ◆完結済(2021/6/14) ◆注意事項(下記ご心配な方は作品閲覧をお控え下さい) ・一部年齢制限表現有(各話タイトルで判別可能です) ・フェティシズム要素有。 ・残酷な描写はありませんが、若干リョナと流血有。 ・細部端折っている部分があります。  初稿『ガイアセイバーズ GAIA SAVERS-』を先に読まれることをお勧めします。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

至宝のオメガ~異世界のゴタゴタに巻き込まれるのなんてゴメンなんだけど~

にあ
BL
☆永遠の中二病だと思ってたラノベ作家のオヤジの戯言がホントだったなんて☆ うちのオヤジは中二病全開の現役ラノベ作家で、息子の俺がいないと身の回りの事は一つも出来ねぇダメダメな40男。顔だけは超絶美形だけどな。そんなオヤジの美形遺伝子を引き継がなかった平凡な俺は、今日もいつもの一日を過ごしていた。だけど突然歯車は動き出す。まさか、オヤジが言ってた数々の中二病発言が、全部本当の事だったとは。で、俺が至宝のオメガ!?オメガを手にした者は黄金郷すべての富、人、権力を思い通りに出来る力を手に入れられるだと?だけど俺は運命に翻弄されるなんて絶対ゴメンだ!全力で抗わせて貰うぜ! ※現代日本パートと異世界パートがあります。 ※主人公蒼真メインの時は蒼真の一人称、それ以外の部分は三人称で進みます。 ※オメガという名前は使ってますがオメガバース設定ではないので、発情、妊娠出産等はしないです。 オメガ=究極の存在的な意味です。(FFシリーズの方をイメージして貰えると・・・) 性描写は終盤まで殆どない予定です。 ムーンライトノベルズ、カクヨム、エブリスタ等にも投稿してます。

処理中です...