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本編

第3話_暗がりの散食(R18)

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少し波立った導入だったものの稽古は滞りなく終わり、結局終始葉月ハヅキに指導を受けていた蒼矢ソウヤは、稽古後の彼に付き添って道場内の後片付けをしていた。同じように清掃を手伝っていた他の生徒たちも、ひとりまたひとりと更衣室へ消え、最後は葉月と蒼矢の二人だけになる。
「ありがとう、髙城タカシロ君。ごめんね付き合わせちゃって…」
「大丈夫です、家近いですし…今日はもう帰るだけですから」
「あぁ、ご飯食べていかない? 好きなもの用意するよ」
「! いえ、お気持ちだけ…」
「そう? …じゃあ、また今度ね」
少し未練がましそうに返すと、葉月は蒼矢の手に持つ雑巾を受け取る。
「あとは僕一人で大丈夫。またいつでも都合のいい時に習いに来てね」
「はい」
「更衣室の隣にシャワールームがあるから、好きに使っていいよ。――もう日がだいぶ落ちてるから、気をつけて帰ってね」
「はい、ありがとうございました」
そう頭を下げると、蒼矢は道場をあとにし更衣室へ向かう。シャワー室も案内されたが、季節的にそれほど汗をかいていないし、また今度利用させてもらうことにする。
更衣室へ入ると他の生徒はみんな帰り、誰もいなくなっていた。
ロッカーに鍵を挿し、貸しサンダルを脱いで通路間に設けられた長椅子に腰かけると、道着の帯に手をかける。
「……?」
その時ふと、背後の更衣室入り口付近に何かの気配を感じた気がした。蒼矢は振り返り、そろそろと扉へ向かう。
楠瀬クスノセ先生…かな?
扉から首を出し、あたりを見渡してみる。
「……」
気のせいだったかと思い、息をついてから室内へ戻りかける彼の横顔に、ふいに生温かい湿気が漂った。その、どこか不穏な空気の異変に視線を戻すと同時に、口を塞がれ身体が強い力で更衣室内へ押し込まれた。
「――!!」
一瞬後に背をロッカーに打ちつけられ、衝撃と痛みで蒼矢の顔が歪む。思わず閉じてしまった目を恐るおそる開くと、眼前に見えたもの・・に双眸を見開いた。
それ・・は、土気色の肌に水分が抜けきった髪を貼りつかせ、瞼から飛び出そうな眼で蒼矢を見下ろしていた。黄ばんだ結膜を血走らせて顔中には脂汗が滲み、人間離れした鋭い歯列の間から赤い口腔を覗かせている。
その奇怪な姿に、蒼矢は瞬きをすることも忘れたまま硬直し、言葉を失った。
「…くそっ、もう限界だ…、青過ぎるが…仕方ねぇ……」
固まった"標的"をなおも押さえつけながら、"それ"は低い声でつぶやく。声質から男と思われるが、あまりに異様な顔貌は、そも"人間"と認めることすら危うい。仮にとするが、その"男"は、身体に何らかの異常を抱えているのか息を乱し、苦しげに漏れる熱い息が蒼矢の顔にかかる。
おぞましいほどの不快感に、悪寒を覚えて身体を震わすと、男はそのわずかな獲物の反応を過敏に察知し、口を塞いでいた手を首にかけ、更に圧力をかけ始めた。
「っぁ…、くぅ…!」
「! へぇ…いい声で鳴くじゃねぇか…」
苦しさに漏れたか細い悲鳴に、予想外に昂ったのか男は口角を上げ、首を掴んだまま更衣室内を進み、長椅子に彼を押し倒した。
「動くんじゃねぇぞ…八つ裂きにされたくなければな」
仰向けに寝せた蒼矢の上に重なり、細い首を握ったままそう凄むと、道着の重ねを広げて肌を露わにさせる。剥き出しになる均整の取れた上半身に男は喉を動かすと、開いている手を白い肌に伸ばしていく。
「……っ…!」
蒼矢の意識は、完全に"恐怖"に支配されてしまっていた。
今までの十余年の中で、誘いや支配欲求をにじませる言葉をかけられること、下心を持って顔や身体に触れられることは何度も経験してきた。不本意ながら、随分慣らされてきたと思っていた。…しかしそれは大きな勘違いだった。いつもなら拒絶できる声が、叫べる声が、かけらも発することができない。
肌理細かな柔肌に、手がふれる。触る方は心地良いかもしれないが、ごわつく掌で撫でられる側にはおぞましさしかない。しかし絶妙な圧迫感で辿られる感触に、怖気とは別の反応が段々と蒼矢の身体を巡りはじめる。
柔らかな腹を、鋭く爪を伸ばした男の手がその弾力を楽しむように滑っていく。次第に胸に無意味に備わった二つの小さな乳首が誇張し、硬くなっていく。そして手は腹から胸へ伝い、指の腹でその突起を転がした。
「…んっ…!」
痛みと、びりっと痺れるような感覚に、蒼矢は目をつぶり、顎を上げる。
男の手が首から離れ、華奢な体躯へ包みこむように這わせると、舌で乳首を舐めあげた。
「っん、あぁっ…!!」
味わったことのない感覚に、思わずひと際大きな声がこぼれる。戸惑ういとまも取れないまま息はあがり、浅くくり返す呼吸に頬が紅潮していく。
「…思ったよりいい反応だな…もう勃ってるんじゃねぇか」
徐々にはっきりと応えていく様子を見、男は手を彼の股間へあてがい、形を確かめるように握り込んだ。
「……!!」
ふいに秘部を揉まれ、ショックで目と口を開けたまま蒼矢は絶句した。
「…まだだな。こんなチンケじゃ全部出し切っても足りねぇ…くそ、早いとこ搾取しねぇと…」
顔を歪めながら舌打ちした男は、彼の上半身を乱暴に持ち上げて道着の中から背に両腕を回し、傾く頭に顔を寄せていく。混乱する思考に焦点の合わない双眸が、ぎらつく男の目を眼前にはっきりととらえた時にはもう手遅れで、熱く湿気た口が柔らかな唇を覆った。
「…ん、んぅ……!」
男の所作は早く、簡単に歯列を割られ、侵入した舌に口腔を舐め回される。口の中を異物が動き回るという不快さに全身が拒絶反応を示すが、上半身は男の両腕に縛られるように押さえられていて身じろぎすらできない。
「…っん…、っは…、あ、んぅ……」
むさぼるように犯し続け、男が息継ぎをすると、それに合わせるように蒼矢の口の隙間から吐息がもれる。艶やかに半開く唇からはわずかに舌が覗き、男はそれに自身の舌を絡めながら再び口を塞ぐ。
「んくっ…っ…、んん…」
生温く弾性のある舌が、蒼矢の舌を吸い内壁を撫ぜ続けると、強張っていた身体から少しずつ力が抜けていく。だらりと垂れ下がった両腕が、男の動きに合わせて無力に揺れる。
脱力したことが確認できると、男は蒼矢を下ろして長椅子に寝かせ、道着の肩口を外して腰まで剥く。そして浅く息を弾ませる胸を撫であげながら、下腹部へ手を伸ばす。道着越しに感じられる小振りの局部はやや硬くなり、男の手の中に収まると下半身がびくりと揺れた。男は下着の中に手を入れその熱い塊をわし掴みすると、指で形作った輪で茎を扱き上げた。
「! あっん…! あぁっ…」
最初掴まれた時の反応から様相を変え、蒼矢は股間に感じる手の圧に薄目を開け、腰をのけぞらせた。膝はがくがくと震え、地に着く足がつま先立ちになってしまう。
蒼矢はそんな自身が変容していく様に、頬を染めながら首を横に振った。
「…っ…や…あぁ…!!」
「うるせぇ黙れ! …もうひと息…っ、もうひと息なんだ…!!」
男は感じながらも拒絶する獲物へ罵声を浴びせつつ、再び口を吸った。嬲っていた陰茎から手を放し、腹で潰すように上向きに抑えると、両手を上半身に這わせて更なる性感帯を探る。首元や胸、脇など、感度の高い部分を滑るとびくりと強く反応し、無理やり男の口から逃れると苦しげに喘ぐ。男は舌打ちしながらその細い顎を掴んで戻し、舌を挿れ直す。
「…んっあ…、んうぅ…、っあは…、んっ…」
そんなことを繰り返していると、眉間の寄っていた蒼矢の顔貌は少しずつ恍惚に支配されていき、頬が先ほどより鮮やかに紅潮していく。嬲られる身体に、無抵抗に弄ばれる舌の感触に、中心がじんじんと熱くなり、硬くなっていく。
「……ん゛ぅっ…!」
刹那、蒼矢の全身が大きく震える。
ぼんやりと白む意識の中、膨れる自身の先から何かが飛び出た感覚だけは、はっきりと伝わってきていた。
密着する男の腹に圧をかけられた陰茎からはとめどなく精液が溢れ、下着の内側を濡らしていった。
「んっ…、んくぅっ……」
先端から迸る度に、喉から抑えきれない快感を漏らす。
薄く開く目の端には涙が滲み、瞼が震え頬へ伝っていった。
ぴくぴくと身体を震わせる蒼矢の様子にはたと気づいた男は、慌てた風に唇から離れた。
「! イっちまった…、畜生!」
絡みついていた身体を手放すと、うっすらと汗ばむ痩躯が力無く長椅子に横たわる。つい夢中になりタイミングを逸してしまった男は、息を荒げながら震える手で道着の帯をずらし始める。ズボンを下へ引っ張ると、濡れた下着が露出し、中で精液を吐ききった局部が揺れた。
「くそっ…もういっぺん扱くしか…っ…、くそっ…! …もう、体が…っ、もたな」
次の瞬間、男の手が蒼矢の道着から外れ、横方向に消えて無くなる。直後鉄製のロッカーが爆音をたて、上に重ねて置かれていたバケツが床に散乱した。
その衝撃音と、遠くから呼びかけるような声に、失いかけていた蒼矢の意識が戻されていく。
「…くん!! 髙城君!!!」
ぼやける視界に、なんとなく見覚えのある顔が映し出される。
……せん…せ…
蒼矢の瞳が自分の方へ動いたことがわかると、葉月は一層声を張りあげて彼へ呼びかけた。
「髙城君っ…動けるか!? 」
穏やかな表情しか印象が無い彼の緊迫感をたたえた面様に、戻りかける蒼矢の意識の中に再び恐怖心が湧きあがってくる。葉月の呼びかけに、震える唇が微かに動く。
「……っ、あぁ、お…れ」
「早くここから出るんだ、…これ・・は僕がなんとかするから!!」
そう蒼矢を促す葉月の背後から、彼に体当たりされロッカーに激しく打ち据えられた男が、憤怒の形相で襲い掛かる。が、その爪が到達する直前で葉月の蹴りが腹に入り、今度は更衣室奥の壁に激突する。
その光景に、上体を起こしたものの目を見開いて固まってしまった蒼矢へ、男を追って組み敷く葉月は怒声にも似た声をぶつけた。
「早く…早くここから離れて!! 走って!!!」
「…――!!」
葉月の咆哮に、ようやくはっきりと我を取り戻した蒼矢は、転がるように更衣室を飛び出し、裸足のまま参道を突っ切って全速力で神社から離れていく。背中に揺れる道着を前で閉じ直し、だぼつく着衣を手でたくし上げながらまっすぐ自宅へと駆けた。
荷物も取らずに丸腰のまま逃げてきてしまったため、自宅の合鍵ボックスを探り、なんとか家の中に入り込むとすぐさま施錠をし、動かないか何度も確かめる。納得いくまで確認するとようやくドアノブから手を離し、玄関に倒れ込んだ。
「……」
呆然となり沈黙が流れる中、虚空を漂っていた視線がゆっくりと自分の着衣に下がっていく。
乱れた道着の中にしっとりとした空気がこもり、汗でべたつく裸体は胸を浅く上下させていた。帯はほどけかけ、ずり下がったズボンから下着と下腹がはみ出してしまっていた。
そんなみずからの形を呆けた顔で眺めていると、急に数分前のあらましが呼び起され、空虚な思考の中をフラッシュバックした。
「…っ……!!」
蒼矢は口を押さえながら二階へと走り、トイレに駆け込む。
「…うっ、かはっ…っ…」
胃の中の内容物を全て吐き出してもなお、嗚咽が止まらない。得体の知れない者に舌を突っ込まれ、口腔を嬲り回された感触が消えない。苦しさと不快感で涙が止まらず、突っ込んだ便器の中に零れ落ちていく。
…なんで…こんなことに…っ…
床に尻をつき、便座に掛けていた手を震わせた。
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