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本編
第9話_姿現す憎悪-4
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その頃、店番中だった烈はカウンターに立ち、まばらに入る客相手に適当に接客していた。
そして客足が途切れるとスマホを手に取り、数分おきに置き、また手に取って画面を眺めるという、依存性の垣間見える行動を繰り返していた。
「…返事来ねぇなぁ…」
蒼矢へ連絡を取ろうか取るまいか一晩かけて迷った末に、とりあえず具合だけでも確認しておきたかったので手短に自分の現状と社交辞令を伝えたが、返事が無いまま30分以上が経過していた。
彼がSNSに関心が低く、基本返信が遅いということは理解していたが、一日家にこもっているわけでスマホから遠い理由が見当たらず、烈は首をひねる。
「様子見に行った方がいいか…?」
思い立ち、一応葉月へ連絡を取ろうとスマホを動かしかけたが、彼が午後に神事が入っていることを思い出す。
「……」
一時思案し、決心した烈は前掛けを外すと、彼に代わって配達中の母へSNSを送り、一旦暖簾を入れて店を閉めた。
戸締りをした烈は、小走りに髙城家へと向かう。
ものの3分程度で到着した髙城邸は、いつも通り木花や生活感のある物が一切無い綺麗過ぎる外観で建ち、烈はすりガラスの小窓に近付き、屋内に明かりの類が灯っていないことを確かめる。
「…まぁ、これはいつものこと」
ついで、インターホンを鳴らす。が、十秒程度経っても返事は無い。
「…」
…中には、多分いるはずだ。葉月さんが午前中に確認してる。
「蒼矢? 蒼矢ー」
やや声高に呼びつつ、烈は玄関を横に離れ、ガレージと外壁の間へ進む。
幼い頃一度だけ、2人で外遊びに行った時に蒼矢が鍵を持って出なかったことがあった。慌てかけた烈をよそに、小さくため息をついた蒼矢はてくてくと玄関から裏手へ回り、設置されていた金属製の小さな箱から鍵を取り出し、玄関を開けた。
烈の知る限り、鍵にまつわる蒼矢の手落ちは後にも先にもその時しか無い。だからこそ、印象に残っていた。蒼矢が回したダイヤルキーの番号も、横から眺めているだけだったのに、やけに鮮明に覚えていた。
呼びかけに返事が無いまま、キーボックスまで辿り着く。
…悪いな、鍵使うぞ。
スペアキーを手に玄関へ戻った烈は鍵穴に差し、開錠音に胸をなでおろすとドアノブを引く。
「……!?」
瞬時、引いたドアの隙間から漏れてきた中の空気に、烈は思わず手を放す。
指先に感じた、肌にまとわりつくような重く、ぬるい空気。
わずかに鼻腔に届いた、嗅ぎ覚えのある不自然な甘ったるい臭い。
「――!!」
烈は勢いよくドアを開ける。そして、一気に流れ出てきたおぞましいほどの濃い瘴気に、全身の毛が逆立った。
「蒼矢っ…、…っぐ…!!」
辺りに充満する臭いを不用意に嗅いでしまった烈は、急激な吐き気を催してその場に座り込む。視界が揺れ、足に力が入らず、立ち上がることもできない。
冷や汗をかきながら、烈は胸元から起動装置を引き抜く。紅いロードナイト鉱石は光っていない。
「…くっそっ…、なん、なんだよこれ…!?」
状況はよくわからない。でも、鉱石の反応は無くても[異界のもの]の仕業なのは間違いない。
そしてこの中に蒼矢がいることも、間違いない。
「……しっかりしろ、俺!!」
烈はシューズボックスに掴まりながらなんとか立ち上がり、ズボンの尻ポケットから手拭いを引っ張り出すと、鼻と口を覆う。そして一歩ずつ這うように、階段へと歩を進めていった。
…待ってろ…蒼矢…!!
そして客足が途切れるとスマホを手に取り、数分おきに置き、また手に取って画面を眺めるという、依存性の垣間見える行動を繰り返していた。
「…返事来ねぇなぁ…」
蒼矢へ連絡を取ろうか取るまいか一晩かけて迷った末に、とりあえず具合だけでも確認しておきたかったので手短に自分の現状と社交辞令を伝えたが、返事が無いまま30分以上が経過していた。
彼がSNSに関心が低く、基本返信が遅いということは理解していたが、一日家にこもっているわけでスマホから遠い理由が見当たらず、烈は首をひねる。
「様子見に行った方がいいか…?」
思い立ち、一応葉月へ連絡を取ろうとスマホを動かしかけたが、彼が午後に神事が入っていることを思い出す。
「……」
一時思案し、決心した烈は前掛けを外すと、彼に代わって配達中の母へSNSを送り、一旦暖簾を入れて店を閉めた。
戸締りをした烈は、小走りに髙城家へと向かう。
ものの3分程度で到着した髙城邸は、いつも通り木花や生活感のある物が一切無い綺麗過ぎる外観で建ち、烈はすりガラスの小窓に近付き、屋内に明かりの類が灯っていないことを確かめる。
「…まぁ、これはいつものこと」
ついで、インターホンを鳴らす。が、十秒程度経っても返事は無い。
「…」
…中には、多分いるはずだ。葉月さんが午前中に確認してる。
「蒼矢? 蒼矢ー」
やや声高に呼びつつ、烈は玄関を横に離れ、ガレージと外壁の間へ進む。
幼い頃一度だけ、2人で外遊びに行った時に蒼矢が鍵を持って出なかったことがあった。慌てかけた烈をよそに、小さくため息をついた蒼矢はてくてくと玄関から裏手へ回り、設置されていた金属製の小さな箱から鍵を取り出し、玄関を開けた。
烈の知る限り、鍵にまつわる蒼矢の手落ちは後にも先にもその時しか無い。だからこそ、印象に残っていた。蒼矢が回したダイヤルキーの番号も、横から眺めているだけだったのに、やけに鮮明に覚えていた。
呼びかけに返事が無いまま、キーボックスまで辿り着く。
…悪いな、鍵使うぞ。
スペアキーを手に玄関へ戻った烈は鍵穴に差し、開錠音に胸をなでおろすとドアノブを引く。
「……!?」
瞬時、引いたドアの隙間から漏れてきた中の空気に、烈は思わず手を放す。
指先に感じた、肌にまとわりつくような重く、ぬるい空気。
わずかに鼻腔に届いた、嗅ぎ覚えのある不自然な甘ったるい臭い。
「――!!」
烈は勢いよくドアを開ける。そして、一気に流れ出てきたおぞましいほどの濃い瘴気に、全身の毛が逆立った。
「蒼矢っ…、…っぐ…!!」
辺りに充満する臭いを不用意に嗅いでしまった烈は、急激な吐き気を催してその場に座り込む。視界が揺れ、足に力が入らず、立ち上がることもできない。
冷や汗をかきながら、烈は胸元から起動装置を引き抜く。紅いロードナイト鉱石は光っていない。
「…くっそっ…、なん、なんだよこれ…!?」
状況はよくわからない。でも、鉱石の反応は無くても[異界のもの]の仕業なのは間違いない。
そしてこの中に蒼矢がいることも、間違いない。
「……しっかりしろ、俺!!」
烈はシューズボックスに掴まりながらなんとか立ち上がり、ズボンの尻ポケットから手拭いを引っ張り出すと、鼻と口を覆う。そして一歩ずつ這うように、階段へと歩を進めていった。
…待ってろ…蒼矢…!!
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