上 下
77 / 103
本編

第16話_狭間より舞い戻る蝶-8

しおりを挟む
消え入りそうな声で吐露する蒼矢ソウヤへそう応えると、ついで影斗エイトは神妙な面持ちに変わり、腕を組む。

「おそらく今回の『転送』で、[木蔦]の動き・・は早まってる。…口振りからして、リンが監視してたことに気付いちまってるしな」
「…!」

その推測を聞いて顔をあげた蒼矢を見、影斗は苦悩する内情を訴えてくる彼へ柔らかな笑みを返した。

「大丈夫だ、落ち着け。鱗の監視は続けて貰ってる…抑止力にはならねぇが、何かあったらすぐ連絡が届く体制は整えてある」
「…」
「お前独りで動いても、今までの二の舞になるのは目に見えてるだろ。焦れるのは解るが、今は機会を待て。そのズタボロな体をちょっとでも回復させておかねぇと、レツを救いたくても俺らの足手まといになるだけだ」
「…はい」

影斗にそう諭され、思い詰めていた蒼矢の面持ちに諦めのような感情が降り、握られていた拳が緩んだ。
そんな彼の様子に安堵するように息をつくと、影斗は口調を変えて続けた。

「あぁ、そうだった。今回のお前らの監視…頼まれてくれたのは鱗だけど、探るきっかけをくれたのは、お前の大学の川崎カワサキ沖本オキモトだからな」
「…えっ」
「奴らが俺に連絡くれたんだよ、お前の様子がおかしいってな。あれが無きゃあ俺は今頃何も知らずに、鱗に砂糖水吸わせながら卒研に打ち込んでる」

思いがけず大学の友人たちの名前が出てきて、虚を突かれて目を見張る蒼矢へ、影斗は冗談めかしながら笑ってみせた。

「…あとでちゃんと詫び入れとけ、心配させて悪かったってな」
「! はい…」
「それからもうひとつ。俺とお前は清算済だって、あいつらに言っとけよ。どうも要らねぇ勘ぐりしてるみたいだったからな…俺の名誉のために、お前の口からちゃんと説明しとけ」
「…わかりました」

外野から気遣われていることに不満気な伊達男のぼやきに、蒼矢は少し噴き出しながら了承した。
そして、表情に穏やかさを戻し、ルームランプへと見上げる。

触覚を揺らめかせながら、小さな蝶はランプの傘にとまり、物言わぬままふたりを見下ろしていた。
蒼矢はゆっくり身を起こし、影斗に支えられつつ立ちあがると、蝶と目線を合わせて対面した。

「…ありがとう、立羽タテハ。影斗先輩の助けになってくれて。…俺を見守っていてくれて」

少し躊躇いがちに、しかし確かに思いを込めながら、蒼矢は言葉をかける。
蝶は佇んだまま蒼矢へじっと頭を向けていたが、おもむろに羽を動かし舞い上がる。

「っぷ、…くしゅんっ」

蒼矢の目の前で細かく羽ばたき、鼻先へたっぷりと鱗粉を浴びせた蝶は、くしゃみする彼を尻目にふわりと移動し、影斗の頭の上へ落ち着いた。
ふたりのやりとりにぽかんとし、ついで呆れ顔を浮かべると、影斗は苦笑した。

「おいおい…満身創痍なんだから、お手柔らかにしてやれよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

魔族に捕らえられた剣士、淫らに拘束され弄ばれる

たつしろ虎見
BL
魔族ブラッドに捕らえられた剣士エヴァンは、大罪人として拘束され様々な辱めを受ける。性器をリボンで戒められる、卑猥な動きや衣装を強制される……いくら辱められ、その身体を操られても、心を壊す事すら許されないまま魔法で快楽を押し付けられるエヴァン。更にブラッドにはある思惑があり……。 表紙:湯弐さん(https://www.pixiv.net/users/3989101)

支配された捜査員達はステージの上で恥辱ショーの開始を告げる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

処理中です...