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本編
第16話_狭間より舞い戻る蝶-8
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消え入りそうな声で吐露する蒼矢へそう応えると、ついで影斗は神妙な面持ちに変わり、腕を組む。
「おそらく今回の『転送』で、[木蔦]の動きは早まってる。…口振りからして、鱗が監視してたことに気付いちまってるしな」
「…!」
その推測を聞いて顔をあげた蒼矢を見、影斗は苦悩する内情を訴えてくる彼へ柔らかな笑みを返した。
「大丈夫だ、落ち着け。鱗の監視は続けて貰ってる…抑止力にはならねぇが、何かあったらすぐ連絡が届く体制は整えてある」
「…」
「お前独りで動いても、今までの二の舞になるのは目に見えてるだろ。焦れるのは解るが、今は機会を待て。そのズタボロな体をちょっとでも回復させておかねぇと、烈を救いたくても俺らの足手まといになるだけだ」
「…はい」
影斗にそう諭され、思い詰めていた蒼矢の面持ちに諦めのような感情が降り、握られていた拳が緩んだ。
そんな彼の様子に安堵するように息をつくと、影斗は口調を変えて続けた。
「あぁ、そうだった。今回のお前らの監視…頼まれてくれたのは鱗だけど、探るきっかけをくれたのは、お前の大学の川崎と沖本だからな」
「…えっ」
「奴らが俺に連絡くれたんだよ、お前の様子がおかしいってな。あれが無きゃあ俺は今頃何も知らずに、鱗に砂糖水吸わせながら卒研に打ち込んでる」
思いがけず大学の友人たちの名前が出てきて、虚を突かれて目を見張る蒼矢へ、影斗は冗談めかしながら笑ってみせた。
「…あとでちゃんと詫び入れとけ、心配させて悪かったってな」
「! はい…」
「それからもうひとつ。俺とお前は清算済だって、あいつらに言っとけよ。どうも要らねぇ勘ぐりしてるみたいだったからな…俺の名誉のために、お前の口からちゃんと説明しとけ」
「…わかりました」
外野から気遣われていることに不満気な伊達男のぼやきに、蒼矢は少し噴き出しながら了承した。
そして、表情に穏やかさを戻し、ルームランプへと見上げる。
触覚を揺らめかせながら、小さな蝶はランプの傘にとまり、物言わぬままふたりを見下ろしていた。
蒼矢はゆっくり身を起こし、影斗に支えられつつ立ちあがると、蝶と目線を合わせて対面した。
「…ありがとう、立羽。影斗先輩の助けになってくれて。…俺を見守っていてくれて」
少し躊躇いがちに、しかし確かに思いを込めながら、蒼矢は言葉をかける。
蝶は佇んだまま蒼矢へじっと頭を向けていたが、おもむろに羽を動かし舞い上がる。
「っぷ、…くしゅんっ」
蒼矢の目の前で細かく羽ばたき、鼻先へたっぷりと鱗粉を浴びせた蝶は、くしゃみする彼を尻目にふわりと移動し、影斗の頭の上へ落ち着いた。
ふたりのやりとりにぽかんとし、ついで呆れ顔を浮かべると、影斗は苦笑した。
「おいおい…満身創痍なんだから、お手柔らかにしてやれよ」
「おそらく今回の『転送』で、[木蔦]の動きは早まってる。…口振りからして、鱗が監視してたことに気付いちまってるしな」
「…!」
その推測を聞いて顔をあげた蒼矢を見、影斗は苦悩する内情を訴えてくる彼へ柔らかな笑みを返した。
「大丈夫だ、落ち着け。鱗の監視は続けて貰ってる…抑止力にはならねぇが、何かあったらすぐ連絡が届く体制は整えてある」
「…」
「お前独りで動いても、今までの二の舞になるのは目に見えてるだろ。焦れるのは解るが、今は機会を待て。そのズタボロな体をちょっとでも回復させておかねぇと、烈を救いたくても俺らの足手まといになるだけだ」
「…はい」
影斗にそう諭され、思い詰めていた蒼矢の面持ちに諦めのような感情が降り、握られていた拳が緩んだ。
そんな彼の様子に安堵するように息をつくと、影斗は口調を変えて続けた。
「あぁ、そうだった。今回のお前らの監視…頼まれてくれたのは鱗だけど、探るきっかけをくれたのは、お前の大学の川崎と沖本だからな」
「…えっ」
「奴らが俺に連絡くれたんだよ、お前の様子がおかしいってな。あれが無きゃあ俺は今頃何も知らずに、鱗に砂糖水吸わせながら卒研に打ち込んでる」
思いがけず大学の友人たちの名前が出てきて、虚を突かれて目を見張る蒼矢へ、影斗は冗談めかしながら笑ってみせた。
「…あとでちゃんと詫び入れとけ、心配させて悪かったってな」
「! はい…」
「それからもうひとつ。俺とお前は清算済だって、あいつらに言っとけよ。どうも要らねぇ勘ぐりしてるみたいだったからな…俺の名誉のために、お前の口からちゃんと説明しとけ」
「…わかりました」
外野から気遣われていることに不満気な伊達男のぼやきに、蒼矢は少し噴き出しながら了承した。
そして、表情に穏やかさを戻し、ルームランプへと見上げる。
触覚を揺らめかせながら、小さな蝶はランプの傘にとまり、物言わぬままふたりを見下ろしていた。
蒼矢はゆっくり身を起こし、影斗に支えられつつ立ちあがると、蝶と目線を合わせて対面した。
「…ありがとう、立羽。影斗先輩の助けになってくれて。…俺を見守っていてくれて」
少し躊躇いがちに、しかし確かに思いを込めながら、蒼矢は言葉をかける。
蝶は佇んだまま蒼矢へじっと頭を向けていたが、おもむろに羽を動かし舞い上がる。
「っぷ、…くしゅんっ」
蒼矢の目の前で細かく羽ばたき、鼻先へたっぷりと鱗粉を浴びせた蝶は、くしゃみする彼を尻目にふわりと移動し、影斗の頭の上へ落ち着いた。
ふたりのやりとりにぽかんとし、ついで呆れ顔を浮かべると、影斗は苦笑した。
「おいおい…満身創痍なんだから、お手柔らかにしてやれよ」
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