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本編
第16話_狭間より舞い戻る蝶-6
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「――とまぁ、こういういきさつだ」
語り尽くして疲れたか、ベッドへ腰かけていた影斗は背を反り、軽く伸びをした。
距離を置いていた影斗サイドの知られざるあらましに、蒼矢は目を剥き、表情を固まらせたまま沈黙していた。
影斗は頬杖をつき、落ち着いた面持ちで蒼矢を見やった。
「ここ数日間のお前らの動きは、大体俺の耳に入ってた…鱗のお蔭でな」
「…」
「[侵略者]が烈を狙ってるのも、それを餌にお前が奴の下で動いてたのも、…何されてたのかも、判ってた」
静かに明かされる影斗の言葉に、蒼矢の面差しが強張る。
「ただ…判ってても下手に動けなかった。[奴]と存在が近い鱗の気配は、距離を置いてても気取られる恐れがある…初期の段階ではまだ悟られたくなかったし、干渉するタイミングを狙うために、ある程度[奴]に好き勝手やらせて見過ごす必要もあった。…言ってしまえば、お前を犠牲にして監視し続けてたってことだ」
包み隠さず伝えられる真実に、黙って聞いていた蒼矢の目が手元へ落ちる。
同じように床へ視線を落とし、一度深く息をつくと、影斗は再び覗き込むように蒼矢へ視線を送った。
「[奴]の言いなりになっている間、お前はずっと転送する機会を覗ってるだろうとは思ってた。どこかで必ず仕掛けてくるってな。それまでになんとか干渉したいとは思ってたが…結局俺が動けるのも"転送"しか無かった。…またしてもお前に"単独転送"って無茶をさせる羽目になっちまった」
「…」
「…悪かった、早くに助けてやれなくて」
落ち着いたトーンで打ち明けるものの、影斗の面差しはどこか重く、蒼矢が独りで被っていた苦難を前にして、動くことが出来なかった自分への悔恨を押し殺しているようだった。
低く懺悔する彼の言葉を聞き、蒼矢は首を横に振った。
影斗は蒼矢の頬に手を伸ばし、顔を上げさせた。
「俺は、お前が隠しておきたいと思ってることはだいたい把握してる。…俺が明かして欲しいのは、お前の今の胸の内だ」
「!」
虚ろげな蒼矢の瞳を、影斗の黒い瞳がまっすぐ見つめていた。
「俺相手には我慢すんな。…お前が溜め込んでた辛さを、悔しさを、全部ぶつけて来い。俺がまるごと被ってやるから」
「…先輩…」
そう小さく呟いた蒼矢を、影斗は胸に抱き寄せ、怪我を負った身体を労わるように両腕で柔らかく覆った。
影斗の体温に裸の痩躯が温められ、その心地良さと彼から伝わる深い愛情に、蒼矢の傷つき疲弊した心が癒されていき、視界が滲む。
「…っ」
しかし蒼矢はすぐに影斗の腕に手を掛け、姿勢を戻した。
そして、にわかに距離を置かれて面食らう影斗へ、再び首を横に振ってみせた。
「…軽率で無分別な人間になるのは、嫌です」
「…!」
うつむいたままぽつりと漏れた、いかにも彼らしいその言葉に、影斗は一瞬目を見張ったもののすぐに得心し、目を閉じ息をつきながら微笑った。
「――そうだな…相手が違うな。お前は、お前が望む奴に慰めて貰え」
「…はい」
こくりと頷く仕草を見、影斗は少し名残惜しそうな面差しを浮かべつつ、彼の頭をわしゃっと撫でてやった。
語り尽くして疲れたか、ベッドへ腰かけていた影斗は背を反り、軽く伸びをした。
距離を置いていた影斗サイドの知られざるあらましに、蒼矢は目を剥き、表情を固まらせたまま沈黙していた。
影斗は頬杖をつき、落ち着いた面持ちで蒼矢を見やった。
「ここ数日間のお前らの動きは、大体俺の耳に入ってた…鱗のお蔭でな」
「…」
「[侵略者]が烈を狙ってるのも、それを餌にお前が奴の下で動いてたのも、…何されてたのかも、判ってた」
静かに明かされる影斗の言葉に、蒼矢の面差しが強張る。
「ただ…判ってても下手に動けなかった。[奴]と存在が近い鱗の気配は、距離を置いてても気取られる恐れがある…初期の段階ではまだ悟られたくなかったし、干渉するタイミングを狙うために、ある程度[奴]に好き勝手やらせて見過ごす必要もあった。…言ってしまえば、お前を犠牲にして監視し続けてたってことだ」
包み隠さず伝えられる真実に、黙って聞いていた蒼矢の目が手元へ落ちる。
同じように床へ視線を落とし、一度深く息をつくと、影斗は再び覗き込むように蒼矢へ視線を送った。
「[奴]の言いなりになっている間、お前はずっと転送する機会を覗ってるだろうとは思ってた。どこかで必ず仕掛けてくるってな。それまでになんとか干渉したいとは思ってたが…結局俺が動けるのも"転送"しか無かった。…またしてもお前に"単独転送"って無茶をさせる羽目になっちまった」
「…」
「…悪かった、早くに助けてやれなくて」
落ち着いたトーンで打ち明けるものの、影斗の面差しはどこか重く、蒼矢が独りで被っていた苦難を前にして、動くことが出来なかった自分への悔恨を押し殺しているようだった。
低く懺悔する彼の言葉を聞き、蒼矢は首を横に振った。
影斗は蒼矢の頬に手を伸ばし、顔を上げさせた。
「俺は、お前が隠しておきたいと思ってることはだいたい把握してる。…俺が明かして欲しいのは、お前の今の胸の内だ」
「!」
虚ろげな蒼矢の瞳を、影斗の黒い瞳がまっすぐ見つめていた。
「俺相手には我慢すんな。…お前が溜め込んでた辛さを、悔しさを、全部ぶつけて来い。俺がまるごと被ってやるから」
「…先輩…」
そう小さく呟いた蒼矢を、影斗は胸に抱き寄せ、怪我を負った身体を労わるように両腕で柔らかく覆った。
影斗の体温に裸の痩躯が温められ、その心地良さと彼から伝わる深い愛情に、蒼矢の傷つき疲弊した心が癒されていき、視界が滲む。
「…っ」
しかし蒼矢はすぐに影斗の腕に手を掛け、姿勢を戻した。
そして、にわかに距離を置かれて面食らう影斗へ、再び首を横に振ってみせた。
「…軽率で無分別な人間になるのは、嫌です」
「…!」
うつむいたままぽつりと漏れた、いかにも彼らしいその言葉に、影斗は一瞬目を見張ったもののすぐに得心し、目を閉じ息をつきながら微笑った。
「――そうだな…相手が違うな。お前は、お前が望む奴に慰めて貰え」
「…はい」
こくりと頷く仕草を見、影斗は少し名残惜しそうな面差しを浮かべつつ、彼の頭をわしゃっと撫でてやった。
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